51.モモ子と将頼
アレクサンドリアを包囲しているドブネズミ族たちの前に太った猫人族たちの商人が現れてから一週間がたつ。彼らが現れた時、ドブネズミ族たちは暇をもてあましていた。
最初に商人たちが現れた時は、ドフネズミ族たちはギラギラした目で商人たちと火のつくほどアルコール度数が高い酒を積んだ馬車を睨み、今にも襲い掛かりそうだった。
しかし、今日のドブネズミ族たちは、ほとんどが空腹でよろよろ歩いている。
そして、商人たちの前にヨタヨタとドブネズミ族たちが銀貨とパンを持って並んでいる。
銀貨とパンを渡すと一杯の酒を商人から受けとる。
そのパンは、そのまま馬車の裏側ㇸと渡り、そこで商人たちはゴリラ族たちに売り渡す。
最初の日、商人たちはドブネズミ族たちのそれぞれの隊長であるゴリラ族たちに、金貨を渡して商売の許可を得た。
ドフネズミ族たちは百人単位で部隊が編成され、各部隊毎にゴリラ族の隊長と副隊長がついている。
最初は、酒一杯で銀貨一枚、ドブネズミ族たちの日当で夕方から飲ませていた。
しかし、何ヵ所かに分散していたにも関わらず、酒をドブネズミ族たちのほぼ全員が飲むまでに夜中になってしまった。
商人たちの横では、十人に銀貨一枚の割合で賄賂を受けとるゴリラ族たちは、次の日からは酒の販売を昼過ぎから始めて自分たちも夕方から飲み始める。
この日からゴリラ族たちの飲み分を値上げしてドフネズミ族たちからパンを取りあげる事になる。
更に次の日には、日当と食事(固いパン)を渡すテントの横に、商人たちの馬車を並べて、日当を昼過ぎに渡し、ドブネズミ族たちは昼過ぎから酒を飲み始める。
食事をとらないドブネズミ族たちはどんどんやせてく。
それでもゴリラ族の隊長、副隊長は気にしない。
猫人族に変装している商人のリーダーがゴリラ族のある隊長に聞く。
「これでは戦えないのではニ?」
(商人のリーダーは、マサヒロの弟、獅子属の将頼が着ぐるみで変装している。)
ゴリラ族の隊長が言う。
「どうせ死人道をつくる為の歩く石だから、骨だけの方がいい。」
ゴリラ族たちは、アレクサンドリアの城壁に、ドブネズミ族たちの死体を積んで道にする予定だと説明する。
つまりアレクサンドリアで一番城壁が低い西側からドブネズミ族たちが攻め、彼らが死体となり、死体が山積みになって城壁に届く道を作る死人道作戦だ。
更にゴリラ族の隊長が言う。
「まあ、五千人ぐらいの死体で西の城壁ㇸの足場には足りる。」
思わず将頼が聞く。
「それでは、攻める兵士が不足するのでは?」
「大丈夫。まだ八千は残る。」
ドブネズミ族たちは総勢 一万三千人。
将頼は必要な情報を手に入れた。
死人道作戦を聞いた将頼は、その日の夕方、モモ子がいるテントに入る。
テントの中では、既にモモ子がマントが脱いで下着だけでいる。テントの外にはゴリラ族の密偵がいる。
将頼がテーブルに水で文字を書く。
『ネ・ズ・ミ・の・死・体・で・西・に・死・人・道・を・作・る』
将頼がテーブルに文字を書いている間、モモ子が将頼に近づく。
「ねえ、身体がうずくの。」
「どうしたら、いいニ?」
二人はお互いに見つめる。
もちろん、モモ子も|悪意成≪アクィナス≫たちから聞いた話をテーブルに文字を書いて内容を伝える。
その結果、死人道は、後から合流するゴリラ族、千名が使い、これが|悪意成≪アクィナス≫たちの主力である事が判明する。
モモ子が身体を将頼に預ける。
話を聞いている密偵はテントから離れる゙。
将頼がモモ子の耳元で言う。
「密偵は離れたニ。」
モモ子が将頼の目を見つめる。
「恥をかかせないで。」
「本気かニ?」
「本気よ。」
思わず、顔を見合わせるモモ子と将頼は、そのままキスをする。
将頼たちが火のつく酒を売り始めて数日後の夜、モモ子のいる踊り子一座が、いつものように|悪意成≪アクイナス≫と|有魔理屈≪アルマリクツ≫のいるテントにやってくる。
このところ毎日である。ただ今日は|悪意成≪アクイナス≫の横にいつもはいないゴリラ族の男がいた。
モモ子がいつものようにマントを脱ぎ裸に近い姿をみせる。
モモ子は、毎日どんどん布地を少なくしていた。だから今日隠しているのは、乳首と秘所だけである。もうこれ以上少なくするのは限界なので最後にすることは、将頼に伝えてある。モモ子が踊る前に聞く。
「そちらの方は?」
|悪意成≪アクイナス≫が言う。
「求利損理≪キュリロスリ≫大司教だ。お前の事を話たら、えらく気になったらしい。」
|悪意成≪アクイナス≫の隣にいたゴリラ族の|求利損理キュリロスリ≫大司教がモモ子の体を舐め回すように見て言う。
「あのヒュパテアという女は、瓦で手足を切り落とし、火で焼かれるべき者ゴ。だが、お前はわしの愛人が相応しいゴ。」
モモ子が|求利損理≪キュリロスリ≫の目を見る。モモ子はそこに狂ってた赤い目を見る。
|求利損理≪キュリロスリ≫が言う。
「愛人にならないなら、お前もバラバラにするゴ。」
|求利損理≪キュリロスリ≫は劣等感の塊である。だから、自分よりも知恵と人気のある女学長を嫉妬していた。
そしてモモ子を見てヒュパテアと同じようにモモ子に嫉妬する。
モモ子が警戒しつつ言う。
「私をどうすると?」
|求利損理≪キュリロスリ≫が叫ぶ。
「わしの愛人にならなければ、お前もバラバラになってもらうゴ。」
|求利損理≪キュリロスリ≫はとにかくヒュパテアに似ている美人で豊乳な女を自分のものにするか、そうならないなら破壊したい。
モモ子が|悪意成≪アクイナス≫を見ると|悪意成≪アクイナス≫が言う。
「いいものを見せて貰って悪いが終わりだ。」
ゴリラ族たちが周囲をかためる。
|有魔理屈≪アルマリクツ≫が言う。
「男を狂わせる美貌と体をうらめ。」
モモ子がナイフを構え、従者になっていた天狐族の将持(マサモチ、風音の息子)と桑(クワ、風音の娘)も剣を抜き、煙玉をそれぞれ地面に投げつける。
モモ子が言う。「悪いけど素敵な彼が待ってるの。」
あたりが煙に覆われ、|求利損理≪キュリロスリ≫が怒鳴る。
「異端の輩を逃がすなゴ!」
モモ子たちが空から言う。
「天狐とは、空を歩く者。天に逃げるわ。」
モモ子たちは、空へと逃げる。
次の瞬間、あちこちで爆発音と共に火の手があがる。
将頼たちが馬車の酒に火を付けたのである。
将頼たちは、モモ子たちが合図をすれば、ドブネズミ族たちの食料があるテントを燃やす手はずだった。
将頼たちが、火のつきやすい酒を危険であるにも、関わらず売っていた理由は、この逃亡時に|長十字軍≪アルビジュア≫に被害と混乱を与える為だ。
将頼たちも、変装を棄て|霊獅子≪グリフォン≫となって空に待機していた飛行船へ稼いだ金銭を運ぶ。
既に将頼たちは|霊獅子≪グリフォン≫となる為、ノンと共に水晶宮にいっていた。
飛行船では、猫人族の変装で全体的に太った姿だった将頼が、変装を脱いですっきりとしている。
モモ子が思わず見とれてしまうが、モモ子は自分が恥ずかしい姿をしている事に気づく。
モモ子が将頼に近づき言う。
「恥ずかしいから、見つめないで。」
モモ子は、高家を出てからだれか自分に相応しい相手を捜していた。(高家ではナナ子が後継者に決まり、ノンが婿養子となり、モモ子は出ていく。)
ナナ子が見つけたのに自分が見つからないはずがない。しかし、なかなかカッコいい相手が居なかった。
ナナ子と違って容姿も重要な要件だ。
そこへマサヒロの弟である将頼が現れ、今回の踊り子潜入の話を持ってきた。
踊り子として商人たちに変装した将頼たちと共にノンたちがアレキサンドリアに到着するまでの間、|悪意成≪アクィナス≫たちの動向を探る任務だ。
この作戦のリーダーである将頼は、獅子族でイケメンである。コーギー犬族のノンよりずっとかっこいい。だからモモ子にとっては、これは婚活だった。
将頼は、モモ子のほぼ全裸に近い豊乳と肢体に目を奪わる。将頼は純情であり、今までは敵地での任務だったので我慢していたが、ひとまず安全な環境なので、モモ子にプロポーズする。
「僕と結婚して下さい二。」
やったと思ったナナ子が恥ずかしながら言う。
「はい。」
将頼がモモ子に抱きつく。
ノンたちと武器を載せた飛行船が七隻、アレクサンドリアに到着し、順番に兵士と武器を下ろす。
最後の飛行船からノンが降りると歓声が沸き起こる。
神族のヒュパテアが言う。
「よくぞ来てくれました。」
ヒュパテアがノンの手を握る。
「希望は、これから手にするワン!」
飛行船が離陸して十分離れるまで|悪意成≪アクイナス≫たちは待っている。
ノンたちに飛行船で逃げられたら、|悪意成≪アクイナス≫たちの目的である|英雄≪ノン≫の抹殺が出来なくなってしまうので様子を見ているのだ。
|悪意成≪アクイナス≫たちは、アレキサンドリアで起きた歓声で|英雄≪ノン≫たちの到着を確信している。
飛行船がアレキサンドリアから見えないほど充分離れた。
|悪意成≪アクィナス≫がドブネズミ族たちに怒鳴る。
「異端派を庇う娼婦とその仲間に神の裁きを!」
「ジュー、ジュー、ジュー!」
既に昼過ぎであったが、ドブネズミ族たちは叫びをあげ、食事も満足に取らずに西側の城壁へ殺到する。
彼らは、自分たちの持つ棍棒や、斧や、鎌などで石の壁を壊そうとしていた。もちろん矢が雨のように降る。
ドブネズミ族たちの死体がどんどん積み重なる。夕方には城壁の半分の高さまで死体が積みあがる。しかし、攻撃は止まらない。
既に食料は、酒と共に燃えており、アレクサンドリアを陥落させなければドブネズミ族たちには食料がない。
ドブネズミ族たちの死体は次々と積みあがっていく。
夜中に城壁近くまで死体が積みあがった。
その連絡をヒュパテア受ける。
ヒュパテアが言う。
「地下の支えを外しなさい。」
地下から轟音が響き、西側の城壁前の地面が陥没して、死体の高さが半分になる。
実は、ヒュパテアたちは、西側からドブネズミ族たちが死体の山で道を作る作戦、死人道をモモ子たちから聞いて、西側の地下に空間を掘っていた。
アレクサンドリアの兵士は少ないが、動員できる都市の市民は何千人といる。ヒュパテアたちは、彼らの力を使い工事をしていた。
そして、城壁に近くなった今、地下空間のつっかえ棒を外して陥没させた。
それでもドブネズミ族たちの攻撃は止まらない。彼らには他に方法はなく、更に死体を積んでいく。
アレクサンドリアに夜明けがくる頃、再び死体の山が城壁近くにまでなる。
ドブネズミ族たちが我先にと死体の山を登って城壁の中へと動く。
再び、ヒュパテアから次の指示がでる。
「火の樽を投げなさい。」
油の入った樽が火の付いたまま投げ込まれる。更にナナ子とモモ子が火球を投げつける。
ナナ子が宝炎剣で火球を投げつけると、横でモモ子が呪文を唱えて火球を飛ばす。
ナナ子が言う。「ずいぶん張り切っていますコン。」
モモ子が言う。「素敵な彼にアピールよ。」
ナナ子が言う。「お姉様には負けませんコン。」
モモ子が言う。「私だって負けない。」
二人はやはりライバルだ。
将持と桑は油をホースで撒いている。
火だるまになり転げるドブネズミ族たち。次第に樽の油が死体の山全体を覆わい、死体を燃やす煙が空を暗くする。
ヒュパテアは続いて指示をだす。
「砂に水を入れて冷ましなさい。」
西側の城壁の内側に熱が城内に入らないように、木の壁が作られ石でできた城壁と木でできた壁の間には、砂が入っていた。この砂に水を入れて熱を冷ます。
巨大な火の山が西側にできる。流石に火の付いた山には、ドブネズミ族たちはのぼらない。
ゴリラ族の隊長たちが殴ろうが、殺そうが火の中へと入るドブネズミ族たちはいない。
ドブネズミ族たちは、既に昨日からまともな食事はしていない。一人が逃げだすと、雪崩のようにドブネズミ族たちが逃げだす。
止めようとするゴリラ族たちと逃げようとするドブネズミ族たちが乱闘を始める。
その様子を見ているヒュパテアが、そばに来たノンに言う。
「ひとまずアレクサンドリアは守れたようです。」
「まだ、狂信者は残ってるワン。」
既に多くのドフネズミ族たちが死んでいるのに、諦めない|悪意成≪アクイナス≫たちに呆れてヒュパテアが言う。
「なぜ、彼らは狂信者になるのでしょうか?」
ノンは前世の記憶を探って答える。
「宗教は麻薬ワン。やり過ぎは廃人ワン。」
麻薬も宗教も、現実を無視すれば幻想に溺れて人を廃人にする。




