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58.カラスの森

 コシモとノンたちが商業都市国家にあるコシモの要塞兼豪邸の会議場で先ほどから打ち合わせをしている。


 そこへモンセギューからの使者が来た。

 使者の熊人族の男が言う。

 「援軍は?」

 偽帝たちの想定される最大可能な軍(約六万)に対して熊人族たちの戦闘可能な者は二千程度でしかない。

 彼らだけでは、モンセギューの砦で戦うとしても勝ち目はほとんどない。使者の表情は緊張している。


 コシモが言う。

 「もちろん共に戦うとモンセギューの隊長へ返答して下さい」

 コシモがノンを見る。

 「もっとも援軍を率いるのは、英雄ですが。」


 モンセギューで戦う予定のノンも言う。

 「一緒に戦うワン。」


 この発言で、ノンたちとコシモはモンセギュー砦の近くに住む熊人族たちと共闘して偽帝たちと戦うことを明らかにする。



 会議室から個室に戻ったところで、ノンが腹を出して寝転ぶ。

 「撫でてほしいワン。」

 ナナ子にお腹を撫でてほしいと甘えている。

 「緊張していたのコン?」

 ノンが言う。「ワン(うん)。」

 やはりこのような重要な会議では、剣豪のヤスベエのモードでないときつい。

 ナナ子がタマオノマエのモードに変心する。

 ノンがタマオノマエの変心に影響され、ヤスベエのモードに変心する。そして立ち上がる。

 「もう大丈夫ワン。」

 ノンが笑ってナナ子に言う。

 「さて、行こうワン。」

 そしてノンたちがモンセギューの砦へ大量の食料と武器と共に向かう。



 

 ノンたちがモンセギューの砦へ向かうという情報に偽帝たちは地下の会議室に集まる。

 ノンたちのいるモンセギューの砦を攻撃することは決定している。

 後は、どれだけ兵力を偽帝のいる阿鼻の城に残すかだけだ。


 異端審問官のゴリラ族、カタラが言う。

 「可能な全兵力をお願いします。」

 元々、狂暴なゴリラ族たちは、|長十字軍≪アルビジュア≫の虐殺と財産没収でストレスを発散し、財産を山分けしていた。


 しかし、今は阿鼻の城の周囲に駐屯してストレスがたまってケンカが絶えなかった。

 今回の|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫の最高司令官になったゴリラ族の|亜喪利≪アモーリ≫が言う。

 「この阿鼻の城には、四千も居ればよいのでは?」

 偽帝たちの心配は、この阿鼻の城に貯めた金銀財宝をコシモの傭兵たちに奪われることだ。

 しかし、四千ものゴリラ族たちが守るなら、城を攻撃する場合、守備の三倍が必要とされる。

 つまり、コシモの傭兵たち二万の全てを動員しても無理だ。


 |有魔理屈≪アルマリクツ≫が聞く

 「しかし、それではそちらにまわすゴリラ族が六千になる。」

 |亜喪利≪アモーリ≫が言う。「あとは追加で四千ほど臨時募集して行きます。」

 ∣亜喪利≪アモーリ≫は、やはりモンフオールがゴリラ族たち一万を率いて失敗した以上、モンフオールより多く兵力がほしい。


 偽帝が言う。「よかろう。後は全てあの駄目犬に向けるギ。」

 カラタが嗤いながら言う。

 「異端派は死者も墓を暴いて火刑にします。」

 偽帝が言う。「あの犬も焼き肉にしろギ。」

 ∣亜喪利≪アモーリ≫が言う。「御意のままに。」


 これで、モンセギュー砦への|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫として、ゴリラ族の一万、ハイエナ族の四万、カラス族の一万の構成が決まる。

 




 ここは、阿鼻の城からはなり離れた町の食堂である。

 カラス族の幹部、万人隊長の|便利存≪ベンリソン≫と千人隊長たちが食堂に戻って食事の続きをする。

 |便利存≪ベンリソン≫とは、|正義名≪ホーリーネイム≫で、異端派を百名以上殺すともらえる名誉だ。

 名前の意味は、大便にも理屈はあるという事だ。

 (大便の理屈などバカにしているとしか思えないが、ゴリラ族の有魔理屈がつけたので文句も言えない。)


 そしてさっき、異端派の雑犬族の老婆を見つけたという報告があり、食事を中断して老婆を火刑にしてきたばかりだ。

 「|神の正義≪金稼ぎ≫を、また一つ完遂したス。」

 本来なら上機嫌であるはずなのに、表情は冴えない。


 それは、さっき老婆を火刑にした後に起こった出来事が原因だ。


 |便利存≪ベンリソン≫たちが火刑の後、食堂へ帰る途中で、全身をフード付きコートで隠したゴリラ族の男に会う。

 そのゴリラ族は|便利存≪ベンリソン≫に羽毛の枕とお守りを片手で示す。

 「銀貨一枚。」

 要は意味のない品を渡して金を取るタカリだ。

 しかし羽毛の枕を持たない方の手はいつでも|便利存≪≫を殴り殺せるように握りしめている。

 

 ゴリラ族に殴り殺されるより、銀貨一枚払う方がいいと|便利存≪ベンリソン≫は、銀貨一枚を渡す。

 ゴリラ族の男は銀貨を受けとり、羽毛の枕とお守りを便利存に渡すと次の話をする。

 「銀貨を払ったやつには、両側が山に挟まれた森に死の危険がある事を教えている。」

 両側が山に挟まれた森で死の危険と言われれぱ、|便利存≪ベンリソン≫は、これから侵攻する道に該当する場所が思い浮かぶ。

 ゴリラ族の男が嗤いながら言う。

 「助かるアドバイスは、金貨一枚。」 

 |便利存≪ベンリソン≫が舌打ちする。銀貨一枚はただの口実だった。本命は金貨一枚のアドバイスだった。

 暫し便利存は考える。金貨一枚はかなりの高額だが、生きていなければ金は使えない。

 |便利存≪ベンリソン≫が金貨を一枚、ゴリラ族の男に渡す。

 「逃げる事だ。相手は接近してくるカラス族たちたちに罠を仕掛けている。」

 ここで一旦、言葉を切りゴリラ族の男は言う。

 「そのお守りは決して開けてはいけない。開ければ命はなくなる。」

 そう言うとゴリラ族の男は去っていく。


 開けてはいけないと言われれば開けるのが、|便利存≪ベンリソン≫だ。

 さっそく、お守りを開けると、中には長十字架に首が括りつけられたゴリラの人形がそこにある。

 ゴリラ族たちにこんな物を見せれば、命がないのは当たり前である。

 とりあえず、食事の途中だったので食堂へと戻る。

 食堂の店主に貸し切りにすると伝え、食堂で千人隊長のカラス族たちと|便利存≪ベンリソン≫が相談する。


 話をゴリラ族たちにする事は論外だった。

 モンフオールがそうであるように、お守りの中身を見せた段階で殺される事が確定する。

 では、両側が山に挟まれた森に罠が仕掛けられているという注意を、カラス族たちのゴリラ族の督戦隊に言うのはどうか?

 これもゴリラ族の督戦隊に疑われてやはり命がない。


 「カーーーーー。」


 長い長いため息を|便利存≪ベンリソン≫たちはするしかない。

  

 


 

 |新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫の先遣部隊として、カラス族たち一万が、両側が山に挟まれた森の中で木の枝に休んでいた。 

 本来ならかなり広い場所で休むのだが、どうにも違和感があるので、狭い場所にカラス族たちは集まっていた。


 違和感の正体は森のいたる処に磁石を内蔵した梟ロボットだった。

 その配置された梟ロボットからある程度離れた場所を選らんだ結果、カラス族族たちはある範囲に集められた。

 なおこの梟ロボットは、超音波も出しておりカラス族たちを不快にしているので尚更である。


 そしてカラス族たちは、アモーリからできる限り早くモンセギューに着いて、モンセギューの人と物の出入りを阻止しろと命令されている。

 その為、この違和感を調べる許可がゴリラ族の督戦隊からないので周囲の梟ロボッに気づけ無かった。


 仕方なく、カラス族たちは、密集して不満をガー、ガー言う。



 そのような状況で真夜中、カラス族たちの上空にマサヒロたちが現れる。

 マサヒロが言う。

 「まず、孤立している連中から消えてもらう。」

 空から、石の雨がザーという激しい音と共に降る。拳ぐらいの大きさから、小指程度までの石が次々とカラス族たちを打つ。

 たまらずに飛び立つカラス族たちに、周囲から散弾が撃ち込まれる。

 

 ノンは地上で熊人族と共にいる。マサヒロたちが攻撃を開始するのを見てノンも言う。 

「攻撃開始ワン。」

 周囲には、赤外線遮断シートに隠れていた熊人族たちが大砲から散弾を撃ち、上空千メートルからは飛行船からマサヒロの獅子族たちが、モンセギュー砦の周囲から運んだ石を落とす。 

 赤外線遮断シートは、ノンたちの熱と姿をを隠し奇襲を成功させる。


 カラス族たちは、周囲の大砲をまず押さえる為に熊人族たちへ飛びかかる。

 しかし、カラス族たちは、熊人族たちの前に張られた霞網にかかりる。大砲は霞網の間から撃ち込まれている。

 この霞網は大砲を奪つ熊人族たちの前後左右と上に張ってある。

 カラス族たちが地面におり、霞網の下をくぐって大砲を打つ熊人族たちを攻撃しようとする。

 しかし、そこには熊人族たちの厚い鎧にカラス族たちのレイピアでは歯が立たない。


 もちろんはるかな上空の飛行船を目指すカラス族たちもいる。しかし、彼らは飛行船の下の方に張られていた霞網にかかり霊獅子(グリフィン)たちに槍で風切羽を叩かれ落下する。


 鳥が空を飛ぶ時、最も重要なものは、風切羽と呼ばれる羽根である。

 そして、カラス族たちをノンたちが最初に攻撃する目的は、その偵察能力を|新長十字軍≪ネオ・アルビジュア≫から奪う事である。要はカラス族たちが飛べなければいい。


 本来ならこのような状況では、|便利存≪ ベンリソン≫たちが指示をするべきだ。

 しかし、彼らは幹部の会合に参加すると百人隊長たちに指示して少し離れた場所でこの状況を見ている。


 「あああ、飛行船に向かった連中、霞網にかかってるぜ。」

 「地上の連中も霞網にかかっているぜ。」

 千人隊長たちの言葉を聞いて|便利存≪ベンリソン≫は言う。


 「地上を歩いて逃げるス!」

 最早、カラス族が生き残る為には、ここから逃げるしか方法がない。

 |便利存≪ベンリソン≫たちは空を飛ばす、ゴリラ族の督戦隊を避け、自分たちだけが生き残る事を優先した。 



 夜明けに|便利存≪ベンリソン≫たちが十分離れた場所にたどり着く。

 |便利存≪ベンリソン≫が宣言する。

 「俺は、|正義名≪ホーリーネイム≫を捨てる゙ス。

  誰が大便の理屈なんかやってられるかス!」

 他の千人隊長も言う。

 「弱い者イジメは好きだけど、自分がされるのは嫌いだ。まして殺されるのは大嫌いだ。」

 彼らはイジメる側の組織として闇ミトラ教会の軍にいるのであり、逆に殺される側など論外だった。

 |正義名≪ホーリーネイム≫を捨てた元万人隊長が言う。

 「俺は、ヘンリー。新しい未来へ飛び立つ。」

 ヘンリーが空へ飛び立つ。他の元千人隊長たちも飛び立つ。


 夜明けまでにカラス族の部隊は壊滅し、生き残りのカラス族たちは姿を消した。

 ゴリラ族たちの督戦隊に報告しにいけば、叩き殺されるので、カラス族たちはみな脱走した。




 カラス族たちは、ゴリラ族の督戦隊より二日ほど先行していたので、督戦隊が到着した時には、熊人族たちは大砲と共にモンセギュー砦へと向かった後だった。


 カラス族たちの死体を見てアモーリが言う。

 「やはり、カラスなど役立たずだ。」

 それに対して異端審問官のカタラが言う。

 「いや、死体の方がカラスは役に立つのです。」

 カタラはカラス族たちの死体を集めさせ、呪文を唱える。


 「大いなる父よ、我が願いを聞き届け偽りの命を与えたまえ。」

 死体が1つの巨大の肉の塊となり、立ち上がる。


 カタラが命令する。

 「神の御名を広める聖戦に汝も加わるのだ。」


 死体の塊が歩き出す。


 

 

 

 

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