56.モンフオールのバカ
また、書きすぎて長くなりました。
アレクサンドリアの会議場に最新式の複写機を持ったトキ族の男、レオナルド・ピスカが商業都市国家から来た。
ヒュパテアとノンたちは、この男からある提案を受けていた。
レオナルドが言う。
「わが依頼主よりの提案の返答は如何?」
レオナルドの依頼主は、商業都市国家の代表者、チンパンジー族のコシモだった。
アレクサンドリアの奥義書をレオナルドに閲覧されてくれるなら、アレクサンドリアへの闇ミトラ教会からの侵攻はモンフオールで終わりにするという提案だった。
ヒュパテアはこの提案について援軍であるノンたちの意見を求める。
ナナ子が聞く。
「モンフオールを止めることは、出来ないのコン?」
「モンフオール自身でさえ怒りをコントロールできないのに、誰がコントロールできるのでしょうか?」
サラが驚き、聞く。
「ゴリラ族という者は、もう少し理性があると思っていたニャン。」
レオナルドが言う。
「モンフオールは、自分の怒りを自由に発散させる為に王になろうとする男です。」
モンフオールは貴族であるが、自分を縛る法律とか、王に何時も不満を持っていた。
だから、自分が王になり、自分が法律となる独裁国家をアレクサンドリアに作る為に、|正長十字軍≪シン・アルビジュア≫を率いていた。
ヒュパテアが言う。
「では、何故、次の|長十字軍≪アルビジュア≫は止める事が出来るのですか?」
レオナルドが自信を持って答える゙。
「戦争には多額の金が必要です。しかし、|今度の長十字軍≪シン・アルビジュア≫が失敗すれば誰も金を貸さなくなるからです。」
既に笛吹き男の|長十字軍≪アルビジュア≫は資金集めに失敗して、今度の|正長十字軍≪シン・アルビジュア≫にも失敗すれば金を誰も貸さなくなるという事だ。
戦争、特に侵略戦争は金がかかる。
「今回の件は、闇ミトラ教会にとってモンフオールが成功して、アレキサンドリアが廃墟になっても、モンフオールが失敗して彼が破産してもどちらでも良いのです。」
モンフオールは、多額の借金をして今回の作戦に参加している。
モモ子が聞く。
「モンフオールは闇ミトラ教会にとって要らない子なの?」
レオナルドが頷く。
「聖騎士でも、もっとも暴力的なモンフオールは、今回の件で死んでもいいし、成功してアレキサンドリアが廃墟になればもっといいという事です。」
ヒュパテアが言う。
「分かりました。奥義書の閲覧を許可します。」
レオナルドが聞く。
「本当によろしいのですか?」
ヒュパテアが答える。
「時代は、信じる世界から知る世界へ情報変革が起きています。但し、条件があります。」
レオナルドが聞く。
「その条件とは?」
ヒュパテアが答える゙。
「モンフオールについての情報を出して下さい。」
少しだけ間があく。
レオナルドが言う。
「モンフオールは、父親とそっくりな暴力的なゴリラ族です。本当のバカとは違うストレスに弱い愚か者です。」
ここで、レオナルドは特別のパンとワインの話をする。
ヒュパテアが必要としているのは、アレキサンドリアの攻防で役に立つモンフオールについての情報だ。
そして、その情報を渡す以上、この戦いではヒュパテアたちに勝利してもらわないと後で、レオナルドが困る゙し、|依頼主≪コシモ≫も困る。
つまり、勝利に貢献できそうな情報を渡す必要がある。
レオナルドが更に言う。
「なんでも、バカゴリラ、バカブタなどという悪口や頭の毛が三本足りないとか言うと、相手を殺すか殺すほど殴るそうです。」
ヒュパテアがノンたちを見る。
ナナ子が言う。
「最大の弱点は、モンフオールのストレスに弱い頭コン。」
レオナルドが頷き言う。
「あのゴリラは、これ以上罪を重ねない為に滅ぶべきなのです。」
ノンがしみじみ言う。
「本当の敵は、自分の怒りワン。」
ナナ子が補足して言う。
「あのゴリラをストレスで潰すコン。」
風音も言う。「心理作戦で頑張るカン。」
|正長十字軍≪シン・アルビジュア≫の最大の弱点、モンフオールの心への攻撃が始まる。
翌日の朝、朝日が昇り始めた頃、モンフオールを乗せた千人乗りの蒸気船に将頼たちが火薬樽を投下する。
それはまるで急降下爆撃のようである。
そのような状況でモンフオールへの|情報戦≪悪口≫が仕掛けられる。
将頼が大声で叫ぶ。「バカゴリラ二!」
マサヒロも大声で叫ぶ。「バカブタ!」
サラも大声で叫ぶ。「バカゴリラの頭は毛が三本足りないニャン!」
マサヒロたちは、射程外にいる飛行船から火薬樽をモンフオールのいる蒸気船の上まで運び、上から飛行船へ落下して、火薬樽を離して再び上昇する。
その飛行船への帰りにモンフオールへの|情報戦≪悪口≫が行われる。
モンフオールは、顔を真っ赤にして怒り狂う。
「殺す!殺す!殺す! 絶対に殺すモ!」
近くにいたゴリラ族たち三人がモンフオールに殺される。
火薬樽の攻撃で旗艦が炎上したので、モンフオールはもっと小さな船に移動する。
マサヒロたちの攻撃が終わった時、イライラしたモンフオールにゴリラ族たちが更に何人も殺される。
モンフオールは、五十人乗りの船でイライラしていた。千人乗りの旗艦は揺れが少なかったが、五十人乗りの船はやはり揺れが大きい。その上、百人乗りより大きな船は全てさっきの攻撃で炎上し、ほとんどの非常食さえ失っている。
いつもならイライラをぶつけるハイエナ族たちがいないので、ぶつける相手はゴリラ族たちである。
モンフオールが怒鳴る。「クソッタレモ!」
近くにいたゴリラ族を力いっぱい殴る。殴り殺すことにかわりはない。
ただ違うのは、殴り殺すと自分の手も痛いということだった。これでは、ストレスが発散できるどころか、手の痛みで更に増加する。モンフオールもさすがに痛みを感じる。
やはり、ハイエナ族の兵士たちがいないと不便だと思い始めた時、ハイエナ族の兵士たちが一隻のボートに乗って袋に小麦を入れて戻ってきたという連絡がある。
さっそくハイエナ族の兵士たちの持ってきた食料を取り上げ、モンフオールは食事をした後、生き残りのハイエナ族たちに会う。
モンフオールが言う。「話をしろモ。」
彼らは旗艦の最後のハイエナ族の兵士であるピエールたちだ。
ピエールたちは火のついた小麦の平原から逃れて、木のカカシが見張るある洞窟を見つた。彼らは木のカカシを倒して中にあった食料を持ち出し、近くに停めてあったボートで逃げたと説明する。
びくびくするハイエナ族の兵士たちにモンフオールが言う。
「よくやった。指示どおり小麦で袋をみたした事は褒めてやる。」
しかし、ほっとするハイエナ族たちの一人をモンフオールが殴り殺す。
「だが遅れてきた事は、許さん。」
モンフオールは、イライラを解消する為、ハイエナ族の兵士を全て殺そうとする。
再び最後のハイエナ族になり、死の危険が迫った時、ピエールがモンフオールに言う。
「洞窟には? パンとワインがありましたぜ。」
パンとワインという言葉にモンフオールの手が止まる。
|食べたい食事≪パンとワイン≫をとっていないモンフオールが暴力を止める。
「洞窟へ案内するモ。」
「ちゃんと洞窟に案内して洞窟にパンとワインがあったら、殺さないと約束して下さい。聖騎士として。」
「聖騎士として約束するモ。」
ピエールをモンフオールが殺しかねない表情で睨む。
この時、ピエールは無意識にお守りを握る。
モンフオールがピエールの握りしめているものを見ている事にピエールは気づく余裕は無かった。
(ここより、時間は小麦の平原からピエールたちが逃げる場面まで戻る。)
ピエールたちは、小麦の平原から時々現る木のカカシと木のカカシが一つなら戦い、いくつも場合は避けて進む。
小麦を渡された袋に入れなけば殺されるのだからまだ刈り取られていない場所を探すしかない。
そしてピエールたちは洞窟を見つける゙。
しかし、そこには熊人族のレーモンたちが見張りについていた。
ピエールはお守りを握りしめ、観相師の言葉を思い出す。
洞窟の食料が死の危険を避ける゙。
ここは、熊人族たちを奇襲してと考える゙が、こちらはハイエナ族の兵士がピエールを含め四人、対して熊人族たちは見えているだけで八人。
しかも、熊人族たちは武装して疲れていない。
夜中を待つかとピエールが考えていると、鍋を持ってロバ族の老人が現れる。ヨブである。
ヨブが大声でレーモンに言う。
「胸がとても痛いのじゃ。アレキサンドリアへ急いで戻ってくれまいかの。」
レーモンが聞く。
「そんなにも、胸が痛むのか?」
ヨブが鍋を置いて言う。
「ああ、今までで一番痛いのじゃ。」
レーモンが周囲を見て言う。
「しかし、速い舟は十人で漕ぐ必要があるが、そうするとここが無人になる。」
ヨブが胸を抑えて言う。
「木のカカシに任せればいいじゃろ。」
一つのため息をした後、レーモンは皆を集め、洞窟からヨブを連れて離れる゙。
余りにも出来すぎな話だった。
ピエールたちに少しでも普段の警戒心があれば、罠だと気がついただろう。
しかし、ピエールたちは追い詰められていた。どの道このままでは餓死するか、無謀な洞窟への奇襲しかない状況が、ピエールたちの考える゙力を奪っていた。
ピエールたちはレーモンたちが洞窟を離れてから時間をあけて洞窟にたどりつき、小麦を袋に詰め残されていたボートを漕いでモンフオールの旗艦に戻ったのだ。
もちろん、これは風音たちが遠くから監視して、ワザと木のカカシの数を変化させ、洞窟へ導いたのだ。
そして、洞窟近くまでピエールたちが着いた後、レーモンとヨブに演技をしてもらい、洞窟からレーモンたちを離す。
ピエールたちがボートで帰った後、レーモンとヨブたちが洞窟に現れる。
彼らは、ピエールたちがボートで離れる゙のを確認してから現れる。
レーモンがヨブを褒める゙。
「じいさん、名演技だった。」
憮然としてヨブが言う。
「あれは演技じゃない。本当にウソをついたので、胸がとても痛かったのじゃ。」
心が痛む時に、胸が痛むという表現がある。
つまり、ヨブは正直者なので、敵とはいえウソをついたことに胸が痛むと言ったのだ。
レーモンが言う。
「さすがだな。爺さん。さあ、敵を迎える準備を始めよう。」
レーモンたちが、モンフオールたちへの準備を開始する。
(ここから、ピエールたちが旗艦へ戻ったところに話が戻る。)
モンフオールはピエールの案内で、彼が見つけた洞窟につき、そこにあった小麦などの食料をゴリラ族たちに命令して船に乗せた。
もちろん、モンフオールは敵がいない事を確認すると、真っ先に洞窟へ向かい、中にあった酒を飲む。あとから来たゴリラ族たちもそれぞれに酒を飲み始める。
ゴリラ族の隊長の一人が言う。
「罠では?」
次の瞬間、その隊長はモンフオールに殴り殺される。
モンフオールが叫ぶ。
「俺は酒を飲む。食いたい物を食う。したい事をする。」
目的のパンとワインを見つけたモンフオールは、今まで我慢してきた事、つまりピエールが握りしめていたお守りに手を伸ばす。
ピエールが後ろへ逃げて言う。
「ちゃんと洞窟に案内し、洞窟には本当にパンとワインがあったのだから、殺さないという約束は守って下さい。」
「約束は守る。だから、それを見せろ!」
この時、お守りは決して開けてはいけないという注意をピエールは重要な事だと思わなかった。
お守りの袋が破かれ中身が見えた時、モンフオールはピエールを殴り殺していた。
お守りの中身はゴリラのぬいぐるみが長十字架に首が巻きつけられているものだった。
それはまるでモンフオールが長十字架で首をくくっているように見えた。
モンフオールは、ピエールとの約束など無かったように植樹を始める。
最近は食料が乏しく、酒を飲めなかった他のゴリラ族たちも、洞窟内の全ての酒を飲みほす。
ただ生き残りのゴリラ族たち七千人分はなく約半分が飲めなかった。飲めなかったゴリラ族たちは食料にかぶりつくしかなかった。
モンフオールが酒の酔いから覚めた時、洞窟とその周囲には、ゴリラ族たちのうめき声が溢れていた。洞窟内には、取りやすい場所には、無毒の酒と食料があり、その他には無味無臭の毒、酒にはメチルアルコール、食料にはヒ素が混ざっていた。
動かない者と動けないゴリラ族たちを残し、生き残った三千を船に乗せモンフオールはアレクサンドリアに向かう。
モンフオールは失敗に次ぐ失敗で怒りしかない。
何人かのゴリラ族を殴り殺しても、まだ怒りがおさまらず、怒り狂うままアレキサンドリアに向かう。
モンフオールが怒鳴る。
「異端者ども、ばらばらにして海に投げ込んでやるモ!」
モンフオールたちの船がアレクサンドリアの入り口に張られた鎖の網まできたのは、翌日の昼下がりだった。
どうも洞窟内の酒と食料には、大量の毒がいれられたものと、少しだけのものがあり、モンフオールの連れてきた三千人も何かの後遺症がでていた。モンフオール自身も少し手足に痺れがある。
上空からは次々とマサヒロたちが落とす火炎びんの降ってくる。
モンフオールが怒鳴る。
「進め!進め! 殺せ!」
湾の入り口にある両側の灯台のあたりからも投石が飛んでくる。次々と船が沈むがまだ半分が残っている。
鉄の網が引き千切られ、モンフオールがアレクサンドリアの湾内に入る。
ゴリラ族たちの雄叫びが上がる。
ゴリラ族たちが港に上陸する。
アレクサンドリアの町自体からも火炎びんが投げらる。
その中でモンフオールの前にノンが立つ。
ノンの周囲だけ大きな石も、火炎びんも落ちない。
ノンが叫ぶ。「猿は毛が三本足りないワン。」
モンフオールが怒鳴る。「殺すモ!」
モンフオールがノンを追いかける。
あと少しでノンに追い着くとモンフオールが思った時、彼の前に鉄の巨大なカカシが立ち上がる。
ノンを追いかけることに全ての注意が向き、前をモンフオールは見ていなかった。
ノンは鉄の巨大なカカシの横に立つ。
「猿の終わりワン。」
鉄の巨人は、ドブネズミ族の武器で作られた鉄のカカシだ。
城壁の上には、ナナ子とモモ子がいる。
ナナ子が鉄のカカシを立ち上げた。
立ちあがった鉄のカカシにモモ子が言う。
「我は求める。鉄のカカシよ、ゴリラを吊せ。」
藁とは違って動かす為にかなりの霊力がいるので、ナナ子とモモ子が力を合わせて動かす。
ゴリラ族たちはすでに千人もいない。しかも自分達より大きな鉄のカカシを見て、船へと逃げ出す。
モンフオールは怒り、鉄のカカシに斬りかかる。
「ガラクタ、どけ!」
モンフオールの大剣でも十メーターを越える鉄のカカシには効かない。激しい音をたてモンフオールの手が痺れる。
鉄のカカシが船用の鎖をモンフオールの首に巻く。
鉄のカカシがモンフオールを十字架に鎖で吊る。
その様子は、ピエールのお守りの中身に似ている。
ノンが言う。「お前がガラクタなのワン。」
アレクサンドリアの城壁の上にいるナナ子が、モモ子に言う。
「まるでゴーレムみたいコン。」
九尾レベルとなったモモ子は言う。
「最初から出すと何か考えるかもと心配したの。」
ナナ子が言う。「お姉さん、ありがとうコン。」
モモ子が言う。「ナナ子もありがとう。」
本当に率直にナナ子とモモ子は言う。
鉄のカカシは二人で力を合わせて動かした。
やっと姉妹はお互いに率直になれた。




