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ガーディアン・チルドレン  作者: 谷兼天慈
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「大地の神器」第1話 炎の神器

 月が降り立ち

 太陽が近づくとき

 大地が目覚める

 幼き子らよ

 新しき時代の担い手たちよ

 大いなる御手のもと

 汝らを光が護るであろう




 光だった。

 暗闇を照らしだす光───その光がこちらに向かって近づいてくる。

「またあの人が現れる……」

 クリフは呟いた。

 光はどんどん近づき、すでに彼をも飲み込んで大きくなっていく。

 クリフは夢を見ていた。いつもの夢だ。

「あ……」

 彼は小さく声を上げた。

 いつのまにか、目の前にその人が立っている。

 眩しすぎる光の渦のなか、長身の人物の影が見える。

 輪郭しか見えないが、それはとても体格のよい男だった。

 これもまたいつもと同じだ。

「あなたは誰ですか?」

 クリフは誰何する。

 いつもと同じ質問。

 いつもと同じ夢───そして、いつもと同じように、光り輝くその人は身じろぎもせずに答えようとしない。

「あなたは……」

 クリフが喋ろうとしたとたん、すべてが消え失せた。

 クリフは夢から覚めたのだ。

「また今夜もあの夢を……」

 深いためいきをつく。

 まだ夜の明けきらない暗闇の部屋、彼は窓から月を見つめる。

 クリフ・ゲイラーシャル。

 十才になるこの少年は、年のわりに理知的な輝きを見せる瞳を持っていた。

 夜の闇のように黒い瞳は、月の光を受けてときおり紫にきらめく。

「なぜ同じ夢を見るのだろう」

 クリフは無意識のうちに片手で髪をかきあげた。

 サラサラと衣擦れの音でもしそうな髪だった。しかも、金紫や金緑へと様々に変化する不思議な色の髪の毛だ。

 クリフは窓に目を向け、冷やかに輝く月を見つめた。

 そして、その月に向かって問いかけるように呟く。

「いったいあの金色の人は誰なんだろう?」




「ギィヤアァァァァァァァァ─────」

──ゴォォォォ──

 すさまじい叫び声とともに「それ」は勢いよく燃え上がった。

「おとなしく渡せば命だけは助けてやったのに………」

 女がひとり、燃えさかるもののそばで呟いた。

 冷やかに見つめる瞳は炎よりも赤い。まるで血のような色をしている。

「……………………」

 すでに叫び声は途絶えていた。

 そう、燃えているのは人間であった。

「クズが……」

 女は吐き捨てるように言った。

 くちびるも目の色に負けないくらい真っ赤だ。

「あたしの身体はディーズさま一人の物。人間などの自由にはさせない」

 女は「ぺっ」と唾を吐きかけた。

 そして、気を取り直すように表情を引き締める。

「この剣は、おまえのような男が持つべきものじゃないんだ」

 女の手には大振りの剣が握られていた。

 すらりとした肢体、女らしい丸みをおびた胸と腰のライン。

 ほっそりとした首すじは、喉くびのあたりに炎をあしらった痣が見え、どんな宝飾品よりも彼女の美しさを引き立てている。

 腕や脚も首すじのようにほっそりとしているが、よく目をこらしてみるとしなやかな筋肉が見て取れた。

 そうであっても、握られたものはまったく彼女にそぐわない。

──チャリ……

 だが、彼女はそれをやすやすと片手で構えてみせた。

 立派な大剣だった。

 それでも見た目はごく普通の剣で、刃の部分がよく磨かれている。

 だが、異様なくらいに不気味に輝く赤い宝石が鍔のところにはめこまれており、それがこの剣をただのものではないと教えていた。

「炎の神器……」

 女はうっとりとした目つきで大剣を見つめた。

「これと大地の神器があれば……」

 彼女はぎらつく太陽に剣をかざした。

「あのお方を招喚することができる……愛しきディーズさま……上級魔族であるこの炎のフレイアが最もお慕いしているお方。炎の申し子である気高き炎神であるあのお方を」

 彼女はやさしくそう言った。

 真っ直ぐに伸ばした手にしっかりと大剣を握りしめ、遠くを見つめる彼女はとても凛々しく美しい。

 そんな彼女の傍らで炎が下火になろうとしている。

 さきほどまで人間であったそれは、かろうじて原型をとどめているにすぎない。

「ふふ……」

 女の赤いくちびるから含み笑いがもれた。

 すっかり炭になった燃えかすが、ごろんと転がる。

 それでも女はまったく気にもとめていないようだった。

「ふふふふふ……」

 彼女は剣を青空にかざしたまま、いつまでも笑いつづけた。

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