54.火柱のあがる海
アレクサンドリアは、|長十字闇軍≪アルビジュア≫の残務整理(死体埋葬)などで忙しかった。更に再度の侵攻に備え、志願兵の訓練も始まる。
そのような状況ではあるが、ナナ子は体が昨日の夜にノンとの性愛術を思いだして熱かった。
その時、ノンにはヤスベエの意識が現れた状況でナナ子に抱きつきナナ子の口と秘所をノンの口とムスコでふさぎ始める。
ヤスベエとなったノンが言う。「やっと一つになれた。」
ナナ子も途中からタマオノマエの意識が現れ激しく愛し合う。
タマオノマエとなったナナ子も言う。「今度こそ幸せに。」
二人の夜は激しく深い。
朝日が差し込む。ナナ子ははっきり思う。
天の下には女が半分いるのに、闇ミトラ教会も従教(女は男に従う教え)も女性を押さえつけている。
しかし、彼らが本当に隠したかった事は、人間の可能性だとナナ子ははっきりわかる。
女性の性が本当に開放された時、男も女も本来の霊力が復活する。それを彼らは恐れ、抑えつけようとした。
ナナ子は自らのレベルが九尾(天狐族としては最高)になり、その事を実感する。
特に昨夜は、ナナ子が気にしているペッタンコの胸について勇気を振り絞りノンに聞いたのだ。
「姉のモモ子のような豊乳がいいのかコン?」
ノンの答えによって、手術で胸にシリコンを入れる覚悟をナナ子はしていた。
ノンはナナ子の目を見て言う。
「大事な事は、|ついている物≪豊乳≫じゃなくて、誰についているかだワン!」
今まで気にしていた事がバカらしい。
そんな気分で昨日はもえた。
ノンはベットの横で特に丁寧にストレッチをしていた。
ノンのストレッチは床に手と足をつけ、背中を伸ばして息を吐く姿勢から始まる。
ノンは昨日のナナ子との会話で、とりあえず模範解答を出したと考えている。
ノンだって前世の若い頃、一度は恋愛術を勉強して挑戦した事があったのである。
ただ、結果は完敗だった。
見てくれで判断する女性は一瞥もなく、収入で判断する女性とはそもそも会話にならず、結局、前世では独身のままだった。
でも、勉強は裏切らない。
こうして模範解答を出せたのだから。
ナナ子がノンを見ているとノンがナナ子を見てニコッと微笑む。
ナナ子も微笑む。力が体全体をめぐる感じだ。
(よし、これでモモ子には負けないコン。)
心の中で気合いを入れるナナ子だ。
そこへ扉をノックする音がする。ノンとナナ子は二人の空間から戦場へと意識を戻す。
会議場には、アレクサンドリアの女学長兼臨時代表のヒュパテアとユダがいる。その横にはアレクサンドリアの防衛に援軍として到着したアラゴン王ペドロがいる。
ペドロ自身は神族であるが、率いる兵士はピレニアン犬族・マスティフ犬人族など犬人族六千である。
ペドロが言う。
「イエシユアを悪用する人殺しを許すわけには、いかない。」
アレクサンドリアの志願兵二千を会わせれば、守備ではかなり有利になった。
そこへ闇ミトラ教会のゴリラ族たちの情報を探っていた風音が現れる。
風音が言う。「正長十字軍は、本隊一万、補給部隊一万、合計二万と発表カン。」
本隊一万は、ゴリラ族たちだと考えられる。ゴリラ族は、一人で三名の犬人族の兵士を相手にする。
つまり、ゴリラ族の兵力を三倍として見積もると、約四万の兵力になる。
その上、補給部隊を前回同様に城壁までの死人道に使うのであればかなり苦戦が予想される。
一般的には攻城側は守備側の三倍の兵力が必要とされる。
それでも、ノンたちの兵力を合わせても一万には届かない。
将頼が基本的な質問をする。
「何故、名前にシンが付くのですか二?」
風音が答える゙。
「彼らは、|正規軍≪ゴリラ族≫を中心とした|神軍≪シングン≫という意味を追加したそうカン。」
かなり雰囲気が重い。
雰囲気を変えようにサラがさらっと言う。
「それは、今までと同じように死を運ぶ死ン゙・アルビジュアという事ニャン。」
かなり苦しい語呂合わせだが、アルビジュアには死のイメージがピッタリではある。
少しはサラの語呂合わせで会議にあった重い気分が変わる。
ユダがヒュパテアを見る。
ヒュパテアはノンを見る。
ノンがヒユパテアを見て言う。
「まず作戦を考えようワン。」
まず、現実を分析して、実現可能な作戦を考える゙事をノンは提案する。
実は昨日、獅子族の将頼からノンに、今日の会議で作戦を検討するようにお願いされていたのだ。
将頼は、このままモモ子と上手くいくと、義理の兄になる可能性が高い。
ノンとしても、今後の事を考え、是非義兄候補にはガンバッテもらう必要がある。
そして、圧倒的な敵に対し、どのような作戦にすればいいかノンには???である。
でも、ノンは愛嬌で雰囲気を明るくする。
正長十字軍の派遣発表から2ヶ月、大型蒸気船の上に、今回の最高指令官であるゴリラ族のシモン・モンフオールが一万人のゴリラ族たちとその支援部隊のハイエナ族たち一万人を乗せた六十隻を越える大小様々な船を見ている。
モンフオールがイエシユアが磔になった像の長十字架の前で祈祷する。
身長が三メートルを超え、横幅もあるモンフオールは、まるで一つの建物のようだ。
「私達は人殺しの罪を心ならずも犯しました。
私達は説得したのです。しかし、彼らは聞きませんでした。どうか私達の罪を許し、罪を引き取ってください。
慈悲深き神よ。」
全く感情がこもらない|棒読み暗記文≪祈祷≫をモンフオールは終える。
何故、モンフオールは棒読み暗記文を詰まらず終えられたのか?
それは、モンフオールが神学校出身の聖騎士だからである。
モンフオールの家は、代々騎士の家で、彼も王立士官学校を受けたのだが、落ちる゙。
仕方なく神学校に入学して、修道士兼騎士である聖騎士になる。
モンフオールは、いつもストレスの溜まる人生を送ることになるが、それが他人から見ても明白になるのはこの時からである。
モンフオールは、小さい頃から、暴力的な父親から何かにつけ、暴行を受ける。
この王立士官学校の不合格通知がモンフオールの父親に知らされた時、モンフオールの人生を決定的に歪めるでき事が起きる。
モンフオール自身も、受験の二次試験(筆記・専門)が上手く回答できなかった事は分かっていた。
ただ、とにかく一次試験(筆記・基礎)は突破したので僅かな可能性を期待していた。
しかし、結局、モンフオールは二次試験を突破出来なかった。
父親がイラつきながらモンフオールを殴る。
「なんでお前はバカなんだ!」
モンフオールは殴られても倒れずに思う。
(親がバカだから!)
口にこそ出さないが、その感情が表情に出たのだろう。
「親がバカだからとでも思っているツラだな。」
また、モンフオールは殴られた。
その日以後、モンフオールはバカだと殴られ、バカにされる。
一般的に言えば、モンフオールはバカではない。
比較対象が上流貴族の子弟で何人もの家庭教師を雇う家庭環境と、やっとかけ持ちする家庭教師を一人雇うだけの騎士の家庭環境では、最初から違い過ぎる゙のだ。
しかし、その事自体を認めたくない父親は、全てをモンフオールがバカだという事にしてしまう。
後は、暴力による八つ当たりで、事ある毎にモンフオールは暴力の対象になる。
だから、行動の基準が暴力になる。
しかも、父親がそうであるように、自分の気に入らない事があれば、周囲に暴力で当たり散らす。
モンフオールの人生は、自分の気に入らない事だらけの世の中で、ストレスを弱い者にぶつけるイジメっ子の人生だ。
それでも、自分より立場が上の貴族たちからは様々なストレスを押し付けられた。
もうモンフオールは上の貴族たちからストレスを押し付けられる゙事にウンザリしている。
だから自分の王国を作り、自分が王様になる野望を実現する為に|正長十字軍≪シン・アルビジュア≫の最高司令官になったのだ。
モンフオールが甲板に集まった隊長たちに向き言う。
「我らは、あの土地から異端派とその悪臭を一掃し、我らが治める王国とするのだモ。」
ゴリラ族たちの隊長が彼らの歌を歌いだす。
『我らは、男からも女からも金を奪う。
全てを剣にかけ、地には血と脳ミソと肉体のかけらをばらまく。
生き残る者はいない。全ては我らのものだ。』
モンフオールが気分よく歌を聞いていると、先頭の船に火柱が上がる。次々と他の船にも火柱が上がる。
海でも火柱が上がる。
モンフオールが海を見るとそこに、カメに擬装した火薬樽が浮遊していることに気がつく。
モンフオールが叫ぶ。
「海に浮かぶカメは、火薬樽モ。槍で沈めろモ!」
ゴリラ族たちとハイエナ族たちが海に浮かぶカメに偽装している火薬樽を探して海面を一斉に見る。
彼らがカメに偽装した火薬樽に注意を向けている時、今度は船団の後方を進んでいた補給船から次々と爆発が起き、補給船が火に包まれる。
ゴリラ族たちとハイエナ族たちの視線が海面に集まった時、離れた飛行船から出撃した霊獅子たちが空から火薬樽を補給船に投げつけたのだ。
火薬樽には発火薬が混ぜてあり、霊獅子たちがかなり上空から急降下して船にぶつけるだけで爆発した。
霊獅子を率いる将頼が叫ぶ。
「神を語るウソつきにふさわしい。」
激怒したモンフオールが叫ぶ。
「霊獅子を殺せモ!」
しかし、カラス族たちが尻込みして言う。
「霊獅子たちの方が強いラス。」
モンフオールが何人かのカラス族たちを叩き潰す。
「ここで羽根布団の材料になるか、集団で戦うか選べモ!」
将頼たちと向かい、カラス族たちが飛ぶ。
カラス族たちがマサヒロたちに叫ぶ。
「俺たちの食い扶持と免罪を邪魔するなラス!」
しかし、マサヒロたちの前でカラス族たちがもがき始める。
サラが叫ぶ。
「海で塩水をあさるのが似合いニャン。」
カラス族たちが霞網にかかったのである。マサヒロたちは重石をつけ、カラス族たちが集まっているところを海に霞網ごと落とす。
カラス族たちが海に落ち、船が次々と後ろから燃える。海に逃れるゴリラ族たちとハイエナ族たちは重い防具と共に溺れる。




