狼の人形ベックとミラ。
狼さんが言ってた泉ってこの湖の事? 確か、ジェフパラディースって呼んでいたけど……
巣穴が……あるのかな?
「ミラ、服がボロボロだ。 修復のさせ方はわかるか?」
服……? 本当だ、体を捻ってドレスの色々な部分を見てみると、草の中を走っていたせいで色々な所が引っかかって破いちゃったみたい。
でも、お裁縫なんてやった事無いし、ドレスを修繕するなんて出来ないと思う……でも、少しでも生き延びるにはやるしか無い!
「針と糸があれば、出来ると思う」
「違うぞ、レメディウムの魔法を使えば治る。 やってみろ」
「魔法? 魔法ってどうやって使うの?」
「手本を見せてやる」
狼さんが「レメディウム」と唱えると、汚れていた狼さんが綺麗になっていく!
凄い! これが魔法? 私にも出来るのかな?
狼さんの真似をして私も「レメディウム!」と唱えて見たけど、なんにも起きない……
「魔法を使う時は対象をはっきりと意識しなければならない。 自信に強く意識を向けてもう一度やってみるんだ」
狼さんに言われた通り、強く自分を意識してもう一度「レメディウム!」と唱えた。
すると、ボロボロだったドレスが綺麗に元通りに! 凄い! 魔法を使えた!
けど……魔法を使うとなんだかすごくお腹が空いちゃった。
狼さんも魔法を使ったし、きっとお腹が空いているはず……ついに私、食べられちゃうのかな?
「疲れた顔をしているな、食事はまだ取っていないのか?」
「うん……目覚めてからは何も食べていないよ」
「そうか、それならこっちだ」
狼さんの後に着いて行くと、湖の外周を少し進んで脇道へ入った。
そこには木の柵があって、中には沢山大きな兎さんがいる!
凄く可愛い茶色の兎さんだけど、背丈が私よりも少し小さいくらいだし、ちょっとだけ怖い。
狼さんは柵の中へ入って兎さんを一匹捕まえてくると、私の方へ向けて「食べろ」と言ってくる……
そりゃあ、狼さんなら兎を食べられると思うけど、私には出来ない。
どうすればいいか分からないので、とりあえず狼さんの腕の中で大人しくしている兎さんを撫でていると「殺さない様にな」と狼さんが告げた!?
どういう事なのかさっぱり分からない……
「狼さん、この兎さんを……食べるんだよね?」
「そうだ、食事の仕方が分からない様だな。 魔法を使った時と同じように兎に意識を集中させて見るんだ。 そうすれば生命エネルギーが溢れ出しているのが分かる。 それを吸うイメージで手を当ててみろ」
狼さんの言った通りにすると、兎さんから何かモヤモヤしている光の帯が見える。
これが生命エネルギー? 兎さんに手を当てて生命エネルギーを吸うイメージを浮かべて見る……
何これ……お腹が満たされていく――それと同時に兎さんの生命エネルギーが少し弱くなったみたいだから吸うのを止めると、狼さんは柵の中へ兎さんを戻した。
「上手く吸えた様だな」
「うん、不思議な感じ。 兎さんは平気なの?」
「ああ、少し疲れているが時間が経てば元気を取り戻す。 兎は“俺達のような人形と違って”自然に体力を回復出来るからな」
「え? どういう事? 人形?」
「ミラは自分を人間だと思っているのか?」
「違うの?」
「俺もミラも、誰かが作った人形だ」
「人形なの……私? でも、人形って……動いたりしないよね?」
「そうだな。 俺達は普通の人形では無い。 魔法生命体とでも言えば解かりやすいか?」
「魔法生命体……人形に魔法で生命活動させている人が居るって事?」
狼さんは「うーん」と呟いた後、色々と教えてくれた。
まず、ジェフパラディースの事。
この泉は人間の寄り付かない森の奥にあって、私が幸せな日々を過ごせる為に作られた楽園。
ここに居る限り食べるのには困らないし、危険な動物や魔物も入って来れない様に作られている。
そして、狼さんの事。 狼さんの名前はベック。
ベックも人形だけど、普通の狼さんと同様に鼻も利くし、鋭い爪や牙も使える。
他にもラタと言うリスの人形とジャックと言う兵隊の人形がいるみたい。
私はこのジェフパラディースではお姫様と言う扱いらしく、三人は私を守る為に存在しているのだと言う……
私は誰かに魔法で生命活動をさせられているのでは無く、魔法で生み出された自由意思を持った一人。
魔法生命体と言うのは、そういう事らしい。
私には必要最低限の知識が、私を作った人間基準で与えられている。
つまり、この森が凄く大きな生き物の世界だと思っていたけど、私が小さかっただけみたい。
だいたい50cmくらいが私の身長。
ベックの他にいる二人はお仕事をしているみたいで、今はこのジェフパラディースにはいない。
そのうち帰って来るみたいだから、その時に紹介してくれる。
ベックのお仕事は私がいつ目を覚ましても大丈夫な様に見守る事で、これからは私の護衛をしてくれるみたい。
「これから宜しくね! ベック!」
「ああ、よろしくな、ミラ」
目覚めたばかりの私にベックはこのジェフパラディースを案内してくれる。
泉の東側が私達のいる場所で、他の場所はまだ未開拓。
ベックに案内して貰ったのは、沢山お花が植えてある花壇。
食事の為の兎小屋と、ベックの友達の本物の狼さん達のねぐら。
私が眠る為に作ってくれた綺麗な小屋。
他にも色々あるみたいだけど、危険だから私は行っちゃ駄目みたい。
安全に生活出来る範囲でなら自由に過ごしていても構わないと言われたけど、ここには娯楽と呼べるものは何も無い。
お散歩は楽しいけど、同じ所ばかりを行ったり来たりしてもすぐに飽きてしまう。
「ベック、今日はいいんだけど、明日から私も何かしたい!」
「何かか……それなら花の手入れを頼む。 朝の水やりだけしてくれれば大丈夫だ」
「それだけ?」
「それだけだ、時間を持て余す様なら釣りでもするか?」
「釣り? うん! やってみる!」
「それでは、明日釣りのやり方を教える」
釣りって私達にとって何かの役にたつのかな?
ただ楽しむ為だけに釣るのはお魚さんが少し可哀想な気がする。
でも、ベックと約束しちゃったし、明日は釣りを楽しもう!
少し森が暗くなって、そろそろ他の二人が帰って来る頃みたい。
ベックは二人を紹介する為に、三人でいつも集まっている場所まで案内してくれた。
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