19.ノンの過去とミツルの記憶
ノンたちは、ミツルの家で瞑想をしている。
既に転生したタダロウはノンと統合している。その結果、ノンのビビりな性格はかなり収まっていた。ただ胴長短足のノンは座るのはかなり難しい。
「座るのが難しいワン。」
ノンは座布団を三枚も尻の下に敷いて、何とかノンは瞑想に深く入る
その日、瞑想にノンが深く入ると、ノンは東昇維新直前のアオイ帝国に小栗スケシゲとなって転生していた。
(あれれ、また、別の転生を思い出している??)
どうやらノンとして転生する前に小栗スケシゲとしても転生していたようだ。
つまり、ヤスベエ、スケシゲ、ノンが転生の順番になる。
そして当時の小栗スケシゲは、アオイ帝国の財務官である。更にスケシゲは、御戸藩のフジタ西湖と、小石川の避難所で会っていた。
御戸藩は、長い海岸を持ち、外国から開港要求される事を恐れていた。
彼らは、東大陸の文殊帝国で実際に起きた麻薬戦争とその結果、麻薬中毒による廃人が大量に発生していることに危機感を持っていた。
その御戸藩で攘夷運動の中心にいる男、フジタ西湖とアオイ帝国の財務官、小栗スケシゲは会っていた。
フジタ西湖が頭を下げて、礼を言う。
「母について、ここを勧めてもらった事に礼を言う。」
西湖が、地震で母親を助けようとして死ぬ事を避ける為、スケシゲは強引に小石川の療養所へ母親を移らせていた。
(スケシゲの日本では、安政の大地震でフジタ西湖は母親を助けようとして死ぬ。)
そこで、スケシゲは西湖に母親のリュウマチに効くと言われる漢方薬を小石川で受けるべきだと勧めて移らせたていた。
その数日後、大地震が起き、西湖と母親がいた屋敷は壊滅する。
もし、移らなければ西湖と母親は共に死んだはずであった。
小石川の療養所をスケシゲが勧めた事は結果として西湖と母親を救った事になる。それに対しての西湖の礼だった。
スケシゲは、西湖に話があると告げ、近くの空き地へ誘う。
スケシゲは、従者に種子島とライフルで的に撃たせる。結果はライフルが圧倒的に優れていた。
スケシゲが西湖に言う。
「力がなければ、哀しむワン。」
武力がなければ、植民地にされる世界だ。
スケシゲが言う。
「百姓を守るにも力が必要ワン。」
スケシゲは人々のほとんどが百姓であることを指摘している。
スケシゲが二つの水の入った桶を置く。西湖が聞く。
「この水は?」
「1つは夜来浜の水ワン。」
「なぜ水ですか?」
「貿易の港には腐らない水が必要ワン。」
「それは知らなかった。」
「知恵がなければ、苦しむワン。」
「つまり、人々を守るには、知恵と力がいる。」
スケシゲが深く頷く。
そして二つの桶に入った水を西湖は持って帰る。
一つの桶には、夜来浜の水道水、もう一つの桶にはアラカワの水が入っている。
これは後に、西湖の先見性として説明される貿易港の必須条件である水について西湖が理解するキッカケになる。
スケシゲは前世の時、横浜港の水が赤道まで腐らないと貿易論で習った事があった。
つまり水がすぐ腐らない事が貿易港の必須条件である事を知っていたので、その事を西湖に教え御戸藩における内乱を小さくしたのだった。
ノンはこの国の過去に何度も生まれていた。そして、転生した結果、良かった点もあれば、良くない点もある。
だからこそ、英雄の試練で七つの力を得たら良くない点の社会変革をナナ子と共にする必要があり、可愛いことが必要なのだとあらためてノンは思った。
ミツルは瞑想のなかで小さな頃の公園での記憶を思い出していた。ミツルがある日、公園で近所に来た子供のゴリラ族たちのいじめを受けていると、ミツルは大人の雑犬族を呼ぶ。
「こらっ。弱い者いじめするんじゃない。」
子供のゴリラ族たちは雑犬族の大人を睨み付けて去る。
「覚えてろゴ。」
その公園には、ホームレスと呼ばれる雑犬族の男がいた。
彼は公衆トイレで着ている物を洗濯し、近くの川で自分を洗っていた。
雑犬族の男が言う。
「ありがとうございますワウ。」
「当たり前の事をしただけブー。」
ミツルは昔は、みんながみんなの心配をするのが、当たり前の事だったと言う。
「じゃあ、今はどうしていじめが当たり前なのワウ?」
「きっと余裕がなくなったブー。」
ミツルが、どうして公園に住んでいるのかと聞くと、彼は自らの過去を話し始めた。
彼は水飲み百姓であり、水飲み百姓は米の量が足りないので大根などを追加して空腹をごまかすしかない。
それでもある年、不作で地主に米を納めた後に何も残らなかった。
彼にできる事は、村にいれば飢えて死ぬしかない。彼は飢え死にすることを考えた時、怖くなって都会へと来た。
「飢え死にするのが怖かったワウ。」
「だから、村から逃げたワウ。」
そもそも農業には、天候リスクと豊作リスクがある。天候リスクとは、猛暑、冷夏、日照り、多雨などである。
その上、豊作リスク、つまり豊作だと価格が下がってしまうのである。
アオイ帝国の時代は、天候リスクだけだったが、東昇帝国では、豊作リスクまでも百姓が負担する変更が行われる。
それは税金が金納、つまりお金で納めることへの変更だ。東昇帝国は近代化をする為、お金が必要になり、それまでの税金の取り方を物納から金納に変える。
だから、農業は大規模で多品種を作る事が普通の人には向いている。つまり天候リスクには、温度が高くても強い作物と温度が低くても強い作物を作るとか、単品農業のリスクをなるべく減らす事が必要になる。
豊作リスクには、消費者への販売経路の確保とかで対応する必要がある。
しかし、水飲み百姓には、そのような余地はない。
もちろん、中には小規模でもがんばっている農家はある。しかし、それはその農家に知恵と努力と運のどれかがある場合がほとんどだった。普通の水飲み百姓の彼には、真似できないものだった。
「そして、ずっと逃げてたワウ。」
何日か後、ミツルがまた公園に行った時、ゴリラ族たちの子供が、また、彼を襲撃していた。ミツルが現れると、ゴリラ族たちの子供は散る。
既に彼は、頭から血を流している。彼が苦しんでいたのでミツルは救急車を呼んだ。しかし、救急車は一回は病院へ運ぼうと乗せたが、どこも受け入れ先の病院がないので、救急車は公園へ戻ってきた。
苦しんでいる彼を置いて去っていった。
「何もできなくてごめんなさい。」
「そんな事ない。勇気を持ってゴリラたちに注意してくれたワウ。」
「どういうことブー?」
「村から出た時、俺は勇気を棄てた。負け犬ワウ。
でも、ウサギ族の子供へのいじめを見た時、勇気を取り戻せた。」
雑犬族の男は、ウサギ族の子供が、ゴリラ族の子供たちにいじめられているのを見て、ゴリラ族の子供たちに注意したのだ。その結果、ゴリラ族の子供たちから再び攻撃されたのだった。
「死なないでブー。」
彼が笑いながら言う。
「おかげで勇気を取り戻せたワウ。」
ミツルを見て最期に彼が呟く。
「俺は負け犬じゃなくて死ねるワウ。」
彼の意識がなくなり、ミツルは、何もできず彼は死んだ。すぐその後に、ウサギ族の子供とその親が現れる。
この国の医療には、もう余裕がない。このままでいいはずがない。ミツルが痛感した現実であり、まさにミツルがノンに英雄になって、実現してもらいたいのは、医療変革だった。
あらためてミツルは、覚悟を決める。
「雑犬族のおじさん、頑張るブー。」
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(面倒くさい話:農業)
農業は、会社組織で規模を持って、ちゃんと労働基準法を守って行われるべきだ。
そして、それだけの利益と将来性を持つ必要がある。
国家は、農業、工業、サービス業の基礎産業と情報産業を持つべきだ。
国際分業は、国家の安全保障から、常に考える必要がある。
この内、農業は特に根本的な変革が必要だ。
例えば、広い地域に点在する住宅を、駅前通りなどに集約し、病院も、商店も、郵便局も、必要な人とサービスを集める。
そうすれば、介護にしても、広い地域を回るのではなく、もっと短い移動で可能である。
もちろん、集約したことにより、軋轢もストレスも発生する。しかし、これは既にアパートなどで管理会社に経験とノーハウがある。
このままでは、廃村だらけで、農業が外資に乗っ取られるのではないのか?
これは、一つの案である。
ただ、このような根本的な変革が必要な事だけは確かだと考える。