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63.愚か者たち

 偽帝が氷に覆われた前でアクスレピオスが説明する。

 

 「ウソつきは、人としての力を一部しか利用できない。」

 アクスレピオスは説明する。

 人の意識には、理屈を考える表面意識、感情の本となる潜在意識、事実を認識する深層意識がある。

 ウソつきは、表面意識と潜在意識までは自己洗脳できるが、深層意識までは洗脳できない。

 その結果、ウソつきは、事実を認識できずに騙され安くなり、深層意識の力、つまり事実を見極める力が弱くなる。

 深層意識こそ、人の行動のプログラムが描かれた意識、この意識を変容させると、人は芋虫から蝶に変態する。


 ノンが聞く。

 「偽帝は自分ができると信じたのワワン?」

 アクスレピオスが頷き言う。

 「自分の偽りに自分が騙されたのさ。」

 ナナ子が言う。

 「妄想(ファンタジー)の中で自分の力を神の力だと思って使っていたコン。」

 そして偽帝は氷に覆われた。

 サラがさらっと言う。

 「愚か者ニャン。」

 アクスレピオスが言う。

 「現実を認識すれば人は夢を実現できる。

 しかし、現実を認識できないなら妄想(ファンタジー)の愚か者になる。」

 マサヒロが言う。

 「宗教の|麻薬患者≪ジャンキー≫だな。」


 イシスの舟にあった金銀財宝は情報変革のための資金とゴリラ族たちが逃げた愚帝への遠征費用へと利用される。





 阿鼻の城が陥落してから数日後、ゴリラ族たちがイエシエアの像を担いで地下洞窟を歩いていた。


 ゴリラ族の一人が言う。「休憩しよう。」

 彼らは、愚帝に対する言い訳を考えている。

 |悪意成≪アクイナス≫が言う予定だった愚帝への話を、自分たちがやるしかない。

 周囲には、コウモリ族たちが監視しながら歩いている。


 ゴリラ族たちは、神の力と免罪の道具を地下要塞にいる吸血コウモリ族の愚帝に渡す為にやって来たとコウモリ族たちには説明している。

 

 本当は阿鼻の城が陥落し逃げてきた。

 しかも、逃げる途中で死神のロバに遭遇してしまい、|悪意成≪アクイナス≫を見捨てて逃げたのである。  

 これが事実であり、事実を言ってもゴリラ族たちに明日はない。ただの臆病者として抹殺されるだけだ。

 一人で鎌を持つロバの話は、生き残りのハイエナ族たちからの噂で阿鼻の城のゴリラ族たちに広まっていた。

 曰く、鎌を持ったロバの死神に会ったらすぐ逃げろ。

 確かにすぐ逃げたので助かった。もし、逃げなければ後から現れた殺死隊に自分たちも殺されただろう。

 だが、これを正直に愚帝に言っても助からない。

 暫し、長い休憩を取るゴリラ族たちだった。




 愚帝は、マスメディアのコメンテーター、ディレクター、政治家などに個人的に金、女、男などを提供して人々に対して自分たちが利益を得る地下組織を持っていた。

 この目的は、人類破滅計画の一つ、人類無知化だ。

 人類を破滅させる為には、人類が無知であるほうがやり易い。

 その地下組織の本部が、ゴリラ族たちが向かっている地下要塞だ。


 迷路になっている通路を何回かまがるとゴリラ族たちは岩の壁に案内される。

 ゴリラ族たちが不思議そうに案内しているコウモリ族の兵士に顔を向けると、コウモリ族の兵士は壁の下にある岩を動かす。


 ゴリラ族たちの目前に、岩でできた地下要塞の入口が現れる。

 ゴリラ族たちはコウモリ族の案内で地下要塞に入る。ゴリラ族たちは更にいくつかの部屋を通り、吸血コウモリ族の愚帝メディアのいる石像の間に着く。

 石像の間には、様々なリアルな石像が並べられている。



 愚帝メディアは王冠を被りサングラスをかけてゴリラ族たちを見る。

 ゴリラ族の一人が言う。

 「偽帝よりイエシエアの像を渡し、人類無知化に寄与するようにとの命を受け、やって来ました。」

 愚帝が問う。

 「なぜ、|神の力を与える法具≪イエシエアの像≫を我に与えるのグ?」

 「残念ながら、偽帝様はあの駄犬どもとの戦いに敗北しました。そこで仇を討つようにと偽帝様の命により私達が持ってきたのです。」

 自分たちが勝手に持ってきたとは言わずにゴリラ族たちは愚帝にウソをつく。


 愚帝は、人の愚かさを利用するので愚を司る帝、つまり愚帝と呼ばれる。本人は決して愚かではない。愚帝が言う。

 

 「それが本当の話グ?」

 ゴリラ族たちのうち睨まれたゴリラ族が思わず実は偽帝は氷に覆われてしまったことを話す。

 「我は、ウソをつくのは大好きグ、でもウソをつかれるのは許さないグ。」

 更に愚帝がゴリラ族たちを睨む。

 ゴリラ族の一人が愚帝の霊圧に耐えきれずに|悪意成≪アクイナス≫を見捨てて逃げてきた事を言う。

 それをきっかけとしてゴリラ族は次々と事実を話してしまい、結局、全てを話してしまう。

 

 ゴリラ族たちを見ながらイエシエアの像に愚帝が手を触れる。

 「つまり、お前たちはウソつきグ。」

 ゴリラ族たちが土下座して言う。

 「どうか私達を配下にお加え願います。」

 

 愚帝がサングラスをとり、ゴリラ族たちの目に自らの目から光を発する。

 「我に対する嘘はゆるさないグ。」

 その時、ゴリラ族たちは全身が石像となる。

 愚帝が呟く。

 「愚か者め、石となって我につかえよグ。」

 サングラスをかけてコウモリ族の兵士に命じる。

 「これをイエシエアの像の横に並べるようにグ。」

 愚帝は、嘘を言うことは好きだが、嘘を言われることは許さない。


 イエシエアの像を壁に立て掛け、コウモリ族の兵士に両脇にゴリラ族たちの石像を並べて支えるようにと命じる。

 コウモリ族の兵士は、左右にイエシエアの像が倒れないように石像を配置する。

 そのゴリラ族たちの石像は、まるでイエシエアを崇めているかのように見えたのは偶然である。

 



 ノンが久しぶりに前世のフツウ・タダロウの時の夢を見る。ノンは寝汗をびっしりかいてしまう。


 「ウンザリワン。」


 |あの人生≪前世≫についてのノンの本音だ。

 あの時、ノンはごくごく普通に努力してたのに、安定した職業につけず、|低賃金≪ニート≫だった為、結婚も出来ずに寂しい人生で終わってしまった。


 「とんでもないワン!」

 

 |あの人生≪前世≫についてのノンの感想だ。

 |あの人生≪前世≫では分からなかったが、今はそれがある集団(ノンの世界では愚帝たちとその仲間)による意図的な日本人の低能化計画の結果だと分かる。

 

 |外人仲介技能実習制度≪マルチピンハネ・プアワーク≫、これが|あの人生≪前世≫で単純労働の賃金を下げ、実習生も、普通の日本人も貧しくする制度だ。


 「繰り返してはいけないワン!」


 ノンは、思わず大きな声で言う。

 隣りのナナ子が、寝ぼけながら聞く。

 「どうしたのコン?」

 「ゴメンワン。」

 慌てて謝るノンだった。



 ノンがこの夢を見るには理由がある。

 それは、ノンに昨日神義疔の近くの公園を散歩していた時、ベンチで倒れている外国人を助けたからだ。

 その外国人は、|外人仲介技能実習生≪マルチ・ピンハネワーカー≫として働いていた。

 彼女の名前はアン・イミグレ・ハイン、白ウサギ族である。 

 彼女は、東昇帝国に実習生として来て行方不明になった兄を探す為に彼女自身も実習生となってこの国に来た。

 本当は、行方不明の兄を探す金があれば良かった。

 しかし、父親が早くに亡くなっているアンの家にはそんな金は無かった。

 その為、兄もそうしたように東昇帝国への渡航費用などは、高利貸しから借りるしかなかった。

 ただでさえ低い賃金から借金返済をすると実習生のアンにはほとんど金が残らず、行方不明になった兄を探す為、アンは食費を極限まで減らす。


 そして、公園で空腹の為倒れた。

 アンの手にある空の袋は、ノンには馴染みのある値引きシールが張られたパンの袋だ。


 保健室で気がついたアンから事情を聞いたノンがアンに言う。

 「ちゃんと食べないとダメワン。」

 「バカだった。」

 東昇帝国は広く人々は多い。その上、余り違いが分からないウサギ族は目立たない。

 アンの仕事は、天然塩を天日干しする作業、つまり海水をひたすら桶で汲む作業である。

 日々の潮汲みの辛さに思わず桶を憎む気持ちさえ湧いてしまう。

 「桶を憎んでもどうにもならないのに。」


 風音とナナ子が現れ、風音がノンに提案する。

 「|外人仲介技能実習制度≪マルチピンハネ・プアワーク≫の潜入捜査員に臨時採用してわカン?」

 ノンが聞く。

 「既に越境三郎・イシダを臨時として採用しているのでワワン?」

 ナナ子が言う。

 「もう一人ぐらいなら大丈夫コン。」

 これらのやり取りで、アンに別途の収入ができ、ひとまずアンとノンたちは安心する。

 この公園で倒れている姿が、ノンの前世の記憶を夢に呼び出したきっかけだった。





 アンが保健室で臨時の潜入捜査員になった頃、地下要塞の石像の間で、アンの兄であるズシオウ・イミグレ・シンジはゴリラ族の石像を磨いていた。


 ズシオウを監視しているコウモリ族のムラオカが言う。

 「細かな所までホコリがないようにしろ!」

 ムラオカは、愚帝の側近の一人で、この石像の間を任されている。


 ズシオウはゴリラ族たちの石像から爪楊枝を使って細部に渡るまでホコリを取り除く。彼の首と手足は鎖が繋がっており、その鎖はムラオカに握られている。


 「おい。」

 いきなりズシオウが殴られる゙。

 コウモリ族がわずかな糸くずを示す。

 (そこはさっききれいにしたのに!)

 「そこのゴリラ族の石像のようになりたくないなら、しっかりホコリを取れ!」


 ズシオウは思わず爪楊枝を見てしまう。

 (愚か者だった。こんな事になるなんて!)

 激しく後悔するが、今のズシオウにはどうしようもない。

 白かった毛並みは、茶色く汚れて煤けていた。



 

 


 

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