友情と恋のおはなし その5
呉は考えた。如何にして九条さんから話をしてもらうか。少し考えると答えは一つしか思い付かなかった。単刀直入に聞くことである。たぶん、小細工するよりかはしっかりした答えが返ってくるだろう。回りくどく聞いて九条さんがこちらの真意を汲んだら誤魔化しの事しか言わないだろう。むしろ真っ直ぐに聞いた方が九条さんも逃げれなくなる。ただ、一つ問題といえば、雨堂がどういった態度に出るかである。雨堂は九条さんのことを溺愛している。英二が雨堂に認められれば手伝ってくれるだろう。逆に気に入られなければ全力で邪魔してくるだろう。それだけ雨堂は九条さんのことを大事に思っている。と呉は考えた。ならどうするか。考えついたのはこれである。
「ちょっと、雨堂こっちこい。」
「ん、なーにぃ。」
呉が手招きすると雨堂はへらへらとした顔をしながら呉の方に来た。それに九条さんは不思議がった。
「二人でどこに行くの?」
「ちょっと資料探しを手伝ってもらおうかと。」
「なら、私も手伝うよ。」
「いや、九条さんは英二と勉強を続けていてくれ。二人で探したらすぐだから。」
「そうそう!葉月は勉強続けてて。」
呉と雨堂は英二と九条さんを残して本棚の方へと行った。英二と九条さんは怪訝な顔をしていた。
雨堂を隅に連れていくと呉は単刀直入に言った。
「雨堂、お前に頼みがある。」
「佐藤くんと葉月のことでしょ。」
「そうだ。」
一応、呉は驚いた反応をしたが、それは予想の範囲内であった。あんだけ園芸部の手伝いをしている上に九条さんとどぎまぎしながら話してたら普通の女子ならわかるだろう。
「なら話が速い。九条さんってどうなんだ恋愛に関しては?」
「うーん。消極的ではないけど積極的でもないわね。」
「じゃあ、好きな人はいないのか?」
「いないんじゃないかな。そういう話をしてもいつもいないよと言ってたし。特別興味持っている人もいないと思う。」
「そうか。」
「佐藤くんも大変ね。」
「まあな。」
「そうだ。それとなく聞いてみましょうか?」
手を合わして雨堂はにこにこしながら言った。呉はこいつ親友の事なのに楽しげだなと思った。
「てか、親友なら知らないのか?その辺。」
「態度から興味持っている人がいないのは分かるけど、あまり恋愛の話しないしなぁ。何かはぐらかされるのよね。」
「なるほど。」
二人は話し合いの結果、雨堂がそれとなく九条さんに恋愛について聞くことにした。それで九条さんの恋愛観と展望を知ろうということになった。
席に戻ると九条さんと英二が勉強に熱心に努めていた。その二人を見ていると何だか無粋なことをしようとしてるんじゃないかと呉は思い、雨堂に小声で中止しようと言い、そうなった。
結局、その日の勉強会で英二と九条さんは勉強を切っ掛けに朝よりもさらに親しくなったようだ。これなら手を貸す必要はなかったかもと呉は思った。雨堂と九条さんとは駅で別れた。英二との道すがら話していると英二は雨堂と呉が席を外していた時のことを話した。英二は意を決して九条さんに好きな人がいるかと話したそうだ。その答えは大学に行ってやりたいことがあるから今は勉強に集中したくてそんなことは考えられないということだった。その話を聞いて英二は受験シーズンに恋愛にうつつを抜かす自分が恥ずかしくなったという。だから受験が終わるまでは良き友人としていようと決心したそうである。その決意に呉は純粋に称賛した。英二らしいと。中学の前で英二と別れた呉は帰りながらこう思った。
「英二よ。俺はお前が九条さんと付き合えるようになると信じている。お前の気持ちをぶつけろ。お前の真っ直ぐな気持ちを伝えればきっと通じる。頑張れ英二。」
と。