43.無情鬼
2023.6.28:最後に二行追加
ナナ子とサラが∣ガールズトーク≪おしゃべり≫を神義官長官室でしている。
ナナ子は久しぶりの気分転換になる。
「ああー、スッキリして肩が楽になったコン。」
最近はナナ子が書類仕事をしていると、ノンが近づく。
そしてサラが考え事をしていると、すり寄ってきてなでなでして欲しいと、膝の上に頭をのせてくるのである。
コーギー犬族がさみしがりであることは分かっていても、ナナ子が仕事にならない。
だから、ちょうどノンが太りぎみだったので、マサヒロに頼んで模擬戦を練習場でしてもらっている。
ナナ子がつい愚痴る。
「本当に甘えん坊で困るコン。」
サラが笑いながら、言う。
「二人の仲が良いのは、いい事ニャン。」
サラがさらりと、ナナ子がのろけているとナナ子の発言を流す。そしてサラが言う。
「高濃度原子力発電の課題は、トイレニャン。」
∣原子力発電≪高濃度原子力発電≫の課題が、トイレのない集合住宅と言われる理由は、放射能汚染物質の保管所についての問題がほぼ未解決だからだった。
(放射能汚染物質の放射能が低減する周期は長いものは何億年にもなる。これを保存する方法が深い地下に容器に容れて保管するだけとはほぼ未解決だと言うしかない。)
ナナ子もそれを理解している。
「後は、地熱発電、液化石炭、海底燃料になるコン。つまり、必要な時に必要な分を大量に用意するには向いていない。
太陽光発電は、個人宅での発電を貯めて使う用法がせいぜいであり、太陽光パネルのリサイクルを考えた場合、大震災などの自然災害時の緊急設備と考えた方がいい。
この国には、石油はほぼないが、いわゆる太陽光利用は、変動幅が大きく安定しない。
サラが言う。
「でも、海底都市なら海底燃料の採取と利用はかなり楽ニャン。」
ここで、ナナ子は考える。いきなり海底都市ではなく、まず駅街開発で、空気と水と食糧について実施してから、未来都市の要塞建造を考えていたが、むしろ同時に考えるべきかと。
ナナ子が目を閉じて考えていると、膝が重い。
模擬戦を終えたノンがいつの間にか、居てなでなでして欲しいと頭をのせていた。
「後は二人で仲良くニャン。」
サラが部屋から出ていく。
ノンがナナ子にうるうるとした目で自分たちもシャワー室へいきたいと訴える。
シャワー室は、二人で使える広さがある個室になっている。複数あるので、ナナ子とノンも使える。
もともとは、戦闘による怪我や鎧をはずす為の広さだが、若い夫婦であるサラとマサヒロには、交尾にも利用可能である。
時間は昼休み。ひょっとしてと思いながらナナ子は、ノンと共にシャワー室へ入る。
ノンは汗だくの服は全部脱いで、ナナ子が背中を流す。すでにミツルとカオル姫も夫婦になっている。婚約者の状態はノンとナナ子だけだ。
そこへ隣りの部屋から声が漏れてくる。
「あー、そこはだめ。気持ちよすぎニャン。」
ノンのムスコが立つ。
それを見たナナ子が、しっぽで叩く。
ムスコが爆発してしまう。
シャワー室からナナ子たちが出て、後でサラに聞くと、サラが笑いながら言う。
「しっぽは気持ち良くてついニャン。」
サラのしっぽをマサヒロが洗った時の声だった。
誤解してしまったナナ子は、サラを睨む。
ナナ子たちが、シャワー室にいた頃、堕帝の前に、キツネザル族の無情鬼がいた。
無情とついた理由は、無情鬼がサイコパスだからである。
堕帝が無情鬼に命ずる。
「あの封印を死守するダ!」
「御意。」
無情鬼が無表情で答える。
堕帝は、あの封印がある倉庫が攻撃を受けたら守れなことが分かっているので、サイコパスである無情鬼に命令したのだ。
そこは、周囲に水が殆どない窪みにある神殿だった。
神像は厳重な倉庫に保管されて、参拝することもできない。
確かに神像を盗む悪質犯はいる。だから防弾硝子まではわかるが倉庫に保管して殆ど参拝させないというのは異常だ。
ただ、もともとの理由が座王権現の封印であるからむしろ当然である。
周囲にはネズミ族たち、カラス族たち、ハイエナ族たちが、何重にも見張っている。
しかも何重にも結界門と結界霊獣が参道に配置してある。
「これだけの厳重な警戒を破れる訳がない。」
無情鬼は可能な手段は全て打ったことを確認した。
無情鬼がひとまず自己満足していると、そこへ神義官たち(ミツルたち)が参道以外から侵入したという連絡が入る。
「馬鹿な。」無情鬼は叫ぶ。
ミツルたちは、∣結界門≪トリイ≫と∣結界霊獣≪コマイヌ≫のいる参道を避けた、霊的防御がないところを突破している。
参道には、敵を弱らせ撃退する為に様々な装置があるのだからミツルたちが避けるのは当然だった。
しかし、無情鬼は動揺もしない。本来なら動揺するのが普通なのに、何故、動揺しないのか?
ここで無情鬼は考え始めてしまう。
無情鬼は、他人に対してだけでなく、自分に対しても感情が湧かない。だから自分が死ぬかもしれないという恐れさえもない。
まして他人が何人死んでも、それは自分の死と同様にいかなる感情も湧かない。今も侵入されて自分が死ぬかもしれないのに驚きさえしない。
なぜなのかを無情鬼は考えたのだが、答えにたどり着く前に、ノンたちが、空から降りてきた。
マサヒロとサラがノンとナナ子を運び、倉庫の前に降りたのである。
無情鬼の周囲にはネズミ族たちなどはいない。倉庫までの途中に配置している。
「そこをどくワン!」
ノンが叫ぶが、坦々と無情鬼が答える。
「どかない。」
ノンの十字剣が無情鬼に振り落とされる。
「ああ、わかった。・・・」
無情鬼は、自分がなぜ感情をもたないか、死ぬ時の走馬灯を見て理解した。無情鬼の親が、やはりサイコパスだった。だから彼は親からサイコパスを複写したのだ。
人はイカと同様の脳と経験蓄積脳で行動する。この内、人としての感情は主に経験蓄積脳が決める。
ここに親のサイコパスが複写され、そのままであったことが無情鬼の人生だった。
なんの表情もないまま無情鬼が倒れる。
ノンたちは倉庫を開け、中で船の鎖に取り巻かれて埋もれていた座王権現から、封印である鎖を取り除いて自由にする。
座王権現から鎖を取り除いた頃、ミツルたちがやってくる。
カオル姫が呟く。
「これでやっと神様も動けるノン。」
一つの神様が自由になった。
風音が手を合わせ祈る。
「どうか我らを助けてくださいカン。」




