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55.小麦の平原

 ゴリラ族の最高指令官、モンフオールは三メートルを越える横幅もある巨体を怒りに震わせハイエナ族の報告した兵士を殴り殺していた。


 「どいつもこいつも役立たずのバカどもモ!」


 ここは、|正長十字軍≪シン・アルビジュア≫の旗艦にある会議場である。

 集まったゴリラ族の隊長たちはモンフオールの怒りが自分に落ちなかったことにほっとしていた。

 彼らは食料を積んでいた補給船を全て失い、更に比較的小さい船と乗っていた兵士たちを失っていた。

 海上でのノンたちによる第一次攻撃で、ゴリラ族たちは三千、ハイエナ族たちは六千を失い、補給船を全て失ったので食料は旗艦などにある非常食が一週間分しかない。

 彼らは基本的には泳げないので、乗っている船が沈めば、彼らも地獄へ沈む。

 ノンたちは、ゴリラ族たちと陸上での戦いをなるべく避け、出来るだけ海でゴリラ族とハイエナ族を削る事にした。

 現状で残ったハイエナ族たちは、各船の雑用係である。


 この現状にモンフオールが怒る理由は十分にある。

 しかし、人の上に立つ者が自分の怒りをそのまま部下にぶつけては人の上に立つ資格はない。

 モンフオールはいつも自分のストレスを自分よりも弱い者たちにぶつけ、その度に自分よりも上から注意されてきた。

 だから自分が一番上の国王になる為に、今回の|正長十字軍≪シン・アルビジュア≫を率いてアレクサンドリアに乗り込んだのだ。


 しかし、モンフオールは|ストレスを解消する為≪国王になる為≫に、いきなりストレスを抱える事になる。 



 補給船を失った日も夕食の時間はくる。

 恐る恐る一番弱いハイエナ族の兵士が、旗艦の非常用食料である普通の長パンとスープをモンフオールの前に出す。

 誰も、モンフオールに不味い食事を出したくない。

 出せばほぼ殴り殺されるのだから。

 しかし、他には出せる食料はない。

 その結果、一番弱いハイエナ族の兵士がその役割を押し付けられる。

 いつもは、補給船から届けられる外はカリッと中はしっとりした特別のパンと、高級なブドウ酒、追加でベーコンと煮た野菜を出す。

 さすがにモンフオールもこの食事が出る時は、ハイエナ族の兵士たちを殴らない。

 だが、今、ハイエナ族の兵士が出せるのは、非常食用の長パンとスープだけだ。


 いつもなら、モンフオールの前に特別のパンとワインが並べられ、モンフオールは特別のパンをワインに浸して食べる。

 これは、父親が生きている間は贅沢だと殴られた食べ方で、父親が死ぬまでは見つからないようにこっそりとやっていた。

 もちろん、父親が死んでからは堂々とパンをワインに浸して食べている。

 

 モンフオールが非常食用の長パンをちぎり、スープに浸して食べる。

 旗艦などの大型の船には常に非常食があるが、非常食は不味い。それを出したのである。

 中小の船の中には、非常食がない船さえある。


 「不味いモ!」

 モンフオールが怒鳴り、最初のハイエナ族の兵士が殴られ即死する。

 不味いと言っても空腹なので全てを食べている。

 不味いが、まだ空腹感がある。身長も横幅もあるモンフオールは、普段から他のゴリラ族(大食い)の三倍も食べる。


 「まだ、足りないモ!」

 モンフオールが怒鳴り、次に弱いハイエナ族の兵士が非常食の長パンとスープを持ってくる。

 次々と雑用係のハイエナ族の兵士が殴り殺される。

 「ムダ飯食いが減るモ。」

 殴り殺して食糧が増える訳ではないが、食べる人数は減る。



 最後のハイエナ族のピエールが何とか生き残りたいと思った時、港でのある出来事を思い出す。



 それは、ピエールが出港前の慌ただしい準備で町中を歩いていた時の出来事だ。

 ピエールが突然声をかけられのだ。

 「そこのハイエナ族のイケメン、死相がでてるよ。」

 思わず立ち止まり、周囲を見る。


 「あんただよ。死相が出ているのは。」

 ピエールがムッとして声をかけた相手を見る。

 剣犬流観相師という説明書きと猫人族の女がそこにいる。

 確かに戦場に向かうが、自分たちは最強の大軍なのだから、自分に死相など考えられない。

 ピエールは当然文句を言う。

 「おい、おい、観相師ってのは詐欺師の事なのか?」

 観相師が憮然とした表情で言う。

 「観相師は、面相、容姿、所作などを総合して分析する心理カウンセラーだ。その辺りの占いと一緒にするな。」

 「金は払わないからな。」

 「ああ、もちろん今はタダだ。だが、もし本当に死の危険が迫ってきたら、それを回避する情報を教えよう。」

 「ああ?回避する情報だと?」

 「もちろん、もし本当に死にそうになり、その情報で回避できたら金貨一枚貰うよ。」

 「ただなんだよな。」


 何となくピエールはその話をきく

 「小麦のなる平原が、お前たちの行く目的地までの中間にある。この情報を上手く使って死を回避するのじゃ。」

 「全く分からないぞ。」

 「まだ、残りの話がある。それは洞窟の食料じゃ。」

 

 全く理解できなかったが、お代はタダと言っているので、そのまま観相師のところから去ろうとすると自称観相師が、

 「ちょっと待て。まだ渡すお守りがある。」

 そう言うと小袋をピエールに渡す。

 そして、観相師は最後に一言言う。

 「本当に死にそうになり、情報を上手く使って助かったら、後から金貨一枚をもらう」

 金貨一枚とはバカ高い金額だが、当たるとは思っていないピエールはお守りもこの出来事もすっかり忘れていた。

 最後に観相師はピエールの背中に言う。

 「そのお守りを決して開けてはいけないよ。

 開ければお前さんに死が訪れるよ。」


(これは、風音が変装して意図的に情報を渡しているので、本物の観相師は、確率による分析と予想はしても、予言はしない。)


 この事をピエールは突然、思い出す。

 

 ピエールはモンフオールに小麦の平原について話をする。

 ピエールは、アレクサンドリアに行く前に、小麦の平原に行くべきだと話す。 

 とにかくピエールは生き残る為に話を想像で膨らませる。

 その平原はアレキサンドリアの食料を賄う農地であり、今、その平原に行けばアレキサンドリアが収穫予定の小麦を手にすることができると。


 ピエールは確かめた訳ではないが、このまま殺されるよりましだと考えて話す。


 ピエールが言う。

 「敵の食料を奪い、我らは食料を得ます。」

 モンフオールは言う。

 「もし、袋に小麦を入れずに戻ったら殺す。」

 ピエールが頭を下げる。

 「御意!」




 早速、モンフオールは隊長たちを集め、小麦のある平原へ出撃する事が決まる。

 モンフオールが宣言する。

 「いかなる理由があろうとわしの言葉は絶対だ。」

 この言葉を言いたい為にモンフオールは国王に成ろうとしている。

 モンフオールは集まったゴリラ族の隊長たちにピエールが説明する。

 

 今、小麦が収穫可能な場所はアレクサンドリアから少し離れた小麦の平原だとピエールはゴリラ族の隊長たちに説明する。

 

 ピエールが言う。

 「ここから小麦を刈り取り、火を放てばアレクサンドリアは餓えに苦しみます。」


 それを聞いたモンフオールは、アレキサンドリアが餓えに苦しむのを見ながら自分がたっぷり食事ができることを想像する。


 「奴等が餓えで苦しむのを見るか・・・」

 モンフオールが嗤い、他の隊長たちも嗤う。



 ただちに小麦の平原へハイエナ族の兵士たち全てが船団を組み向かう。ハイエナ族の兵士たちにとってモンフオールの近くにいれば殴り殺されるので、彼らは一秒でもはやく離れたかった。


 ハイエナ族の兵士たち四千人が、小麦の平原に着いた時、小麦の平原には、木でできたカカシたちが鎌や棍棒を持って立っていた。


 ハイエナ族の兵士たちがビクビクしながら近づく。

 ハイエナ族の兵士たちがカカシたちが動かないことを確認する。

 「脅かしやがってこの野郎。」

 ハイエナ族の一人が剣で斬りつける。

 カカシの腕が壊れて落ちる。それでも全く動かない。

 「全く邪魔だぜ。」

 ハイエナ族たちはカカシたちを無視して通る。

 


 ただ、ハイエナ族の兵士たちが近づくとすでに平原のうち海に近い場所は刈り取りが終わっていた。

 このまま帰れば殺される。彼らは海岸から離れた場所にいくしかない。

 ハイエナ族の兵士たちは、カカシたちをそのままに平原の奥へと走りだす。


 ワー。(一斉にハイエナ族たちが叫ぶ。)


 ハイエナ族の兵士たちは、自分たちが持っている袋に小麦を満たさない場合、海に突き落とすとゴリラ族たちの隊長に命令されている。

 小麦の平原ですでに刈り取りが行われているなら、ハイエナ族たちの袋は全員分足りないかもしれない。

 「なんだ、これは。」

 「小麦がないぞ。」

 彼らが平原の奥へ走り、そこで見たものは既に小麦が刈り取らた穂だけだった。

 遠くから見ると見分けがつきにくい。

 しかし、すでに小麦の平原は刈り取られた後だった。ハイエナ族たちは小麦を探す。



 ハイエナ族たちが奥まで入った様子を飛行船から見ている天狐族のナナ子とモモ子がお互いを見て頷く。ナナ子が言う。

 「まさか二人が共に九尾になるなんてコン。」

 モモ子も言う。普通は最高レベルの九尾には、

 高家の後継者しかなれない。しかし、性愛術(タントラ)を将頼と行ったモモ子も九尾になる。

 ナナ子が言う。「二人で協力しましょうコン。」

 モモ子も言う。「もちろん。」

 高家の姉妹は今までほとんどがライバルであり、一人が後継者に決まれば、もう一人は高家を出ていき、二度と会うはなかった。

 しかし、ナナ子とモモ子は今、力を合わせている。

 もともとこの小麦の平原の刈り取り後に、まだ港にいたハイエナ族たちに、風音などにこの平原の話を流したのは、ノンたちの作戦だ。


 ナナ子が言う。

 「さあ、始めるコン。」

 モモ子が頷き、呪文を唱え始める。

 ナナ子は宝炎剣で平原の周囲に火を放つ。


 小麦の平原で木のカカシが動きだし、ハイエナ族の兵士たちに鎌や棍棒で襲いかかる。

 小麦の平原に火が回り、彼らが逃げようとする。

 逃げようとする彼らに木のカカシたちが襲いかかる。

 

 もちろんカカシたちをすり抜け、船にたどりつくハイエナ族の兵士たちもいる。

 

 しかし、袋の中が空なので、船にいるゴリラ族たちはハイエナ族たちを殴り殺す。

 「小麦はなかった。」「乗せてくれ。」

 ハイエナ族の兵士の生き残りたちが叫ぶ。

 しかし、いかなる状況であろうと、モンフオールの命令に従わなければ、自分が殴り殺される。ゴリラ族たちはハイエナ族の兵士たちを殴り殺す。

 小麦の平原からハイエナ族の兵士たちはその日一人も|正長十字軍≪シン・アルビジュア≫に戻らなかった。

 ゴリラ族たちだけを乗せた船団が夕日と共にモンフオールのいる旗艦の元へと向かう。



 ゴリラ族たちはモンフォールに袋を小麦で満たさない者は殺せと言われている。ハイエナ族たちの言い訳を聞くことはない。

 日没までにハイエナ族の兵士たちのほとんどが焼死するか、カカシに殺されるか、ゴリラ族たちに殺される。


 小麦の平原が燃え、ハイエナ族の兵士が一人も小麦の持ち返らないと報告したゴリラ族の隊長は、モンフオールに殴り殺された。

 モンフオールは怒鳴る。

 「気に入らない報告をするやつは殺すモ。」


 自分のストレスを他人にぶつけるモンフオールは自分で自分の軍を壊し始めている。


 


 

 

 

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