87.黒い太陽
それは地上から見れば黒い太陽のように見えるが、近づくと七つの竜頭が巻きついた空中要塞であることが分かる。黒い太陽の正体はフイラ空中要塞、七つの頭と十本の尖った突起を持って空に浮かんでいる。そして、今そのフイラ空中要塞がイシスの舟に急速接近していた。
一方、フイラ空中要塞に接近されているイシスの舟では、
ノンは既に起きておりナナ子の横顔を見ていた。まだ朝早くなのでナナ子はベットで寝ている。
その寝顔を見ていたノンが、ナナ子の顔をペロリと舐める。ノンがペロペロと舐める。
ベタベタするから止めてとナナ子からは言われている。しかし、衝動なのでノンは押さえられずにナナ子を舐める。
好きな人を舐める。これはノンの本能的なもので、舐めている時にノンは幸せを感じる。
ナナ子が起きる。
ノンが謝る。「ごめんなさいワン。」
ナナ子が少しだけ怒る。「もう、ベタベタするから止めてコン。」
ナナ子は顔を洗う為にベットから離れる。ノンもついていく。
ナナ子はノンが子供のようだと思う。そしてナナ子は自分が幸せなのだと思う。ノンも顔を洗う。
そしてナナ子はノンから昨日捕捉したフイラ空中要塞に思考を切り替える。二人の幸せを守る為にどうすればいいのだろうとナナ子は考える。
フイラ空中要塞の制御室で神族の闇天使、闘増は緊張していた。フイラ空中要塞はこれからイシスの舟に急襲をかける。
彼の目的の一つはノンたちがフイラ空中要塞とどのように戦うかのデータ収集である。もちろん倒せるなら倒すが、イシスの舟の性能は、それを参考にして作ったフイラ空中要塞より遥かに性能が上だ。
「やむを得なかった。」
闘増は現状をそのように思う。
結局、闇ミトラ教会は権力と財力、信者の獲得を優先した。それは七つのチャクラの内、下三つ(生存、欲望、支配)を中心とすることになり、上四つは疎かになってしまった。
その為、イシスの舟の本当の能力については理解できなかった。
イシスの舟の調査はゆっくりやればいいと考えたのがまずかった。その上、マリアなどの光ミトラの行者がまだいることも想定外だ。
ノンたちはイシスの舟の本当の性能と倉庫にある軍女神を既に使っている。
闘増がまた独り言を漏らす。
「おびきよせてからが本当の勝負だ。」
闘増のもう一つの目的はフイラ空中要塞の中にノンたちをおびきよせ、ノンたちを倒す事だ。
「さて、どこまで戦えるか試してみるか。」
闘増が七つの竜頭を起動させる。黒い球体から七つの竜頭が目を赤く光らせて起き上がる。
イシスの舟からまずナナ子とノンのコンビが大きな袋を鎖で引っ張って出撃する。続いて軍女神に搭乗するミツルとカオル姫を乗せた虎型機械武装に搭乗するパンテラが出撃する。
円盤型機械武装に噛みついている犬型機械武装は普通は十字剣を持つが、今回は卵型の物を持ってフイラ空中要塞に接近する。
ナナ子が言う。「気をつけて。」
ノンが言う。「任せてワン。」
かっこいいところをナナ子に見せようとするノン。
フイラ空中要塞の七つの竜頭からは火炎と毒ガスと黄色の毒液が放射される。
ノンの搭乗する犬型機械武装は巧みに竜頭からの攻撃を避けて卵形の物を竜頭に投げ込む。
闘増が言う。「さっさと噛み砕け。」
竜頭は噛み砕こうとする。
しかし、本来なら噛み砕くはずが卵形のものを竜頭は噛み砕けない。卵型の物は投げられた後、竜頭の口のなかで突起を出していた。これらは実はウニ爆弾だった。
「ざまみろワン。」
ノンはいったんフイラ空中要塞から距離をとり、再び袋から卵形のもの、実はウニ爆弾を出すとフイラ空中要塞に接近し、またウニ爆弾を投げる。
十本ある巨大な突起から雷撃がウニ爆弾を攻撃しようとするが雷撃がウニ爆弾に吸収されてしまう。
闘増が思わず漏らす。
「何をするつもりだ?」
ノンは次々とウニ爆弾を投げ込み、竜頭からの攻撃を沈黙させる。竜頭はウニ爆弾を砕くこともできず、吐き出すこともできない。
制御室で闘増が叫ぶ。「なぜ砕けない?」
馬族の兵士が言う。「あれは竜頭の中で刺を出しています。」
つまり、ウニ爆弾は竜頭の口中でウニのように刺を出しており竜頭は砕く事も吐き出す事もできない。
更にノンがウニ爆弾を巨大な突起に投げ、突起にくっつける。ウニ爆弾は表面から刺のようなものを出して突起に付く。
闘増が叫ぶ。「電撃だ!」
巨大な突起からの雷撃がノンとナナ子に向う。しかし、ノンとナナ子のコンビは電撃を避けてノンが全ての突起にウニ爆弾を付けた。
ノンが言う。「セット完了ワン。」
ノンがナナ子に自慢する。
ナナ子が注意する。
「自慢してないで敵を見てコン。」
ノンが自慢して停止したところへほとんどの突起から雷撃が発する。
しかし、ノンに雷撃が届かない。
ウニ爆弾が電撃を吸収してしまったのだ。
そしてウニ爆弾は次の瞬間、黒いフイラ空中要塞全体に電流を放出して電撃が走り、竜頭の中にあるウニ爆弾も、突起に付いたウニ爆弾も全てが爆発する。
ノンが勝利のブイサインをつくる。
それを画面で見ている闘増はいらいらして叫ぶ。
「糞!舐めやがって!」
このままノンたちにやられてばかりでは話にならない。
闘増が怒鳴る。「変型しろ!」
フイラ空中要塞が黒い外皮を破棄し、赤い七つの竜の首を持つ七頭型巨大機械武装に変型する。
闘増が叫ぶ。「あの世で吠えろ!」
一斉に七つの竜頭から火炎が放射するが、ノンとナナ子は巧みに火炎を避けて飛び去る。
ノンが言う。「この世で吠えるワン。」
そして軍女神が虎型機械武装と共に現れ、火炎を虎型機械武装が吠えて吹き返す。
パンテラが言う。「お前の相手はこっちだ。」
|七頭型機械武装≪ソドム≫と軍女神が空中で向き合う。
そのまま接近する軍女神と虎型機械武装を巨大な前足で|七頭型機械武装≪ソドム≫は押し潰そうとする。その前足を軍女神が大剣で切り落とす。
七つの竜頭からの火炎放射は虎型機械武装の風圧でそのまま押し返されている。
闘増が怒鳴る。「尻尾を使え!」
星形六芒星が先についた尻尾が軍女神に叩きつけられるが、三叉戟で斬られる。
ミツルが言う。「こっちは色々な武器があるブ。」
カオル姫が言う。「すきにはさせないブヒ。」
パンテラが言う。「地へ落ちろ。」
虎型機械武装が巨大な七頭型巨大機械武装に飛びかかりそのまま地面に向けて落下する。
闘増が怒鳴る。「なぜ落下する?」
見た目では虎が竜を押し倒しているように見える。
馬族の兵士が言う。「質量で圧倒的に負けています。」
|七頭巨大機械武装≪ソドム≫の方が見た目だけは大きいが、質量では軍女神の方が大きいので七頭型巨大機械武装は地上へ落下する。
闘増が命令する。「全ての偶像を人殺しモードにしろ。」
制御室にある四体の偶像は兵士ロボットだ。
もともと深層機械武装レベルでは敵わないことは分かったうえでの作戦だ。
ノンたちがイエシユアの像の一部を回収する為、七頭型機械武装に乗り込んでからが本当の勝負だと闘増は思っている。
馬族の兵士たちに赤、青、黄の強化服を着用させて命令する。
強化ガラスに入るイエシユアの頭部を指して闘増が命令する。
「赤と青はこれを死守しろ。」
更に強化ガラスの横に立つ四天使を起動する。四天使は四つの目を持つAIロボットであり、闘増のある言葉をカギとして起動する。
闘増が言う。「定めの時が来た。」
この言葉がカギで四天使の四つ目が点灯する。
四つの目がそれぞれの青、黄、赤、黒の瞳を光らせる。
闘増が命令する。四天使は記憶を戻す催眠能力を持つ。普通は、その年齢を戻せば、赤ん坊同然となる。
闘増が命令する。「この首を守れ。」
闘増は袋を持って黄の強化服の馬族たちに言う。
「ついてこい。」
七頭型機械武装が地上に激突する。激しい振動と衝撃が全体に及びあちこちで火花が散る。
七頭型機械武装にできた裂け目からノン、ナナ子、パンテラが入る。
ミツルとカオル姫は、七頭型機械武装から逃げ出す敵を捕まえる為に軍女神に残る。
制御室のドアを蹴破りノンとナナ子が現れる。
ノンが叫ぶ。「降伏しろワン!」
馬族が叫ぶ。「馬鹿にするな!」
たちまちノンとナナ子に斬りかかる。しかし、ノンは十字剣を背にしたまま両手に短剣を持って走る。ナナ子が宝炎剣から四方に火炎放射をする。
ナナ子の邪魔にならずにノンは馬族の足を斬って走る。制御室の金、銀、銅、石の色を持つ像の光線はノンとナナ子の宇宙強化服に反射して馬族と像自体に反射する。
あっという間に馬族を倒し、像を破壊するが四天使は強化ガラスの横に剣を持って立っている。
ノンがナナ子と並び言う。
「なぜ、仲間と戦わないワン?」
四天使は言う。「命令ハコノガラスケースヲマモルコト。」
ガラスケースの像を守ることだけをAIロボットは命令させている。つまり、四天使のAI(人工知能)はノンたちとの戦いが必要ならすると判断している。
ノンが四天使を攻撃しようとした時、四天使の黒い目が光る。
ノンがナナ子に聞く。「もう倒したのワン?」
四天使の黒い目は人の記憶について時間を四分間、逆転させる催眠を発動する。この様子を見てナナ子は動けない。
ナナ子はノンに何が起きたのか考える。ノンの記憶が戻る前に赤い四天使の目が光る。
ノンがナナ子に聞く。「明日じゃなかったワワン?」
今度はノンが昨日の状態だとナナ子にも分かる。ナナ子は四天使をどうすればいいか考える。
更に四天使の黄色の目が光る。
ノンが言う。「まだ頭は早いワン。」
ナナ子はその言葉でノンとの一月前、四週間前の会話を思い出す。どうやらノンは今度は四週間分、記憶が戻っている。ナナ子は動けない。動けばナナ子まで記憶が戻されてしまう。
更に青天使の目が光る。ノンが不思議そうに宇宙強化服を見て言う。「なぜ、着ているのワワン?」
ノンはまだナナ子については理解している。しかし、ナナ子は四天使の能力がまだ十分に分からない以上ナナ子は動けない。
七頭型機械武装の尻尾に近い場所で、最後の馬族をパンテラが切り捨てる。
闘増がいまいましげに言う。「なぜ、分かったのだ?」
パンテラが答える。「アイツの親父だからさ。」
闘増が言う。「まさか親父が現れるとは。」
イエシユアの親父がパンテラであることは、イエシユアが人々に教え始めた頃から言われた話だ。
パンテラが言う。「ああ、人の子に呪いをかけるな。」
闘増がぬけぬけと言う。
「俺はイエシユアが好きだから、できるだけ多くの人に知ってもらう為に、十字架に張り付けのだ。」
パンテラが言う。「嘘つきは、地獄行きと相場が決まってるぞ。」
闘増は、横に置いてあるイエシユアの頭部を見ながら剣をパンテラに向けている。やはり血の繋がった能力者を誤魔化すことはできない。しかし、ここでイエシユアの頭部をパンテラに渡すわけにはいかない。
四天使が敗北することはないはずだが、時間がたてば闘増には不利だ。
闘増がイエシユアの頭部が入った袋を見て、剣を振り上げる。 闘増はパンテラに渡すくらいならここで破壊する事を決意した。
|闘増が叫び剣を振り上げる。「壊れてろ!」
その時、パンテラの背後が光る。闘増の動きが一瞬、止まりパンテラの剣が闘増を貫く。
闘増が言う。「なぜ、俺はここに?」
何が起きたか分からない闘増は、パンテラの背後にいる四天使を見る。しかし、記憶がずいぶん戻っていてノンたちが四天使を従えたことを理解できない。
四天使は、強化ガラスを背おい、七頭型機械武装からノンたちと脱出しようとしている。AIロボットである四天使が受けた命令は、強化ガラスを守ることである。すぐにも爆発しそうな七頭型機械武装から脱出しようとナナ子が提案したので四天使たちはノンたちに協力している。
もっともノンは、四天使の能力で百年ぐらい記憶が戻っているのだがナナ子を忘れなかった。そしてナナ子は四天使の能力が四種類(年、月、日、時)単位で記憶を戻すことが分かり、ナナ子が四天使に提案して闘増に記憶操作をかけたのだ。
普通は、記憶を百年戻されたら赤ん坊同然であり、闘増のように何をしていいか分からなくなる。
ただノンとナナ子は転生の記憶を連続して持っているので赤ん坊にはならない。
暫くして記憶が戻ったノンが言う。
「有言実行(この世で吠える)ワン。」
ノンがナナ子にカッコをつけて勝利の遠吠えをする。
ワオーン!
ナナ子がぼやく。
「声が大きいコン。」
ノンがナナ子にいう。
「どうしても遠吠えしたかったワン。」
「全く子供なんだから。」
パンテラもノンもナナ子も笑う。




