95.風の章・千角諸島の釣り
(今日は、一気に103話まで投稿しますので、宜しければお読み下さい。)
本港は既に戦場である。
金融センターとしての機能を認めてもらう前提の高度な自治が消え、均一主義大国の1つの自治体になった本港は、不審死が増え民主化運動の若い女性の死体が全裸で港に浮かぶ町になった。
明らかな警告であり、|均一主義≪コミュニズム≫大国で民主化運動をするなら、こうなるという脅迫だ。
かつて|均一主義≪コミュニズム≫大国において非暴力による民主化の夢を見ていた神族の竜暁破は願いもむなしく死んでしまう。
竜暁破は紅党の独裁終結、三権分立、紅軍の国軍化などを民主主義の必須項目だと仲間と共に主張した。だからこそ現在の紅党による民主収集制からは認められない。
そして竜暁破の養子、亀族の竜共理はある物を持ってかつて留学したことがある東昇帝国へ脱出しようとしていた。
監視カメラに気をつけながら彼は波止場にある倉庫へ入る。
竜共理が呟く。「なんとしても渡さなければ。」
千角諸島の領海にある島でノンたちの青輝高速艇が浮かんで待機している。待っているのは、李整義からの連絡によればある物を持ってやって来る一人の男だ。
ここは、|均一主義≪コミュニズム≫大国による領海侵犯と東昇帝国による防衛の最前線である。
|均一主義≪コミュニズム≫大国にはここを手に入れ、世界に向けた出入口を持つ野望がある。
だからここに、常に|均一主義≪コミュニズム≫大国の武装船が侵入を繰り返す。
ここでノンは海岸近くの岩の上で釣りをしている。実際はビクビクしているが、ナナ子に言われて余裕のある演技をしている。
だが、敵を油断させる為とはいえ、演技するノンは大変だ。
光学迷彩を施された電波妨害の敵に近距離から狙われたら一発でおしまいなのだからビクビクするのが当然で、余裕がある演技は大変大変難しい。
しかし、ある物を渡す時のサインがここで釣りをすることなので、ノンは釣りをしている。
法理講の李整義から、怒帝と|均一主義≪コミュニズム≫大国の独裁者、修金平の結びつきを示す証拠を渡したいとの連絡があったのは、昨日の深夜だ。それから急いでノンたちは千角諸島に移動している。
怒帝は、世界に破滅をもたらす七帝の一人である。既に七帝のうち、五帝は倒した。後二人である。
しかし、怒帝と修金平が協力しているとしても、修金平は他国の独裁者だ。まず証拠を手に入れる必要がある。
そこへ海中から小型推進機を持つ竜共理が現れる。彼は証拠を渡すことを条件に、ノンたちに保護してもらう予定だ。
竜共理が聞く。「なぜ、釣り針はまっすぐなのか?」
合言葉の確認である。本物なら知っている。
ノンが言う。「天下を釣っているから。」
竜共理がある袋を渡す。
その時、ノンがレーザー光線で狙撃される。
大風竜の制御室から見ていた透明兵士、孔猛子はノンの体にレーザー光線が通るのを見た。
すぐに青輝高速艇から噴霧塗料ミサイルが発射されるが、大風竜の周囲には空気の渦が巻いている。だから噴霧塗料ミサイルの煙が大風竜に付かず透明なままだ。
そこへ、死天女が現れる。
孔猛子はニヤリと笑う。
「ここであの死天女 を破壊すれば勲章がもらえるな。」
元々は法理講の持ち出したある物を取り返す為にきたのだが、どうやらそれは非常に重要な物らしいと孔猛子は気づく。
何しろ最新鋭の大型機械武装である大風竜を使用してもいいという許可が出たのである。
そこで孔猛子は、自分の大家族の為に今回の奪回作戦をどう利用するか考える。
均一主義大国に住む多くの人々の行動基準は、本人の大家族である。国家でも紅党でもない。だから国家への報告も、紅党への報告も偽報告である。本当の事は大家族だけで共有する。
これは自分の孔大家族にとって権力拡大のチャンスである。権力拡大とは賄賂受取の増額でもある。
孔猛子が思わず想像する。
(俺も百人の愛人を持って番号で愛人を呼べるようになれる。)
孔猛子は、既に自分が改造人間であることを無視して欲望を膨らませている。
孔猛子が制御室で指示する。
「低周波波動をあの|深層機械武装≪シン・メカアーマー≫にぶつけろ。」
大風竜から死天女に低周波波動が発射される。低周波波動は搭乗しているパイロットにダメージを与える。孔猛子は、まず死天女を無傷で手に入れようとしている。
「これで、中にいる人間はおかしくなるはず。」
しかし、死天女の持つドクロに吸い込まれてなにも届かない。
その様子を見て死天女を手に入れる事を諦めた孔猛子はイライラしながら命令する。
「巨大台風で破壊しろ。」
ぐずぐずしていると新手の深層機械武装が現れる可能性が高まる。
孔猛子としては、目の前にいる|深層機械武装≪シン・メカアーマー≫を捕獲するか破壊して、さっさと法理講にある物を奪わなければならない。
大風竜の姿は、依然として光学迷彩で透明である。さらに位置を瞬時に移動し続けているので、死天女の三叉戟が空振りする。
大風竜の口が、自らの身長ほどに拡大する。
大風竜が巨大台風を死天女に向け発射する。
孔猛子が叫ぶ。「これで終わりだ!」
風と雨の奔流が死天女を破壊するはずだった。
しかし、風の奔流は死天女の持つドクロに吸い込まれる。
大風竜の攻撃が効かない。
それは孔猛子を激怒させる。
「死ね!」
大風竜の最大の攻撃、竜雷神が大風竜の全身から死天女に向かう。しかし、その全てのエネルギーはドクロに吸い込まれる。
全ての物質は、大風竜の竜雷神で粉々になるはずだ。しかし、死天女の持つドクロは亜空間転移装置である。
大風竜が全てのエネルギーを放出してもまだ吸い込み続ける。
孔猛子は信じられないものを見ている。
孔猛子が呻く。「そんなばかな。」
孔猛子は、開発技術官が大風竜は機械武装としては最強だと自慢していた。しかし、彼らは他の大家族である孔猛子に、深層機械武装に機械武装では敵わないと補足説明していない。
いままで彼は、孔大家族の為に孔丘学院を世界につくり、紅党の味方をつくり、孔大家族の為に努力してきた。それなのになぜここで終わるのか。
孔猛子が叫ぶ。「こんなところで終わりたくない。」
ミツルが呟く。「嘘つき、ゴロツキ、ロクデナシは終わりブー。」
死天女のドクロが大風竜からエネルギーを吸収しはじめる。
彼も改造人間である為、エネルギーが枯渇すれば停止する。
大風竜の全エネルギーが死天女のドクロに吸い込まれて動きを止める。
|青輝高速艇≪シリウス≫の制御室でノンはノンそっくりの遠隔操作ロボットを見ている。その胸には、穴が開いている。
釣りをしていたのは、ノンの身代わりのロボットである。それを操作して竜共理と会話している。
ノンがナナ子に言う。「ロボットにビクビクさせるのは大変ワン。」
ナナ子が言う。「よくできましたコン。」
ノンは、合言葉は狙われている場合が"天下を釣っているから"で、安全な場合は"既に釣ったから"だ。
この日、ノンたちは怒帝と独裁者、修金平が繋がる証拠を手にする。




