告白
男は、とある屋敷で召使いをしていた。そして、男は超えてはいけない一線の狭間で苦悩していた。
──男は、その屋敷の令嬢に恋をした。
白く儚げな肌と、無垢な笑顔。
男を虜にしたそれに触れた瞬間、男は生きる術を失うだろう。
男は狂おしいほど悩み、そして、決意した。
──この気持ちを伝えずに狂死するくらいなら、気持ちを伝えて、屋敷を去ろう。
男は、その気持ちを手紙に認め、令嬢の部屋にそっと置き、姿を消した。
──その後男は、街ゆく人の話の端で、令嬢の死を知った。病弱な少女は、その運命に抗えずに……。
男は後悔した。
殺されてもいい。令嬢に直接、想いを伝えるべきだった。
会いたい、死に顔でも構わない、一目でいいから……。
男は夜の墓地に向かった。そして、スコップを土に突き立てた。無心に土を堀り返し、現れた棺の蓋を開いた。
──だが、それは別人だった。
男は諦められなかった。毎夜、静寂に満ちた墓地に、土を掘る音が響く。
しかし、令嬢は見つからず、不審に思った墓守に見つかった。
男は罰として、墓石に鎖で縛り付けられた。
日は経ち、男の痩せこけた肌は黒ずんでいく。そして気付いた。
──俺は、不死になっている。
そして、恐ろしい事に気付いた。
このような姿で彼女の前に現れて、怖がらせてはならない。
男は決意した。
──生きた肉体を手に入れる。それには、新鮮な死体を……。
男は、戒められた墓石を引き抜き、立ち上がった。
鎖の重みも苦にはならない。夜闇の墓場を進み、美しい花が手向けられた墓の前に立った。
そこに、スコップを突き立てる。ザッ、ザッという音が辺りに響く。
その肩に、ポンと手が置かれた。
男は驚き振り返った。そして、息を呑んだ。
「イヴェット様……」
白く透き通る肌の少女は、男を見て微笑んだ。
「グレイヴ、ずっと待ってたわ」
少女は語った。
手紙の返事をしたくて、冥界へ行けなかったと。
「でも、今なら言える。私も、あなたも、もう自由だから」
白い手が、グレイヴの土で汚れた手を覆った。
「私も、あなたと、想いは同じ……」
東の空に光が差した。朝に照らされた墓地には、誰もいなかった。