97.空の章・アキラとシンニ
|青輝高速艇≪シリウス≫の個室にアキラとシンニがいた。
その個室でアキラはずっと考えている。
地別土の独立には、アキラが覚醒して死天女の真の力を使う必要がある。
しかし、ラマ教に伝わる経典ではアキラを覚醒させる鍵が分からない。
全ての経典は、書いた人の書いた時代の記述である。しかも暗号が使われているので、その記述を読んでも人が覚醒するわけではない。
そこで、もしミトラ教がラマ教の原型ならミトラ教から必要な階悌を推定できるのではないかとアキラは考える。
具体的には、水のバブテスマが瓶灌頂に相当するなら、火のバブテスマは次の灌頂に相当するはずである。そしてヘルの泉が瓶灌頂なら、次は炎の霊的エネルギーをどうやって自分に取り込むのか。ここでアキラは何度も止まる。
「どうすれば、いいのか分からない。」
横にいるシンニが手をアキラの頬に近づける。
しかし、頬には触れない。頬に触れればそのままシンニはアキラを抱き締めてしまう。でも今二人がするべき事ではない。
シンニが言う。「諦める訳にはいかないわ。」
|地別土≪チベツト≫を独立させるには、再び怒累血絵家の呪力を完全に復活させる必要がある。
アキラもシンリも諦める事は許されない。
伸ばした手をシンニが戻す。
もう一度、アキラが何か手がかりはないか考えようとした時、ノンとナナ子が現れる。
アキラは、パンテラからノンたちが天命を受けて、自分たちの運命を改変したことを聞いた。
それを思い出したアキラが聞く。「どうすれば天命は下りるのですか?」
ノンが言う。「プロジェクトワン。」
ナナ子が説明をする。つまり、アキラが覚醒するという事をどこかの会社のプロジェクトとして考えた場合、プロジェクトを任せる担当者には、やりたい者ではなく、任せたい者に任せるはず。
では、どんな者に任せたいと考えるか、これはその者が未来に何をしようと考えるかによる。
アキラが聞く。「どうしたらいいのだ?」
ナナ子が言う。「地別土は独立したら何をするのですか?」
地別件は独立したら世界でどんな役割を果すのか、それによって天命が降りる。本来自分たちの行動基準を自分たちが決めるのが当たり前だから地別土は独立するべきだと考えていた。しかし、それだけでは味方は増えない。
できるかぎり味方を増やす為、天命を回天する必要がある。
アキラが言う。「力と金による支配の世界ではなく、知恵による共存の世界が目標。」
ノンが言う。「きっと大丈夫ワン。」
もし、人を越えた存在があるとすれば、その存在から見て天命を与えるかどうかを判断するはずである。
アキラが覚醒し地別土が独立して共存の世界を目指すなら、きっと覚醒させるように加護する。
ノンはそう判断したというより、直感的に言っている。
そしてその時、アキラに不動明王のイメージが稲妻のように突然浮かぶ。
その時、天命がアキラに下りる。
シンニが言う。「地火呪。」
その時、シンニには、大地から無数の光が上昇する様子が見えた。シンニも覚醒する。
そして、シンニが呟く。「この国を害するヒルがいる。」
鬼神島に大空竜がいる。ここは東昇帝国の無人島であるので、|均一主義≪コミュニズム≫大国は正規軍艦は派遣していない。
その代わりに多くのカモフラージュした武装船が侵入して、ブイを浮かべている。その中に最新鋭の巨大機械武装である大空竜と亀版の機械武装兵の一個大隊が展開して作業車輌を警備している。
作業車輌は大形漁船に偽装した上陸用高速艇で島に運ばれたものだ。
竜角はその作業車輌が風水転送装置を鬼神島に構築する様子を見ている。見た目は大きな金属製の三角柱である。
竜角が言う。「これで、わが国はあと百年は霊的エネルギーを東昇帝国から吸いとれる。」
風水は一般的には、霊的エネルギーの制御を行うことと認識されているが、その本質は違う。
風水の奥義は、その地に流れる霊的エネルギーを吸収、転送、利用する霊的技術である。
だから他国の霊的エネルギーが流れる霊的ラインに、友好記念碑などに似せて風水の制御装置を設置すると、その国から霊的エネルギーを収奪できる。
造った後から友好記念碑だと言えば、普通は破壊されることはない。
竜角がそのように考えていると、警報が鳴り響く。
竜角が言う。「何だ?」
制御室の捜査員が言う。「青輝高速艇です。」
なぜ、この場所が発見されたのか竜角は不思議に思うが、今はそれどころではない。つくづく邪魔な連中だと思う竜角は命令する。「叩き潰せ。」
実際には、シンニが感じたヒルは、この装置であり、それがこの国の霊的エネルギーを吸うヒルとして感じられたのだ。
一斉に上昇し|青輝高速艇≪シリウス≫へ頭も手足も頑丈な甲羅に入れて体当たりしようとする亀型機械武装兵たち。
それらに最初に接近したのは、動きが早い円盤型機械武装に噛みつく犬型機械武装だ。
操縦席では、ノンが緊張を和らげる為、ぺろりと口の回りを舐める。
ノンが言う。「突っ込むワン。」
ナナ子が言う。「了解コン。」
彼らが甲羅タイプ(頭と手足が引っ込む)の亀型機械武装兵に激突するが、さすがに甲羅が頑丈でお互いが弾きとぶ。
軍女神が虎型機械武装に乗り現れる。
甲羅タイプの亀型機械武装兵に対して、軍女神と虎型機械武装が戦う。
ミツルは正面の敵を飛光輪と三叉戟で破壊する。
ミツルが言う。「頑丈だブー。」
カオル姫が背後からの敵を炎の槍で破壊する。
カオル姫が言う。「いらいらするブヒ。」
ミツルがカオル姫に言う。「まとめてやるブー。」
カオル姫が言う。「分かったブヒ。」
二人してイクと雷鈴が周囲を雷撃する。
しかし、カオル姫がイッタまま、つまり次々に連続してイク状態になる。
ミツルが言う。「少し休むブー。」
軍女神が|青輝高速艇≪シリウス≫の中へ入り休憩する。
そして虎型機械武装が戻ってくる。
ほとんどの亀型機械武装兵が墜落し、幾つかの亀型機械武装兵が|青輝高速艇≪シリウス≫に接近するが、それを犬型機械武装が大剣でその甲羅から出ている頭を斬る。
残りの亀型機械武装兵が海に落下する。
ノンが言う。「やればできるワン。」
ナナ子が言う。「そうよ。やればできるコン。」
最近、ナナ子はノンを誉めて伸ばす方針だ。
竜角は護衛の亀型機械武装兵たちが全滅して撤退か、交戦続行かを決断することになる。
既に東昇帝国大国にはバレている。ここで撤退すれば、竜角とその大家族の未来はない。
竜角が決断する。「総攻撃だ。攻撃飛行体出撃!」
竜角は、ここでの失敗を挽回するために切り札である大空竜で攻撃することにする。
まず大空竜自体に光学迷彩を施し、電波妨害も発動する。更に音波についても雑音を混ぜる。そして無数の光学迷彩と電波妨害を持つ攻撃飛行体を大空竜から出撃させる。
攻撃飛行体の姿は、翼を持つ牛人だ。
見た目には分からない透明な大空竜からやはり透明な攻撃飛行体から出撃する。
これに気づいたノンが円盤型機械武装に噛みついた犬型機械武装で大空竜へ大剣を持って突入する。
しかし、幾つかのレーザー光線が突然、発射されノンたちのバリアーを破り、直撃する。何も見えない空中からの攻撃がノンたちを襲う。
ノンが言う。「海に逃げるワン。」
ナナ子が周囲に炎球を幾つも放射して離脱する。
そこへ虎型機械武装の口からレーザー光線が発射される。しかし、何も当たらない。
大空竜の制御室で竜角が言う。
「これが虚言世界だ。例え超技術兵器であろうと紅軍の敵ではない。」
大空竜は大容量のスーパー・シュミレーションを外部装置経由で地上の巨大演算装置を使い行う。
つまり、大空竜は幾つものダミーデータをノンやパンテラに送り、混乱させている。
パンテラが言う。「さすがに嘘の大国だ。」
虎型機械武装も全ての計器が狂い、幾つもレーザー光線を受ける。
虎型機械武装は上空へと待避する。
ウソたちが姿を消したのを見た竜角が言う。「世界は紅党のものなのだ。紅党万歳!」
竜角が万歳を叫び喜んでいる時、大空竜の前に死天女が現れる。
シンニが言う。「上空に虚言世界の発信元がある。」
シンニは、さっきから頭痛を感じており、それの元がかなり上空にあると感じている。
竜角は死天女が目の前にいることが異常なことだと気づくべきだった。しかし、竜角はこれは偶然だと思う。
いつも自分を騙す者は、いつも幻想を信じる。
竜角が言う。「あの化け物を破壊しろ。」
死天女に無数のレーザー光線が向かう。
しかし、死天女の持っているドクロに全て吸収される。
ドクロの目が赤から青に変わる。
亀族の捜査員が叫ぶ。「攻撃が効きません。」
竜角が叫ぶ。「あれは幻だ。よく探せ!」
大空竜と同じようにウソのデータによる幻であると竜角は考える。
捜査員が再度確認して言う。「あれは実体です。」
周囲の攻撃飛行体の姿がうっすらと現れる。
竜角が怒鳴る。「なぜ、姿が現れる?」
死天女の飛光輪が全ての攻撃飛行体を破壊する。
大空竜の姿が現れる。このままでは自分が危ない。
竜角が叫ぶ。「分身しろ。」
大空竜が分身して空竜となり死天女に攻撃する。
その時、捜査員が叫ぶ。「外部装置との接続が切れました。」
虎型機械武装が宇宙衛星を遠距離から破壊した。
次々と死天女に破壊される分身たち。
そこへ海からノンたちが竜角のいる空竜に攻撃する。
竜角が叫ぶ。「兎に角、なんでもいいから逃げろ。」
竜角の本音である。もちろん捜査員の本音でもある。
捜査員が最終脱出用の全自爆装置を押す。
神鬼島の友好記念碑も、作業車輌も、上陸用高速艇も、空竜も全てが自爆して、竜角たちが乗る脱出カプセルを爆煙で隠す。
アキラが言う。「逃げられてしまった。」
シンニが言う。「まだ少し足りていない。」
ノンが言う。「守ったワン。」
ナナ子が言う。「よかったコン。」




