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友情と恋のおはなし  作者: マジコ
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友情と恋のおはなし その2

呉は家で自分の机で受験勉強しつつ頭の中を巡らしていた。椅子の背もたれに背中を寄りかからせていた。思案しているのは英二と九条さんのことである。英二は九条さんが好きである。対して、九条さんが英二のことをどう思っているのかわからない。英二が少しでもいいからちょっかいを出せばどう思っているのか多少なりともわかるだろうが。肝心の英二が普段は積極的なコミュニケーション能力の高さを見せるのに九条さんには奥手なのである。そういうところが英二の可愛いところであるが。九条さんを見つめる英二は誰よりも九条さんを想っている清らかな男の子といった感じである。その純朴さに呉は感動し何か手伝えることがないかと思ってしまう。良い手がないか考えているとお近づきになるには今の時期あれしかないなと思った。

次の日の放課後、呉は英二と共に園芸部の手伝いをしていた。呉はさりげなく英二を連れて九条さんの隣で雑草の除去をしていた。


「今日も暑いですね。」


九条さんが優しく屈託のない笑顔で呉と英二に話しかけた。その笑顔を見ると呉もときめいてしまう。あまり男女交際に関心のない呉でも付き合えるなら九条さんがいいなと思ってしまう。英二みたいな真っ直ぐで純粋な奴なら恋に落ちるのは納得である。


「そうだね。なぁ、英二。」

「あ、ああ。」


英二はめちゃくちゃ緊張して上擦っている。こりゃいかんなと呉は思い助け船を出すことにした。ここはショック療法だ。


「おい、英二。ちょっとこっちの方もやってくれ。」


そう言って呉は英二を九条さんの隣に呼んだ。一応、自然だったと呉は思った。これくらいやらないといつまでも英二は九条さんと会話にならない。

英二は頬に汗をたらし、緊張していた。動きはぎこちなくまるでロボットダンスである。その様子を横で見ていた呉は可笑しくて笑いそうになる。もう笑いが喉まで来ていた。それを何とか押し止め二人が会話できるように援護した。九条さんと英二は互いに顔を赤らめて拙く会話している。呉はまさかと思った。

園芸部の手伝いが終わった宵の口。呉と英二は連れ立って帰宅していた。そこそこ英二は九条さんと話が弾んでいたが、まだ英二は一緒に帰ろうと誘うのは恥ずかしいようで誘うことはなくそれぞれのグループで下校した。


「たく、もう少し積極的になったらどうだ。そんなんじゃいつまでも進展しないぞ。」

「え!なんのことだ!」

「いや、誤魔化さなくてもいいから。」


見え見えの誤魔化しにふっと軽く息を吐くように笑い落ち着き払って言った。英二は目を逸らし顔を赤らめて手遊びしまごついていた。


「俺たち親友だろ?隠し事はなしにしようぜ。」


呉は内心隠し事と言えるほど隠せてはないがと思っていた。少々苦笑いをしてしまう。こういうところが可愛くて好きだなと思う。その真っ直ぐな性格から損をすることも多いが、みんなから信用されている。九条さんも英二に好感を持っているようだし、ひょっとしたらこの恋は上手くいくんじゃないかと思ってしまう。そうあればいいなと呉は考えている。


「この場じゃあ言いにくいから帰り道で話すよ。」


そう言って英二は照れくさそうに話した。


「わかった。」


呉は優しく微笑んだ。


園芸部の手伝いが終わり、九条さんら部員たちに挨拶して下校した。英二と呉は中学が同じでその頃からの親友であった。気心の知れた仲という奴である。電車通学なので駅へと向かった。その道すがら英二は口を開いた。


「いやあ俺九条さんが好きなんだ。」

「知ってる。」

「なんで知ってるの!?誰から聞いたんだ!」


英二は呉の両肩を掴んで顔を近づけた。その勢に呉は少し顔を逸らした。


「まぁ、落ち着け。」

「情報元はどこだ。」

「情報元がなくてもわかるよ。」

「そんなにばればれだったのか?」


英二は呉の両肩から手を離し、項垂れていた。そして、恥ずかしいのか顔が真赤である。


「お前は顔に正直が出てるんだよ。」

「うわー恥ずかしいよ。みんな気付いているかな。」

「察しのいい奴は気付いてるんじゃないか。」

「九条さんは気付いているかな。」


必死さが伝わる顔をする英二に呉はさらりとした笑みを浮かべた。


「いや、話してる感じ気付いてないんじゃないかな。」

「本当か?」

「俺がお前に嘘ついたことあったか?」

「そうだな。呉は隠し事はその方向に話を持っていかないようにするからな。九条さんのことを話題にする時点で隠し事はないか。」


昔から呉は巧みな話術で答えたくないことは華麗にかわす。英二はその呉のコミュニケーション能力を真似できないものであると考えている。そして、尊敬もしている。英二にとって呉の性格は羨ましかった。何でも正直に顔に出たり、話してしまう自分が嫌になることがある。劣等感も感じていた。そんな自分と対照的なのが呉であった。彼はいつも飄々としていて自分の腹の底を見せないのである。話していると時に飲み込まれそうになる感覚になる。本人はそういうつもりはないのだろうが、不気味さを感じてしまうことがある。


「で、どうすんだ?」


可愛い息子を見る目で呉は英二を見つめた。その顔は優しい微笑みであった。


「うーん。」

「このまま園芸部の手伝いをしますというだけじゃ何も進展しないぞ。ここはひとつ男を見せてみたらどうだ?」

「そんなこと出来ないよ。」


英二は慌てて首を振る。とんでもないという感じである。


「たく、普段はあんなに真っ直ぐで実直なのに恋愛に関しては初かよ。」

「いやぁ俺だって色々と考えているんだぞ。」

「うんまあ園芸部の手伝いというボランティアは得点高いだろうけど、でもそこから恋愛に発展するとは思えんがなぁ。他に何をしてるんだ。」

「それは…。」

「何も考えてないんだな。」

「うん。」


園芸部の手伝いで一緒に作業するのに満足していて英二はその先を考えてないようだった。呉はやれやれと純朴な英二に優しく語りかけた。


「好きな人と一緒に何か出きる。それだけでも幸せで心が一杯になるかもしれない。告白して失敗すれば今の良好な関係が崩れるかもしれない。上手くいかないならこのままで良いと思うかもしれない。でも、そういうリスクを承知でやらなくては前に進めず、後悔すると俺は思う。眺めているだけじゃ意味はないんだよ。やっぱり、交流を持たないと。そこから打開策が思いつくかもしれないだろ。」


そう言うと呉はにっこりしていた。英二は悩ましげに俯いていた。


「どうすれば。」

「そうだなぁ。いきなり接近しようとすると怪訝な顔をされるかもしれないからな。」

「俺、あまり九条さんと話したことないし、共通の話題もあるわけじゃ。」

「共通の話題か。そうだひとつあるぞ。共通の話題が。」


確信のある笑顔で言う呉に英二はいい案があるんだなと期待した。呉が自信ありげにしている時は必ず上手くいくというジンクスを英二は勝手に持っていた。


「どんな話題なんだい?」

「おれたちは今、受験生だろ。」

「そういえばそうだな。」

「その話をすればいいじゃないか。」

「そうか。でも、急にそういう話したら変に思われないかな。」


英二は俯いてモジモジしていた。手を擦り恥ずかしいそうだ。歩きながら呉はそんな英二の様子に微笑ましさを感じていた。


「ふふ。」

「笑うなよう。」


つい笑ってしまった呉に英二は顔を真赤にして抗議をする。


「大丈夫だよ。九条さんって結構勉強好きらしいから、普通にしゃべると思うよ。」

「だといいけど。」

「何を弱気になっている。いつもの猪突猛進に真っ直ぐなお前はどうした?当たって砕けろ。」

「砕けたくないよ。」


いつになく弱気な英二であった。

呉は思う。恋愛という人間関係は時として人を変える。英二の場合は弱気になってしまうのだろう。


「まぁ、上手くいくかは天のみぞ知るということさ。」

「そんなもんか。」

「そんなもんさ。」

「ふう。」

「らしくねえな。男ならこれくらい飛び越えんと。」


英二の背中を呉が叩く。呉からのエールであった。怖じけづく英二にはこう言うのが一番だろうと踏んでいた。英二がいつも通りの性を出せば上手くいくだろうと呉は考えていた。九条さんは決して難しい性格ではない。むしろこれまで園芸部の手伝いをしている時の会話の感じからは接しやすそうである。前に出るタイプではなく、おとなしめの人だが意外と親しげに話してくれる。そういうところがあるからだろうか。文花の情報によればたまに告白されているらしい。九条さんがモテるのは知っていたが、競争が激しいようだ。そして、今のところ誰とも付き合っていないようだ。それなら英二にもチャンスがあるだろうと呉は期待した。英二の人間性を知ってもらえば決して恋仲になるのは不可能ではないと呉は固く信じていた。親友による贔屓目かもしれないが、力の限り応援しようと呉は考えていた。


「九条さんモテるからなぁ。」

「他人は関係ないさ。自分がどうかだろ。恋愛なんて周りを気にしてもしょうがない。ただ、自分にとってどうかだよ。」

「そうなのか?」

「ああ。盲目になるのはよくないが、自分がこの人と一緒にいたい。その気持ちが大切なんだよ。」

「お前がそんなロマンチックなこと言うなんて明日はこの世の終わりか。」

「英二が怖じけづいてるからエールを送ってやってるんだろうが。」

「応援してくれるのはありがたい。ありがとう。」

「礼なんて九条さんと付き合いはじめてから言ってくれ。」

「付き合ってからって。」


英二は顔を真赤にした。付き合いはじめたらのことを想像したようだ。どこまで純朴なんだと呉は思った。初恋なのかとも思った。


「付き合えたらの話でそんなに照れるなんて英二はうぶだなぁ。」

「うぶだなんて。」

「英二って九条さんのことを好きになる前は好きな人いたことあるのか?」

「それくらいあるぞ。保育園の先生だ。」

「そ、そうか。」


まともに恋愛なんてしたことないのかと呉は思った。と同時に俺はどうだろうかと思った。あまり人を好きになることなんてなかった。英二のことは言えないなと苦笑した。


「どうした?」

「いや、なんでもない。」


話しているうちに二人は駅に着いた。


「なぁ、英二。」

「なんだ?」

「明日から本格的に攻めるぞ。」

「こ、心の準備が。」

「そんなこと言ってる場合か。他のやつに持ってかれてもいいのか?」

「それは。よし、わかった。」

「その粋だ。」


ホームに行くと電車がちょうど停まった。電車から降りてくる人を避けた。ホームに風が流れ込む。決意をした英二とそれを応援する呉の二人の間に優しい暖かい風が吹いていた。電車に二人乗り込むとドアが閉まり青い二人を駅は見送っていた。



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