84.ボゴミルとペルガモン要塞
ボゴミルはイシスの舟にある医務室で治療を受けている。 側ではジャンヌがボゴミルの手を握り締めている。
もちろん衣服を着ているので裸尻はもう見えない。
しかし、豊かな胸とお尻がパンパンでジャンヌの豊かな胸とお尻を強調している。
ただ本人にはそんなことを気にしている心の余裕はない。
ジャンヌが涙を流しながら語りかける。
「どうか私を一人にしないで。私は貴方に二度まで救われたのに、貴方を失うなんて。」
ボゴミルはジャンヌに十日もの間、自分の食事を分け、ジャンヌが意識を失う事を防ぎ、更に逃げる時にもジャンヌをティウスから助けている。
ボゴミルが酸素吸入器を外してジャンヌに語る。
「人は自らの言葉について責任を持つ者です。」
ジャンヌが聞く。
「嘘つきは自らの言葉に責任を持たないのでは?」
「責任を持つとは、カルマの事です。」
ボゴミルの言葉は嘘自体がカルマだと言っている。ジャンヌが更に聞く。
「では、嘘を信じた者も|カルマ≪業≫を積むのですか?」
「その通り。これが人の原罪だと私は思う。」
人はしばしば間違える。人は、しばしば信じたいものを信じ、間違っていることを認めようとはしない。
この心の働きが人の原罪である゙とボゴミルは言う。
もはや死にそうなボゴミルの言葉であるからそのまま聞いていればいいのだが、ジャンヌは質問してしまう。
「人の原罪についてはイエシエアが身代わりとなったのでは?」
「他人の業について身代わりになれる者などいない。」
ジャンヌが更に聞こうとするが、ボゴミルは酸素吸入器をつける。そこへアスクレピオスたちが現れる。
アスクレピオスとそのパートナーである牛人族のユキ、将頼とモモ子である。
ノンとナナ子、ミツルとカオル姫は取り込み中なので来なかった。
モエはイシスの舟の制御室で緊急モードを運用している。
ボゴミルは酸素吸入器をつけているが、ジャンヌの疑問は晴れていない。
仕方なくジャンヌがアクスペリオスに聞く。
「人の原罪とは何ですか?」
「もう闇ミトラ教会が人々を洗脳して作った原罪は終わりにしなければならない。」
アスクレピオスが語り始める。
ミトラ教を広める為に、闇ミトラ教会はイエシユアを利用した。しかし、その結果、闇ミトラ教会はイエシユアの弟子たちを火あぶりにし、嘘をつき続けることになった。
本来、イエシユアの教えは霊的世界での救いだ。それに対してミトラ教は、現実世界での未来構築の手段である。
もっとはっきり言えば、闇ミトラ教会が聖典としているものは歴史書(旧書)、言行書(新書)、目次録(ミトラ神)であるが、この内、闇ミトラ教会の聖典とすべきは目次録だけである。
つまり、闇ミトラ教会の神は救世神であり、人の子ではない。
だから、人の子の弟子たちを口封じするために魔女狩りを繰り返すことになる。
そして本物の人の子を殺し、嘘で事実を誤魔化すことになる。
闇ミトラ教会は、壮大なカルマを積み人の未来を壊している。前提となる説明をした後、アスクレピオスが言う。
「人の原罪とは、知らないという事を認識しない事。」
「えっ。どういう意味ですか?」
「人が認識できる範囲は限りがあり、伝達できる内容にも限界がある。にも関わらずㇶは神と正義を語り戦争を始めてしまう。」
「でも、神の言葉が基準としてあり、それこそが正義の拠り所ではないのですか?」
「言葉という手段は、その言葉を使う人を拠り所とする。つまり、言葉による表現された聖典に限界にもある。」
「でも、全知全能の神の御言葉は人よりも正しいのでは?」
「全知全能の神という言葉そのものが願望だ。」
「そんな?」
絶句しているジャンヌを置いてアスクレピオスが続ける。
「例えば、英語が分からず百点満点のテストで九点しかとれない落ちこぼれ君がいるとしよう。」
ジャンヌが真剣に聞いている。
「この落ちこぼれ君の気持ちが、百点満点をとった秀才君に分かるだろうか?」
「難しいと思います。」
「ならば、全知の神に落ちこぼれ君の気持ちが分かるだろうか?」
「やはり、難しいと思います。」
「だから、全知の神には分からない者の気持ちは分からない。つまり、全知の神にも分からない事がある。」
この時、ジャンヌは全知の神が全知ではない事に気づく。
全知と称する神には実は分からないという事が分からない。つまり、この落ちこぼれ君だらけの人々の気持ちが他称全知の神には分からない。
それでも全知と称するのはもはや願望。
ジャンヌは、あまりにも自分が信じていた内容と違うので頭が混乱してしまう。
アスクレピオスの話を聞いていたボゴミルが酸素吸入器を外して言う。
「私の最期の言葉を聞いて聞いてほしい。」
アスクレピオスがボゴミルに近づく。
「私は、あの方がハイエナ族の兵士たちに囚われた時、自分が助かる為、嘘をついた。」
イエシエアが最後の晩餐を開いた園に、闇ミトラ教を国教とする帝国のハイエナ族の兵士たちが乱入する。
その為、ボゴミルは園から逃げた。そしてハイエナ族の兵士の検問を通る度にボゴミルはイエシエアを知らないと言った。
結局、朝日が登るまでにボゴミルは三度、イエシエアを知らないと言っていた。
あの時、まだ若かったボゴミルは恐怖で混乱していた。
「私はあの日、三度もあの方を知らないと言って逃げ延びました。」
ボゴミルは自らの過去において火あぶりにならないように、嘘をついていたことを告白する。
ボゴミルが言う。「これで言うべきことが言えた。ありがとう。」
そしてボゴミルは目を閉じる。
ジャンヌが叫ぶ。
「行かないで!」
もうボゴミルは何も語らない。
ジャンヌが泣き崩れる。
アクスペリオスが言う。「ボゴミルは、ずっと言いたかったことが言えた。もう哀しむべきではない。」
ボゴミルの死顔に安らぎがあるようにアスクレピオスには思えた。
そしてアスクレピオスがジャンヌに語る。
「ボゴミルは、嘘つきと嘘つきを信じる事が人の原罪と言った。私は人が知らないという事を認識していない事は人の原罪だと説明した。」
ジャンヌが聞く。
「それでどちらなのですか?」
「それは、自分で考え出すべき答えた。」
そこまで言うとアスクレピオスは医務室を出る。
ボゴミルの御見舞を済ませたモモ子と将頼は自室に戻っる。その時、モモ子がガシャという音がするほどの勢いでドアを閉める゙。
あまりビビりではない将頼にも不味い事は分かる。そして何が不味いかも将頼は予想している。
将頼にしてみれば、あれだけパッツンパッツンの衣服でお尻と豊かな胸を強調されれば、やはり目がいってしまうのは男の性である。
モモ子が笑いながら全く笑っていないつり上がった目で将頼に聞く。
「ねえ、あの子のお尻をチラチラ見ていたわよね?」
ノンに続いて将頼もまた人生最大の危機に直面する。
ただ将頼はノンとは違い、モモ子に正直に答える。
「確かに見た。でも俺が愛しているのはモモ子のお尻じゃなくて、モモ子の心だ。」
モモ子は、今まで外見には自信を持っていた。
しかし、モモ子の衣服を着てさえもジャンヌはパッツンパッツンであり、明らかにモモ子よりお尻と胸がある。
だから、思わず将頼に確かめるしかなかった。
「じゃあ、あの子のお尻を見ていた理由は?」
「モモ子より太っているのかな、今にも破れそうだなと心配していたのさ。」
豊かな胸、豊かなお尻、これは外見に気を使う女性にとって大変重要な事だが、下手をすると太るという大変大変な外見の危険をおかす。
モモ子が最も気を使っている事は、豊かな胸、豊かなお尻、それでいて太って見えない事だ。
「私は太っていないわよね?」
「もちろんさ。でももう一度言うけど、俺は外見じゃなく心を重視するから。」
モモ子がやっと納得する。
その頃、アスクレピオスとユキも自室に戻っていた。
ユキがアスクレピオスに聞く。
「|あの男の子≪将頼≫、|彼女≪ジャンヌ≫のお尻をちょくちょく見ていたけど?」
「若いっていいよな。」
「それはそうだけど、」
ユキの言いたい事を理解したアスクレピオスが説明する。
「確かにあの男の子は、彼女のお尻を見ていたけど、その視線は、衣服が破れないかと心配していたと思う。」
ユキも将頼の視線を思い出して頷く。
そして呟く。
「若いっていいわね。」
ペルガモン要塞にいる黒馬族のバラムが白い特殊な通信機を見ている。これは一見すると白い小石に見えるが実は通信機器である。
ペルガモン要塞は、地下にある巨大なエネルギーシステムである。この巨大なシステムは二つの立方体で構成され、高い電磁波が充満しているので普通の通信機器では連絡が取れないない。その為、バラムたちはこの通信機器を使用している。
それぞれの立方体の要塞には、燃える松明のように真っ赤な原子炉が中心にある。
そして二つの立方体を結ぶ連絡回廊の中央にある制御室に右手が置いてある。二つの立方体の要塞には、それぞれ黒馬族たちが守備している。
外からこの要塞へは、これらの通路しかない。だからまずどちらかの要塞の黒馬族たちを倒す必要がある。
そしてノンたちがどちらかの黒馬族たちを倒した時が、ノンたちの終わりだ。
バラムが独り言を言う。
「突破された時、バランスを崩して終わりブハ。」
二つの要塞は、二つでバランスをとっているので、1つを暴走させれば二つ共にメルトダウンを起こして終わる。
もちろん、バラムがいる連絡回廊は防御壁で覆われているので安全である。
つまり、ノンたちがどちらかの要塞の黒馬族たちを倒したら、要塞ごと崩壊するのだ。
どこからバラスが何度考えてもノンたちには勝利が見えない。
そこまで考え制御室の右手を見て、バラムは馬面で大きな口を開けて嗤う。
「ブハブハブハブハ。」
その時、制御室が激しく揺れ始める。
「地震か、落ち着けブハ。」
部下たちに言う言葉とは裏腹にバラムは動揺している。
揺れは、更に激しくなり壁にとうとう壁にヒビが入る。
何が起きているのか分からないバラムと黒馬族たちの前の壁から先に掘削器がついた円筒型の地下掘削戦車が現れる。
バラムは驚いて口が開いたままになる。
「そんな馬鹿なブハ。」
中からアクスペリオスたちが現れて黒馬族たちを倒し始める。
慌ててバラムが通信機器で連絡するが返答がない。バラムが通信機器を投げ捨てる。
バラムが慌てて制御室に置いてある右手を持って馬面機械武装に搭乗する。
連絡回廊からは機械武装を完成形では運び込めなかったので、分解して制御室へ運びこみ、組み立てた。
馬面機械武装が立ち上がる。アクスペリオスたちは、地下掘削戦車に戻ろうとする。
しかし、バラムは戻ろうとするアクスペリオスたちの前に目からレーザー光線を出して邪魔する。
なかなか戻れないアクスペリオスたちの前にジャンヌが煙幕を投げる。
アクスペリオスが言う。
「共に戦うのが答えか?」
更に煙幕を投げ、ジャンヌは言う。
「答えを探す為に共に戦う。」
煙幕で制御室の視界が悪くなる。
バラムが叫ぶ。
「お前たちは、俺の剣で叩き潰すブハ。」
馬面機械武装が地下掘削戦車に近づく。
地下掘削戦車を斬ろうと大きな口から両刃の剣を出す。
「これを壊せば、駄犬どもはおわりブハ。」
バラムが両刃の剣を降りおろす。
カーーン。
鋭く大きな音が響き渡る。
地下掘削戦車から胴長短足の犬型機械武装が現れ、馬面機械武装の両刃の剣を受けとめている。バラムが叫ぶ。
「そんな馬鹿なブハ!」
「ノン参上ワン。」
胴長短足の犬型機械武装だからこそ、地下掘削戦車の格納庫に入ることができ、この制御室まで潜入できた。
実は、|地下掘削戦車≪スーパーカッタータンク≫の格納庫に入る為の|深層機械武装≪シン・メカアーマー≫が|犬型機械武装≪コーギー≫だったのだ。
バラムが叫ぶ。
「駄犬はひっこめ!」
「そっちこそひっこめワン。」
二台の|深層機械武装≪シン・メカアーマー≫が剣で相手を斬ろうとする。
|馬面機械武装≪ブラックホース≫と|犬型機械武装≪コーギー≫の剣が真っ向から剣でぶつかる。
その時、馬面機械武装の右肩が外れる。
馬面機械武装は、分解して制御室に運び込みその後組み立てたのだが、しっかり組み立てていなかった。
犬型機械武装の大剣が馬面機械武装の首にあたり、あっさり頭部が落ちてしまう。これもちゃんとネジを締めていなかった為だ。
ここにおいてバラムとその部下の黒馬族たちは降伏する。
闇ミトラ教会は、イシスの舟を半分程度しか理解できなていなかった。その為、イシスの舟にある倉庫を開けて利用することさえできなかった。
本来のミトラ教会は最低七つの輪を使うものである。だから地下掘削戦車もノンたちは利用できる。
バラムたちは捕まり、バラムは大きな口を開けたまま捕まって一言。
「なんて運が悪いブハ。連絡できないなんてブハ。」
通信機器が着信音を出す。ノンが拾いバラムが降伏していることを告げる。
バラムが驚き言う。
「さっきは連絡できなかったブハ。」
ノンがその一言に対して一言。
「一時的なだけワン。」
ノンたちは|地下掘削戦車≪スーパーカッタータンク≫で妨害電波を最大にして一切の通信機器を使用できないようにした。
バラムが言う。「一時的だけなのか。」
ノンが言う。「その通りワン。」
バラムの口が騙されたことに気づき大きく開いて一言。「俺がバカだったブハ。」
(補足)
分からないという事が分からないとは、分からない者の挫折感、敗北感などの気持ちが分からないという事です。
具体的に言うなら、私は数学の三角関数で90度をこえる問題が分かりませんでした。
もし、全知全能の神が存在するとして、その神はこのような感情を知る事はできるのでしょうか?
世の中には、いわゆる天才、秀才が数多存在していますが、そのような人々に分からない事による負の感情を理解でできるのでしょうか?
そのような天才、秀才をこえる全知全能の神に、分からないという事の負の感情が理解できる訳はない。
よって全知全能とは人々の願望でしかないと思います。




