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17.タダロウの決意

 ノンたちの前には大きな洞窟の入口があった。その入口の横には、表面に金箔が貼られた千受観音(せんじゅかんのん)像が彫られている。


 「邪魔ワン。」


 ノンが前にゾロゾロ現れては消えるカラス族たちにうんざりして言う。ノンたちは、彼らが邪魔するので入口に入ることができない。今、ノンたちは、洞窟の前でカラス族たちに囲まれていた。そしてカラス族たちが一斉に口撃を始める。


 「ビビり犬カー!」

 「ペッタンコ女カー!」

 「臆病ブタカー!」

 「棄て猫カー!」


 カラス族たちは、まずノンたちの心理的動揺を狙っている。

 しかし、ノンたちは、耳栓をしているので聞こえない。

 ナナ子が手話で指示する。


 (玉を投げてコン。)


 ミツルが丸い玉を前にいるカラス族に投げつけ、サラも同時に別の玉を千受観音像の前に投げる。


 ノンたちが、次の瞬間、目を手で隠す。


 突如、大きな音とまぶしい光が辺り一面を覆い、カラス族たちが動きを止める。

 ミツルが投げた玉は大きな音を、サラが投げた玉は眩しい光を辺りにばらまき相手の動きを止める武器だった。

 カラス族たちの連係が止まった隙に、ノンたちは前にいた何人かのカラス族たちを倒して、洞窟内へ入る。


 洞窟内に入るとノンたちは耳栓を外す。

 ノンがナナ子に言う。


 「占い通りワン。凄いワン。」


 「やはり、タマオノマエの再来ニャン。」

 

 「さすがだブー。」


 事前に敵に対して何が有効かナナ子の占いを参考に準備していたが、これほどあたるとは予想以上だ。

 ナナ子は、ペッタンコの胸であることを気にするのではなく、逆にタマオノマエの意思としてとらえている。


 「この位できて当たり前コン。」


 ノンたちは進むが、洞窟内へカラス族たちは追ってこない。

 その理由は、カラス族たちの空中殺法が洞窟内では使えないからである。

 カラス族たちの戦法は一撃後、空を飛べない者の攻撃が届きにくい空中へ逃げる。これを多人数で繰り返して、飛べない者が疲れて注意が途切れたところを殺す。

 これをカラス族たちの空中殺法という。だから、洞窟内にはカラス族たちが不利になるので入らない。

 カラス族たちは、通常は口撃で相手を分裂させ、空中殺法で倒すのだがそれは失敗した。


 カラス族たちが大声で叫ぶ。


 「卑怯者、出てこいカー!」



 ノンたちは、無視して進むと洞窟内の広い場所に出る。そして霧が洞窟内を満たし、4つの扉が表れる。

 これが英雄の試練、陽霊における扉である。自分に自信を持っていない者に扉が表れる。

 事前にナナ子から説明を聞いていたノンたちは、それぞれ自分の前にある扉を開けて入った。


 ノンは、霧の中でビビりながら一歩ずつ歩いている。ノンがビビりなのは、もちろん理由がある。元になったコーギーと言う犬自体がビビりであり、臭覚と聴覚が敏感で、なおかつ経験と知識が少ないからである。

 その事を理解している内心のタダロウもノンの事を言えない。

 タダロウも、自分が自分でなくなる事を恐れて、ノンと統合していない。経験と知識が少ないノンに、タダロウの経験と知識が統合されればノンは、もう少しビビリを減らせる。そして自信を持てる。

 ノンとタダロウという自信のない二つの存在より、自信を持った一つの存在が必要だ。

 理屈では分かるが、タダロウはタダロウとして存続しない事に迷っていた。

 しかし、もう決断する時だとタダロウは思う。

 このまえではダメだ。また、公園で孤独するわけにはいかない。


 「新しい未来を手に入れる。」


 タダロウがノンと意識を統合する。


 しばらくするとノンの周囲から霧が晴れていた。



 ナナ子は、気がつくと小さな子供に戻っていた。

 まん中に母のクズハ、反対側には小さな姉のモモ子がいた。

 まん中のクズハがナナ子とモモ子の手をつないで通りを歩いている。きっと、これはナナ子の小さかった頃の記憶だ。


 モモ子の側を歩いている人は皆、モモ子とすれ違うと、振り返り、中にはモモ子が可愛いとさえ囁く。

 しかし、ナナ子の側を歩いている人は、誰も振り返らない。


 ナナ子は、姉のモモ子ばかりがちやほやされているので、母のクズハに聞く。


「なぜ、ナナ子は可愛いくないのコン?」


 ナナ子は泣いていた。

 クズハはモモ子の手を離し、両手でナナ子の肩に手を置き諭す。


 「お前は、大魔法使いのタマオノマエによく似ているのじゃ。」


 クズハはナナ子を抱きしめて更に言う。


 「だから他人の言葉など気にしてはいけない。

  お前の価値はお前が決めるのじゃ。」


 随分、小さな時に言われた事をナナ子は思い出した。そして、ナナ子は今はっきりとクズハの言葉と愛情を理解した。その時、小さなナナ子は泣きやみ、周囲の霧が晴れた。



 ナナ子が目を開けると、皆がナナ子を見ていた。

 ナナ子が最後だった。ノンがナナ子にニコッと微笑み言う。


 「進もうワン。」


 ノンたちが洞窟を進むと、再度広い場所に出る。

 そこには頭に黒い角を二本はやした山羊の像があぐらをかいて座っていた。額には逆五芒星が光っている。ナナ子が叫ぶ。


 「風と雷の魔像コン!」


 ナナ子が叫ぶと同時に、魔像の目が光り、風刃と雷刃が飛ぶ。

 風刃は、空気なのたわが物質を斬り、雷刃は、電気だが、やはり物質を斬る。

 風刃と雷刃をよけ、ノンとミツルが何とか魔像に近寄ろうとするが、なかなか難しい。

 サラがクナイを投げるが、風刃と雷刃に叩き落とされる。

 ナナ子が宝炎剣に念を込め、魔像をすっぽり包むほどの炎球を魔像へと放つ。ノンとミツルも炎球と同時に進む。  

 モエが叫ぶ。 


 「同時攻撃よ!」


 ナナ子が炎球を魔像に放ち、更にサラのクナイが投げ、ノンとミツルが魔像へ風刃と雷刃を受ける事を恐れずに十字剣と短槍を額と胸に突き刺す。


 魔像は、全ての同時攻撃を防げず、ノンとミツルの攻撃で魔像が崩れる。


 「やったワン。」

 

 ノンとミツルが崩れた瓦礫を除くと、魔像の下に逆三角形の黄色い絵柄が現れる。ノンは十字剣をその中心へ突き刺す。


 ノンが十字剣を突き刺した時、ノンの意識が急速に空へ上がり、更にこの星の外まで上がる。その時、ノンの前に光りの海が宇宙に広がっている光景が現れる。ノンは光の海へと入る。


 ほんの一瞬なのか、かなりの時間なのか、ノンの意識が戻り、ニコッと微笑む。

 ノンは、第三のチャクラ(陽霊)の力を得る。


 それを見て、ナナ子もミツルもサラも、モエも微笑む。


 「光の海が、空の上に広がっているワン。」

 


 



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