66.偉大な王になりたかった男
偉大な王とは全く縁の無さそうな場所がある。
それは、都会と呼ばれる所にはどこにでもあるもので、それは、都会の吹き溜まりでもある場所だ。
そんな吹き溜まりでもある場所には、決まって薄暗い露地裏があり、今にも崩れそうなボロボロの酒場がある。
そんな酒場にはやはりどこにでもいるくだを巻いている女がいる。
女は牛人族で顔はしっかりした作りでバレーならアタッカーをやる迫力だ。つまり、ブスである。ただ豊乳としっかりした尻を持つ彼女は多くの男を惹きつけてきた。
彼女は、霊感占い師でありタロットカードを使ってかなり稼いでいた。そんな彼女にそれは突然起きた。
彼は彼女の前に現れる 一目で彼女は彼に恋をした。
彼は彼女が黙っているので占ってほしい内容を言う。
「俺の明日を占ってくれ。」
どこか影のある彼を占った結果、出たカードは【愚者】、【死神】、【吊るし人】
思わず彼の顔を見て慌てもう一度、カード占いをする。
余りにも悪いカードが出た場合、彼女はいつも、もう一度占う。これらのカードは、カードの中でも最悪に近いカードの組み合わせだ。
そして出たカードは【愚者】、【死神】、【吊るし人】
何という事だろう。全く同じカードが全く同じ順番で出る。
彼はずっと彼女とカードを見ていた。そして一言。
「やはりな。」
彼女が自分が占う前に言われて少しイラつき言う。
「何がやはりなのよ?」
「俺も少しはカードを知っているから、分かるのさ。」
タロットカードの意味は、特殊で普通の人は知らない。
だから、あまりにも悪いカードが揃った場合、まずはもう一度、カードをきりなおす。
それでももう一度、同じ悪いカードが出たら説明を適当にごまかす。
しかし、彼は知っていると言う。つまり、適当にごまかす事はできない。仕方なく彼女が言う。
「明日、愚か者によってあなたは何も出来なくなるわ。最悪なら死ぬかもしれないわ。」
彼はその言葉に納得してある。
「確かに当たるな。」
彼が占いの料金を払い、去ろうとする。
「ちょっと待ってよ。」
「まだ、何か?」
「占いは、終わりだけど、私が貴方と食事をする話がまだなの。」
彼が彼女に聞く。
「俺は、ボヘミアン。束の間の幸せは与えらるが、安定はないぞ。」
「人生の最期になるかもしれない晩餐よ。」
「分かった。」
二人はこの後、それなりの宿屋でそれなりの食事をする。
そして、二人は同じ部屋に泊まる。
次の日の朝早く、宿屋に偉大な王の兵士が現れ彼を連行する。
それ以来、彼は地下牢に閉じ込められてしまう。
その日から彼女は荒れて毎晩酒を飲み、たちまち借金だらけになる。
そんな彼女が今夜も酔っている。
「人類なんて滅びてしまえばいい。そうでしょ、マスター。」
酔っている時にはしらふでは言えない夢を人は言う。
もちろん、夢の中には悪夢も含まれる。
牛人族の老人のマスターが疲れて言う。
「もう、これで終わりにしてくれ。」
牛人族の女がマスターを見る。
「もう一杯、もう一杯だけよ。」
酒飲みの世界共通のおねだりだ。
マスターが渋い顔で言う。
「もうつけがたまり過ぎだ。」
牛人族の女が大きな声で叫ぶ。
「けち!」
立ち上がりコップを投げようとするが、足がふらついて女は倒れてしまう。
牛人族の女、カツラ・ユキが自分で立ち上がろうとした時、ユキを助ける男が現れる。
マスターに金貨を出して言う。
「これで足りるか?」
マスターがびっくりした表情で答える。
「十分だ。」
擦り切れたズボンをはいた神族の男が言う。
「なら、冷たい水を一杯だけ彼女に出してくれ。」
マスターが頷き、氷を入れた水を出す。
ユキが男の顔を見る。
「あんた、私の彼氏に似てるわ。」
神族のアクスペリオスが言う。
「当たり前だ。お前の彼氏だ。」
ユキが混乱して言う。
「でも、彼は地下牢に、、、」
アクスペリオスが言う。
「だから、出てきたのさ。」
ユキがアクスペリオスの胸は叩く。
「全く心配させて!」
ユキが泣き崩れる。
アクスペリオスが聞く。「もう一度だけ聞く。俺は、旅人。それでもお前はいいのか?」
ユキがアクスペリオスの顔を見る。
「私も旅人になるわ。」
イシスの舟にある会議室に神族のアクスレピオスが牛人族の女占い師ユキを連れて現れる。ユキは擦りきれた長いスカートと擦りきれたサンダルを履いている。
アクスレピオスが言う。
「つきまとって煩い女だが、今回の占いは無視できないので連れてきた。」
ユキがアクスレピオスを見て言う。
「私だって、あんたが関わっていなけりゃ、ここに来ないよ。」
どうやらアクスレピオスにユキが惚れてつきまとっているらしい。
ナナ子が質問する。
「それで何が占いで示されたのコン?」
ユキが言う。
「愚者がここに攻めてくるよ。」
ナナ子が聞く。
「軍者のカードが出たのコン?」
ユキが補足する。
「【愚者】、【死神】、【審判】が出たカードさ。」
ナナ子が質問する。
「愚者コン?」
アクスレピオスが補足する。
「正義王ルイ苦世だ。」
愚帝がマスメディアを使い、神族のルイ苦世こそ腐乱国を異端派から解放する偉大なる者だと宣伝している。
腐乱国で賄賂が横行しているのは、権力に取り入っている愚帝とその仲間たちが原因である。
異端派に濡れ衣を押し付け、討伐するという盗っ人猛々しい事を本気で言っている者がルイ苦世である。
マサヒロが呆れたように言う。
「偉大なる者は幼な子とは言うが。愚かな事を。」
偉大なる者とは、確かに幼な子のようだとイエシユアは言っだが、それは大人を幼な子のように尊敬するからであり、愚かであれと言う意味ではい。
アクスレピオスが言う。
「知恵なき者は苦しむ。
力なき者は哀しむ。
愛なき者は虚しい。
だから、この国は苦しみ哀しむ。」
腐乱国の国王が参戦するということは、今までのような私闘では収まらない。
サラが質問する。
「でも、国軍は宗教戦争には不介入ではないのニャン?」
国軍が宗教戦争に不介入とは、|腐乱≪フラン≫国の創始者、ナント王の方針で代々の参謀総長への引き継ぎ事項だ。
ユキがサラの目を見て言う。
「その引き継ぎ事項を無視するって事だよ。」
私闘では、第一次世界大戦前の武器までしか認めらてはいない。しかし、国軍が参戦するなら、話は違う。
現代の武器が使用される可能性が出てくる。
アクスレピオスが言う。
「コシモは内戦になるから、イシスの舟で金銀財宝ごと逃げて欲しいそうだ。」
ナナ子が聞く。
「コシモの取り分はどうするのコン?」
アクスレピオスが答える。
「正義王に渡せば、暗黒の世界が始まるのでそれを阻止するために使ってくれといっていた。」
重苦しい雰囲気が会議室に漂う。
会議室へ風音が入る。
風音が叫ぶ。「正義王が国軍を率いて|長十字軍≪アルビジュア≫に参加!」
ユキがアクスペリオスを見る。
「言った通りさ。」
アクスペリオスが言う。
「もう少しいるだろう。」
ユキの予知能力をアクスペリオスが必要だと考える。
「夜は付き合ってもらうよ。」
アクスペリオスが言う。
「明日死ぬかもしれないのにいいのか?」
ユキが言う。
「例え一夜でも、悔いはしれないよ。」
アクスペリオスがノンたちを見る。
ノンが言う。「大丈夫ワン。」
ユキがノンたちに協力することになる。
ノンたちが直ちに対応を取る。
コシモの傭兵は正義王が阿鼻に到着する前に撤退する予定だ。
アラゴン王からのマティス犬族たちは、現代兵器に装備を変更する。熊人族たちとモンセギュー砦も急いで兵器を変更する。
イシスの舟にいるノンたちがあわただしく動いている頃、神族の正義王ルイ苦王は鏡を見ている。
ルイ苦王が鏡に問いかける。
「この世界で、最も偉大な王に相応しいのはだれか?」
側近であるコウモリ族のペリソンが横から言う。
「それは、ルイ苦王様です。」
既にルイは、ペリソンから事前に説明を受けている。
更にペリソンが言う。
「陛下、イシスの舟にある金を使って聖地を奪還するのです。」
ルイは頷く。
「そうだ。聖地を奪還して吾は偉大なる者になるのだ。」
既に妄想の中では、ルイはイシスの舟から金を奪っている。
ペリソンが言う。
「異端派どもは、死んでも赦しはないとしらしめるのです。」
ペリソンは、すでに死んで埋葬された異端派も墓を暴いて火で燃やすことをルイに提案している。これはペリソンは死体からしばしば一緒に埋められている指輪などを奪おうと考えているだけではない。指輪など小遣い稼ぎだ。
本命は異端派とされた死人には反論できない事が重要だ。つまり、異端派とされた死人は反論できず全財産を没収できる。これで死人の子孫たちから財産を没収する事が出来る。
これこそが、ペリソンが考えた遠征費用を作り出す方法だ。
ルイは、深く考えもせずに頷く。
後に死体焼却嗜好との戦いと呼ばれる戦いが始まる。
ここでおもむろに最も重要な儲け話をペリソンが切り出す。
「つきましては、従軍する部隊についた任せたい者がおりますので、お見知りおきください。」
ここで、サンショウウオ族の丈夫ヘイゾウが、ムラオカと従者を伴って現れる。
ルイがペリソンに聞く。
「従軍する部隊とは?」
ペリソンが答える。
「雑用係です。普段は食糧や荷物を運搬し、異端派の没収した財産を売るなどして、戦時には陣地を構築します。」
ヘイゾウが進み出て自己紹介する。
「これは、これは、偉大な王と名高いルイ苦世王が、私如き者に会っていただける゙とは、末代までの名誉になります。」
さすがに末代と言われ照れるルイが言う。
「偉大な王と自覚はしているが、末代とは少しだけ大げさではないかな?」
疑問系で終るという事は、末代までの名誉だと言ってほしいのである。
ルイは自己顕示欲の化けものである。
そこまで分かっているヘイゾウが言う。
「大げさなどとは有り得ない事です。ルイ苦世王は近々、聖王になられる゙と聞いております。そうであれば末代どころでは有りません。」
異端派への長十字軍を起こした事により、ルイは聖王の称号を闇ミトラ教から贈られる゙。
このような称号を贈られた王など古今東西いない。
ルイ本人は最近は単なる偉大な王ではなく、最も偉大な王ではないかと思っている。
「最も偉大な王にお願い致します。ここに連れてきた者たちに従軍する許可をお与え下さい。」
言われたい褒め言葉を言われ、気分のいいルイは言う。
「許可する。」
ここに、|聖長十字軍≪セント・アルビジュア≫へのズシオウの参加が決まる。
突然、ルイが思い出して言う。
「そう言えは、国軍は不介入では?」
ペリソンが即座に言う。
「きっと神が善処してくれます。聖王樣。」
聖王と言われ気分のいいルイはそれ以上は聞かない。
そのようなやり取りを聞いていたズシオウの内心は不満が渦を巻く。
(従軍?聞いてないぞ!)
当然、顔は歪む。
そして、それを横から見ているムラオカは嗤う。




