10.目標となる言葉
ノンたちは、魔の森を進んでいる。
入滅帝札をナナ子が持ち、麻袋を乗せたリヤカーをノンが引き、ミツルが押している。サラは、普段使うビー玉ではなく、鉄玉を持って歩いている。
サラも白フクロウ族の福老が示す希望に興味があったので参加している。この国の希望は、自由と平等と博愛である。
この内、自由は、世界競争という究極の弱肉強食をもたらしている。
また、平等は、均一主義諸国という最果ての状態を作り出している。
更に言えば、自由と平等の調整機能としての博愛は、それぞれの社会によって違う。
結局、自由と平等には矛盾があり、人は、みんなで共通の目標へ向かって努力するのではなく、各人がそれぞれ生き残りの為に努力していた。
やはり、自由と平等と博愛は、前近代社会(王様がいる身分制社会)からの目標としての希望であり、これからの目標となる希望の言葉でありえない。
リヤカーの後ろでミツルと交替して押すノンは、キラキラした目で一生懸命だった。なにしろ白フクロウ族の福老と会えれば、ノンはケーキが食べられるとナナ子が言ったのである。ノンはしっぽをピッと立てて頑張っている。
「ケーキ、ケーキ、ケーキ。」
ノンは口から願望がだだ漏れしながらリヤカーを押している。
一方のミツルは心の中で呟く。
(誰かさんと誰かさん(ナナ子)はイチャイチャしているいいじゃないか。
いつかはミツルも誰かさんとイチャイチャするんだ。)
この前、ミツルが歌いだしたのは、ノンとナナ子がイチャイチャしていることに対しての心の叫びだった。
それぞれが色々な思いを持ってノンたちは、魔の森の奥、御神木の前に着く。
ナナ子が石の台に麻袋と入滅帝札を置き、白フクロウ族の福老を呼ぶ。
「大いなる福老よ。我らの供物を受け取り、英雄の目標とすべき希望を示したまえ」
しばらくすると、福老が降り立ち、麻袋の中のネズミを食べる。そして、入滅帝札を見て言う。
「英雄が目指すべき希望は、自由と衡平と友愛」
それだけ言うと、福老は飛び立つ。
だだ、それだけであった。
ナナ子は、帰り道ずっと考えていた。自由は、さまざまな工夫と努力の前提である。友愛は、取り合えず仲間としてお互いを認める集団の基礎だと考える。
しかし、衡平とは、どのような規準なのか?
そんなナナ子にノンの内心にいるタダロウが、ノンの意識に介入して言う。
「プロヒィットとリスクワン!」
タダロウが言った内容は、考える者は、その行動をする場合の危険性と結果の利益を比べて行動するという事である。
つまり、天下り官僚はローリスクにも関わらずハイリターンであるが故に皆が成りたがり、優秀な人材を吸い込むブラックホールとなる。そして彼らは現状の維持に全力を尽くす。
でも、もしも天下り官僚への給付が全国民の平均給付と連動するなら、官僚は全国民の平均給与を上げようと努力するだろう。
タダロウは、前世で聞いた話を基にナナ子に言った。
「きっと女神様がもつ秤ワン。」
テミス女神がもっている秤のイメージが衡平には一番ちかいとノンはナナ子に言った。
ナナ子の細目が、ノンから食気と色気以外を始めて開き驚いた表情を見せる。
(可愛いさと食い意地だけだではなかったコン。)
ノンもナナ子が実は、目を開くと美少女だと知って驚く。
(目を開くと美人ワン。)
そこへ、サラが言う。
「でも、あの教師の息子みたいに、イチャイチャする相手が見つからないワーキングプアは、たくさん、たくさんいるニャ。」
ノンがポカンとして、口を開いた。
すぐにナナ子がサラの言いたいことを補足する。
「その為には、この国から未来を盗むスパイたちを叩く必要があるコン。」
この国の産業から、知的財産権を盗み、公害を発生させて格安で情報機器を作るマフィアが存在する。
彼らと、手を組みこの国の未来を売り渡すハイエナ族たちについて、ナナ子は、父のシゲルからいつもグチを聞かされていたので、すぐ回答できた。
「知的財産権って、何ブー?」
比較的、物知りのミツルですら、良く分かっていない。もちろん、一般の警察官は分からないのが普通である。
「この国には、スパイ防止法がないので、ハイエナ族たちの餌さ場になっているコン。」
サラがビックリして言う。
「餌さ場はなってたニャン。」
知的財産権は、この国の特に中小企業においてやり放題である。だから、この国の経済発展はここ三十年の間、盗まれてきたのである。
そして、三十年の間、未来を盗まれた若者たちの現状が、ワーキングプアである。
ノンが叫ぶ。「盗人は、退治ワン!」
ノンの内心にいるタダロウは、元の世界で何が起きていたのか理解して、ノンに叫ばせたのである。
ナナ子が目を細めて言う。
「その為に、本当に命を賭ける覚悟はあるコン?」
ノンがナナ子の目を見て言う。
「もちろんワン。」
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(とっても面倒くさい話です。考え過ぎならそれでよい話:通信障害とセキュリティ・ホール)
情報社会において、核となる情報機器の一つが、チップと呼ばれる小さな小さな、まことに小さな情報機器である。
この情報機器に、もしも隠し扉があるとしたらどうなるだろうか?
つまり、分かりやすく言えば、建て売りの家に、建て主の知らない隠し扉があるのである。
盗人のやりたい放題である。
このような状態になる可能性について、度々であるが、「IT戦争の支配者たち」 深田萌絵 著に説明されている。
だから、例えば大規模な通信障害を発生させることが可能である。
現に今日で三日目の大規模通信障害が発生している。
では、何が目的で、盗人たちはこの大規模通信障害を起こしているのか?
まず一つは、この大規模通信障害を起こしたキャリアに、大規模改修をさせることで、このキャリアにもっとたくさんの隠し扉付きの情報機器を混入させて脆弱性を増すことである。
次に考えられる可能性が、外国とズブズブのキャリアに乗り換えさせる侵攻準備である。外国のズブズブのキャリアは、サーバーの安全性などないに等しい。
他にも、色々考えられる。
このような状態になる可能性を如何に減らすか?
まず、もって信じることを前提にした社会から、確かめることを必須とする社会への変換が必要だろう。
つまり、信じる者はほとんど救われない。
確かめる者だけが、生き残る社会。
これが、情報社会の常識だと考え方を変える。
これが、最初の一歩だ。