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96.空の章・一切皆空

 ノンがアキラとシンニにヘルの泉を指し示す。

 アキラとシンニが過去の記憶を呼び出したいと希望したので、ノンが案内している。

 ヘルは世界樹の前でアキラとシンニに言う。

 「罪の審判を受けるワン。選ばれる者は再び目をさますワン。」


 ヘルの泉を飲み、必要がある者は記憶を呼び出して戻ってくるが、必要がない者はそのまま逝く。必要がない者は二度と目を覚ますことはない。これがヘルの泉の説明だ。


 ノンが心配して聞く。「飲むのワワン?」

 アキラとシンリが頷く。

 ナナ子が確認の為にもう一度言う。「一人だけ逝くかもしれないわよ。」

 可能性としては、二人とも目覚める。二人とも逝く。

 そしてどちらか一人が目覚め、もう一人は逝く。

 それでもいいのかとナナ子は確認する。

 シンニが言う。「ならば、もう一度探すだけ。」

 一人だけ生き残った方が相手をもう一度探す。

 二人とも頷き、二人とも泉の水を飲む。



 二人が目覚めた時、二人が目にしたのは荒れ果てた死体置場(シリン)だ。この時、アキラの名はホルス、シンニの名はジョアンとして多くの人々と共に荒羅の軍隊から逃れてこの場所にきた。

 ホルスは横で既に起きているジョアンに言う。

 「ここはどこだ?」

 ジョアンが言う。「天竺国。」


 荒羅の軍隊は偶像崇拝を認めない。だから、ホルスたちが大切にしてきた多くの像を破壊した。そしてイシスの|性愛術≪タントラ≫を持つジョアンは、錬金術を持つホルスに助けを求める。そして長い長い旅の後、ホルスとジョアンは|天竺国≪ここ≫にたどり着く。


 ただ天竺国で人が住める場所、農地に適した土地は、既に他人の物だった。ホルスたちに残された土地は、荒れ果てた死体置場(シリン)しか残されていなかった。

 もちろん、農作に適していないと判断されたから、死体置場(シリン)になった土地である。

 ジョアンが言う。「食べる物が残り少ないの。」

 既に金も残り少ない。文字通り体だけでホルスたちは逃げてきた。だからジョアンが言いたいことがホルスにも分かる。

 これまでもジョアンは、ホルスたちが困った時にしてきたことをすると言っている。

 ホルスが心苦しい表情で言う。「頼む。」

 ジョアンが何人かの女たちと出て行く。

 これしかホルスは言うことができない。自分が愛する妻に売春させて食物を手に入れる。

 これしか今は方法がないのか。いや違う。することはある。

 ホルスが残りの人々に言う。

 「食べられるなら、何でも食べよう。使える物は何でも使おう。」

 まだ、人々の表情は迷っている。ホルスが具体的に言う。

 「人の糞尿は肥料に使える。無駄にするな。」

 そしてホルスは言う。

 「我らは、神々の像を持つ。だから自分たちを大乗教徒と自称する。」

 後にホルスとジョアンたちの密教は地別土(チベツト)に伝わりラマ教になる。

 

 翌日の明け方、ジョアンたちが戻ってくる。いくばくかの金、食物、疲れた体を持ちながり。

 

 ジョアンがホルスを見つめる。

 ジョアンが言う。「疲れたわ。」

 ホルスがジョアンを抱き締める。



 ここでアキラとシンリが目を覚ます。

 アキラが言う。「(くう)の意味が分かった。」

 ノンが聞く。「空腹の空ワワン?」

 アキラが言う。「違う。一切皆空の空。」

 ナナ子が聞く。「どういう事コン?」


 シンニが説明を始める。アキラとシンニが共に前世で、ミトラ教の行者であった事。荒羅の軍隊から逃げて天竺国についた事。そして、その時の記憶を二人が思いだし、話を始める。

 

 ナナ子が言う。「事情は分かったコン。それでなぜ、『空』?」

 アキラが言う。「さっきまで、一切皆空は、全てはエネルギーという事だと思っていた。」

 現代の表現ではこれが一番分かりやすい。しかし、ホルスとしての記憶からアキラは『空』の元の言葉がアーカーシャである事を思いだしたのである。

 アーカーシャとは、虚空蔵菩薩の真言(マントラ)であり、アーカシックレコードにも関連する。

 つまり、この『空』は空っぽではなく、人々の記憶を持つエネルギーと言う意味でもある。

 ノンがまだ分からないという表情で聞く。「だから何なのワワン?」首をかしげアキラに聞く。


 アキラが言う。「深知を得ることが真言で可能になる。」

 シンニが言う。「つまり、人々の深層意識にある知に繋がることが可能なの。」

 ノンが言う。「繋がると何がいいのワワン?」

 ナナ子が言う。「本当の歴史コン。」

 

 アキラが言う。「|均一主義≪コミュニズム≫大国の嘘とペテンが終る。」

 ノンが言う。「これからどうするのワワン?」

 シンニが言う。「|均一主義≪コミュニズム≫大国の霊的結界(封禅の儀)を解く。」

 そうすれば|均一主義≪コミュニズム≫大国の嘘が崩壊する。

 


 神族の王基山は、大熊族の修金平総書記たちと打ち合わせを北大河(避暑地)にある邸で行っている。


 王基山は言う。「かなり難しい。」

 紅党内で修金平を支持する者たちの状況である。

 修金平を独裁者にしたのは王基山である。

 なぜ、修金平を独裁者にしたのか。それは紅党が三代目となり、私利私欲集団になったからである。

 神なき社会で頭脳主義(キャピタリズム)を導入した結果、汚職が蔓延して、全ての報告が嘘だらけになる。報告書では世界第二位の経済大国であるはずなのに、自由大国の情報機関によれば実体は第三位でしかない。

 その結果、人々の多くが貧困なのに貧困が消えたことになり、百人以上の愛人を抱える汚職官吏が発生する。

 だから、皇帝としての独裁者をつくり、この均一主義(コミュニズム)大国から虚偽と汚職を少なくしようとした。

 

 頭脳主義(キャピタリズム)は正しくなければ成り立たない。虚偽と汚職がほとんどである社会に頭脳主義(キャピタリズム)を導入すると、社会が壊死する。

 修金平が言う。「私が終ることは紅党の終りであることがなぜ、分からないのだ。」

 王基山が言う。「彼らは大家族(身内)以外は信じませんから。」


 亀族がほとんどを占める紅党党員は、紅党ではなく、自分の大家族の為に金を集め、海外へ脱出することを優先する。

 結果として世界一路で頭脳主義(キャピタリズム)大国と覇権戦争が勃発する。


 しかも本港をただの自治体にしてしまったので、金融センターとしての役割が否定される。

 一言で言えば本港というサラ金から借りて自転車操業していた赤字企業が、サラ金を潰したのである。

 ワニ族の竜角が言う。「私が交渉します。」

 竜角は修金平の側近である。

 王基山が言う。「条件はどうする?」

 竜角が言う。「第三次世界大戦なら、彼らも考えるでしょう。」

 第三次世界大戦をすると言えば、自由大国と言えども考えるはずだと竜角は考える。

 修金平が言う。「紅党が残ればいい。」

 紅党にとっての本当の人民は紅党だけである。後は消耗品である。だから第三次世界大戦で|均一主義≪コミュニズム≫大国の人民が全滅しても、紅党が残ればいいと言えば、自由大国と言えども考える可能性がある。|均一主義≪コミュニズム≫大国とは、ここまで凶悪になりうる。

 

 本当に最終戦争が始まろうとしている。

 


 

 

 


 

 

(面倒くさい話)

 チベット密教を含め後期大乗において説明が難しい話がある。それは、人肉さえも食べて修行する思想である。

 (参照 『性と呪殺の密教 正木 晃 著』 174頁 肉食問答 より)


 このような状況は、なぜ有りうるのか?

 これは普通はしない行為である。しかし、ある特定の状況では有りうる。

 つまり、後期大乗は、中東からの亡命集団なのではないか?

 はるかな昔、回教に中東から追い出された集団が存在し、インドにたどり着いた時、彼らの住める゙環境は、まさに墓場などの場所しかなかったのではないか?

 この仮説をストーリーの根幹にした章です。

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