45.サティアン
夜明け前の一番暗い森の中で、ミツルたちは剣にさらしを巻き、鎧に防弾チョッキを着て、大きな音が出ないようにしてドブネズミ族たちを襲撃していた。
ミツルたちは本来、∣宗教施設≪サティアン≫にあるはずの逃げ道を調べる為に接近していたのだが、急遽、ドブネズミ族たちが運んでいた麻袋を取り戻す為、彼らを|宗教施設≪サティアン≫にいるドブネズミ族たちの仲間に気づかれないようにしていた。
ミツルと神義庁の護衛二十名は、数名のドブネズミ族たちを囲み襲撃し、全てのドブネズミ族を捕まえた。
その際、ミツルには珍しく怒りの表情で、護衛たちと共にドブネズミ族たちに剣を振った。
ドス、ボカボカ、ドス、ドス
ドブネズミ族たちは着ているものは、シャツとズボンだけであり、武器は手斧や、包丁、棍棒である。あっさり倒され、全員縛られて猿ぐつわをされる。
ミツルの前には、ドブネズミ族たちが運んでいたシェパード族の三人の死体がある。三人の中にはまだ幼い一歳でしかない子供もいた。
しかも子供の手足は切り取らていた。
これがミツルの怒りの原因だ。
「酷すぎるブー。」
この襲撃の少し前、ミツルたちは、宗教施設にあるはずの逃げ道を調査する為にこの森を進んでいた。
そこへ狼人族の半国グラハムが駆け寄って来てる゙。
ミツルたちが短槍などを構える゙と、グラハムはいきなりミツルたちの前で土下座した。
「弁護士一家が行方不明になり、その後を追って来たが誘拐犯たちが多すぎて手が出せない。どうか力を貸して欲しい。」
ミツルが前に出て土下座している男に聞く。
「どういう事か説明して欲しいブー。」
土下座した男が説明を始める。
土下座している狼人族は、グラハムという探偵で、グラハムの依頼主はシェパード族のサカモトという弁護士だった。
グラハムの受けた依頼は堕帝と堕帝の宗教施設の調査だった。
グラハムが調査すれば、するだけこの堕帝たちが危険な宗教団体、いや、むしろ宗教団体を利用している暴力団である事が分かる。
グラハムは、堕帝の∣宗教施設≪サティアン≫には、敵対する人たちを誘拐して殺害するというのうわさがあり、十分、気をつけるようにサカモト弁護士に注意していた。
しかし、サカモト弁護士は笑って堕帝たちが暴力団と変わらない事について理解していなかった。
普通は、宗教団体が暴力団と変わらない集団だとは思わない。しかし、堕帝たちは違った。
グラハムがサカモト一家が襲撃されるという心配を他人事のようにしかサカモト弁護士は理解していなかったので、グラハムは仕方なくサカモト弁護士一家の周囲を見回りしていた。
そして、昨日の夜、グラハムか見回りでサカモト家の異変に気づいた時にはサカモト家は全員が消息不明になっていた。
一家が消息不明になった時、まだ周囲にはドブネズミ族たちの臭いが残っていた。
グラハムはその臭いを追ってドブネズミ族たちが運ぶ血の臭いのする麻袋を遠くから見つけたが、ドブネズミ族たちが多数なので手がだせ無かったとグラハムがミツルたちに説明する。
「奴らの担ぐ麻袋からサカモト一家の臭いと血の臭いがしている。」
事情を聞いたミツルたちはただちにグラハムの先導でドブネズミ族たちに追いつく。
そこでドブネズミ族たちを襲撃し、ドブネズミ族たちが運んでいた麻袋からシェパード族のサカモト一家の三体の死体が見つかる。
グラハムが言う。「酷い。酷すぎる。」
特に子供は、手足が切られている。
ミツルがドブネズミ族たちに言う。
「本当の事を言うなら、一人だけ助けるブー。」
ミツルが一人の猿ぐつわを切る。
「痛てえじゃねえか、俺たちは千名はいるんだぞ。」
ミツルがドブネズミ族の心臓を突き刺す。
普段は温厚なミツルも、シェパード族三人の惨殺死体に怒りが収まらない。小さな子供の傷が少いのは、母親が庇ったのだろう。母親には傷が多い。きっと子供だけは守ろうとしたのだろう。
怒りに満ちたミツルが次のドブネズミ族の猿ぐつわを切る。
「俺たちは死体を運んでいただけだ。」
「何故かブー?」
「宗教施設で儀式に使うのさ。」
「儀式とは何ブー?」
「堕帝様に捧げる儀式さ。」
「捧げた後はブー?」
「それはその・・・」
ミツルはドブネズミ族を突き刺す。
三人目の猿ぐつわをミツルが切る。
「捧げた後はブー?」
「証拠を無くす為に火葬する。」
「つまり、お前たちはその前に勝手に死体の手足をつまみ食いしたのかブー?」
子供の手足が切られ、そのドブネズミ族の口のまわりには、白い体毛が付いている。ドブネズミ族の体毛は濃い灰色なので、白いサカモト一家の子供の体毛は目立つ。
先ほどミツルが剣を刺したドブネズミ族二人も同じように口のまわりに白い体毛が付いている。明らかに柔らかい子供をバラして喰っている。
ミツルだけでなく、他の護衛たちも怒っている。
ミツルがドブネズミ族の脚を突き刺す。
「違う、違う。俺たちは殺しの実行部隊だから分け前として食った。」
「つまり捧げた後にはブー?」
ミツルがもう片方の脚に短槍を突き刺そうとする。
「食べるのさ。腹がへるから。その後、骨は火葬する。」
「この人でなし!」
グラハムが話しているドブネズミ族に飛びかかり、その首を締めようとしたのをミツルが止める。
ミツルが言う。「彼は証人ブー。」
更にミツルが聞く。「お前たち以外にこの一家の襲撃に参加した者はいるかブー?」
グラハムから首を自由にされたドブネズミ族が言う。
「いねえよ。」
ミツルが言う。
「こいつだけは助けて証言してもらう。後は要らない。」
護衛たち全員も怒っていたのでドブネズミ族たちは、一人を残し全員処刑される。
グラハムはシェパード族の毛が口についているドブネズミ族二人の胃を裂いて何かを捜している。
グラハムがやっとあるドブネズミ族の胃から御守りを見つける。
「これは、シェパード族の旦那に渡した御守りなんだ。そして俺のおふくろの形見なのさ。」
調査していたグラハムはサカモト一家が危険であるから隠れるようにとシェパード族の夫婦に言った。
しかし、夫婦はそれでも隠れない。仕方なくグラハムは自らの御守りを夫婦に渡した。夫婦はそれを小さな子供の手に付けた。
グラハムは御守りを見つめ、涙を流す。
ミツルは、何名かの護衛をグラハムに付け、一家の死体を運ばせる。
その後、ミツルたちは空の色が変わる頃までにドブネズミ族たちの∣宗教施設≪サティアン≫の近くに移動して、準備を整えて飛行船を待っていた。
風音たちの本隊は飛行船に乗って現れる予定である。
風音はかなり前からこの宗教施設を疑っていたがドブネズミ族たちの人数が多いので準備をしてタイミングを探っていたのだ。
風音は月に一度、大量の食糧を運ぶそのトラックの積載量からドブネズミ族たちが千人前後帝ある事が分かっていた。
空の色が徐々に明るくなり始める。
ドブネズミ族たちを倒す為の作戦が開始されようとしていた。
明るくなり始めた空に、飛行船が藁の固まりを幾つも下げて現れる。
そして、先頭の飛行船の窓辺にノンが姿を現す。
横には風音がいる。
風音が聞く。
「大丈夫なんですカン?」
ノンが胸をはり答える。
「ワンもワンの息子もビンビンワン。」
確かにワンの下半身の息子も立っている。
風音は言う。
「下半身のビンビンは余計カン。そんな余計な事の為にナナ子さんは医務室にいるのでは有りませんカン。」
少し調子にのりすぎたと反省するノンは耳をたたむ。
その頃、生命力のほとんどをノンに移したナナ子は、神義庁の医務室で寝ている。
そしてカオル姫も疲れてやはり医務室で寝ており、二人の側にはモエが念の為、控えている。
ノンが元気なのは、彼女たちのおかげである。
ノンは気合を入れ直し、宗教施設の周囲に展開している護衛に合図をする。
飛行船から藁の固まりが落下する。
全て藁の固まりが落下した後で、∣宗教施設≪サティアン≫の上空にいたサラとマサヒロが火炎びんを藁の固まりに投げる。
谷底の宗教施設が炎に包まれる。
サラからミツルに連絡がはいる。かなり離れた西の洞窟から煙があがっているという連絡だった。
宗教施設にはかならず秘密の逃げ道があるはずで、それは宗教施設が煙に包まれれば煙を出すはずだった。
その予想通りにかなり離れた場所に煙が上がる。
煙の出ている場所を見たミツルは牙を出して言う。
「宗教を隠れ蓑にした人でなしを許さないブー。」
堕帝は、サカモト一家襲撃グループから連絡がないという報告を受ける為、少しノンの呪い人形から離れていた。
そして、堕帝は夜明けに滅帝の死体にかまれ、ちぎれたノンの呪い人形を見ようとした。
「もうバラバラになったハズダ。」
堕帝の見込みではそうなるハズだ。
しかし、そこには、口を開け全ての障気を失った滅帝の死体があった。
「何が、どうして、こうなるダ?」
何が起きたのか分からない堕帝が、滅帝の怨念が抜けた死体に触れた時、宗教施設に火がかけられた。
堕帝は慌てて秘密の抜け道から洞窟へと移動した。
秘密の抜け道を知っているのは、ドブネズミ族のリーダーである理亡王とその取り巻きたちである。
堕帝たちが洞窟から出た時、そこにはミツルたちが待ち構えていた。
堕帝にミツルたちが火炎放射器を放つ。
先頭の理亡王が炎に包まれる。
思わず堕帝は、自らの使い魔、偽座王権現を呼び出す。
「わが呼びかけに答え、我を炎から守りたまえ。」
闇を纏う偽蔵王権現が現れ、ミツルたちの火炎放射器の炎が消える。
様子を見ていた風音が本物の座王権現を呼び出す。
「地獄の王よ、どうか我らを助けたまえ。」
無情鬼との戦いで解放している炎の背景を持つ蔵王権現が現れる。
たちまち暗い背景の偽座王権現と炎の背景の座王権現が空で激突して、偽座王権現の姿がガイコツに変わって消える。
ぎょとする堕帝にミツルが短槍を突き刺す。
「我は何度でも転生して我の国を作るダ!」
「ウソつきが、作れるものは不幸だけブー!」
堕帝は短槍を避け再び洞窟の奥へ逃げる。
そこへ坂本弁護士の死体を安置して、坂本弁護士一家の仇討ちをする為にミツルたちに参加したグラハムが現れる。
グラハムが叫ぶ。
「坂本弁護士一家の無念の分だ。」
グラハムの火炎放射器が堕帝とドブネズミ族たちに放たれる。
堕帝が吠える。「我は大聖者ダ!罰当たりどもダ!」
グラハムが叫ぶ。「二度と現れるな!」
炎に包まれ堕帝とドブネズミ族たちが燃える。
ミツルたちから堕帝たちの討伐の連絡があり、太陽が登っている最中、ナナ子が白無垢で、狐火を前後に灯しながら、新築したばかりの家にはいる。
中ではノンとその両親がいた。
ナナ子がノンに言う。
「末永く、来世までもよろしくコン。」
ノンが答える。
「やっと、やっとナナ子とやれるワン。」
ナナ子が拳を握るが、ノンを殴らずナナ子がノンに飛びつき、耳元でささやく。
「恥ずかしいコン。」
周囲は笑いに包まれていた。
この話のインスピレーションは、1989年に起きた坂本弁護士一家全員をオウム真理教の麻原彰晃とその弟子たちが殺した事件から得ている。
坂本弁護士一家には、まだ一歳にしかならない子供が含まれる事が、宗教団体の行為として考える゙と、そもそも宗教団体の意味をもう一度、考える゙べきだと思う。




