プロローグ
勝負の世界において無敗はありえない。
どんなに一流とされる天才でも、いつかは必ず負ける。
短期間の無敗ならありえるだろうが、
十年単位でみた場合、状態を維持できる者など皆無に等しい。
この結果はつまり、人類が完璧ではないことの証明といえる。
いやむしろ、正確な演算をこなすコンピューターの方が遥かに完璧に近いが、しかし結局はそれすらも人間が作り出したものだ。
そう考えれば、時折チェスや囲碁においてAIが人に敗北するのも納得できる。
要するに、地球上に完璧なものなどありはしないのだ。
絶対に負けない真の天才など、人々の空想上でしか存在しないと言っていい。
では――その前提を念頭に、ここで一つ問いかけをしよう。
――もしも本当に、そんな超人がいるとしたら?
十年以上も鉄火場に身を置き、未だ負けを知らない全戦無敗の絶対強者。
もはや世の法則を捻じ曲げすぎていて、冗談としか思えない伝説的な存在。
そんな神にも等しい者がいると言ったら、あなたは信じることができるだろうか?
いや、きっと表世界の住人であるあなたは、その存在を信じないに違いない。
むしろそれは当然の反応。
おめでとう、あなたは常識人だ。
井の中の常識を知り尽くした模範的人間、恐らく死ぬまで搾取される側の一般人だろう。
だが、知る者は知っている。
どれだけ天才といわれる者たちを相対させても足元にすら及ばない、
そんな人智から外れた絶対無敵、絶対不敗を誇る日本人の少年がいることを。
彼を知る者たちは、表世界と裏世界を知り尽くした真の勝ち組だ。
彼等の間でその少年は、尊敬と畏怖をもってこう呼ばれる。
『A』と。
彼の職業は、ゲームの代打ち師である。