3.勇者の試練
ノンは天狐族のナナ子に気に入って貰う為、彼女の御願いを聞き届けた。ノンの内心にいるタダロウはノンの気持ちが分かるので半ば仕方ないなあと思い、そしてノンに質問するように促す。
「勇者の試練て何ワン?」
そして、ナナ子から勇者の試練についてノンは話を聞く。
勇者の挑戦は、村社に今週末、お供えされる月見団子を庶民学校の一年が取ろうとする行事で、ドーベルマン族の大人たちが警戒している中で行われる。
月見団子の一部でも取って大人たちの警戒をすり抜けて村社の境内から出れば、その男の子は勇者の試練の達成者になれる。
だがドーベルマン族の大人たちに捕まれば、全身の毛を刈り取られてしまう。去年の庶民学校の一年の男の子たちは、全員で挑戦して全員が毛を刈り取られている。
可愛いから何とかなる事ではない。
話を聞き終わるとノンの口が思わず開く。
タダロウは、どうしようかと考える。
ノンもタダロウも思いは同じだ。
(このままでは、まずい。)
そこへ、ノンを探していたミツルが図書室に入ってくる。ナナ子がミツルにお願いする。そして、ミツルはナナ子の御願いに即答する。
「無理無理無理ブー!」
ミツルは去年の事を知っていた。
その後、図書室に誰も来ないので、ノンたちは教室に移動してナナ子が御願いを他の男の子たち全員にする。しかし、ナナ子のお願いは断られる。
去年、男の子全員で勇者の試練に挑戦して、全員が毛を刈り取られたことを男の子たちは知っており、ミツルと同じ返事だった。
モモ子は、その美少女ぶりと豊乳を武器に男の子全員を参加させたが、ナナ子はノン以外を説得することに失敗した。
ナナ子は、ムッとして、思わず漏らす。
「まったく、意気地無しばかり。」
いくら美少女でなく細い目でペッタンコの胸だらかといっても、これは理不尽だ。ナナコは去年の勇者の試練に失敗したことをノン以外が知っていることは考えない。その代わり、ノン一人でもモモ子に勝つ為、勇者の試練を達成させることをかたく、かたく決意する。
(私は、諦めない女の子コン!)
そして、かなりビビって耳がペタンコなノンに言う。
「大丈夫。私には秘策があるコン。」
ナナ子はノンに勇者の試練に対する作戦を説明する。
満月が出た頃、村社の入り口にノンが一人立っている。村社の祠の周囲には、入り口から祠までドーベルマン族の大人たちがいる。
ノンが村社の奥にある祠の前に歩いていく。
祠の前に、月見団子がお供えしてある。
ノンの周囲にいるドーベルマン族の大人たちは、一人しかいない上にビビりのコーギー犬族が現れたのでバカにしている。
「たった一人で挑戦とは、バカなのか?」
「そもそも、可愛いことしか能が無い胴長短足犬が一人。」
散々な言われようだ。だが、コーギー犬族はビビりが多いことも事実だ。獰猛なことが有名なドーベルマン族とは対称的だ。
ノンは村社の中心にある祠に着くと、首に巻いた風呂敷から、ナナ子に貰ったビニール袋を取りだす。
ノンは小声で言う。
「落ち着くんだワン。」
勇者の試練は、村社の祠から、月見団子を男の子が取って一歩踏み出した時に始まる。つまりノンが月見団子を取り、一歩踏み出す時、ノンと、ドーベルマン族の大人たちによる鬼ごっこが始まる。
ノンは月見団子の一番上の黄玉を取る。
前方にいるドーベルマン族のごくり唾を飲む音が聞こえるほど静かだ。
ノンは月見団子の一番上にある黄玉をビニール袋に入れ、風呂敷に包み首に巻く。そして叫ぶ。
「ノンは男の子ワン!」
ノンは、次の瞬間、懐から唐辛子の粉をあたりに撒く。これがナナ子がノンに説明した秘策だった。そして着ているものを脱ぎ捨て全身に唐辛子の粉を撒く。
ギャー
唐辛子の粉で近くにいたドーベルマン族たちは鼻を押さえ、動けなくなる。
あたり一面に唐辛子を撒きながら唐辛子まみれのノンが走る。
当たり一面に唐辛子が舞い、唐辛子まみれのノンが走る。
さすがに唐辛子まみれのノンをドーベルマン族たちは追いかける事を諦める。唐辛子まみれのノンを誰も捕まえる気が起きないのである。ドーベルマン族の一人が不思議そうに言う。
「あいつも、犬人なのによく耐えられるな。」
コーギー犬族のノンも、臭いには敏感なはずであり、普通なら唐辛子の粉に耐えられるはずがないのである。
ノンは村社の外、もはやドーベルマン族が追ってこないところで、近くの小川に褌も脱ぎ捨てて入る。何度も入って風呂敷も洗う。
小川から上がったノンは、鼻に詰めていた唐辛子を取りだし捨てる。
「フン!」
ノンは、自らの鼻に残っていた唐辛子を飛ばす。ノンは臭覚を唐辛子で止めていた。そこへミツルが服を持ってきてノンが着る。
ミツルは、勇者の試練には参加しなかったが、心配して来ていた。ミツルが聞く。
「大丈夫ブー?」
「鼻がとっても、とってもヒリヒリだワン。」
やおらノンはミツルと共に、ナナ子が待っている場所へと歩いて行く。まだ洗った褌は乾いていないので、首に巻いている。
ナナ子は、ビニール袋から出された月見団子を、受けとる。
ナナ子が月見団子を見つめる。もし、これをそのまま食べればノンのプロポーズを受けることになる。
ナナ子がごくりと唾を飲み聞く。
「これを、食べてもいいのコン?」
ノンは、不思議そうに首をかしげ言う。
「もちろんワン!」
プロポーズになるとは、聞いていたが、ノンはまさかお嬢様が庶民の男の子から本気でプロポーズを受けるとは思ってもいない。ただ、ノンとしてはお嬢様のお願いを達成しただけなのだ。
なお、迷うナナ子が聞く。
「本当にいいのコン?」
なおも、ナナ子は自信がない。
(ペッタンコな胸しかないけどコン?)
さすがに胸についてノンには言えない。
ノンは再度可愛い顔で言う。
「本当に本当ワン!」
ナナ子は自分自身に言い聞かせる。
(女は度胸!)
そして、ナナ子がノンに叫ぶ。
「ありがとう。嬉しいコン。」
ナナ子はノンから月見団子を受けとり食べる。
そして、ノンたちにそよ風が吹く。その時、ノンのムスコが見えてしまうが、そこは、ノンが首を少し曲げて、ニコッと微笑み誤魔化す。
「おいしいワン?」
少しむせるが、ナナ子は、姉のモモ子に勝てたので、微笑みながら言う。
「ええ、今まで食べたお団子で一番コン。」
やっとナナ子がモモ子に始めて勝った瞬間だった。
そして、ナナ子はノンに抱き付く。
ノンはナナ子に抱き付かれて思っている。
(あれれ?お願いを聞いただけなのにワン?)
タダロウは思う。
(ひょっとして、本当にプロポーズしてたのか?)
ナナ子はノンにキスする。
(私は、この子で姉に勝つコン!)
ノンは初めてのキスに驚き、ナナ子が体を押しつけるので、ノンの下半身が反応する。
ノンが少し思う。
(少し不味いワン。)
タダロウが強く思う。
(少しじゃなく、不味いだろ。)
でも、ナナ子ががっちり抱きいてキスしている。
ノンが両手をナナ子に回し、ナナ子を抱く。
近くにいるミツルは、仕方なくその場から離れて行きながら言う。
「羨ましくないブー。」
ミツルの内心はまったく違う。
(とっても、とっても羨ましいブー!ブー!)