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50.ヒュパテア

 アレクサンドリアは夜の闇に包まれている。

 周囲は、|長十字軍≪アルビジュア≫と自称するドブネズミ族たち、一万以上がたむろして焚き火がたかれている。

 

 アレクサンドリアは図書館を中心とした学園都市である。常備の兵士は百名程度でしかない。もちろん臨時に集まった有志の若者たちを合わせても千名程度でしかない。


 そのような光景をアレキサンドリアの大灯台から神族のヒュパテアは見ている。

 ヒュパテアは学園都市の学長だ。

 しかも今回、臨時にアレキサンドリアの代表にも選ばれ、アレキサンドリアの防衛にも責任を持つことになる。

 ヒュパティアとしては、辞退したかったが、アレキサンドリアの人々が、決して長十字軍の要求を受けないという意志を現すには、ヒュパティアが臨時の代表になる事が最もわかり易いという意見に賛成するしかなかった。


 ヒュパテアは側近にため息と共に語る。


 「事実として、迷信(うそ)を教える輩が真実を語る私達を滅ぼそうとしています。」

 側近が言う。「知と力は別のものです。」


 人は、自らに都合のよい話を信じる。

 詐欺は、その心理の弱い所を利用する技術だ。


 それはヒュパテアも分かっているつもりだった。

 しかし、この状況にいたって始めて力なき者は哀しいという言葉が実感できた。 


 ヒュパテアはその知性と美貌によって知られ、プロポーズされたことは数えられない。そして、彼女にプロポーズする男たちに彼女は次のように言っていた。


 「私の伴侶(パートナー)は事実だけ。」


 さすがにヒュパテアにそのように言われては、今までの男たちは諦めた。


 しかし、|悪意成≪アクイナス≫は違った。


 |悪意成≪アクィナス≫は、アレキサンドリアの使者にいった。

 「ヒュパティアが、ジュディたちを匿い、逃げる事に協力した事は、大きな罪だ。」


 使者が唖然とする中、|悪意成≪アクィナス≫が、下卑た嗤いを浮かべながら言う。


 「ヒュパテアとアレクサンドリアの図書館を渡させ。

 もし、渡さないのであれば、図書館ごとアレキサンドリアの全ての人々を皆殺しにする。」


 アレキサンドリアの使者は、返答を保留してアレキサンドリアに帰った。

 アレキサンドリア側は、とにかく時間稼ぎをして、防衛の準備と救援要請を出すしかない。



 ヒュパテアは空に輝く天青星(シリウス)を見る。そして言う。


 「東の果てから英雄(ノン)がくることに期待しましょう。」

 

 既にトキ族のミツシエルからノンたちが援軍を率いてくると連絡がある。しかし、援軍の規模は数百でしかなくアレキサンドリアを守るには不充分だ。それでも、その事に一筋の希望をもつヒユパテアだった。




 その頃、アレクサンドリアを囲むドブネズミ族たちの本部があるテントでは、ゴリラ族の|悪意成≪アクイナス≫と|有魔理屈≪アルマリクツ≫が赤いワインを飲んでいた。


 |悪意成≪アクイナス≫は上機嫌で|有魔理屈≪アルマリクツ≫に言う。


 「英雄を誘き寄せる為に、アレクサンドリアを包囲したが、本当に来るとはな。」

 |有魔理屈≪アルマリクツ≫が言う。

 「|駄犬≪ノン≫は本当にバカです。」


 アレクサンドリアは、ジュディが逃げる際、ジュディを匿っていた。だからアレクサンドリアが窮地に追い込まれれば、ノンたちに助けを求める事をアクイナスたちは予想していた。

 もちろん、このような遠方(アウェイ)までノンたちは百名程度ぐらいしか援軍を遅れないことは、アクイナスたちも予想している。こちらは一万人なのだ。負ける訳がない。


 |有魔理屈≪アルマリクツ≫が言う。

 「バカ犬をバラバラにしましょう。」


 |悪意成≪アクイナス≫は機嫌がいいので言う。

 「何かほしいものがあるか?」

 |有魔理屈≪アルマリクツ≫が言う。

 「ヒュパテアを貰っていいですか?」

 |悪意成≪アクイナス≫が聞く。

 「どうするつもりだ?」

 |有魔理屈≪アルマリクツ≫が言う。

 「手足を斬りさき、死体を晒します。」

 |悪意成≪アクイナス≫が言う。

 「|駄犬≪ノン≫と同じだな。並べて見世物にするといいだろう。渡そう。」


 |悪意成≪アクイナス≫たちは、ノンたちが来なければ英雄がヒュパテアとアレキサンドリアを見捨てたと宣伝する予定だった。


 もしノンたちが来ても数百の兵士しかいないはずなので、ヒュパテアとアレキサンドリアの破滅は変わらない。

 お互いがワインのグラスを挙げて自分たちの勝利を信じて祝う。



 そこへ踊り子の一座の来訪が知らされる。 

 踊り子の一座は|悪意成≪≫に面会を求める。

 気分の良い|悪意成≪アクイナス≫が許可する。


 そこへ天狐族のモモ子が現れる。

 まず、モモ子が金貨の入った袋を差し出し言う。

 「私どもの連れてきた商人たちに、ここでの商売の許可をいただきたいのです。」

 |悪意成≪アクィナス≫が金貨の入った袋を見ながら答える。

 「許可する。ただ、踊り子なのだろう?」

 「はい、踊り子です。」

 |有魔理屈≪アルマリクツ≫がモモ子の尻を見ながら言う。

 「ならば、踊って欲しいのだが。」

 モモ子が笑みを浮かべながら答える。

 「もちろん、そのつもりで来ました。」


 モモ子が黒いマントを脱ぐ。

 見事な肢体と美貌が現れる。胸と腰をわずかに覆う布だけのモモ子に|悪意成≪アクイナス≫は口をあけ、|有魔理屈≪アルマリクツ≫はよだれを垂らす。


 |悪意成≪アクイナス≫が聞く。

 「名前は?」

 モモ子が踊り子としての名前を答える。

 「サロメ。」


 |悪意成≪アクィナス≫が、サロメという名前に興味を持ち、ニヤリと笑い言う。

 「踊ってみせろ!」

 「ご褒美は?」

 「わしが渡せるものなら、何でも!」

 これは、聖書に記されたヘロデア王とその|義理の娘≪サロメ≫の有名な話に合わせた発言だ。

 

 モモ子が激しい踊りを豊乳を揺らして踊る。

 

 |悪意成≪アクイナス≫と|有魔理屈≪アルマリクツ≫は目が点になってモモ子の虜になる。


 モモ子が踊りを終わり、∣悪意成≪アクイナス≫に近づき、ワイングラスを差し出す。

 「喉が渇きました。」

 |悪意成≪アクィナス≫がワイングラスに注ぐ。

 |有魔理屈≪アルマリクツ≫が呟く。

 「まるでサロメのようだ。」

 サロメは聖書の中ではユダ王国のヘロデ王の前で踊り、ヨハネの首を褒美で貰った踊り子た。


 |悪意成≪アクイナス≫が聞く。

 「望むものは何だ?」


 モモ子が|悪意成≪アクイナス≫と|有魔理屈|アルマリクツ≫の目を見てから言う。


 「|英雄≪ノン≫の首。」


 |有魔理屈≪アルマリクツ≫が問う。


 「なぜ|駄犬≪ノン≫の首を望む?」


 モモ子がワインを全て飲んでから言う。

 「|英雄≪ノン≫さえいなこれば、私が高家を継げるのです。」 


 モモ子は、自分が高家の長女であり、|英雄≪ノン≫さえいなければ高家を継げることを説明する。


 |悪意成≪アクイナス≫が再びモモ子のワイングラスに今度はなみなみとつぐ。

 そして|悪意成≪アクイナス≫と|有魔理屈≪アルマリクツ≫がモモ子とワイングラスを挙げそれぞれ言う。


 モモ子が言う。

 「閣下に勝利を!」

 |有魔理屈≪アルマリクツ≫が言う。

 「アレキサンドリアの破滅を!」

 |悪意成≪アクイナス≫が言う。

 「駄犬とヒュパテアに死を!」

 


 この日、ドブネズミ族たちの軍に、モモ子が連れてきた商人たちが酒の販売を始めた。

 酒代はドブネズミ族たちの日当である銀貨一枚であり、ドブネズミ族たちは酒盛りを始める。


 


 

 |英雄≪ノン≫たちは、目が回るほどの忙しくアレキサンドリアへの援軍で駆けずり回る。

 

 その忙しい中、一人、墓地の前で佇む老人がいた。

 ロバ族のヨブである。

 最初の一日、二日ほどは墓地への埋葬などで忙しくしていた。

 しかし、それらが終ると日の出から日没まで一日中、ヨブは墓地にある彼の身内が眠る墓碑の前にいた。

 彼の背中には、彼の生まれてくる予定だった三人目の孫、セツ(ヨブがつけた名前)の鉄の棺桶があり、その棺桶にはセツに着せる予定だった服が巻き付けてある。

 

 ヨブは、全ての身内を失った老人である事は知れ渡っており、ヨブの奇行を止める者はいない。


 そんな中、いつものように身内の墓碑に佇むヨブに熊人族の男、レーモンが現れる。


 「決着をつけに行こう。出発だ。」

 ヨブは、立ち上がり墓碑に手を振り、レーモンと共に墓地を後にする。


 まだ、墓地は夕陽があった。


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