27.霊獣が来る
夕方、島にあるサムエル邸に、民族派と呼ばれる人々が集まっていた。
民族派とは、現状のままでは、この国に暗い未来しかないので、もう一度、なんとか社会を明るい未来に回転させようとする人々の集まりだった。
シフ・サムエルに近い神族をはじめ、天狐族、コーギー犬族、秋田犬族、豚人族、猫人族の代表者だけでなく、個人でタヌキ族、白鳥族、鷲族、獅子族たちも参加している。
「この国に真の独立を!」
「盗まれた知的財産を取り戻せ!」
「売国奴のハイエナどもを許すな!」
集まった人々が、叫び出している。
既に、今までの希望である『自由と平等と博愛』から『自由と衡平と友愛』の新たな希望、つまり目標へ変更する事は説明されていた。
また、『衡平』には、男女同権も含めることが明記される。更に『友愛』としては医療変革、つまり病気の原因物質への医療費負担を進めて、一般の医療費負担を軽減することも決まっている。
今日は、この新たな希望を実現するための新たな未来が発表されるので、人々が集まっていた。
ここでの新たな未来とは、時間ではなく普通の人々が普通に働き、普通に暮らす為の経済活動である。
過去の歴史で言えば、産業変革である。
産業変革が起きた時、人々は世界が産業変革を達成した中心国と達成できなかった植民地になった。
そしてその事を、ほとんどの人々は想像できなかった。
産業変革は、人力利用から火力利用へと中心技術が変わった事に伴う社会変革である。その変革に合う政治体制を達成した国が中心国になった。
そして今、この国は、情報変革の中にいた。中心技術が電力利用から情報利用へと変わっている最中である。
この変革に合わせて政治体制を変革しなければ、事実上の植民地になる。
つまり、多くの人々は奴隷のように結婚もできないか、結婚しても子供を持てないフリーターにしかなれない。
この認識を持ち、変革を望む者たちがここに集まっていた。
民族派の臨時代表である高家のシゲルがまず話しかける。
「この国は、従属犬派が自らの利権にしがみつき、若者たちから未来を奪い、他国に売り渡している。」
「そうだ、そうだ。」
シゲルは、ここで話を区切り反応を見る。
「この国には新しい希望が必要である。
それと共に新しい未来、新たな未来を実現する未来都市が必要だ」
シゲルの横にいるノンがひっそり呟く。
「難しいワン。」
シゲルがノンに向く。
「難しい事かもしれない。でもみんなの未来だ。聞いてほしい。」
ここでシゲルは、中心技術を利用した未来都市を説明する。
シゲルは、今までまったく開発されていない海底、極地、宇宙に、細菌戦争と核戦争でも生き残り、科学と人々を維持する為の空間とそれをささえる産業を造る為に未来都市を提案する。
「そこに住む人々にはそれぞれできる事を協力してもらって未来都市を作る。」
どよめきが起きる。
「神話だと思っていた細菌戦争と核戦争は、本当にあった事実だと今の我々は理解できる。
このままでは我々は再度、細菌戦争と核戦争により科学と人口のほとんどを失う。
我々は今こそ、科学と人々と共に未来を手に入れる!」
ノンがナナ子たちと叫ぶ。
「時は、今。天命は我等と共にワン!」
大きなどよめきが起きた。民族派は、従属犬派の逆ピラミッドへ進軍を開始する。
逆ピラミッドには従属犬派が集まっていた。ネズミ族、カラス族、ムジナ族、オウム族、コウモリ族などである。
従属犬派は変革によって自らの利権がなくなる事を恐れ、利権を守る為に事実をありのままに見るのではなく、都合のいい事実のみを見ている。
ただ世の中の多くの種族は中立である。
逆ピラミッドの浅い階層から、この国の未来を賭けた闘いが始まる。
逆ピラミッドの中で、従属犬派が叫ぶ。
「我等の利権の為に我等は戦う!」
次々と逆ピラミッドの中へ民族派が進軍する。
そして黒フクロウ族の滅帝がいる深殿へとノンたちと民族派が突入する。しかし、そこには、怨念が実体化した死霊兵がいた。
滅帝が叫ぶ。「男尊女卑を否定するバカ共、死ねゲ!」
ノンが死霊兵を上半身と下半身の二つに切ってもすぐくっついてノンに攻撃してくる。
「しつこいワン!」
再びノンが首をはねるが、またすぐ首がくっつく。死霊兵はまるで不死身だ。
ミツルも短槍で死霊兵の胴体を貫く。
「すぐに、胴体の穴が塞がるブー!」
サラが死霊兵の目をクナイで潰す。
クナイが刺さったまま、死霊兵が剣で斬りかかる。
「弱点が分からないニャン!」
モエが叫ぶ。
「ナニかで、再生しているハズ!」
その時、ナナ子が叫ぶ。
「こいつら石版からエネルギーを補給しているコン。」
ナナ子の炎球で倒した死霊兵は煙になり消えた後、石版に吸い込まれ再び現れている。
「石版を壊すワン!」
死霊兵が次々と民族派に襲いかかる。ノンたちは、不死身の死霊兵の根元である石版を叩き壊す。石版がバラバラになる度、死霊兵が煙となる。
ひときわ高い段上の椅子に座っていた滅帝が立ち上がる。
「保従教を守るゲ。」
保従教によって抑えつけられた女性の怒りと哀しみの作りだす闇こそ、滅帝の力の源だ。
辺りに漂う怨念の煙を集め、一つの化け物、鵺を造る。鵺の顔は猿、胴はタヌキ、手足は虎、尾は蛇だ。
ノンに襲いかかる鵺、それと戦うノン。
「絶望しないワン。!」
ノンが何度も鵺を攻撃するが、その度に滅帝によって再合成され巨大化する鵺。ミツルも、サラも加勢するが巨大化した鵺にだんだん押されはじめる。
ナナ子とサラは炎球とクナイを滅帝に投げるが、滅帝を囲む黒い焔によって防がれ届かない。
「白フクロウが来ない限り、わしは負けないゲ!」
白フクロウ族の福老がいない限り敗けはないと滅帝は叫ぶ。
「福老はくるワン!」
ノンの叫びに滅帝が嗤い反論する。
「ここまでの天井には、霞網の結界があるゲ!」
霞網とは、飛ぶ者を強化した糸で捕まえる網である。その霞網は、見えにくく、しかも逆ピラミッドの天井全てに張ってある。
「それでもくるワン!」
「あの世で吠えるがいいゲ!」
滅帝の嗤い声と共に、巨大化した鵺が、ノンたちに襲いかかる。もはやノンもナナ子もミツルもサラも巨大な鵺に押し潰されることを覚悟する。
ノンはナナ子を見ている。ナナ子もノンを見ている。
「もう一度だけナナ子のお尻を触りたかったワン。」
鵺の手がノンの大剣毎ノンを張り飛ばそうとする。
その時、深殿に光が差し、鵺が消え始める。
「やってきたホー!」
白フクロウ族の福老が、歩いて現れる。
びっくりした滅帝が、質問してしまう。
「なぜこれたゲ?」
「ここまで泳いできたホー。」
深殿までの水路を福老は泳いできた。
福老の光と滅帝の黒い焔が深殿の中央で打ち消しあう。
ナナ子がノンの全身に狐火を巻き付かせる。
ノンが深殿の中央を跳び越え滅帝に十字剣を突き刺す。
「人が愚かである限り、わしは復活するゲ!」
「何度でも倒すワン!」
滅帝が倒され、椅子をどかすとそこには、真ん中に金色の点のある緑色の円があり、回りにも様々な色の円があった。
ノンが真ん中を十字剣で突き刺す。
ノンの全身が光の柱で被われる。
その時、ノンの意識は別の世界に飛んでいた。
光る平原を霊獣、麒麟が走ってくる。
ノンの意識が戻った時、ノンが呟く。
「麒麟がくるワン!」
その言葉が繰り返され、広まる。
滅帝が倒された後、シゲルを代表とした臨時政府が樹立される。




