冠を被った鷹の王。
牛お化けさん達を倒した私に、ベック達は「よくやった! すごいぞ!」と、沢山褒めてくれる。
私の中で浮足立っていた小さな目的は、自分の存在意義に等しく大きな物となった。
ロジャースと会って、ジェフとロザリーの事が書かれた手紙を受け取る。
生みの親に興味は無い。
けど、それが私の使命。
ロジャースと会って無事じゃ済まないかもしれないし、その後の事は考えていない。
きっと新しい私が生まれるのだと、なんとなくそう思い描いていた。
だから私は強くなる。
ロジャースに会っても無事なくらい強くなる。
◇
その後、数日間私は牛お化けさん達を狩り続けた。
いくら食べても満腹までに至らなくなってしまったけど、私自身の力が強くなって、精霊達の存在がはっきりとわかる様になって来た。
火の精霊サラマンダー。
小さなトカゲの姿をしているけど、凄い力で爆発も起こせる攻撃が得意な子。
水の精霊ウンディーネ。
とっても美人な女の子で、水を使って攻撃も防御も出来るし、回復も出来ちゃう。
風の妖精シルフ。
透明な羽の生えた小さな女の子の妖精で、ウンディーネと同じで何でも出来るけど攻撃は苦手みたい。
土の妖精ノーム。
三角帽子を被った小さなおじいさんで、土の魔法で攻撃や防御が出来るけど、鉱脈を見つけたり道具を作るのも得意!
召喚すると、私の指示に従って、自分達の意識で動いてくれる。
そして、私自身も精霊と同じ力の魔法が使える。
ベックの言う話しだと、この辺りの魔物なら今の力でも十分すぎる程通用すると言う事なので、早速三人を連れて牛お化けさんとは別の魔物を狩りに来ている。
狙っている魔物は二種類。
どちらも巣を持たずに単独で歩き回って獲物を狩るタイプだから、森の中を適当に徘徊する。
一匹は“真っ黒オオカミ”とラタに名付けられて、その名の通り真っ黒な狼さん。
もう一匹は“角ウサギ”で、鹿の様な角を持った兎さん。
どっちの魔物も凄く攻撃的な性格をしていて、見つかったら必ず攻撃をしてくるみたい。
鼻の利くベックが先頭を歩き、ジャックとラタは私の後から着いて来てくれている。
ん? ベックの足が止まって腕を横にした。
私達は息を潜めてその場で小さくなって固まる。
「気を付けろ、ロジャースだ」
!?
私の目には何も映らない……みんな上を見上げている。
空を見上げると冠を被った大きな鷲が旋回している……あれがロジャース……
「ねえ、ロジャースはどうして空を飛べるのに、この森から離れないの?」
「あいつもジェフパラディースの一員だからさ。 ミラの事が気になって仕方ないのさ」
「ラタ達は、私の事をどんな風に思っているの?」
「おいら達はミラが大好き!」
「そうだよミラ、僕達にとって君は娘の様な存在なんだ……彼にとってもね」
「だからと言ってロジャースが危険である事には変わりない。 今はあいつが去るのを待とう」
そんな風に思ってくれているんだ。
それなら……
私は大声で「ロジャース!」と叫んだ!
ベックは頭を抱えて、ラタはパシパシと手を叩いて戦闘態勢に入った。
ジャックは私を守る様に身構えている。
空を大きく旋回していたロジャースが一気に急降下して、私達の目の前に風を巻き上げながら降り立つ。
「ミラ……ああ、ミラ……目覚めていた事は知っていた。 私の話しはそこにいる奴等から聞いて居るのだろう? 何故……私を呼んでくれた?」
ロジャース……とても怯えている目をしている。
本当はジェフとロザリーの手紙を受け取りたいって思ってただけだけど……どうしてこんな目をしているんだろう……?
「うん、ベック達からあなたの話しは聞いているよ。 どうして……他の仲間達を食べちゃったの?」
ロジャースは目を閉じた……そして、もう一度目を見開くと、怯えていた目は強い眼差しへと変化していた。
「欲望だ。 私は私の欲望に従い仲間を食い殺した。 一人……いや、一匹食う事に私は強くなった。 美味い物を食い、強くなるのは、快感だったぞ」
ベックが牙をむき出しにして唸り声を上げ、ラタは低く構えて「シャアーー」っと蛇が威嚇しているみたいに喉を鳴らした。
ジャックは「哀れだ……」と呟いて、剣の切っ先をロジャースの眼前へ向けた。
ロジャースは僅かに口角を上げ、堂々とそこに立っている……
戦闘が起こる事を待ち望んでいるみたいに。
「ロジャース……それは、私の為?」
私がそう告げると、一瞬だけ……ロジャースの表情が曇った。
悲しそうな表情だった。
「ハッハッハ……私が仲間を食った事に君は関係が無い。 あくまで私は私の欲望に従い仲間を食った。 どんな事をしても生き延び、快楽を得る為に私は仲間を食った。 私は……私は君の事も食いたいと思っている」
ロジャースがそう告げた瞬間に三人が一斉にロジャースに向かい飛び掛かった!
けど、三人共ロジャースに弾き飛ばされてしまう。
三人は上手く受け身を取って、軽い傷だけで済んだけど、三人の攻撃でロジャースは大きな傷を負っている。
ベックの鋭い爪が真面にロジャースの肩を抉っていた。
「三人掛かりでこの程度か? 私が本気になればさっきの一瞬でミラを連れ去る事が出来たぞ?」
三人ともロジャースの挑発には乗らず、すぐには飛び掛からない。
ただ……ジャックが私の傍で守る姿勢になった。
三人共ロジャースと戦った事があるし、きっとロジャースは本当の事を言っているって事だと思う。
「ロジャース、ジェフとロザリーの事が書かれている手紙は持っているの?」
「ああ、私の巣穴で保管している」
「譲って貰える事は出来るかな?」
「断る。 それが欲しいのなら力尽くで奪いに来る事だ」
私はサラマンダーを召喚して、ロジャースに攻撃命令を出す!
燃え盛る炎の攻撃がロジャースに纏わり着くと、ロジャースはとても辛そうにして空へ飛びあがった。
ラタが射程範囲から逃れるロジャースよりも早く木を駆け上がって、追撃の一撃を与えたけど、そのままロジャースは誰の手も届かない上空まで逃げ込んだ。
空高くを旋回した後、ロジャースはその場から去っていく。
向かった先は巣穴……?
「おいらがあいつ追って巣穴を見つけて来る。 皆は泉で待っていてくれ」
「わかった、任せたよラタ」
ラタは再び木の上へ駆け上がって行き、ロジャースの後を木から木へと飛び移りながら追っていってしまった。
皆はロジャースの事をとても恨んでいると思うけど……
私は……もう一度ロジャースと話がしたいと思ってしまっていた……
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