47.笛吹き男
かなり長くなってしまいました。
自称、偉大なる笛吹き男、ムジナ族のブラック・フィッシュは廃墟となった村から立ちのぼる死臭の漂う煙を見ながら、満足に頷く。
「あの∣汚れた者≪異端派≫たちの血で、この村も浄められたべ。」
その発言に、∣笛吹き男≪フィッシュ≫の自称、近衛兵であるハイエナ族の男が聞く。(彼らは∣塁血絵≪ルイチエ≫と呼ばれる傭兵だ、)
「区別せず、首を切り落としたけど、良かったよな?」
「良い。あとは神が判断されるべ。」
彼らは魔女を含む異端派だけでなく、闇ミトラ教会の信者もついでに銀の長十字架をまな板代わりに使って首を切り落とした。
後で普通の信者たちを殺した事に文句は言われませんよねという確認だ。
それに対する∣笛吹き男≪フィッシュ≫の答えは、全て殺せ、後は神が天国へ導くべき信者かどうかを判断するという意味だ。
この村の住人たちのほとんどは、闇ミトラ教のただの信者たちだ。
村の住人たちの悲劇は、ちょうど∣長十字軍≪アルビジュア≫の食料が尽きていた時、たまたま通り道に村があった事である。
そして不運にも、∣長十字軍≪アルビジュア≫の兵が空腹だった為、村は異端派の拠点とされ、一人残らず殺される゙。
殺される゙だけでなく、金も全て奪われる。
その奪った結果を笛吹き男のもとに、∣塁血絵≪ルイチエ≫の一人が一袋持ってくる。
|笛吹き男≪フィッシュ≫は、金の入った手の平に乗るほどの袋を見て言葉を吐き捨てる。
「少ないべ。」
「村中から集めても、これだけです。」
|笛吹き男≪フィッシュ≫が、顎で馬車へ積めと指示する。
|塁血絵≪ルイチエ≫の男が、その袋を金銀財宝が積んである鉄張りをは巡らせた馬車に投げる。
中には金と財宝が山積みであり、その袋は小さいので直ぐに分からなくなる。
それを見ていた|笛吹き男≪フィッシュ≫は大声で叫ぶ。
「さあ、もっと金のある町へ行くべ!」
自称、偉大なる|笛吹き男≪フィッシュ≫が町の入り口にある石でできた門の前で、笛を吹いている。
その背後には千人が超えるドブネズミ族たちが、今にも襲い掛かからんばかりに牙を剥き出している。
雑犬族の門番が、おそるおそる笛吹き男に近づく。
「この町に何の用ですか」
フィッシュは笛を止め門の前にいる雑犬族の門番に言う。
「我は偉大なる|長十字軍≪アルビジュア≫の指導者であるべ。
この村にいる異端派に伝染した哀れな子羊たちを救いにきたべ。
さあ、待ちくたびれたべ。
さっさと町へ入れるべ。」
|笛吹き男≪フィッシュ≫は黒い修道士の服に身を包み、闇ミトラ教会の磔刑長十字架を下げている。
その上、背後にはドブネズミ族の大群がいる。
町の中へ入れていいかどうかなどとても雑犬族の門番には判断できない。
門番の一人が急いで市長のベチエを呼び出しに向かう。
町は石の城壁に囲まれており、門を閉じればドブネズミ族たちを防げるはずだが、それはそのままドブネズミ族たち門番たちとの戦いになりそうだ。
暫くすると、市長で柴犬族のベチエが現れる。
「異端派を救うとは、どういう意味ですか?」
|笛吹き男≪フィッシュ≫が堂々と答える。
「彼らを教え諭すべ。もし門を閉じれば我らの救済を妨げることなので、力ずくで町に入るべ。」
ベチエは聞く。
「異端派を信じる者たちが救いを拒む、つまり教えを捨てない場合は、どうするつもりですか?」
ベチエは、闇ミトラ教会が異端派を長十字架に縛り火あぶりにすると聞いていたので確める。
|笛吹き男≪フィッシュ≫は表情を変えずに答える。
「|娼婦とその仲間≪異端派≫は火刑にして財産を没収するべ。」
ベチエは、知り合いが火刑で処刑されることを想像し、返事をする。
「門を開けて入れることはできない。」
|笛吹き男≪フィッシュ≫が叫ぶ。
「全て殺すべ!」
ドブネズミ族たちの怒鳴り声が一斉にあがり、門を開けようと殺到する。
市長と門番たちは、慌てて中に入り門を閉じる。
市長が叫ぶ。
「反対側の門を急いで閉めろ!」
しかし、反対側の門は何が起きたのか分からず、不運な事に荷馬車がはいる最中だった。
付近にいたドブネズミ族たちが、反対側にいたドブネズミ族たちの怒鳴り声を聞き門番に襲いかかる。
慣れていない門番たちと違い、ドブネズミ族たちにとっては、その怒鳴り声が襲撃の合図である
近くの森からもドブネズミ族たちの大軍が押し寄せて、門が突発される。
町を虐殺の嵐が襲い祈祷所以外にいた女、子供、老人を含め全てが殺される。
ドブネズミ族たちのリーダーである理亡王(ドブネズミ族たちの臨時リーダー、死ぬとすぐ代わりが選らばれる。)が∣笛吹き男≪フィッシュ≫に問いかける。
「祈祷所にいる連中は、どうしますか?」
ドブネズミ族たちは、一応、闇ミトラ十字軍の兵士であり、|異端派≪グノーシス≫の撲滅が目的である。
とりあえず闇ミトラ教会の祈祷所は聖域とされ、普段ならドブネズミ族は入れない。
その祈祷所に、町の生き残りの人々がいた。
しかし、闇ミトラ教会の信者が|異端派≪グノーシス≫の者と混じっているかもしれない。
|笛吹き男≪フィッシュ≫は平然と答える。
「全て殺せ。救うべき者は神が判断なさるべ。」
理亡王が闇ミトラ教会にドブネズミ族たちを突撃させる。
町から見渡すかぎり生きている住人がいなくなってから、∣笛吹き男≪フィッシュ≫が叫ぶ。
「全ての金を集めろ。神への献金するのだ。
我らは免罪符を手に入れるべ。」
金を闇ミトラ教会に献金すると、罪が赦される免罪符が闇ミトラ教会から献金した者たちに渡される。
町の中心にある広場には、闇ミトラ教会の神である長十字架に張りつけられたベン・イエシユアの像がある。
祈祷所の虐殺側終わった後、|笛吹き男≪フィッシュ≫がその像の前に跪き、大声で懺悔の言葉を発する。
「私達は人殺しの罪を心ならずも犯しました。
私達は説得したのです。しかし、彼らは聞きませんでした。
どうか私達の罪を許し、罪を引きとってください。
慈悲深き神よ。」
祈祷の言葉なので、全く訛らない。
|笛吹き男≪フィッシュ≫は、いつも全く変わらず、暗記している内容を、そのまま口先だけで言う。
そして、すぐに∣笛吹き男≪フィッシュ≫が立ちあがり、宣言する。
「|異端派≪グノーシス≫の|娼婦≪ジュディ≫とそれを庇う者たちに神の罰を!」
彼らは集めた金と、金で飾った食器などを馬車に載せてサラとジュディたちいる邸へ動き始める。
元々、∣笛吹き男≪フィッシュ≫たちは、堕帝への援軍として|陰帝≪インテイ≫が送ったのだが、途中で資金集めを行いながら進軍したので、時間がかかってしまい、その間に堕帝は滅びてしまう。
堕帝が滅びてしまった結果、|長十字軍≪アルビジュア≫はただの資金集めになってしまった。
その資金集めの最中、ジュディたちが大地主の所へ逃げこんだことが分かり、急きょ、その大地主、サラから全財産を奪うことにしたのだ。
闇ミトラ教会の∣長十字軍≪アルビジュア≫とは、既に異端派だけでなく、全ての人々を殺し、全財産を没収するための地獄の暴力団となっていた。
闇ミトラ教会の|長十字軍≪アルビジュア≫、約千人のドブネズミ族たちは、ノンたちのサラ・マサヒロの私兵を中核とした約八百人のサラ連合軍と川を挟んで対峙していた。
川は浅瀬を渡れるぐらいの深さしかないが、わたっている最中に矢で射かけられると避けようがない。しかも、浅瀬はかぎりられている。浅瀬以外では人が流されてしまう。
川を渡ろうとする側が不利なのは、明らかだった。
何度か|長十字軍≪アルビジュア≫から白旗を掲げた使者としてドブネズミ族の理亡王が川に現れるが、サラ連合軍は矢を射掛けて接近さえ許さない。
サラ連合軍には、実はベチエの生き残りたちが合流しており、|長十字軍≪アルビジュア≫の虐殺はサラ連合軍の兵たちは皆が知っている。
サラ連合軍は、勝つだけでなくドブネズミ族たちをどのようにして味方の犠牲を少なくして勝つかを考えていた。
両軍がにらみ合いを続けて三日、ドブネズミ族たちが空腹で苛立ち始める。
実は、|長十字軍≪アルビジュア≫の補給部隊が、風音の天狐族たちに襲われ、食料が不足しているので、ドブネズミ族同士の仲間われが頻発している。
サラ連合軍のテントの中で風音がノンに言う。
「昨日からドブネズミたちはほとんど食べてないカン。」
サラが言う。
「カラス族たちは、全滅させたニャン。」
ミツルが言う。
「準備は出来たブー。」
マサヒロが言う。
「時は今です。」
ノンが作戦の開始を宣言する、
「やろうワン。」
その言葉と共に雑犬族たちが鍋を川のそばに運び、魚を鍋に入れて料理を始める。
ドブネズミ族たちが川のそばまで近づき、つばを垂らしてそれを見る。
もちろんサラ連合軍は、弓を構えてドブネズミ族たちに放つ。
鍋の近くには、ジャガイモも山積みされ、雑犬族によって鍋に次々と入れられる。
ドブネズミ族たちの理亡王が叫ぶ。
「あれは罠だ。川を渡るな!」
しかし、料理の匂いが川のそばに押し寄せたドブネズミ族たちに届いた時、ドブネズミ族たちは川へと入り始める。
浅瀬かどうかに関わらずドブネズミ族たちが川を渡ろうとし、そこへサラ連合軍から矢の雨が降る。
浅瀬以外の場所で渡ろうとした多くのドブネズミ族たちが溺死するが、食欲に突き動かされたドブネズミ族たちは川を渡るのを止めない。
いくら矢を放っても、ドブネズミ族たちの前進が止まらない。浅瀬を渡っていたドブネズミ族たちが川を渡り、鍋へと殺到する。
鍋の回りから既に雑犬族たちは後退している。
ドブネズミ族たちが駆け寄り鍋の中の魚を食べ始める。
中には、周囲に積んであるジャガイモを生で食べる者たちもいる。
相変わらず、周囲からの矢は止まない。鍋のそばにはドブネズミ族たちの死体が溢れる。
ほとんどのドブネズミ族たちが川を渡ってしまったので、理亡王も渡り、鍋の回りに盾を並べ立てて鍋の魚を食べる。
「うまい。・・・」
いい匂いなので、理亡王は思わず食べ続けていると、全身に痺れが起きてくる。
理亡王は、鍋の中を見る。
鍋の中にトリカブトがある。
回りでは、ジャガイモを食べていたドブネズミ族たちが苦しみ始める。
理亡王はあたりのジャガイモを見て、ジャガイモが緑色であることを見る。
更に理亡王は鍋の中にある魚の皮を見てそれがフグであることを知る。
しかし、舌が痺れだして理亡王は全てが毒である事を叫べない。
「フグとトリカブトと腐ったジャガイモ・・・」
三つとも毒がある。食べたドブネズミ族は毒が回って戦うどころではない。
理亡王たちがサラ連合軍に抵抗しようとするが、槍襖で串刺しになる。
それを遠くから見ていた|笛吹き男≪フィッシュ≫が言う。
「バカは死ぬしかないべ。」
|笛吹き男≪フィッシュ≫は捨て台詞を言うと、|長十字軍≪アルビジュア≫の最後尾にある馬車へ走る。
|笛吹き男≪フィッシュ≫はドブネズミ族たちを、この時点で全て見捨て、馬車の財宝と金だけ持って逃げる事にした。
|笛吹き男≪フィッシュ≫のすぐ後ろから走る側近のハイエナ族の男が聞く。
「ドブネズミ族たちは?」
「神が判断し給うべ。」
|笛吹き男≪フィッシュ≫と側近のハイエナ族たちは金と財宝などを積んだ馬車を引いて逃げだす。
馬車は各地で奪った金などの重さで馬だけでは動かすことが出来ず、ハイエナ族たちが馬と共に押している。
「急ぐべ、急ぐべ、ここから無事に逃げられたら、臨時に金貨追加するべ!」
臨時の報酬に馬車の動きが速くなる。
既に戦いは、ドブネズミ族たちの惨敗が確かな以上、ここから少しても早く逃げるのは当然だ。
|笛吹き男≪フィッシュ≫は、自らの側近たちには、自分と一緒に食べるので食事を出し惜しみしていない。
|笛吹き男≪フィッシュ≫は、いくらでも補充がきくドブネズミ族たちなど気にしない。
|笛吹き男≪フィッシュ≫が気にするのは財宝と金をつんだ馬車だけだ。
その時、ふとカラス族たちから偵察の報告を受けていないことに気づく。
「まあ、いいべ。どうせ金をもっと払えということだべ。」
以前にもカラス族たちはもっと金を払えという要求を出して、|笛吹き男≪フィッシュ≫が渋ると、姿を消した。
そして、笛吹き男が敵に囲まれた時、カラス族たちは金を笛吹き男≪フィッシュ≫に払わせ現れた。
所詮は金で雇った傭兵である。
「まあ、そういう奴らダベ。」
その笛吹き男の前に泥濘が現れる。
ミツルが準備できたと言った内容はこの泥濘だ。
彼らは、事前に大量の水をまいて泥濘を作っていた。
|笛吹き男≪フィッシュ≫が叫ぶ。
「辺りの草を刈って泥濘に被せるべ!」
ハイエナ族たちが草を刈るため道の両側へ移動しようとする。
両側から矢が放たれる。
周囲に展開して雑草を刈ろうとしたハイエナ族が倒れる。
ミツルが全身鎧の姿で泥濘の向こう側に神義庁の護衛たちと現れる。
「|笛吹き男≪人でなし≫は、ここで終るブー!」
|笛吹き男≪フィッシュ≫が叫ぶ。
「カラス族ども、さっさと加勢するべ。
金ならもっと払えなくなるべ!」
|笛吹き男≪フィッシュ≫は、周囲に怒鳴る。
|笛吹き男≪フィッシュ≫の考えでは、カラス族たちはどこかで笛吹き男たちを偵察しており、叫べば現れるハズだった。
しかし、カラス族たちは現れない。
その代わりに、黒い紋章がパラパラと|笛吹き男≪フィッシュ≫の上から降ってくる。
ギョっとして笛吹き男が見上げると、そこには|霊獅子≪グリフォン≫となって空を舞うマサヒロとサラがいた。
マサヒロが言う。
「その紋章の持ち主たちは、もうあの世に逝った。
後はお前たちだけだ。」
前は泥濘があり、ミツルたちがいる。
両側には雑犬族たちが展開している。
もはや、後ろにしか逃げ道はないと判断して笛吹き男が見返る。
そこにはノンたちが現れる。
その集団の中には、|笛吹き男≪フィッシュ≫たちに襲撃された町の生き残りと、町で殺された人々の親戚、友人たちがいた。
ノンが叫ぶ。
「お前は悪魔に心を売ってるワン!」
|笛吹き男≪フィッシュ≫が言う。
「私達はただ|娼婦とその仲間≪異端派≫を救いたいだけだ。」
「ウソつき!」「人殺し!」「人でなし!」
殺された町の生き残りとその友人たちが怒鳴りかえす。
次々と馬車の周囲にいるハイエナ族たちをノンたちが倒す。
後は|笛吹き男≪フィッシュ≫だけが残る。
ノンが叫ぶ。
「お前を信じる者は救われないワン!」
フィッシュが怒鳴る。
「|娼婦≪ジュディ≫を信じ、|修道士≪笛吹き男≫を信じないのか!」
ノンが叫ぶ。
「神様に罪を擦り付ける|笛吹き男≪人でなし≫は退治ワン!」
ノンたちが|笛吹き男≪フィッシュ≫たちに斬りかかる。
しかし、ノンの十字剣が空を斬り、生き残りたちの武器も|笛吹き男≪フィッシュ≫に届かない。
「神はわしを救うと判断したべ!
わしこそが神に選ばれし者べ!」
実は|笛吹き男≪フィッシュ≫は人には聞こえない音(超音波)を笛から発生させ、ノンたちに幻覚をみせてたのだ。
「|異端派の娼婦≪ジュディ≫たちを匿う罪人たちは死罪べ!」
ノンたちは、超音波が視界を歪ませているので武器が空回りする。
そして、|笛吹き男≪フィッシュ≫が幻影を見ているノンに近づき、ナイフで刺そうとノンに接近する。
「終わりだ。駄犬!」
しかし、ナイフがノンを刺す前に、|笛吹き男≪フィッシュ≫の頭が十字剣で割られる。
「何故、、、分かったべ?」
「臭いまでは誤魔化せないワン!」
ノンが十字剣を挙げ、叫ぶ。
「ワン(僕)は、英雄ワン!」
馬車に積んであった財宝と金は、ベチエの生き残りたちに渡された。
(面倒くさい話|歴史は小説よりも残酷)
この話のインスピレーションは、『タリズマン 上』
グラハム・ハンコック ロバーツ・ボーヴァル著
訳 大地舜
から得た内容になります。
ここでは、アルビジュア十字軍という日本人から見たら同じようなキリスト教の信者同士が殺し合う歴史的な出来事が書かれています。
何故、このような出来事が起きるのか?
やはり、信じる事について根本的な課題があると考えます。
それは、「信じる事には義務と責任がある。」という事。
義務とは、信じる内容が正しいのかどうかを確認する事、
責任とは、間違っていれば自らの行動を修正する事。
この二つを持たない信仰は容易に狂信になり、悲劇をもたらすのではないかと考えます。




