62.イシスの舟
少し長くなりました。宜しくお願い致します。
阿鼻の城の中にある大聖堂には、ゴリラ族の偽帝マクシムス、|悪意成≪アクイナス≫、|有魔理屈≪アルマリクツ≫の三人がいる。
|有魔理屈≪アルマリクツ≫が怒鳴る。
「|亜喪利≪アモーリ≫は何をしているんだ!」
|悪意成≪アクイナス≫が状況を説明する。
「不味いです。食料が足りません。」
阿鼻の城に大量にあるのは、金銀財宝である。
元々食料は近隣から購入するのが普通である。その上、最近城内にあった食料は、|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫にあるだけ持たせてしまい、城内には精々一週間分しかない。
このような状況で阿鼻の城が突然、コシモの率いる未来ミトラ軍(コシモの傭兵たち)に包囲された。
城が包囲され、しかも食料が一週間しかないと報告された偽帝は、報告したゴリラ族を殴り殺す。余りにも怒りが強く全く我慢でかなかった。
偽帝がすぐに出撃を銘じる。
「全軍出撃!全て殺すギ!」
怒りに顔が真っ赤になった偽帝には|有魔理屈≪アルマリクツ≫も|悪意成≪アクイナス≫も罠などとは言えない。
言えば、さっき殴り殺されたゴリラ族の運命を自分が体験する事になるから。
偽帝は、包囲している未来ミトラ軍(コシモの傭兵たち)を蹴散らす為に、ゴリラ族たちを正面から突撃させた。
コシモの傭兵たち(雑犬族が大半)ならゴリラ族の突撃で簡単に突破できると判断したからだ。
そして、ゴリラ族たちが雑犬族にしては大きすぎる大盾に体当たりする。
激しい金属音が空気を振動させ、大盾が吹き飛ぶはずだった。しかし、大盾は吹き飛ばず間から槍が突き出す。
大盾から熊人族が顔を見せ咆哮する。
未来ミトラ軍の中に熊人族たちがいることが判明する。
熊人族たちが大盾で防ぐなら、ゴリラ族たちの突撃を防げる。
ゴリラ族の伝令が偽帝に報告すると、やはり伝令は偽帝の怒りのはけ口とされ、殴り殺される゙。
更に反対側から、マティス犬族たちが現れたとゴリラ族の伝令が報告する。
もちろん、このゴリラ族も殴り殺される゙。
しかし、全軍出撃させたので城には最低限のゴリラ族しかいない。このままでは城が攻撃される。
犬人族の中でもゴリラ族たちと戦うことができるマティス犬族が反対側から攻撃するなら、城が落ちる。
城が落ちれば金銀財宝が奪われる。
さすがに偽帝もこのままでは不味いと判断し、すぐさまゴリラ族たちの突撃を中止させたが、その結果、六百もの兵士を失うことになった。
昨日までは、モンセギュー砦の陥落を待っていたのであるから、偽帝たちは深刻になる。
偽帝たちは、最初ノンたちに協力しているコシモがモンセギュー砦から|亜喪利≪アモーリ≫たちを引き揚げさせる為に阿鼻の城を包囲したと判断してゴリラ族たちを突撃させたのだ。
「これは、|亜喪利≪アモーリ≫たちを撤退させる為のブラフだギ。」
これが偽帝の憶測だった。
しかし、偽帝の判断は根底から間違っていた。
偽帝が言う。
「|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫は負けたギ。」
そうでなけれはモンセギュー砦の防衛における主力のマティス犬族がいるはずがない。
|有魔理屈≪アルマリクツ≫が怒りを抑えながら言う。
「神の名を広める為の|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫が負けるなどあってはならないのに。」
それにも関わらず|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫が負けたことに|有魔理屈≪アルマリクツ≫は怒っている。
「|亜喪利≪アモーリ≫は全くのクズだ。」
つまり、|亜喪利≪アモーリ≫が馬鹿な為に負けたのだと|有魔理屈≪アルマリクツ≫は責任の全てを|亜喪利≪アモーリ≫に擦りつける。
|悪意成≪アクイナス≫も怒りを抑えられずに言う。
「せめて苦戦中なり、敗戦の連絡があれば手の打ちようがあったものを。」
確かに連絡があれば、偽帝たちは城にある金で追加の兵士たちを集めるなり、城の食料を購入することができた。
しかし、これは偽帝たちの普段の行動から有り得ない願望だ。苦戦中なり、敗戦の連絡者は味方に殺される以上誰も連絡しない。
それに、|亜喪利≪アモーリ≫は最後にゴリラ族たちの死体が動いた為に敗北したのである。その直前まで|亜喪利≪アモーリ≫は自分が苦戦しているとは思っていなかった。
むしろ戦況についての報告を手抜きしたことを反省するべきだが、彼らに反省の文字はない。
もちろんコシモは、目立たないように千人ほどの傭兵たちを阿鼻の城の周囲に分散させて敗残兵が城に入ることを防いでいた。
偽帝が怒りに満ちた表情で言う。
「妙見法を行う。」
妙見法は、一般的には、北極星を使うとされているが、本来はシリウスを使う。ただシリウスを使う者は、それだけの資格がなければ廃人になるので、北極星とされている。
思わず|悪意成≪アクィナス≫が聞く。
「大丈夫ですか?」
偽帝が言う。
「儂はチャクラを三つ動かしている。資格はある。」
闇ミトラ教会では、人が持つ七つのチャクラのうち下三つ、権力と支配力と生命力に関係するチャクラを開発している。
|有魔理屈≪アルマリクツ≫が言う。
「イシスの舟を動かすのですね。」
偽帝が頷き、言う。
「イシスの舟で、彼らの度肝を抜き、彼らを地獄へ送るギ。」
イシスの舟は超古代兵器と言われている。イシスの舟が動けば、その主砲を使ってノンたちを地獄へ送れる。イシスの舟の大砲は全てを破壊すると言われている。
偽帝たちが大聖堂でイシスの舟について話ている頃、未来ミトラ軍は、阿鼻の城の近くにあった建物の中で会議をしている。
アクスレピオスが説明する。
「一週間後の冬至に、大聖堂の天窓からシリウスの光が差し込む時、偽帝はイシスの舟を起動させます。」
阿鼻の城の地下には、太古に埋められた石船があり、それを偽帝は起動させるつもりだとアクスレピオスは説明する。
マサヒロが言う。
「それまでに偽帝たちを倒さないと大変な事になるか。」
アクスレピオスが言う。
「もちろん俺もできるだけ協力しますよ」
翌日から未来ミトラ軍から大砲を使った攻撃が昼夜を問わず始まる。
もちろん阿鼻の城から、時々はゴリラ族たちの突撃があるが全て撃退される。しかし、ゴリラ族たちは頑強に抵抗してとうとう冬至の夜になる。
すでに阿鼻の城は瓦礫の山である。周囲からマティス犬族も熊人族たちもコシモの傭兵である犬人族たちも大聖堂へと突入を開始する。
まだ残っているゴリラ族たちは六百もいない。
大聖堂への途中の瓦礫に隠れて最後の抵抗をしている。
その中にいるノンは大聖堂の入り口で、有魔理屈≪アルマリクツ≫の率いるゴリラ族たちと対峙する。
|有魔理屈≪アルマリクツ≫が叫ぶ。
「異端派ども、ばら肉にして食べてやる!」
ノンが叫ぶ。
「犬を食べるなんて人でなしワン!」
|有魔理屈≪アルマリクツ≫の十字剣とノンの十字剣が火花を散らす。ナナ子も火炎球でノンを支援する。
サラもマサヒロもゴリラ族たちと激戦を展開する。
|有魔理屈≪アルマリクツ≫とゴリラ族たちが時間を稼ぐ間に偽帝は長十字架の前で妙見法を始める。
大聖堂からは、飛行船が邪魔してシリウスからの光が偽帝に届かない。
将頼が叫ぶ。「カラスを近づけるな!」
モモ子も叫ぶ。「小型爆弾に気をつけて!」
カラス族たちは、小型爆弾を持って飛行船に接近しようとしている。
将頼とモモ子たちは偽帝たちが集めた最後のカラス族たちから、飛行船を守りシリウスが見えないようにしていた。
「小癪な連中だ。奴らが邪魔してもシリウスに接続するギ。」
偽帝はシリウスが見えないので、意識でシリウスに接続して妙見法を始める。
大聖堂が揺れ、浮き上がり始める。
ナナ子が長十字架にはりつけられたイエシエアの像を十字架に付けたクサビと接続部分へ火炎球を放ち、イエシエアが像が長十字架から離れる。
それでも偽帝は呪文を唱え、更に大聖堂がバラバラになった。大聖堂の下から巨大な石舟が現れ始める。ちょうど偽帝は、イシスの舟の舳先に立っている。
偽帝が勝ち誇って叫ぶ。
「イシスの舟が動く。貴様らは破滅ギ!」
その時、偽帝の動きが止まり、偽帝が氷に覆われる。
偽帝が最期に叫ぶ。
「何故なのだ?」
ノンが答える。
「チャクラが足りないワン。」
本来はチャクラは最低でも七つ、更にもう一つの要素がなければ、妙見法は使えない。
それでも偽帝が使えたのは、シリウスの力を増幅する長十字架のイエシエアの像が力を与えていたからである。
偽帝の力が最大限まで伸びた時、イエシエアの像が外れ増幅を止めた。
それまでイエシエアの像から力が与えられたのだが、イエシエアの像は長十字架から離れている。
エネルギー不足になった偽帝は生命力を使い果たして、それでも不足して氷となった。
イシスの舟は動きを止めた。しかし、偽帝が氷結するどさくさに紛れ、|悪意成≪アクイナス≫と彼の護衛のゴリラ族たちがイエシエアの像を持って逃げた。
|悪意成≪アクイナス≫は、自分の護衛のゴリラ族たちと共に、秘密の地下通路を逃げている。
エネルギー変換の鍵であるイエシエアの像をゴリラ族たちに持たせ、ひたすら|悪意成≪アクイナス≫は出口へと向かって歩く。 阿鼻の城にあるこの地下通路は阿鼻の城からかなり離れた場所に出口がある。
|悪意成≪アクイナス≫は、阿鼻の城にノンたちが突入する前日、自らの護衛のゴリラ族たちにこの城が落城する事を話し、イエシエアの像を持って愚帝の地下要塞へ逃げる計画を話す。その際、|悪意成≪アクイナス≫はこの通路と出口の付近に落とし穴などがない事を確かめさせている。
「俺がこんな場所で死んでいい訳がない。」
|悪意成≪アクイナス≫が出口につき、外へ出る。
そこにはロバ族の老人、ヨブが立っていた。
「遅かったの。人でなし。」
ヨブは一人、持っている物は長い鎌一つ。
|悪意成≪アクイナス≫は、前日に部下のゴリラ族に出口とその付近を確かめさせている。
当然、落とし穴などがないかも確認させていた。
「地獄へ落ちろ、異端派!」
|悪意成≪アクイナス≫がヨブに突進する。
彼はロバ族の老人など一瞬で殴り殺すつもりだ。
しかし、|悪意成≪アクイナス≫がヨブの前に着た時、荒縄の網が引き上げられる。
「何だ?これを外せ!」
|悪意成≪アクイナス≫が後ろを振り返ると、イエシエアの像を持って逃げる護衛のゴリラ族たちが見えた。
「裏切ったな!」
|悪意成≪アクイナス≫が叫ぶが、ゴリラ族たちはそのまま|悪意成≪アクイナス≫を見ずに逃げる。
荒縄の網にかかり、地面から離れた|悪意成≪アクイナス≫に周囲に隠れていた殺死隊が現れ、目潰しが投げつけられる。更に長槍で電流を流され|悪意成≪アクイナス≫が意識を失う。
|悪意成≪アクイナス≫が意識を取り戻したのは、|悪意成≪アクイナス≫の首が締まり息が出来なくなったからだ。
|悪意成≪アクイナス≫の両手は後ろで縛られ、両足は鎖で巻かれている。
その状態で、長十字架に|悪意成≪アクイナス≫は吊るされた。
悪意成が首を締められて叫ぶ。
「助けてくれ!何でもする!」
ヨブは言う。
「わしの身内を全て返せ!」
「天罰が下るぞ!」
「下るのはお前らじゃ。」
「イエシエアのお許しを与えられるぞ。」
「信じてもいないくせに言うな!」
ヨブが怒りの余り長い鎌を目に突き刺す。
「止めろ、止めてくれ!」
「貴様らはベジエで止めはしなかった。」
「助けて、、、」
「貴様らは助けもしなかった。」
ヨブが再び、もう一つの目に長い鎌を刺す。
長十字架の後ろにいた殺死隊が∣悪意成≪アクイナス≫の首を締める。
もはや喋る事が出来ない∣悪意成≪アクイナス≫が、暫くして逝く。
レーモンがヨブに聞く。
「少しは気がすんだか?」
長十字架に|吊るされたゴリラ≪アクイナス≫を見てヨブが言う。
「虚しいの。」
「これからどうする?」
「あの幼児の事もあるから、どこかに落ちつきたいの。」
「なら、殺死隊のメンバーの希望者を全て受け入れてくれる所へ一緒に行くか?」
ここで、アレキサンドリアの臨時代表であるヒュパテアが姿を現す。
ヒュパテアは、|悪意成≪アクイナス≫とのやり取りを見ていた。
ヒュパテアがヨブの前に来て言う。
「アレキサンドリアは、命をかけ守ってくれた殺死隊の全員を受け入れます。どうしますか?」
ヨブが聞く。
「新しいベジエを作るという事かの?」
ヒュパテアが答える゙。
「そうです。」
ヨブが言う。
「分かった。身内はあの幼児だけになったが、世話になるかの。」
ヒュパテアが言う。
「もう一つ、お願いがあります。」
ヨブが聞く。
「こんな老人に何かの?」
ヒュパテアが言う。
「今度の戦いで、私は父と兄弟全てを失いました。」
アレキサンドリア側は、勝利したがやはり戦いで死んだ者も多い。
ヨブが言う。
「そうか、身内を失ったのか。」
ヒュパテアが言う。
「もし、良ければ私の父となってくれまさんか?」
ヨブが驚き聞く。
「わしと身内になりたいという事かの?」
ヒュパテアが言う。
「もう一度、身内をつくり、未来を取り戻しましょう。」
ヨブが戸惑いながら言う。
「しかし、神様はどう思うかの?」
ヒュパテアがはっきりと言う。
「人の幸せは、人が自分たちで決めるべきことです。」
ヨブのところへ風音が幼児を連れてくる。
ヨブが聞く。
「じゃあ、この四番目の孫は?」
ヒュパテアが言う。
「私の養子になります。」
ヨブが聞く。
「では、名前をつけてもらいたいのじゃが。」
ヒュパテアが答える゙。
「未来。」
「意味はなんじゃ?」
「明るい未来が来るようにとの願いをこめました。」
ヨブが繰り返す。
「お前は、今から未来じゃ。」
この日、ヨブに笑顔が戻る。
そして、ヨブは殺死隊を止める。




