104.虹の橋
ノンが目を覚ます。場所は以前に見たことがある。
暫くしてノンはこの場所が、転生の時に来た事がある場所(霊界)だと思い出す。
そこで懐かしい「ワン」と言う声を聞く。
前世で公園で出会い、公園で共にあの世に旅だったチャミの声だ。随分前に魂を統合してから聞いていなかった。
チャミがノンの意識に直接言う。
(ここでお別れワン。)
チャミがここで魂を分ければ、ノンは助かると言う。
(また、俺を残して逝ってしまうのか、)
(待っている人がいる。)
ナナ子の心配している顔が浮ぶ。
(悪いな。頼む。)
ノンはチャミにそう言うしかない。その思いを一番分かっているのがチャミだ。
命をかけた願いの対価を誰かが払わなければならない。
その対価を払う為、ノンとチャミが魂を分離して、チャミの魂が虹の橋を渡っていく。
ノンが涙を流しながら手を振る。
「ワン」一声、チャミが吠える。
ノンが目を開けた時、ナナ子が横で眠っていた。
ノンが生死の境からかえって来てから四年の月日が流れる。ここは神義官庁に併設された保育兼幼稚園だ。
コーギー犬族のタロウはまだ三才だが、獣人としてはそれなりに判断力があり、いつもついてくる天狐族の妹の八重子に弟のジロウの事で注意する。
タロウが言う。「ジロウは先祖返りだからまだ幼児ワン。」
手をつないでいる八重子に言う。
ジロウが言う。「ネーネー、早い。」
八重子が言う。「だって兄様が早いからコン。」
ナナ子が生んだ三人は長男でコーギー犬族のタロウ、長女で天狐族の八重子、そして次男で神族のジロウだ。
本当に稀ではあるがコーギー犬族と天狐族のように違う種族の場合に先祖返りが起きて神族が生まれることがある。
そして神族の場合は、人が基本だからまだやっと歩けるぐらいでしかない。まあ、その代わりに寿命は長い。
そこへ母親のナナ子が現れる。
三人は、中庭で遊んでいたら、いきなり通り雨がきて雨に塗れたのでシャワーを浴びた後である。
ナナ子がタロウに言う。「ジロウはちゃんと下着を着けないとダメコン。」
ジロウがしまったという表情をする。
タロウも八重子も獣人なので基本は全身が毛皮で覆われている。
しかし、ジロウはまだ小さいとはいえ、毛皮がないので怪我をしやすく、今のうちから服を着る習慣をつけないと全裸で行動する癖がつく。
だからナナ子はいつもジロウには服をつけさせている。
ナナ子は、天狐族の最強にして最凶の奥義を使った後、ノンから生命力を分け与えられた。だから一週間後には、目が覚めた。
ナナ子がジロウにパンツを着せているところへ、ミツルとカオル姫が自分たちの子供たちと現れる。
ミツルのところは、毎年二人ずつ生まれてもう六人である。そして今もカオル姫は妊娠しており、また二人生まれる予定だ。
最初に生まれたミツ子は長女、次は長男のミツ夫である。次の年に生まれたのは、次女のヨツ子と次男のヨツ夫、まだ一才なのが三女のイツ子と三男のイツ夫である。
ミツルとカオル姫はそれぞれ一才児の三女のイツ子とイツ夫をおぶっている。
獣人としては過保護だが、ナナ子がジロウを一才の時におぶっていたので長女と長男がせがみ、以降は真似している。
ナナ子が言う。「毎年、よく続けるコン。」
つくづく子供の世話、特に幼児の世話は手がかかるのにと感心するナナ子だ。
もちろんミツルとカオル姫は、凶皇を倒した後は、軍女神の担当をモモ子と将頼に任せ、もっぱら子作りに励み、大家族になっている。
もちろん、カオル姫の実家から何人もの家政婦さんとベビーシッターを呼んでいる。
カオル姫が言う。「まあ、旦那が子供好きだからブヒ。」
カオルの言葉は痩せていた頃と同じだが、体型は結構太りぎみだ。逆にミツルは痩せている。
ミツルは言う。「まあ、何とかやっているブー。」
ミツルの横を通り、長男のミツ夫が八重子に近づいて言う。
「ねぇ、今日は何して遊ぼうか。」
さっそく天狐族の八重子と仲良しに成ろうとミツ夫はしている。
そこへサラとマサヒロが二才児の三人を連れてくる。
長女で猫人族で耳が白いシロミ、次女で猫人族で耳が赤いアカミ、長男で獅子族のシシオが現れるが、いつもシシオは姉二人に頭が上がらない。
どうも父親であるマサヒロの影響でいつも勉強ばかりしている。
シシオは口癖のように言う。「僕は、おとうさんの成りたかった学者に成る。」
それを見るとサラは決まって言う。「無理しなくてよいニャン。普通で十分ニャン。」
マサヒロもシシオを見て言う。「健康が一番だぞ。」
八重子がシシオに近づいて言う。
「今日は何の本を読むの?」
どうも八重子は獅子族のシシオに興味津々だ。
その様子を見ているミツ夫にカオル姫が行けと指示する。
イケメンに負けるなという母親としての愛情だ。
そんな時にカオル姫が壁に掛けてある死天女の絵を見て思い出すようにアキラとシンニのことを言う。
「アキラやシンニはどうしているかノン。」
凶皇を倒した後、アキラとシンニは李製義たちと共に東大陸に渡った。東昇帝国は基本的に大陸へは不干渉であるので無事を祈る位しかできる事はない。
マサヒロが言う。「きっとそれぞれの民族の未来を取り戻そうと戦っているだろう。」
ナナ子たちは、その言葉に頷く。
ナナ子たちが話をしているところへ、打ち合わせが終わったノンが第二秘書の風音と現れる。
ノンは凶皇を倒した後は三ヶ月ほど意識を失っていた。どうやら魂の分離にかなり時間がかかったらしい。ノンは何とか意識を取り戻す。そしてかなりの後遺症があったけれども今は普通だ。
本当はチャミを分離した影響だがそれも後遺症としている。だからかなり性格と行動が違う。もう腹みせはほとんどしない。
ノンが言う。「ナナ子、子供たちは大丈夫ワン?」
ナナ子が言う。「大丈夫コン。」
ノンがナナ子と子供たちと一緒にいるところを入り口からノンの父親のタダ夫が見ている。
タダ夫は、今はこのビルの警備員をしている。そして警備のついでに孫を見ている。いや、孫を見る為に警備員をしている。
ノンがタダ夫に近づき言う。「ちゃんと外も見ないと。」
タダ夫が言う。「もちろんです。ただ最近は子供の行方不明が多いので。」
ノンが言う。「そこまで気を使ってくれてありがとう。」
ノンは父親になって素直に自分の父親に話せるようになった。
ただノンは、実はあの時、一緒に転生した犬が先に逝くと言って虹が光る世界に向かったことを誰にも言ってはいない。
でも、時々空に虹がかかる時、今でも人だった頃、飼っていた愛犬をノンは思い出す。
シシオが走ってきて空を指さして言う。「綺麗な空。」
そこには、虹がかかっている。
ノンが言う。「あれは、虹という橋ワン。」
シシオが聞く。「渡れるの?」
ノンは言う。「きっと心が綺麗なら渡れるワン。」
シシオが虹を見て言う。
「なら、みんなで渡りたい。」
ノンもタダ夫もシシオを温かく見ている。
------ ( 補足 ) ----------------------
・悪役のボスクラスのまとめ
・滅帝
・堕帝
・陰帝
・偽帝
・愚帝
・怒帝
・凶皇
これらの凶皇たちの目的は、人類の破滅です。
人類を破滅させ、もう一度、原始状態に戻す為、彼らはその配下と共に主人公たちと戦います。
そして、凶皇たちの手段が大嘘です。
転生したコーギーの世界では、具体的な大嘘の手段が宗教と均一主義です。
均一主義も宗教も地上の楽園を目指すと言っているが実際に作るのは地上の地獄同様の社会でしかありません。
・未来都市について
主人公たちは、自分たちの国の未来を手に入れる為、大きな社会変革をしようとします。
目標は衡平な社会の実現です。
でも、これはあくまで目標です。
現実社会においては、人々を動かす経済的フロンティアが必要になります。
それはかなり巨大な夢でなければ、社会を変革するだけの力を持てません。
その巨大な夢として未来都市の構築を進めます。
未来都市は大きく別けて三つあります。
・極地都市
・海底都市
・宇宙都市
これらは、第三次世界大戦のような核兵器を使用する戦争において、必要な産業基盤と共に人々が生き残る為、必要だと主人公たちは考えます。
・衡平な社会について
衡平な社会は、公平な社会とは違います。衡平な社会は努力に対して成果を報いる社会です。
そして人類の歴史とは、この衡平な社会の基準が変化した歴史である。
これが主人公たちの社会の歴史観です。
このような歴史観で考えた場合、人類の歴史は以下のように変化してきたという仮説が成り立ちます。
・原始衡平社会
まだ、人類の社会が原始的な区別でしか生産と分配をしていない社会。
・神話衡平社会
神話ないし物語が衡平の基準になる社会。多くの社会はその社会の神話ないし物語に基づいて生産と分配を行う。
・契約衡平社会
いわゆる封建社会などの基準が主従関係の契約として成り立つ社会。この段階では、まだ契約を作る側と契約が適切に運用されるいることを判断する側が明確に区別されていない。
・法律衡平社会
現代において法治国家と判断できる社会である。法律上、衡平な社会を目指す。なお、契約を作る側と契約が適切に運用されていることを判断する側が明確に分離していることが最低限の条件になる。
この最低限の条件を充たせない社会、具体的に言えば、均一主義国家(共産主義国家)はいくら自称しても衡平な社会を実現できる条件がない。
結果的に偶然、分配がよい社会が実現しても、それは偶然の産物でしかない。
まして次の段階である情報衡平社会への変革は、駱駝が針の穴を通るほど難しい。
・情報衡平社会
法律衡平社会が今、情報社会へ移行していることは、先進国では認識されている。
しかし、情報社会が情報衡平社会であるべきだとの認識はあまりない。
法律衡平社会では、情報衡平社会には不充分だ。
まず理由について説明する前に法律衡平社会の前提について説明しよう。
法律衡平社会は、人々の判断基準が実態にある。つまり現実の事物がまず判断基準になることが前提にある。
しかし、情報社会では情報が判断基準の中心になる。
分かりやすい例で言えば、風評被害がある。実態はないにも関わらず、誤った情報が人々の行動を誤らせる。
だから情報の真偽についての判断が重要になる。
これは情報社会の情報拡散が法律衡平社会とは比べるともの凄く拡大しているため、誤った情報が人も会社も情報社会で殺してしまう社会になっていることを認識するべきです。
この事実上無法地帯になっている情報社会をいかに情報衡平社会に変革するかがこれからの課題だと考えます。
なお、これらの面倒くさい話の続きについては興味があれば「新転生したコーギーだったニートの大冒険の世界についての補足」を参照願います。
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どうも長い間、読んでいただきありがとうございました。