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59.ハイエナの平原

 カタラがカラス族たちの死体で作りだした肉の塊が|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫の先頭を歩き、かなり離れてゴリラ族たちの本体が続く。

 作りだしたカタラも死臭が漂い始めているので、ゴリラ族たちの督戦隊と共にかなり後ろにいる。

 カタラが言う。「やはり、臭い。」

 カタラは自分が動かしているにも関わらず文句を言う。


 よく反魂法と勘違いされるが、これは死体に電気を流して動かすのと変わりはない。ただカタラは闇の力を使って死体を肉の塊にして動かしているだけである。もちろんカラス族たちの死体には羽根があるので、外見は黒い羽根で覆われている。


 これは、もちろんノンたちの事前に用意されたであろう罠をこの肉の塊で突破しようとする|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫の作戦である。

 これにより、様々な正面からの攻撃は難しくなった。

 このまま肉の塊を先頭にしてモンセギュールの砦まで進軍して、砦を肉の塊で破壊すればとカタラは期待する。

 「やはり、臭い。」

 それでも、思わず愚痴がでる。それはカタラ以外も同じで、肉の塊からかなり離れての進軍になる。


 肉の塊が先頭を進む事による問題は臭いだけではない。

 まず、進軍のスピードが落ちた。

 その結果、モンセギュールの砦までの期間が倍以上かかる事になる。

 この事はゴリラ族たちには深刻な問題とはならなかったが、ハイエナ族たちには深刻な問題となった。

 何時だってゴリラ族たちに比べて弱いハイエナ族たちは、食料、食事の担当である。

 つまり、余計に必要になった食料の確保は、ハイエナ族たちが何とか調達しなければならない。



 二重に張られたテントの中で、食料の調達などを担当する万人隊長であるハイエナ族の|増絵≪ゾーエ≫と他の三人のハイエナ族たちは食料不足について相談していた。

 もちろん、|増絵≪ゾーエ≫は|正義名≪ホーリーネイム≫である。


 |増絵≪ゾーエ≫が浮かない顔で他の万人隊長に聞く。

 「そっちの調達はどうだ?」

 「全くダメだ。」

 「こっちもダメ。」

 「うちもダメ。」

 「全部がダメか。」

 四人の万人隊長のそれぞれの食料調達隊が失敗している。

 この|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫は、出発時点で六万人が一月食べる食料を保持していた。

 モンセギュールの砦まで約二週間かかるので、砦に到着した当日に砦を陥落させる予定だ。


 「不味いな。」

 |増絵≪ゾーエ≫の発言に皆が同意する。


 一人が言う。

 「いつもなら、村で|寄進≪強奪≫できるのに、村には人がいないか、居てもロバのジジイだけなんだ。」

 あーという表情で他の三人が頷く。



 ここで、場面はハイエナ族の寄進隊がある村に現れた時にジャンプする。


 ハイエナ族たちの食料調達隊、約百名はいくつかの無人の村を回り、何の収穫もできていなかった。

 このままでは不味いと思いはじめていた百人隊長は、人がいるとの偵察の報告で、目をギラギラさせ始める。


 「やっと狩りが出来るぜ。」

 彼らが村の入り口に着くとロバ族の老人、ヨブが叫ぶ。

 「盗っ人共、わしの身内を返せ!」

 ヨブの後ろには長十字架に吊るされたゴリラ族の藁人形がある。

 ヨブは一人、手に持つ武器は鎌一つ。

 当然、ハイエナ族たちは、ヨブを殺そうと殺到する。

 「さっさとくたばれ!」


 彼らがヨブにあと少しの場所まで接近した時、突然、先頭集団が地面に飲み込まれる。

 ヨブの前に落とし穴が掘られていて、彼らは落とし穴に落ちたのである。

 ギャー!

 落とし穴の底に立ててある槍に落ちたハイエナ族たちは串刺しになり、悲鳴をあげる。


 「バカじゃの。」

 ヨブの本当に呆れ果てたという呟きが漏れる。


 「この野郎、ぶっ殺す!」

 いきり立つハイエナ族たちに四方から矢が飛んでくる。

 

 百人隊長が周囲を見回すと、そこにはレーモンたちベチエの生き残りで結成された殺死隊(ころしたい)がいた。


 数は殺死隊が約二百でハイエナ族たちが不利だが、ここでは殺らなけば殺られる゙だけだ。

 百人隊長が叫ぶ。

 「殺れ!」


 しかし、この時、ハイエナ族たちの頭上から槍が降る。

 |霊獅子≪グリフォン≫の将頼たちがハイエナ族たちに槍を投下したのである。

 次々とハイエナ族たちは矢に射られる゙か、槍に突き刺さる。 


 百人隊長は、何とか数名のハイエナ族たちと生き残り、|増絵≪ゾーエ≫たちに報告する。

 ベチエの生き残りである殺死隊たちは、まるで怨霊のように新長十字軍に祟っていた。


 このような待ち伏せは何回もあり、不足した食料を調達するどころではない。

 つまり、このままでは間違いなく|増絵≪ゾーエ≫たちが責任を取らされる。つまり、ゴリラ族たちに殴り殺される゙。


 「不味いな。」

 |増絵≪ゾーエ≫たちにはどうすればいいか全く案がでない。 

 

 そこに全身をフード付きコートで覆ったゴリラ族の男が音も無く現れる。


 フード付きのゴリラ族が言う。

 「お守りと麻袋は要らないか?銀貨一枚だ。」


 |増絵≪ゾーエ≫が藁にもすがる気で銀貨一枚を渡す。

 「他の三人は要らないのか? お守りを持ったカラス族の万人隊長は生き残ったぞ。」

 「何?」「何!」「何?」

 この一言は、カラス族の万人隊長がお守りを持った事で、何かを手にして生き残ったという意味に取れる。

 慌てて三人が銀貨を渡す。


 フード付きのゴリラ族が嗤いながら言う。

 「そのお守りを買った者には、金貨一枚で生き残りのアイデアを話す。どうだ?」

 |増絵≪ゾーエ≫が聞く。

 「俺が金貨一枚出せば皆聞けるのか?」

 フード付きのゴリラ族の男が答える゙。

 「ああ、あと金貨一枚で四人とも生き残れる。」

 |増絵≪ゾーエ≫が金貨一枚を出す。


 「この平原のほぼ中央にある湖で、奇襲がある。その時にその麻袋に食料を入れ、残りの食料に火をつけて逃げろ。」

 唖然とする増絵たちに更に言う。

 「そのお守りは、発信機だからお前たちは攻撃されない。但し、中身は決して開けてはいけない。」

 そこまで言うと、フード付きのゴリラ族の男が姿が消す。


 |増絵≪ゾーエ≫は、開けてはいけないと言われたお守りを開け、その中身が長十字架に吊るされたゴリラ族の藁人形である事を知る。

 確かにこの中身なら、何を言ってもゴリラ族たちに殺される。

 |増絵≪ゾーエ≫が他の万人隊長を見回す。



 



 平原のほぼ中央にある湖に黒い羽根で覆われた肉の塊が進む。

 一旦、|増絵≪ゾーエ≫たちは休憩に入る。

 既に麻袋の中には逃げ出す時の食料が入っている。


 |増絵≪ゾーエ≫たちが休憩に入った後、地面が揺れ、地面から鉄の塊が現る。

 それは、カラス族たちの武器とアレキサンドリアで死体となったハイエナ族たちの武器を集めた鉄の塊だ。

 アレキサンドリアからノンたちがハイエナ族たちの武器を運び、カラス族たちの武器は熊人族たちが集め、地中に埋めた物である。


 鉄の塊の上には、飛行船が飛んでいる。その飛行船にモモ子とナナ子が乗っている。

 ナナ子が心配して聞く。「一人で大丈夫コン?」

 モモ子が言う。「大丈夫。毎晩、彼と練習(タントラ)してるから。」

 モモ子は毎晩、将頼と性愛術で霊力を上昇させいるから、一人でも鉄の塊を動かせると自信を示す。

 ナナ子がモモ子の霊力の上昇の凄さに驚く。わずかな期間で鉄の塊を一人で動かせるようになる。

 モモ子が一人で鉄の塊をコントロールしている。

 (負けてはいられないコン!密かにナナ子は今晩もガンバル事を決意する。)


 この時、偶然かどうかは兎も角、ノンが寒気を感じクシャミをする。

 「バウバウ、クシュン」

 隣りにいた将頼が言う。

 「あんまり毎晩ガンバルと体調をくずしますニ。」

 「分かってるワン。」

 (分かっているけど、男たる者、それでもガンバルしかない時も有るワン。)



 カタラが飛行船に乗るナナ子とモモ子を見つける。

 そして鉄の塊を操作している彼女たちにカタラが叫ぶ。

 「天魔のしもべよ、神の御力を思いしれ!」


 モモ子で拡声器で反論する。

 「神の御名を語るペテン師に天罰を!」


 肉の塊と鉄の塊がぶつかる。まともにぶつかれば、肉の塊は鉄の塊にかなうはずがない。

 しかし、カラス族たちの羽根が鉄の塊の打撃へのクッションとなり、なかなか肉の塊は崩れない。


 頭上にきたモモ子とナナ子にカタラが叫ぶ。

 「天罰は汝に下るのだ!」

 肉の塊を覆う羽根の一部がモモ子に矢のように飛ぶ。

 しかし、モモ子の横にいるナナ子が宝炎剣から出した炎で羽根を焼き払う。

 ここはナナ子がガンバル場面である。モモ子にばかりいいところを見せられてはいられない。

 今晩もノンと頑張るとナナ子は改めて決意する。


 モモ子が拡声器で叫ぶ。そして飛行船が後退する。

 「暴力と略奪に人々の怒りを!」

 この声のすぐ後にかなりの高度の空に小さな飛行船が見える。

 カタラはモモ子たちを見ているので気づけない。その小さく見える飛行船から大量の岩石がカタラに降る。

 小さく見えているのは、高度があるからであり、その高度から大量の岩石が落下する。


 カタラは音を立てて落下する岩石によって自分が肉の塊になる。


 実はモモ子とナナ子がカタラの相手をして注意を引いている間に、将頼たちが別の飛行船でカタラのはるかな頭上に移動していたのだ。

 そしてモモ子が人々の怒りという言葉(キーワード)のタイミングでモモ子たちが乗る飛行船が後退して、その上空に隠れているマサヒロたちの飛行船から岩石を落としたのだ。


 肉の塊は動きを止め崩れる。

 鉄の塊も動きを止めるが崩れない。


 亜喪利≪アモーリ≫はゴリラ族たちに叫ぶ。 

 「ロープを投げて武器を剥がせ。」

 ゴリラ族たちがロープを鉄の塊に投げ、次々と武器を引き剥がし始める。

 しかし、鉄の塊もゴリラ族たちを叩き殺し始める。




 ゴリラ族たちが鉄の塊に注意が向いている間に食料の集積場所に、マサヒロたちが移動する。

 マサヒロが言う。「攻撃開始。」

 飛行船から火炎びんが落下する。


 ハイエナ族たちの隊長であるゴリラ族たちが火を消すように怒鳴る。

 ガー、ガーと地上でゴリラ族たちがハイエナ族たちに怒鳴る。

 補給拠点は四ヵ所あり、それぞれ一万のハイエナ族たちが警備している。

 マサヒロたちが攻撃しているのは、その内の一番|亜喪利

≪アモーリ≫たちに近い補給拠点だ。

 実は、アレキサンドリアでの戦いでほんの数人のゴリラ族たちが生き残り、阿鼻へと戻っている。


 だからアレキサンドリアへの|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫では食料を最初に焼き払われた点を考えて、アモーリは食料を分散させていた。まさに猿知恵である。


 通常、ハイエナ族たちは百人単位で部隊を作り、隊長と副隊長はゴリラ族である。しかし、アレキサンドリアでハイエナ族たちが反乱したことにより、更にゴリラ族の兵士が三名加わる。

 より強い恐怖で|亜喪利≪アモーリ≫はハイエナ族たちに命令する事を考えた。


 ゴリラ族たちが火を消そうとした時、ハイエナ族の声があがる。


 「逃げろ。ゴリラに叩き殺されるぞ。」

 ハイエナ族が失敗した場合、ゴリラ族に叩き殺されるのはいつものことだ。

 ハイエナ族たちは、すでに食料に火はつけられており、だれかがゴリラ族に叩き殺される。

 ハイエナ族たちが一斉に逃げ出す。これを止めようとしてゴリラ族たちと乱闘が始まる。

 ハイエナ族たちは数は多いが、鉄の兜と体に鉄の鎖を巻いたゴリラ族たちに歯が立たない。

 その時、またもハイエナ族の声がする。

 「ゴリラに火のついた食料を投げつけろ!」

 ハイエナ族たちがスコップで火のついた食料をゴリラ族たちに投げる。

 ゴリラ族たちも反撃して乱闘は果てしなく続く。

 ハイエナ族たちへの反乱の呼びかけには、|増絵≪ゾーエ≫たちだけでなく他のハイエナ族たちも加わる。

 ハイエナ族は、食べる為と暴行と略奪の為に|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫に参加しているのであり、自分たちが殺される為ではない。

 ハイエナ族たちは、ゴリラ族たちに殺されそうなら遠慮なく逃げるかゴリラ族たちと戦う。

 所詮は恐怖で人を支配するゴリラ族たちにハイエナ族たちは忠誠心などない。

 


 四ヵ所の全てで補給拠点が燃え、ハイエナ族たちは平原に散り散りになって逃げる。

 後にこの平原は、ハイエナの平原と呼ばれる。


 

 

 乱闘が終わる頃、すでに夕陽が山にかかり始めていた。ほとんどの食料はなくなり、ハイエナ族たちは逃げるか、叩き殺されている。


 マサヒロたちからの連絡が入り、かなり小さくなった鉄の塊とモモ子たちが引き返す。

 |亜喪利≪アモーリ≫は、鉄の塊を倒すことができなかったので怒鳴る。

 「あの鉄の塊をどうしても倒せ。」

 ゴリラ族たちは自分たちが|亜喪利≪アモーリ≫に殺されない為、考える。

 

 

 そこへ食料を失ったことを知らせるゴリラ族がくる。

 「補給拠点の食料をかなり失いました。」

 聞いた|亜喪利≪アモーリ≫は、もはや怒りが限界を超え、報告したゴリラ族を叩き殺す。

 「貴様ら、今度失敗したら殺す。」




 数日後、∣増絵≪ゾーエ≫とその部下の元千人隊長たちは平原の端にいた。

 方向としてはモンセギュールの砦とも阿鼻のある方向とも違う方向だ。


 増絵が大きく背伸びをする。

 「俺は|この名前≪ゾーエ≫を捨てる。」

 元々思い入れがある訳ではない。

 ただ、|亜物利≪アモーリ≫から希望は何かと聞かれ、絵が描きたいと思いつきで言ったら増絵と|正義名≪ホーリーネイム≫をつけられただけだ。

 「じゃあ、どんな名前で呼べばいい?」

 「ブールだ。これが元々の俺の名前だ。」

 元千人隊長が聞く。

 「ブール、これかどうするつもりだ?」

 元ゾーエ、ブールがあのお守りを出す。そして中身のゴリラ族が長十字架に吊るされた藁人形を出す。


 「このお守りを持っていても殴り殺されない国に行く。」


 彼らはその後、どこへ行ったのかは分からない。

 彼らは発信機の範囲外へと消えた。

 

 

 

 


 

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