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友情と恋のおはなし  作者: マジコ
4/5

友情と恋のおはなし その4

勉強会の日はあっという間にやって来た。

英二は憂鬱であった。体育館で決意したあの日からどんな話をしたらいいのか悩んでいた。男友達ならスポーツとか漫画の話で盛り上がれるが、女子とは何を話したらいいだろうか。やっぱり九条さんは園芸部だからその方面の話の方が良いだろうか。ずっと逡巡していた。呉に相談しようかと考えたがここは自分で考えようと思った。呉に頼ってばかりでは駄目だという男の意地もある。決意した時から男になろうと固く誓ったのである。しかし、悩む。一応いくつか話すことは考えたが、まったく自信がない。話してみて、


「う、うん。そうだね。」


と言われて目線を逸らされたら最悪である。そんなことを延々と考えていたら時刻は深夜の2時を回っていた。明日は10時に現地集合だからもう寝ないと寝坊してしまう。観念して寝ようとしたらスマホにメッセージが届いていた。送り主は呉だ。内容はフォローしてやるから心配するなということであった。英二は呉がこう言うなら安心だと生来の能天気さを発揮し、安心して床に着いた。人から言われると安心するのだろう。

そして当日。集合場所の駅前に英二は来た。まだ誰も来てなかった。今日のメンバーは英二と呉に九条さん。あと、雨堂美樹とかいう九条さんの友人が来る。英二は雨堂という女子は誰だかよくわからなかったが、きっと九条さんの友人ならいい人だろうと勝手に思っていた。待ち合わせ場所の駅前の時計台の前で一人で待っているとふと思った。そういえば九条さんの私服姿を見るのは初めてだと。何だか緊張して待っていると駅から九条さんが出てきた。格好は半袖Tシャツにジーパンとなんとも楽な格好である。勝手にワンピースとかを来てくるのかなと可愛い格好で来るのではないかと淡い期待をしていたが、見事に裏切られた。まぁ、一緒にいられるだけで有頂天な英二にとってはたいしたダメージではなかった。


「おはよう。佐藤くん。」

「おはよう。九条さん。」


ラフな格好だが英二からしてみれば大変良い。ようは可愛い。九条さんだったら何でも良いのだ。

挨拶をすると九条さんはニコッとした。ああ何て可愛いんだと英二は心の底から歓喜した。日焼けした肌がまた健康的で魅力がある。人が少ない穏やかな海岸がすごく似合うだろうと英二は勝手に想像する。


「どうしたの?」


ついじっと見てしまっていた英二は慌てた。


「え、いや、何でもないよ。」

「そんなに慌ててどうしたの?英二くん。」

「え、英二くん?」

「ご、ごめんなさい。呉くんがいつもそう呼んでいるからつい。馴れ馴れしいよね。」


可愛い慌てかたをした九条さんに英二の心臓はばくばくである。まさか好きな人に名前で呼ばれるとはなんて幸せなんだろうか。英二は空を飛ぶ気持ちになる。


「大丈夫だよ。クラスの女子も下の名前で呼ぶし、それに別に下の名前で呼ぶなんて馴れ馴れしいことはないよ。だから、そのままでいいよ。」

「じゃあ、英二くんも私の事を葉月って呼んでいいよ。」

「いやそんな馴れ馴れしいよ。」

「下の名前で呼ぶくらい馴れ馴れしくないって言ったのは英二くんじゃない!」


瑞瑞しいその笑顔に英二は恥ずかしさを感じてしまう。照れながらも英二は言った。


「それじゃあ葉月ちゃん。」

「はい!」


英二を見上げながら微笑む九条さんと照れている英二。端から見ていると仲睦まじいカップルに見える。当の本人たちは気づいていないが。

そこから少し離れたところでこれまた一組のカップル、いや、同級生がいた。


「帰ろうか。」

「その方がいい気がするな。」


呉と雨堂である。二人の世界を繰り広げている英二と九条さんの輪の中に入れないというよりも入る勇気がなかった。雨堂と呉は顔見知りである。途中で出くわし、駅まで一緒に来たのだが、そこにできたてのカップルのような会話をする英二と九条さんに何だか俺たち邪魔かなという気がするのである。


「まったく、急に男子と勉強会なんて言うから何事かと思ったらこれだったのね。」


雨堂は呉が勉強会しようと誘った時に九条さんがならと呼んできた人である。雨堂と呉は一年の時に同じクラスだった。だったので呉は少し安心した。九条さんが誰か他の女子を呼ぶのは想定内であったが、まったく知らない人だとどうしようかと思っていたからである。彼女は九条さんのことを溺愛している。九条さんが幸せになるなら何でもしてやるといった心持ちであった。


「悪いな雨堂。」

「葉月のことが好きな男子はたくさんいるけど佐藤くんもか。」

「そうだよ。いやあ悪いね付き合わせちゃって。」

「いいわよ。これも葉月の彼氏候補を見極めるためよ。今日はじっくりその資格があるか観察させてもらうわ。」

「噂に違わず九条さんのことを溺愛しているんだな。」

「この愛は誰にも止められないわ。」

「話しかけづらいがそろそろ合流しようか。」

「そうね。」


英二と九条さんの許に呉と雨堂は向かった。二人とも穏やかな様子で中々いい関係のようであった。下手に自分らが入るより二人きりにした方が良いのではないだろうかと呉は思ったが、英二のことである。何かへまをするのではないかと思える。今日は英二と九条さんの関係が進展するように影ながらフォローしようと呉は決意した。


「おーい英二。」


呉が英二たちに声をかけた。暑い夏の中で群像劇が繰り広げられようとした。

駅からすぐ近くに図書館はあった。大通りから脇道に入った聳え立つビルの中にある。雨堂と九条さんは初めて来るので話しつつもキョロキョロしていた。それがまた可愛いなと英二は思っていた。それを察していた呉は人知れず苦笑いをしていた。

ビルに入るとエレベーターを使って図書館のある階へと向かった。エレベーターの中では雨堂と九条さんが楽しそうに話していた。その会話に加わるタイミングを英二は計っていたが、たぶん入れないだろうと呉は思っていた。話の内容が以前に遊んだ時の話をしていたからである。コミュ力の高い女子の遊びにも精通しているやつなら可能だろうが、生憎英二は女子については疎い。そもそもそれほど女子との会話が得意というわけではないのだ。九条さんと話せるようになったのも何度も園芸部の手伝いをしてからである。園芸部の手伝いし始めた当初は男子とばかり話していた。それを呉が手助けして何とか女子とも砕けて話せるようにしたのだ。

呉らは図書館の奥の机のある席へと行った。席順はまず呉が促して九条さんと雨堂が横並びに座らせ、その向かい側に呉と英二が座った。もちろん、英二の向かい側は九条さんである。早速、勉強は始まった。九条さんが真面目に勉強し始めたのでみんな習って参考書を鞄から取り出して問題とにらめっこを始めた。それから一時間は静かに勉強を進めた。呉はこりゃ図書館での受験勉強で英二と九条さんを接近させるのは難しいなと思い始めたところで雨堂が喋りだした。この女は静かにするのが苦手なのである。


「佐藤くんって何組?」

「呉と同じ3組だけど。」

「私は5組だから教室は離れてるね。噂は聞いたことあったけどこうして話すのは初めてね。」

「そうだね。俺あんまり女子とは絡まないから他クラスの女子とはほとんど接点を持つことがなかったんだよね。」


頬を英二は掻きながら一見恥ずかしそうに話した。元々、それほど女子と話さない上にあまり人の顔を覚えない男であった。同じクラスでもあまり目立たないタイプの子にはあの子誰だっけとなる。純粋な男なのである。悪気はなくただ感覚的に生きているのである。視界に入らないことには関心を持つ以前に認識しないのである。雨堂は話すのが好きなようだが、彼女もそこまで男子と絡まない。英二と雨堂は接点がなく、互いに認識してなかった。


「雨堂は九条さんと親しいんだな。」


呉が口を挟んだ。


「親友よ!ねぇ、葉月!」

「うん!」


九条さんは朗らかに頷いた。それを見た英二はなんて可愛いのだろうかと空を飛ぶ気持ちになった。と同時に九条さんと雨堂は仲が良いのは不思議であった。確かに一見すると九条さんと雨堂はお似合いである。快闊そうな見た目の雨堂と健康的な日焼けが見える九条さん。見た目からは仲良さげであるが、実際のところ九条さんは清楚な大人しめの可愛らしい女の子であるのに対して、少し話した感じからは今時の明るい感じの女子高生である。同じグループの人間とは思えなかった。でも、九条さんの頬の崩れた顔を見ているときっと雨堂の言う通り二人は親友なのだろう。いや、大親友かもしれないと呉と英二は思った。それだけの雰囲気をこの二人は漂わせているのだ。

今度は雨堂が問いてきた。


「学校でよく二人でいるの見かけるけどお二人さんも親友かい?」

「ああ、中学からの親友だ。なっ英二!」

「おうよ。」

「中学はどこだったの?」

「里見市の第5中学校だ。」


呉が答える。


「ということはここら辺なの?」

「そうだな。英二なんか駅から少し歩いた所にあるマンションだぞ。中学も近くて遅刻なんてしたことないやつだ。」

「近くていいね。」

「でも、すぐにさよならだからつまらないと言えばつまらないよ。」

「そういうものかしらね。でも、確かにすぐにさよならはつまらないかもね。」

「美樹ちゃんは帰ってからもスマホでみんなと深夜までやり取りしてるじゃない。」

「相変わらずだな雨堂は。」

「これでも以前よりはスマホいじる時間減ったんだよ。」


雨堂は口を尖らせていた。ちょっと拗ねた様は雨堂の可愛らしいところがよく出ていた。

勉強会を始めて会話をしだすと結構話せている。ただ、ちょっと英二はまだ打ち解けていると言えるほど会話に参加出来てないと呉は感じた。せっかく、雨堂が上手く皆で話せる話題で会話を主導してくれているのに今一英二は乗ってない。九条さんもだ。少し会話に加わるが、基本的に雨堂任せである。さっきの待ち合わせの時はあんなに親しげに話していたのに。英二はたぶん話したことのない雨堂がいるのと、いかに九条さんと仲良くなるかで緊張しているのだろう。九条さんはわからない。今日は英二の援護をしつつ、九条さんの英二への気持ちを推し量ろうと呉は決意した。






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