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5.ナナ子の両親との夕食会

 ノンとミツルは、ナナ子が白フクロウ族の福老に質問して答えを貰ったので、カステラをナナ子の部屋で食べていた。


 「生まれて初めて食べたワン。とっても美味しいワン。」

 ノンは本当に生まれて初めてカステラを食べて感動している。尻尾はブンブン振れて悦びを表している。


 「美味しいブー。」

 ミツルは、誕生日に食べたことがあるので、美味しいとだけ言う。


 ナナ子は、キラキラした目で食べているノンを見て、ノンの管理には食欲がカギであると理解する。


 (食い気を利用するコン。)


 男は色気(下半身)と食い気で、管理するとは、某女子の言葉だが、その通りだとナナ子は思う。


 ノンが無心にカステラに感動している中、ノンの内心にいるタダロウもこの異世界の知識を改めて理解し、高家とその娘であるナナ子について考える。

 この世界は、図書室の本によれば、タダロウの生きた日本とは、かなり違っていた。

 特にこの国、東昇帝国は東昇維新(明治維新に相当)において、攘夷運動が激しくなかった。

 これは御戸藩が理性的に動き、その人材と兵力を温存した事で、内乱がそれほど激しくならず、結果として東昇維新は徹底しなかった。

 そして東昇維新が徹底的しなかったので、東大陸に進出せず、第二次世界大戦も頭領主義大国(米国に相当)との間に発生せず、敗戦も農地解放もなかった。

 この異世界では、東大陸は均一主義(コミュニズム)の諸国家であり、頭領主義(キャピタリズム)の国である東昇帝国とは最近、交流が始まったところである。

 そして、この国の中には、お金に余裕がある上流階級の家(ナナ子の家)と、お金のない発展途上国のようなノンの家が混在していた。

 これはかなり戦後日本とは違っている。つまり、一部の上流階級と、一部の中産階級以外は大半が貧乏な社会だ。

 まるで元の世界の東南アジアのような経済状況だが、少しだけ犯罪率が低いことだけが違う。

 ノンはナナ子の家に来てテレビとパソコンがあることでその事を実感した。ノンの家にはラジオしかないが、これが東昇帝国では当たり前だ。

 

 カステラを食べた後、ノンは、ミツルと共にテーブルマナーをナナ子に特訓される。ミツルは数回で理解する。

 ナナ子が必死になって具体的に説明する。


 「お皿の上にハンバーグがのった状態でナイフと・・・」


 しかし、ノンはすぐ、いつものようにがつがつして全然ダメダメだった。何度も何度もナナ子に注意されるが、それでもノンは、ダメダメである。

 ナナ子は、とうとう定規まで持ち出し、ノンの近くのテーブルを定規で叩いて注意する。


 「ガツガツしたら、定規で叩くコン!」


 それでもノンのテーブルマナーは直らないまま、ノンは夕食会に参加する。

 ナナ子は、絶望的な状況をどうやって乗り切るか考えたていたが、何も浮かばない。そして覚悟を決める。


 (女は度胸)


 ひそむように微笑みナナ子は、定規を背中に隠して夕食会へ向かう。


 

 夕食会では、ノンの正面にナナ子の両親、タヌキ族のシゲル、その横に高家の刀自であるクズハが座っている。そして、テーブルの左右にナナ子と姉のモモ子が座っている。


 そして、ノンもテーブルマナーを守って食事をした。ナナ子は、とりあえず安心する。

 後でノンに聞いたら、ナナ子が皿の上にハンバーグをイメージして練習させようとした事が、がつがつしていた原因だった。

 ノンは、ハンバーグなら美味しいそうなので、いくら言われてもテーブルマナーが守れなかったのだ。

 しかし、夕食会で出された料理は、何か小さな高級料理(シャトーブリアン)で、さしてノンは、食欲がわかなかったのである。更に言えば美味しさが、微妙で繊細なので分からなかった。

 貧乏なノンは、味が濃いほうが美味しいと感じる舌だから、小さな高級料理は理解できない。

 だからノンはテーブルマナーが守れた。だが、ナナ子は安心できない。

 ナナ子の正面にいるモモ子が明らかに不機嫌なのだ。


 モモ子は、ノンがモモ子の容姿を見てすぐナナ子に視線を戻したことに不満だった。

 モモ子を見た人々は、普通はモモ子が美少女であることを褒めあげ、その豊乳に視線が釘付けになる。

 ところが、ノンはちらっと見た後は、ちっとも視線がモモ子の豊乳に向かない。通常は視線の中心にいるのに、まるで無視されているようで、モモ子はムッとしている。


 (何なのココ。私の魅力が分からないのココ。)

 モモ子の表情が、美少女から素の細目になっている。


 

 モモ子が不機嫌な事は無視して高家の婿養子であるタヌキ族のシゲルがノンに話しかけようとチャンスを伺う。


 (今日は、ナナ子の婿候補を見る日なのだ。)


 しかし、シゲルより早く高家の刀自であるクズハが、ノンに聞く。


 「御先祖様は、何の神なのじゃ?」


 東昇帝国では、東昇維新の時に国民が皆、名字を持つことになり、その際に其々が縁を持つ神様を持つことになった。

 ただ、高家のように東昇維新の前から名字と縁を持つ家もある。そのことを確かめる為にクズハが聞いたのである。重要な事なのでみんなが息をのむ。

 

 「モノノベのモリヤが御先祖様ワン。」

 

 クズハは、目を光らせて更に問う。モノノベの子孫は非常に多いので、確かめる必要がある。


 「先祖に赤尾のヤスベエがいるのか?」


 「いるワン。ウチは、赤尾の七剣士ヤスベエの子孫ワン!」


 クズハは、ノンを見て、その後にナナ子を見て言う。


 「よくよく頑張るのじゃ。」


 世間では、昔に実在した大魔法使いタマオノマエを討ち取った事で、赤尾の七剣士は有名だった。大魔法使いタマオノマエは、高家の先祖である。

 

 姉のモモ子が呟く。

 「まるでロミオとジュリエットみたいココ。」

 有名な小説であり、敵同士の家に生まれたロミオとジュリエットの悲恋物語である。しかし、庶民では、ほとんど知られていない。だから、わざとモモコは呟いた。当然、ノンは知らない。


 「もろみとジュースワン?」


 ナナ子が慌てて説明する。

 「ロミオと、ジュリエットよコン。」


 ノンが再度、言う。 

 「老ミンとジュエリー?」

 どんどんズレていくノンだった。

 モモ子がノンが知らないことをバカにして言う。


 「まだ、まだ勉強不足ねココ。」


 「当然ワン。ワンは図書室へは最近、通いだしたワン。」


 この図書室という言葉にシゲルが反応する。


 「図書室に通うことは良いことだね。何か興味でもあるのかな?」


 シゲルが話を始めてしまって、モモ子は更なる口撃ができなくなる。

 ノンの内心にいるタダロウが答える。


 「自由と平等が矛盾していること。」


 人々が自由に行動すれば、結果は当然、バラバラになる。つまり、ある者は豊かになり、ある者は貧しくなる。

 逆に平等にすれば、人々の努力も、工夫も評価されず、誰も努力と工夫をせずに平等に貧しくなる。

 これは、かつて元の世界で起きたことだった。


 ノンの内心にいるタダロウの言葉に、シゲルは感心して、ノンに問いかける。


 「では、平等の代わりに、公衡主義ならどうかな?」


 これは、自由を優先した頭領主義(キャピタリズム)、平等を優先した均一主義(コミュニズム)とは違う。

 努力と工夫の結果に応じた税金を負担する社会である。

 

 「公衡主義?」


 ノンはもちろん、タダロウも初めて聞いた言葉にパカッと口が開く。


 この時、シゲルとノンの話をほったらかしにして、モモ子とナナ子は、バリバリと見えない火花を散らしている。

 モモ子は、ノンをなんとしてもナナ子から奪う事を決意し、そのモモ子に対してナナ子が怒りを向け、尻尾が逆立つ。モモ子も又、ナナ子に怒りを向け、尻尾が逆立つ。

 今にも、姉妹喧嘩が始まりそうになる。

 

 タマオノマエが目を光らせ言う。

 「二人とも、さかりのついた女狐ではあるまい、黙るのじゃ!」

 タマオノマエの怒りにナナ子とモモ子が黙る。


 ノンは、タマオノマエの声にビビり、耳をペタンとして、うるうるとした表情をする。


 ナナ子とモモ子に怒ったタマオノマエが、ノンの表情を見て、言う。


 「ああ、やはり、コーギー犬族は臆病じゃの。」


 そして、タマオノマエが笑い、ノンが笑い、皆が笑い出す。




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