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37.阿輝王の意地

 マサヒロが意識を取り戻した時、マサヒロは獅子族の阿輝王アテルオウとして、天狐族の坂田丸が率いる征東軍と戦っている最中だった。

 側近のマタテが心配して聞く。


 「どうかしたのですか?」


 「いや、大丈夫だ。」


 そして、自分たちを鼓舞する為に叫ぶ。


 「ガオーーーー!」


 阿輝王の咆哮で、敵が一瞬、怯んだ。


 「退くぞ。」


 敵が怯んだ隙に、阿輝王たちは一旦退く。


 阿輝王の獅子族軍は、周囲を敵である天狐族とカラス族たち等々に囲まれ、敗色が濃厚である。

 本陣がある洞窟内(タッコク)には重い空気が漂っていた。


 そのような洞窟内で、阿輝王の妻である猫人族の桔梗が青い一輪の花を花瓶に差していた。


 阿輝王の意識の中にいるマサヒロは、その桔梗に、サラの面影を見る。


 その花は、何日か前にまだ獅子族軍がここまで追い詰められず、洞窟から外に出られた時に桔梗が見つけた花だった。


 「この花には、邪気を祓う力があるニャン。」


 桔梗が明るく希望を込めて言うと、阿輝王もその部下たちもそう思えるのだった。

 この時、マサヒロは、前世は阿輝王であり、サラの前世が桔梗だと分かった。


 「それにしても、面妖ですな。」


 側近の獅子族、マタテが言う。

 獅子族軍が坂田丸の率いる征東軍と激戦を繰り広げている最中に、獅子族の一部が突然に混乱することが

ある。

 特に重要な戦いの最中に突然、こちらの兵士の一部が混乱して倒れていく。そんなことが何度もあり、とうとう獅子族軍はここまで追い詰められていた。

 まるで何かの怨霊にでも祟られているかのように感じているのは、阿輝王だけではない。


 「ああ、だが、俺にも意地がある。」


 阿輝王が歯を食い縛り言う。

 その悔しい気持ちが分かるからこそ、桔梗は邪気を祓うと言われている花、キキョウをわざわざ花瓶にさして少しでも、役にたとうとしている。

 桔梗も、マタテも、獅子族の兵たちも皆が阿輝王の気持ちを分かっている。

 


 



 その頃、征東軍の本陣では、坂田丸が金色の頭巾と金色の法衣を着た具天法師と話していた。

 具天法師は、まだ夏ではないが、暑さがひどいので頭巾を外す。

 頭の形は、まるで饅頭のようである。


 坂田丸はこの軍の最高指揮官であり、一番偉いのだが、具天法師には、丁重に話していた。


 「尊師には、ご助力頂き、まことにありがたいことです。」


 「まあ、わしが座王権現を使役すれば、こんな事は容易いことダ」


 座王権現とは、地獄の王と言われている強力な存在であり、かつて加茂の行者が呼び出したと言われている存在だった。

 そして阿輝王の敗北は、この具天法師の使役している座王権現により、獅子族軍に混乱を惹き起こすことにより多く発生していた。


 にわかには、信じがたい事であるが、奸務帝からの書状によれば当然とも坂田丸は思うのだった。

 なにしろ、書状には、具天法師は、室戸の洞窟内で百万回の呪文を唱え、異星天と自分を統合したというのだ。

 その上、具天法師は、大陸に渡り、大陸の両法法師から大天師法に必要な神像を持ってこの国に戻ってきたのである。

 この大天師法は、大辛帝国が東大陸を制服する時に、大いに効果を発揮した実績がある。

 その法を大辛帝国の友好国である平安国の援助の為に輸出して、阿輝王の扶桑国との戦に介入した。


 確かに、過去二回坂田丸は、阿輝王によるゲリラ戦に敗北していたが、今回は逆に、なぜだか勝っているのだから、納得できる話だった。



 

 この日の夜、坂田丸はタヌキ族の従者を一人連れて、洞窟の前にいた。坂田丸が言う。


 「阿輝王と話がしたい。」


 「今更、降伏などしない。」


 阿輝王が叫ぶ。


 「話がしたいだけだ。」


 再度の呼びかけに阿輝王が仕方なく手招きした。


 坂田丸は洞窟内に入って座ると、ついてきたタヌキ族の従者から酒を出させる。

 先ず坂田丸が飲み、次に阿輝王に渡す。

 阿輝王が飲むと話し始める。


 「始めて会ったのは、ずいぶん昔だったな。

あの頃は、まだ鷲道帝が存命でいらした。」


 阿輝王と坂田丸は都で親友だった。その頃、坂田丸は鷲道帝の側近であり、阿輝王は鷲道帝の皇后の側近だった。

 そもそも、この国には、北に扶桑王朝があり、その姫を妻としていたから、鷲道帝が即位した。

 しかし、クーデターで鷲道帝を暗殺して即位したのが、今の奸務帝だった。

 阿輝王は北の王朝の王族であり、鷲道帝の皇后のいとこである。

 阿輝王は、そのクーデターを認めようとせず、独立しようとしたのが、この戦いだった。


 坂田丸が言う。


 「お前が意地をはるのは分かる。 だが、・・」


 坂田丸の視線が、桔梗、そして他の獅子族の兵士たちに移る。阿輝王が言う。


 「皆をまきぞいにするか。」


 坂田丸が頷き、言う。


 「このままでは、皆の首が並ぶだけだ。意地をはらずに降伏して都にいってくれないか?」


 「騙されてはいけません。王の首が欲しいのです。」


 阿輝王の側近、マタテが叫ぶ。

 この時代では首は死人封じに使う道具(アイテム)だった。

 つまり、敵の首を手に入れて、死人封じを行い、転生しても相手の知恵と力を封じて復讐できないようにするのである。

 死人封じをされた敵は、何度転生しても自分の能力に制限がかかってしまう。

 だから首だけは渡さない事が戦国時代まで普通だった。


 皆が阿輝王を見ている。阿輝王は、皆がここで死ぬ事には、やはり耐えれない。例え坂田丸に裏切られてもいい。


 「皆の命は取らないと約束するか?」


 「約束しよう。」


 「お待ちください。」


 マタテが叫ぶ。阿輝王が答える。


 「桔梗とお腹の子を頼む。」


 はっとしてマタテが桔梗を見て、阿輝王を見た時、彼は坂田丸とともに洞窟の外へ向かっていた。皆部下たちは泣くのを堪えていた。




 阿輝王の記憶は、都で明日、処刑される日の前日になる。坂田丸は阿輝王の助命を嘆願するが、奸務帝は坂田丸の助命を聞かずに処刑が決まる。

 月のない夜だった。


 「やはり、奸務帝(やつ)は許さないか。」


 最初から予想していたことだった。阿輝王が呟いた。それでも意地をはり一族全てが滅亡よりいい。

 そう思っているところへ、天狐族の坂田丸が、死刑役のヌイグルミを持って牢に入ってくる。そのヌイグルミはまるで阿輝王のように作られている。

 坂田丸が言う。


 「これを着て出ていってくれ。」


 坂田丸が、ヌイグルミと共に持ってきた阿輝王が着るタヌキ族の精巧なネイグルミを指す。

 阿輝王が言う。


 「一つだけ頼みがある。」


 「なんだ?」


 「あの具天法師(化け物)を何とかしてくれ。やつは危険だ。」


 都への護送中、阿輝王は具天法師を見て、その凶悪な力を感じていた。

 そして具天法師こそ自分たちを破った能力者だと結論をだす。

 それにしても人が持ちうる能力の限界を越え、すでに人ではない存在を阿輝王は具天法師に感じている。

 倒さなければ人の世は大変な事になる。

 だから阿輝王はかつての友に頼むのだ。


 「今はとても無理だ。しかし、子孫に手掛かりを残そう。」 


 翌日、坂田丸が用意したヌイグルミで処刑は行われる。


 阿輝王は、坂田丸の従者であるタヌキ族に連れられて再び里に戻る。



 里には、あの洞窟で花瓶にさしていた花と同じ花がたくさん咲いている。


 タヌキのヌイグルミを脱ぎ阿輝王は桔梗へ駆け寄る。


 阿輝王が言う。「今、帰った。俺はもう王ではない。ただの阿輝だ。」


 「お待ちしていましたニャン。」


 「なぜ、あんなにたくさんの花が咲いているのか?」


 「あの花は邪気を祓う力があるので一生懸命、集めていましたニャン。」


 阿輝が笑い、桔梗に抱きつく。



 後に、坂田丸は北斗七星の位置に英雄の手掛かりを秘伝書と共に残す。

 

 マサヒロが目を覚ました。

 そしてサラに叫ぶ。


 「僕と結婚しよう!」

 

 サラに抱きつき、マサヒロが長い長いキスをする。


 時間を超えて愛し合う二人に時間が止まる。


 ・・・・・・・・・


 あまりにも、長い長い長いキスにノンがぼやく。


 「長すぎるワン。」



 なお、この時のタヌキ族がナナ子の父であるシゲルの前世の一つである。シゲルが呟く。


 「誰かが噂でもしているのか?」


 時を超えて因果の歯車が動き出していた。


 


 

 



 

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