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16.タマオノマエ

 

 ノンの内心にいるタダロウは、今、東昇帝国以前にも、転生していた事を思い出している。

 (どういうわけ???)

 時代は、約三百年ほど前の時代だ。


 コーギー犬族のヤスベエと秋田犬族のクラノスケを先頭に高家の屋敷に七人の剣士が門を壊して入る。

 この七犬士、全員、しっぽが赤かった犬人族なので後に赤尾の七犬士と呼ばれる。


 クラノスケが宣言する。


 「やあ、やあ、我らは先に切腹されられた南山藩主の遺恨を晴らす為、高家の邸に討ち入る者なり!」


 派手な陣太鼓を鳴らし、剣士たちが高家の邸へと消える。

 


 彼らをむかえるのは、カカシ侍たちだった。カカシ侍は、普段は庭の掃除などをしているので、手に持っているのは、竹のホウキや熊手などである。名前の由来は、その表情が、"へのへのもへじ"だからである。


 「テキダ、ワラ。テキダ、ワラ。」


 カカシ侍たちは大魔法使いタマオノマエによって作られた式神もどきである。彼らワラ、ワラと叫び七犬士と戦う。彼らは藁でできているので手を切っても、足を切ってもひるまない。


 ノンの前世の一つ、ヤスベエが叫ぶ。


 「首を断ち切れワン。」


 カカシ侍たちは、首を切ってやっと動かなくなる。



 すべてのカカシ侍を破壊した後、蔵の中にいたタマオノマエを見つけて七犬士が取り囲む。


 天弧族の大魔法使いタマオノマエは、白面金毛九尾と言われ、ただでさえ見た目が派手なのに、黒革に磨いた天保通宝(丸い小銭で真ん中の穴が四角)を縫いつけ、蛇皮線を持っていた。


 「やっと来たのでありんすか。」


 もともとタマオノマエは、男女同権を唱え、派手な姿で蛇皮線を鳴らして市中を踊り、保従派から憎まれていた。今までにも何度か暗殺者が送り込まれていた。

 

 赤尾の七犬士が刀をしまい、ヤスベエが頭を下げる。


 「大変申し訳ありませんが、死んだ事にして下さいワン。」

 タマオノマエは、ヤスベエを見て言う。


 「惚れた男に頼まれては、さすがのワッチも断れないコン。」




 実は、天弧族のタマオノマエとコーギー犬族のヤスベエは、恋人同士だった。そして、なるべく死者を出さない為に、刀を持たないカカシ侍を配置し、警護の者たちと奉公人は帰していた。

 

 保従派たちにとって女だてらに男女同権を主張することが許しがたいことだった。だから、タマオノマエを討伐すれば南山藩を再興するという事で、七犬士にタマオノマエを討ち取る話を持ってきたのである。


 「全く難儀なことでありんすコン。」


 人が自給自足し、寿命が五十才にならない多産多死の社会の道徳(ルール)だった従教は、保従派の信仰であり、支配の為の道具だ。だが、従教とは、大昔の道徳(ルール)である。


 「大昔のままの方が支配しやすいワン。」


 ヤスベエがため息と共に言う。


 従教は、生まれた時点でその人の価値が決まる道徳(ルール)であり、上流階級に生まれたらそれだけで偉いとされ、男は女より偉いとされる道徳(ルール)だ。従教のルール集である師匠護教(ししょごきょう)は、支配者側がボンクラでも支配できる手段である。

 

 そんな保従派に対して、これからは商業に目をむけ、能力によって男女にかかわらず評価すべきだとタマオノマエは主張した。ただ、まだまだ世の中が受け入れるには早かった。


 世間がほとんど受け入れない中で、ヤスベエはタマオノマエの話を理解し賛成さえしていた。なぜヤスベエはタマオノマエの主張を理解し賛成できたのか?

 それは、ヤスベエの内心には、タダロウがいたからである。


 タダロウは、ノンに転生する前にヤスベエとして、転生していたことを思い出していた。

 そして、タマオノマエの姿を見て、なぜナナ子の好意を得ようと必死なのかも分かった。前世でもタマオノマエは、細目で胸はペッタンコだったのだ。


 タマオノマエはクラノスケに自分に似せた首の入った桶を渡す。そしてもう二度と会えないヤスベエに言う。


 「いつか、かならず夫婦になろうコン!」

 「必ずなろうワン!」


 後の世では、タマオノマエが赤尾藩を乗っ取り、塩であくどく儲け、それを七犬士が止めたと伝えられる。

 しかし、実際の赤尾藩の儲けと言われるものは塩の先物取引であり、才能のある天狐屋の商人の上納金だった。

 つまり赤尾藩は塩田だけで儲けたのではなく、塩田を使った先物取引で儲けを出していた。

 だが商業を蔑視する保従派は、赤尾藩の塩田を手に入れさえすれば、儲けが手に入ると、赤尾藩を取り潰す。そして塩の値段を上げて庶民の不満をまねく。

 そこで悪いのはタマオノマエと責任を転嫁して七犬士が討ち入るという話をでっち上げる。


 ノンが目を開け、叫ぶ。


 「ヤスベエはタマオノマエを殺してないワン!」


 ノンが思い出したタマオノマエとヤスベエの話を聞いたナナ子が、後で高家の刀自であるクズハに、タマオノマエの話を確かめる。


 そして、ノンの話が本当で、タマオノマエは殺されなかった事をナナ子は知る。

 しかもタマオノマエは細目で胸はペッタンコであり、今度生まれた時も、ヤスベエに見つけてもらう為に、細目で胸はペッタンコにすると言って死んだ事を知る。


 ガーン。


 細目もペッタンコの胸もタマオノマエの呪いとでも言える願いだった。しばし、ナナ子はショックを受け、思わず言う。


 「細目はともかく、胸は成長しないのコン?」


 「絶対に成長しないペッタンコと宣言していたワン。」

 

 どうやらタマオノマエの理想は、凛々しい少年のような姿らしい。

 ナナ子か、膝を屈してしまう。


 「タマオノマエ様、どうしてなのですか?」


 ナナ子が、胸を抱えて叫ぶ。


______________________

(面倒くさい話:基準としての思想)


 これは、一つの仮説である。


 かつて、人類には社会を大変、変えてしまう二つの革命があった。

これが、農業革命と産業革命である。


 農業革命以前の人々の社会から、農業革命以降の社会へ変わった後、宗教という社会の基準が其々の社会において作られる。


 そして、産業革命において、再び、人々に資本主義(キャピタリズム)共産主義(コミュニズム)という社会の基準が作られる。


 そして今、情報革命が起きている。

 どのような基準が作られるべきなのか?

 これが、今、其々の社会において問われているのではないか?


 其々の時代で、其々の社会が、より良く発展できるような基準としての思想は何になるのか?


 一つの仮説として衡平主義(バランスイズム)を提案する。


 適材適所を社会の基準としてはどうだろうか?


 これは、貧乏人から金を巻き上げて、金持ちを優遇するのではなく、金持ちから税金は集めるべきだという思想だ。

 そして、其々のできることで、社会に貢献できる社会、男だけでなく、女でもその能力に応じて貢献できる社会が、やはり、社会としては、より良く発展できると考える。

 

 そのようなことを考えてもらえたら、この章には、意味があると考える。

 

 

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