52.凶信者
大司教であるゴリラ族の|求利損理≪キュリロスリ≫は簡易祭壇の長十字架に対し祈っている。
長十字架には|あの御方≪イエシユア≫が、簡易祭壇とはいえ磔になっている。
「私達は、人殺しの罪を心ならずも犯しました。
私達は説得したのです。しかし、彼らは聞きませんでした。どうか私達の罪を許し罪を引き取ってください。慈悲深き神よ。」
祈祷の文なので、|求利損理≪キュリロスリ≫も訛らない。
|求利損理≪キュリロスリ≫が簡易祭壇に頭を下げる。
彼にとっては、何万回も繰り返す暗記した内容だ。
人殺しを罪とも、説得せずに殺した事も意識さえしていない。既に彼にとっては、祈祷は長いお題目でしかない。
そして頭をあげ、兵士たちに向い叫ぶ。
「我らの罪を神は許した。
今こそ、汚れし女が治める腐敗の町を破壊する時だゴ!」
宝石と金の飾りでごてごての衣装を着て鉄兜を被った|求利損理≪キュリロスリ≫が目の前にいる兵士たちに叫んだ。
|求利損理≪キュリロスリ≫の前には、ゴリラ族たちの重装備兵、六百、ドブネズミ族たち千がいる。
(昨日の攻撃失敗で逃げようとしたドブネズミ族たちを始末して、結局逃げ遅れた兵士たちが千人とその混乱の中、生き残ったゴリラ族たちだ。)
まだ、燻っている死体で作られた道をドブネズミ族たちは再び登る。
後からゴリラ族たちが重装歩兵陣を組んでドブネズミ族たちを追い立てる。
重装歩兵陣とは、大盾を持った兵士たちが外に対し大盾を構え、中の兵士たちは頭上に大盾を構えてまるで亀の甲羅のように前後左右と上が大盾で囲う陣である。その持つ槍は二メートルであり、まるで針ネズミのように見える。
もちろん、中の兵士たちは、大盾の隙間から槍を突きだして接近する敵を倒す。
しかも中の兵士たちは怪力の重装備のゴリラ族である。彼らはマントの下を鉄の鎖で覆い、頭は鉄兜で守っている。彼らの怪力は獅子族と対抗できるほどである。
アレクサンドリアの会議場で連絡を受けたヒュパテアが言う。
「火責めと投石を開始しなさい。」
連絡を受けた兵士たちが、城壁の上から火炎びんを投げる。
前にいるドブネズミ族たちは、防ぐこともできずに死体になる。
ゴリラ族たちにも火炎びんは当たるが、火の付いたゴリラ族たちは、重装歩兵陣から離れ、転げ回って火を消す。
投石された大きな石が直撃されたゴリラ族は倒れるが、倒れたゴリラ族を重装歩兵陣から外される。
ドブネズミ族たちがほぼ消滅した連絡を受けたヒュパテアが言う。
「杭を突きだしなさい。」
城壁の上に木の杭が現れ、重装歩兵陣へ向け先が尖った木の杭を突きだす。
木の根元には取っ手があり、獅子族たちが握っているだけでなく、杭の両側には輪が付いている。
しかし、ゴリラ族たちの集団の力は木の杭を押している。
火炎びんが次々と投げ、投石が激しくなるが、それでも重装歩兵陣が木の杭を大盾で押して木の杭が軋む。
城壁の上にはナナ子とモモ子がいる。
ナナ子も前回に引き続き火球をゴリラ族たちに投げつける。
「今度こそ、お姉様に勝つコン。」
横にいるモモ子も火球を投げる。
「こっちこそ、姉の意地を見せてあげるわ。」
ナナ子が叫ぶ。「私の思いが負けるわけないコン!」
モモ子も叫ぶ。「私の思いだって負けないわ!」
前回は二人とも同時に火球を飛ばせなくなって勝負がつかなかった。
ガオー!
ゴリラ族たちが叫ぶ。
ゴリラ族たちの叫びを聞いたヒュパテアが叫ぶ。
「|霊獅子≪グリフォン≫たちの空からの攻撃を!」
連絡を受けた獅子族のマサヒロが率いた|霊獅子≪グリフォン≫たちが杭を他の兵士に任せて飛びたつ。
「奴等は凶信者だ、地獄へ返すぞ!」
凶信者とは、心は宗教ジャンキー、体は麻薬を使った薬ジャンキーのことだ。
つまり、死の恐怖も体の痛みも感じない最凶兵士のことだ。彼らは殺すか、生理的に動けなくするしかない。
すぐに飛行能力を持つ霊獅子たちが、五メートルの槍を持って重装歩兵陣を突き刺す。
ゴリラ族たちの槍より長い槍で大盾の隙間に獅子族たちが突きさす。
|霊獅子≪グリフォン≫たちは、空中から落下するスピードで槍を刺し、すぐ離脱する際に火炎びんを投げつける。
それでもゴリラ族たちは、木の杭を軋ませる。
何本かの木の杭が大きな音をたて折れる。
城壁から五メートルの槍を犬人族たちから突きだしてゴリラ族たちを押す。
ゴリラ族たちは、仲間の体に槍が突き刺さったまま前進する。
残っていた木の杭が軋み、折れる。
あわや防ぎが破られそうなところで、ノンが現れる。
「唐辛子をプレゼントだワン!」
ゴリラ族たちが重装歩兵陣で前進するかと思えたその時、唐辛子でゴリラ族たちが混乱する。
ただちに城壁にいた兵士たちは、マスクをつける。あたりには唐辛子の粉末が漂う。
ノンが唐辛子の粉末玊を|重装歩兵陣≪ファランクス≫のスキマに投げたのである。
凶信者であっても、目と鼻は鍛えようがないし、生理的反応はする。
重装備歩兵陣の内部といっても空気が通り、唐辛子の粉がゴリラ族たちに混乱を引き起こす。
大盾にすきまが大きく空き、獅子族たちが倒していく。
|求利損理≪キュリロスリ≫は、ゴリラ族たちの重装歩兵陣か混乱しているのを見て、簡易祭壇をそのままに護衛のゴリラ族たちと逃げようとする。
そこ熊人族のレーモンたちが現れる。レーモンたちベチエの生き残りは百名、ゴリラ族たちの護衛は十名である。
レーモンたちが護衛たちに火炎びんを次々に投げつける。
火だるまになり転げるゴリラ族たちに鉄の網も投げかける。転げ回るゴリラ族たちは網に絡まり、更に火炎びんで焼かれる。
周囲のゴリラ族たちが倒されて、一人残った|求利損理≪キュリロスリ≫の前にレーモンが立つ。
レーモンたちを見て|求利損理≪キュリロスリ≫が言う。
「わしを逃がせば大金をやる。罪も問わない。どうだ?」
レーモンは答えずに|求利損理≪キュリロスリ≫にいきなり斬りかかる。
|求利損理≪キュリロスリ≫がいきなり斬りつけた事に抗議する。
「いきなり斬りつけるとは非道いゴ!」
「その言葉は、俺の殺された家族に言え!」
何もしていないベチエの人々は、抗議さえ認めれずに殺された。
交渉は無理と判断した|求利損理≪キュリロスリ≫は、レーモンたちのいる方向とは逆の方向へ逃げようとする。
しかし、そこにはノンがいる。
|求利損理≪キュリロスリ≫が命乞いをする。
「助けてくれ、この通り降伏する。」
|求利損理≪キュリロスリ≫は、降伏する振りをして、剣を抜く。
最初から信じていないノンは必殺の兜割りで|求利損理≪キュリロスリ≫の頭を鉄兜ごと割る。
|求利損理<キュリロスリ≫が倒れる。
ノンはが剣をおさめ言う。
「信じる者は救われないワン。
知る者だけが未来を手にするワン。」
ノンが前世での記憶から得た教訓だった。




