44.ナナ子の覚悟
2023.7.8 一部修正
長官室では苦しそうなノンをナナ子が抱きしめている。
ナナ子が叫ぶ。
「誰か医者を呼んでコン!」
現れた医師が診断するが、ノンの首の回りについた赤い斑点がわからないと、匙を投げて言う。
「すみませんが、私には分かりません。」
ついさっき、いつものようにノンはやって来ていつものように椅子に座った。そして、いつものようにノンがナナ子のお尻を見た。
しかし、いつも通りはそこまでだった。
ノンにその直後、いつもとは違う事が起きる。
ノンは椅子からナナ子に向かって歩き出そうと一歩を踏み出そうとしたが、丿ンはそこで突然倒れてしまう。
最初、ナナ子はノンがふざけているのかと思ったが、ノンの表情が苦しそうなので、すぐに医師を呼んだのだ。
しかし、医師はノンの首の回りにある赤い斑点があるのを見て匙を投げた。
赤い斑点はまるで何かに咬まれたように首についている。
しかも、ノンは倒れる直前まで普通であり、赤い斑点など首の回りには無かったとナナ子が説明する。
そして倒れた時にはこの斑点がついていたという説明をナナ子がから聞いた医師は匙を投げる。
この時、ナナ子の感がノンに呪いがかけられた可能性を告げる。
「∣お母様<クズハ>を呼んで!」
ナナ子はナナ子の母、天狐族である高家のクズハを呼ぶ。
高家の刀自であるクズハなら、何か分かるかもしれない。
「あなたを死なせはしないコン。」
ナナ子はノンを医務室へ移動させる゙。
医務室では不安を耐えながらナナ子がクズハを待っている。ナナ子の周囲には、ノンの急変を聞き豚人族のミツルとカオル姫、猫人族のサラ、獅子族のマサヒロ、それに天狐族の風音が集まっている。
神族のモエだけは邸に用事で帰っているのでここにはいない。
クズハが医務室に入る。そしてノンに近寄ってノンの首の毛の下を見て言う。既に赤い斑点は歯で噛まれた後のようにくっきりとしている。
「呪い人形じゃ」
クズハがナナ子を見て言う。
ナナ子の表情から血の気がひく。
呪い人形とは、呪いたい人の体毛を入れた藁人形にかける呪いだった。
「このままではムコ殿が死ぬじゃ。」
ショックで思考が停止したナナ子にクズハが言う。
呆然とするナナ子にかわり、ミツルが聞く。
「死ぬまでの残り時間はブー?」
クズハがナナ子を見て、それからミツルを向いて言う。
「もって明日の明け方までじゃ。」
そこへモエが現れる。帰る途中で不吉なイメージが浮かんだので用事をキャンセルして急いできたのである。
モエが言う。「クライウズガミエタ(暗い渦が見えた)」
しかし、ノンを見て遅かったことを知る。
ナナ子が泣きながらクズハに聞く。
「どうすればいいコン。なんでもするコン。」
クズハが悲痛な表情で答える。
「まずノンについた怨霊を∣常闇の踊り<ターンダバ>で引き剥がすのじゃ。しかし、それは真夜中に行う儀式でそれまでムコ殿がもつかどうか、、、」
ナナ子には、検討もつかない。
「どうすればいいコン?」
クズハが答える。
「房中術で体温と生命力をムコ殿に移すのじゃ。」
ナナ子がその言葉で顔を赤くしてする。
房中術は男女の肉体的接続を利用し、体温と生命力を移す秘術である。
クズハがナナ子の目を見て確認する。
「覚悟は?」
ナナ子は頷く。
ミツルが聞く。
「真夜中の儀式は何をするブー?」
クズハが答える。
「霊媒体質の者が、常闇の躍りでノンに取りついている怨霊を喰うのじゃ」
ミツルが更に聞く。
「怨霊を喰う者は、どうなるブー?」
「霊媒体質の者は、怨霊を取り込む前に、まず鬼子母神となって喰うのじゃ。だから影響はほとんど残らないのじゃが。」
ミツルが最後の言葉に反応して聞く。
「何か残るのかブー?」
クズハが仕方ないという表情で答える。
「∣鬼子母神≪カーリー≫の影響が少し残るのじゃ。」
カオル姫が聞く。
「具体的にはブヒ?」
カオル姫に向かってクズハが説明する。
「気が強くなるのじゃ。」
この部屋に霊媒体質は二人、カオル姫と風音。
風音が手を上げようとするのを止め、カオル姫が言う。
「風音には、呪い人形の在る場所を見つけてもらうから、わたくしがするブヒ。」
ミツルがごくっとツバを飲む。
今でも尻にひかれつつある。それが更に。
しかし、ミツルはノンの状態を見て何も言わない。
すぐに鬼子母神の常闇の躍りの準備が始まる。躍りは真夜中に行われる。
その間にも、徐々に赤い部分が広がり、ノンの体温が下がり始める。このままでは、真夜中になる前にノンが死んでしまう。
「あなたを死なせはしないコン!」
ナナ子がノンの寝ているベットに全裸で潜り込みノンを自分の体温で温め、生命力を与える。
これが高家に伝わる房中術を秘伝である。
ナナ子たちが、ノンの為に様々な事をしている頃、谷底にある宗教施設では、堕帝が滅帝の死体にノンの体毛を入れた藁人形を咬ませていた。
堕帝はノンに似せた藁人形を滅帝の死体の口で、何度も押し潰している。
実は無情鬼は、堕帝がノンの体毛を集める為の使い捨ての部下だったのだ。
無情鬼との戦いの場所から集めた体毛を遺伝子検査で分別して、ノンの体毛だけを選び、それを藁人形に入れて呪い人形を堕帝は作った。
「駄犬は、もう終わりダ!」
堕帝は、また滅帝の死体の口でノンの呪い人形を咬ませる。
死体は顎の部分は動かせるようにネジがつけられいるが、口の中はドライアイスで冷やしてある。
「終わりダ! 終わりダ!」
堕帝の叫びに、横にいた闇ミトラ教の枢機卿、ゴリラ族の悪意成が、注意する。
「必ず、英雄たちがここへ来るぜ。」
彼はこの宗教施設にノンの仲間たちが明日の明け方までには、来ると予想していた。
だから傭兵たちを用意して守らせている。
呪いはただ呪いをかけただけでは終わらない。
呪いの痕跡を追跡され、例えノンが死んでも、きっとノンの仲間たちがここに来る。
しかし、堕帝は何度もノンの呪い人形を、痛めつける事に集中して悪意成の話しを無視している。
「これまでだな。」
悪意成は呟くと堕帝のいる部屋から出ていく事にする。
彼はノンの仲間たちとの戦いに巻き込まれる事を避けた。
確かに堕帝は、闇の仲間であるが、自分まで巻き込まれる事は避ける。どうせ金と権力の為に手を結んだ相手なのだから、注意はしたし、傭兵も手配したのだから義理は果たした。悪意成はそっとここから去る。
真夜中、骸骨をひもで首から下げ、腰には人の手の人骨をひもで結んだ腰簑のようなものを巻いた全裸のカオル姫が練習場にいた。
練習場には仮設の舞台が作られ、舞台の回りには、ドクロが埋められいる。
ノンとノンを温めているナナ子がいるベットが舞台の中に持ち込まれシーツが除かれる。
全裸のノンとそれを温めるナナ子が現れる。
カオル姫が舞台にあがり、激しく太鼓が打たれ、常闇の躍りが始まる。
さっきまで練習していた疲れも見せず、カオル姫の激しい躍りが二人のベットの回りで続く。
舞台の回りでは、クズハが鬼子母神に呼びかける。
「我らは求め、訴えたり。カーリー神よ、我らの前に現れよ。」
踊りで恍惚になったカオル姫に鬼子母神が乗り移り、口が開いて舌が伸びる。
信じられないほど伸びた舌にノンから怨霊を離れ飲み込まれる。
ノンの赤い斑点があっという間に消え始める。
カオル姫はそのまま意識を失い倒れる。
ミツルが駆け寄るが、暫くしてカオル姫は笑いながら起き上がる。
「大丈夫ブヒ。」
赤い斑点が消え、ノンの身体が温度を取り戻し始める。
暫くして、やっとノンが目をあける。
そしてナナ子を見つめる。
ナナ子が体を急に放し、言う。
「恥ずかしいコン。」
ノンが意識を取り戻した頃、谷底にある∣宗教施設≪サティアン≫にある部屋で、堕帝の怒鳴り声が響いていた。
滅帝の死体の顎が外れ、ノンの藁人形がバラバラになってしまったのだ。
堕帝が怒りに我を忘れ、周囲にいた信者に命令する。
「駄犬の毛をすぐ集めるダ!」
しかし、既に滅帝の死体からは、滅帝の怨念が消えている。例え駄犬の毛を集めたとしても、もう滅帝の死体は使えない。
滅帝の壊れた顎を見て堕帝が暗い表情で呟く。
「ワシが直接、咬むダ。」
まだ、夜は深く光は谷底には届いていない。




