93.水の章・後
小華の名前がシンニ(明妃)だった少女の頃、シンニは雪山を均一主義大国から逃れる為に家族と共に歩いていた。
祖母のケルサンにシンニが言う。
「まだ歩くの? もう足が動かないよ。」
彼らは|均一主義≪コミュニズム≫大国に支配された|地別土≪チベツト≫から|天竺≪インド≫へ向けて亡命する為にもう随分と歩いていた。
ケルサンが言う。「もう少し、もう少しだから。」
なんとか小さな孫の引いて前に進みながら、祖母が追手の兵士たちを気にしてしきりに後ろを振り替える。
そこへ突然の銃声が響く。周囲は紅い血が飛び散る。
とっさにシンニに被さり、守るケルサンが言う。
「お前は、生き残りなさ・・・」
後の言葉は続かない。
少女シンニは動けず上に被さっていた祖母の下でじっとしている。
しかし、紅軍の兵士は一人ずつ死んでいることを確認し、まだ、息があれば息を止める。とうとう祖母がどかされ、シンニが見つかる。
その時、シンニの顔を見た将校が言う。
「おでんにそっくりだ。」
将校は東昇帝国のドラマ『おでん』の大ファンだ。
シンニは何も言うことができない。
将校が聞く。「生きたいか?」
シンニが頷く。
将校が言う。「今までの全てを棄てろ。さもなくば死ね。」
シンニが詰まりながら言う。「全てを、棄て、る。」
「なら、まず名前は小華だ。いいな。」
「私は小華。」
「今までの全てを忘れろ、いいな。」
涙がシンニ、改め小華の頬を流れる。
「今までの全てを忘れる。」
将校は彼のボス紅卓民が東昇帝国のドラマ『おでん』に登場する少女おでんの大ファンであることを知っており、小華をボスに贈ることを決める。
ボスは小華を見て配下の将建華にシンニを養女とするように命令する。ここにおいて将建華の養女、将小華として生きることになる。
これらの記憶がシンニに流れ込む。
シンニの目が、|怒累血絵≪ドルチエ≫家の赤い光を点す。
青輝高速挺は船底に激しい衝撃を受けて大きく揺れる。
青輝高速挺が急速発進して空へと上がる。
しかし、青輝高速艇の動きがおかしい。
ナナ子が言う。「音波で確かめるコン。」
ノンが唸り、うっすらと透明に近い巨大イカのような大水竜が探知器に映る。
ノンが言う。「イカの切り身ワン。」
レーザー光線が大水竜を切る。
ナナ子が言う。「イカのまる焼きコン。」
火炎放射が大水竜を焼く。
しかし、レーザー光線で切れた部分はすぐに他の部分で埋まり、火炎放射で焼けた表面は剥がれ落ちるだけですぐ復旧する。
大水竜は、光学迷彩をもつナノテクノロジー兵器の巨大な集合体だ。つまり、小さい部品が大量に集まって大水竜という破壊兵器が構成されている。
それを近くの小型飛行体からの映像によって港にある秘密基地で見ているボブが命令する。
「飛行魚型へ変型して攻撃しろ。」
ボブの横にはいつのまにか胸とお尻が豊かな露出度が高いチャイナドレスを着ている西美がいる。
西美はアンドロイドであり、自分の顔も体型も自由に変えることができる。現在の容姿は、ボブの好みに合わせた姿でボブに協力して東昇帝国で、ボブを金と色気で|均一主義≪コミュニズム≫大国の代理人にしたてた。
今日はボブが大好きな金髪の女優の姿でボブに聞く。
「忙しそうね。後にする?」
ボブは西美を見て言う。
「そんなことはない。後は任せる。」
そう言うと大水竜の制御を赤亀族の兵士に任せ、西美をつれてボブは個室に入る。
集まって巨大エイのようになった大水竜が青輝高速挺にのしかかり海へ落とそうとする。
円盤型機械武装も犬型機械武装も軍女神も虎型機械武装も全ての武器を使って攻撃する。
ナナ子が火炎放射を放ち、幾つもの拳程度のマイクロ兵器を破壊する。
ノンもレーザー光線でマイクロ兵器を破壊する。
軍女神は、飛光輪と炎の槍、三叉戟などで攻撃するが、壊れた部分は破棄して他のマイクロ兵器が代替する。ノンたちが何百も破壊しているが何百万を越えるマイクロ兵器の集合体である大水竜にとってほとんど効果がない。
何度も巨大エイの胴体が切られるが、すぐ再び胴体が繋がる。
このままでは青輝高速挺が海中に落とされる。
ノンが叫ぶ。「|死天女≪カーリー≫のドクロだワン。」
もはや死天女を起動するしかない。
ミツルが言う。「分かったブー。」
カオル姫といそいで絶頂をむかえる。
軍女神が第三の目を開く。
その時、青輝高速挺は船内が揺れていたのに、まったく微動だにしない黒いカバーに覆われていたものからカバーが外れる。
そして中から|死天女≪カーリー≫が現れ、第三の目が開く。
ちょうど死天女の前にいたシンニは何かに導かれるように死天女に搭乗する。
死天女が青輝高速挺の船外に現れる。
巨大エイに変型している大水竜は死天女を無視している。
シンニが言う。「力をよこせ。」
死天女がドクロをかざし、大水竜のマイクロ兵器から全てのエネルギーを吸収する。
大水竜はエネルギーを失いバラバラになって崩れる。
ノンが無線で聞く。「誰ワワン?」
シンニが言う。「私はシンニ。全てを取り戻す者。」
会話が成り立つ事にノンがホッとして言う。
「良かったワン。」
シンニは破壊衝動に囚われてはいない。
攻撃していたはずなのに大水竜が敗北した事を、ボブは西美の中でいく前に赤亀族の兵士に知らされる。
ボブは愚痴る。「役立たずが。」
個室からでたボブは死天女が港にある秘密基地に接近している事を画面で見る。
赤亀族の兵士が聞く。
「どうすれよいのですか?」
赤亀族にボブが言う。
「自分たちで考えろ、俺は潜水艦である物を運び出す。」
そう言うとボブは兵士たちを残して小型潜水艦ですぐ逃げる。
小型潜水艦の操縦席のとなりにはアンドロイドの西美がいる。そして背後にはある物、黄金色に輝くインゴットの山がある。
ボブが言う。「金と西美があれば、後は逃げるだけ。」
ボブは|均一主義≪コミュニズム≫大国の紅党幹部と同じように、自分に危険が及ぶ時は、海外へ逃げる為に財産を貯めていた。
今回、大水竜を失い、小華を逃がしたことは、最低でも失脚、悪くすると死刑だ。そうであれば海外へ逃げることがボブの選べるただひとつの選択だ。
ボブが小型潜水艦で出発するのを見ていた透明兵士の孔猛子が呟く。
「あれが最中だと知ったらどういう表情になるかな。」
|透明兵士≪スパイ≫はインゴットの表面だけが薄い純金で中はタングステンの偽物を最中と言う言葉て表現する。
透明兵士はボブを見張る為、潜入しているスパイだ。光学迷彩で肉眼では見ることは困難だ。
偽インゴットを誰かに押し付けて現金化できるか、ばれてしまうかはボブの運だ。
透明兵士が呟く。「均一主義大国では、金も愛も嘘。嘘でないのは、均一主義者が嘘つきであることだけ。」
数日後、西美は一人で|均一主義≪コミュニズム≫大国のある大使館に現れる。
そして西美はそこの大使に報告する。
「最中作戦は失敗しました。」
あわよくば偽インゴットを現金化できれは、その段階でボブから現金を取り上げる予定だった。
しかし、作戦は失敗した。ボブの安否に最早興味がない大使はその報告以外は何も聞かずに西美を回収する。
(面倒くさい話)
この偽インゴットは、ナスダック上場企業の金加工業大手であった武漢金凰珠宝の八十三トンにおよぶ金メッキされた銅のインゴットにインスピレーションを受け書いた話です。




