74.怠惰になった理由
地下要塞の第五層には、宮殿も要塞もなかった。あるのは、|機械武装兵≪メカアーマー≫が隠れる為の蛸壺だけだ。
第五層の守護者、ナマケモノ族のベル・ハクノは、怠け者のアル中である。
愛するものは何もない。自分ですら、いつか死ぬのになぜ面倒な事をする必要があるのか分からない。
その上、アル中なので内臓がガタガタでもうダメだ。いつか死ぬじゃなくてもうすぐ死ぬ。それでもベルは酒をやめようとは思わない。
彼女は|火酒≪ラム≫の空になった瓶を逆さにして瓶をふる。
「もう、ない。」
もともと彼女は人類滅亡計画に興味があったので、ここにいる。ベルのいつもの口癖がでる。
「人類なんて滅びろ。」
ただ、彼女は考える事すら面倒なアル中である。
ベルは、怠けられるだけ怠けているので、第五層に、最小限の機械武装と共に蛸壺にいる。
そこへ円盤型機械武装に噛みついた犬型機械武装がやって来る。
ベル以外の機械武装が攻撃する。
迎撃する円盤型機械武装からの火炎放射で次々と炎に包まれ機械武装が倒される。
軍事訓練も怠けたので、連携が取れず各個に倒される。
ベル以外が全て倒されたので、ベルはゆっくりと人型機械武装を動かす。
ノンが叫ぶ。
「降伏しろワン。」
ベルが言う。
「面倒くさい。」
ノンが聞く。
「なぜ、そこまで怠けるワワン?」
ベルが呟く。
「何も考えたくない。」
ノンが最後の降伏勧告をする。
「降伏しろワン。しなければ攻撃するワン。」
ベルが大剣を抜く。
ノンがミサイルを発射するが、途中でスピードがなくなり、下に落ちる。
いつの間にかベルの周囲にブラックホールのような暗黒の空間が現れている。
全てのエネルギーを吸収するベルの深層機械武装の絶対防御である。
ベルが言う。「|絶対防御≪ブラックポイント≫は、全ての力を吸い込む。」
ノンが|絶対防御≪ブラックポイント≫を暫く観察する。
ノンから見ても周囲からあらゆるエネルギーが吸収されている。もちろん、やる気というエネルギーも吸収されている。
「それは絶対防御じゃないワン。」
ノンが操縦席でスイッチを探す。
ベルが力無く呟く。
「ムダ、ムダ、ムダよ。全てはムダなの。」
ノンが言う。
「見つけたワン。」
ノンの犬型機械武装からベルの深層機械武装を覆うシャボン玉のようなものが数多く発射する。
これは本来は化学物質の火災消化用だ。これがベルの|深層機械武装≪シン・メカアーマー≫の周囲で集まり、大きなシャボン玉のようなものになる。
ノンたちはイシスの舟にあるデータベースから、ベルの|深層機械武装≪シン・メカアーマー≫について情報を持っており、対策についても用意している。
ベルは、ぼんやりとそれを見ている。何もしないベルをノンが不思議に思う。
ノンが叫ぶ。「なぜ、何もしないワン?」
ベルが言う。「私は、生まれてはいけなかったの。」
ベルの両親は、ベルができてしまったから結婚したデキ婚だ。
夫婦喧嘩は絶えず起きて、しかもその度に、ベルさえいなければ結婚しなかったと喚くのである。
ベルがアルコールに逃げる理由にはそれだけで十分だ。
その上、ベルは更に顔の見た目がよくなくて、頭も良くなくてスポーツもダメで胸さえペタンコだ。
その上、せっかくできた彼氏さえ、美人で胸が豊かな才女に取られてしまう。
これだけ揃えば不幸と不運のダブル役満だ。彼女が怠惰になりアル中になるには十分以上の理由だった。
「これで死ねる。」
ベルの呟きが漏れる、
深層機械武装の絶対防御には如何なる攻撃も効かない。
しかし、シャボン玉のようなものが機械武装を覆うと暫くして機械武装が歪み始める。
深層機械武装の絶対防御は、常に周囲の空気からエネルギーを吸収しており、周囲からのエネルギーがシャボン玉のようなもので空気遮断されてしまうと、機械武装自体からエネルギーを吸収する。
ベルは、その注意書きさえ読まないので知らなかった。
ベルが自らの最期を感じ悲しい声で言う。「私は親を不幸にするために生まれたの。」
ノンが叫ぶ。「まだ決めてはいけないワン。」
ベルが言う。「私を親にも、他人からも、自分ですら愛せない。」
ノンが力の限り叫ぶ。 「人は親に愛されなくても、他人に愛されなくても自分で自分の価値を決めればいいワン!」
ベルが言う。「もっと早くに会っていればよかったね。」
シャボン玉のようなものの中でベルが圧縮される。
しかし、ノンの犬型機械武装が自爆する直前にシャボン玉のようなものを斬る。人型機械武装はバラバラになる。しかし、ベルはボロボロだが生き残る。
ボロボロのベルが犬型機械武装を見上げる。
ベルが言う。「死にたかったのに。」
ノンが言う。「もう一度だけ、考えてワン。」
ベルが言う。「でも、私は誰にも愛されていない。」
ノンが言う。「違うワン。貴方を助けてほしいと頼まれたワン。」
ノンとナナ子はベルを置いて先に進む。
そこへズシオウたちが来る。
ズシオウが痛みに耐えながら|機械武装≪メカアーマー≫から降りる゙。
ベルが言う。「勝手な事を勝手にいって。」
ズシオウがベルの前に立つ。
「俺が助命嘆願した。」
「頼まなかったわ。」
「お前は、俺の飲み友達だろ。」
ベルがようやくズシオウの顔を見て思い出す。
「貴方は、あの白ウサギ族!」
ここで、まだズシオウがコウモリ族のムラオカにイジメられていた頃、ベルがズシオウに酒を奢った事を思い出す。
ムラオカが地下要塞の愚帝に報告する際、この第五層を通る。その際、必ずベルは通過する者たちに酒を一瓶要求する。
当然、ムラオカが渡した酒をベルに届けるのは、ズシオウだった。
ズシオウはベルの様子を見て酒のせんを緩め、ベルに渡す。
ベルは酒をあけ、近くに散らばっている空瓶に酒を少し入れてズシオウに渡す。
ベルが言う「お前は飲み友達だ。」
ズシオウが酒を少しだけ飲み久しぶりに笑う。
それ以来、第五層ではズシオウが酒瓶のせんを緩め、少しだけベルから酒を貰う事になる。
ベルがやっと思い出してまじまじとズシオウを見る。
ズシオウが言う。
「あの酒が俺に少しだけ生きる力を与えたのさ。」
ベルが聞く。
「だから助命嘆願したのかい?」
ズシオウが首を横に振り違うとジェスチャーする。
「では、何故?」
「俺はお前が好きだ。愛している。」
「こんな胸もなく、頭も馬鹿なブスをか?」
「そんな外見なんかどうでもいい。」
ズシオウがベルを抱きつく言う。
「俺はお前が好きだ!」
ベルが暫くしてズシオウに抱きつく。
ベルが呟く。「私もお前が好きだ。」
ベルはこの時、怠惰でいる理由を無くした。




