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人形勇者の憂鬱  作者: まる
9/27

魔王は誰か?

【魔王は誰か?】


衛兵に、先ず子供達を孤児院へと言って、連れて行く。

マザーと呼ばれる院長先生や、シスターに事情を説明し、その場で付いて来た衛兵にも説明する。


やっとの事で、マザーやシスターと話す時間が取れる。


「この度は子供達を守ってくださり、感謝の言葉もありません」

「私達も巻き込まれた口だし、ついでと言う事で気にしなくて良いわ」

「ありがとうございます。子供達にも、常々森が近く、はぐれモンスターが現れる危険もあるので、薬草採取は止めるようにいっているのですが・・」

「マザーやシスター達の事を思いやっての事だから」


院長先生やシスターの口から溜息が漏れる。


「子供達にまで気苦労を掛けさせてしまい・・」


プッペは自責の念に責め悩む、長年積もり積もった二人の女性の、声にならない声に耳を傾ける。


『子供達にもっと食べさせてあげたい・・』

『これ以上どうやって寄付を集めたら良いか・・』

『国や教会は、弱者に目を向けて欲しい・・』

『お金が全てではないと子供達に教えても、これでは・・』


二人の思いにプッペが手を貸すと、唇を噛み締めるシスターの影へと吸い込まれる。



・・カチッ



影だけが不自然に揺らぎ、異形の姿となっていく。

口が大きく開き牙が見え、角のようなものが生え、羽のようなものが生え、指先は尖る。


二度も魔王の発生を見ていたヘクセも、周囲に注意を払っており異変に気づく。


「プッペ!」

「いえす、ますたー」

「「えっ!?」」


ヘクセは二人を庇い、プッペはヘクセの前に立つ。


元の影となったシスターが動いても、異形の影は残ったまま。


「ライトメイル発動、ライトブレード発動」


光の魔法を発動し、両手を握り込み、光の剣を生み出す。


尖った指の影がいきなり空間に伸び、襲い掛かってくる。

プッペは実体化した手を光の剣で切り裂くも、本体も切り裂くが光の剣は素通り。


影は影、切ろうが砕こうが、全く影響を与えている様子は無い。


「また!? 今度の魔王の本体は何処よ!?」


攻撃力はこちらが上でも、決定的なダメージが与えられなければジリ貧である。


「確か魔王が生まれたのは・・、あっ!」


シスターの足元の影を見ると、僅かに影が二重にズレているように見える。


「プッペ! この影に」

「レーザービーム」


左手を開き、光の剣を解除し、シスターの足元の影に光弾を連発する。


「どう!?」


ヘクセの声と共に、ビクンと異形の影の動きが止まる。

そしてシスターの足元の影と、異形の影から煙のようなものが出始め、やがて消えてしまう。


「ふぅー・・。何とかなったわね」


院長先生とシスターは、呆然としていたが、すぐに子供達の安否を確認しに行く。


「プッペ、今のは?」

「意識ノ集合体デシタ」

「はぁー、やはり神か、精霊か、・・魔王なのね。何故こんな頻繁に生まれるの?」


口元に手を当て、誰に問うでもなく一人ごちる。






ヘクセとプッペは、一段落すると帰城して、すぐにトホターへ報告する。


「魔王が二体!? 孤児院の子供達やマザーやシスターの感情からも生まれたと?」

「定かではありませんが、プッペの話しでは、意識の集合体であると」

「彼らがわざわざ魔王を召喚する気はなかったでしょう」

「そもそも、魔王・・、神や精霊の存在さえ分かっていたかどうか」


教会である以上、今の神、世界管理者による唯一神教の教えが主のはず。


「プッペ、勇者の記憶に、空気や、影の魔王は存在した?」

「空気ヤ影ノ魔王ハ存在シマシタガ、アノ二体ハ記憶ニアリマセン」

「と言う事は、蘇ったと言うよりは、新たに生まれた可能性があるのでは?」

「勇者の記憶に無いだけでは、やはり想像の域をでません」

「(僕が初代勇者として、全ての神や精霊や、魔王を倒したと思うんだけど)」


神様の言う、強制事象干渉能力で居場所を、徹底的に知らべたはずだ。


「(うーん、どうやったら初代勇者の記憶を取り戻せるんだ? せめてプッペの持っている情報ぐらいは知っておきたいなぁ)」


丁度タイムリーに、勇者の記録の話へと移る。


「トホター様、勇者の資料の件は如何でしょう?」

「一部禁書扱いのものもあり、閲覧の申請をしています」

「禁書!? 何故ですか!?」

「そこまでは説明をもらえませんでした」


なる程、禁書扱いにする事で、複合祈祷型事象干渉システムの事を隠しているのだろう。


「(うーん、禁書かぁ・・って、えっ!? それってヤバくないか?)」


立場の弱い者が、禁書に触れようとしている・・。

絶対に監視が強化されているはずだ。


「そうですか・・。では、継続してお願いしてもよろしいですか?」

「分かりました」

「私達は如何しましょうか?」

「隠密諜報部隊の情報ですが、ある村で魔王と思われる存在が認識されています」

「えっ!?」

「領主の税の取立てを拒否し、軍などを送れば、都度追い返されているそうです」

「なる程・・」

「(村・・か。何かの切欠があって、土地神を生まれさせたかもな)」


本当に複合祈祷型事象干渉システムを、村人たちが起動した可能性がある。


「プッペの力も大体掴めましたので、その村へ行って調査したいと思います」

「是非、お願いします」

「お任せ下さい」


トホターは、勇者の記録閲覧の許可を、ヘクセとプッペは魔王の蘇った村へと向かう。






真っ白な空間で、世界管理者は何枚か浮かぶ透明の板を注意深く見守る。


「君には申し訳ないが、前世の記憶に縛られては困るのだよ」


プッペにはあり、自分には無い前世の記憶に悩んでいる事に、詫びるでもなく、ただ当然の事だと言う。


「その代わりに、人形の魂の方に記憶を与えたんだけど・・」


三度の魔王の誕生は、間違いなく人形の魂が干渉している。


「その場に留まり、渦巻く人々の思いや感情などを、強制的に、神や精霊、魔王化させてしまうとはね」


強制事象干渉能力による、魔王の生成。


「人工生命体という選択肢は失敗だったか・・」


創造主に絶対である以上、こちらが望む望まないに関わらず、行動してしまう。


プッペは、ヘクセの愚痴を願い・・願望と受け取った。

つまり意識してか、無意識か分からないが、命令と感じたに違いない。


そして主人の願いを、叶えるために、能力すなわち強制事象干渉を、無意識ではなく・・たぶん意識的に使った可能性が高い。いや、間違いなく使っている。


自分の力を主人に示し、その力を主人が上手く使う事で、望みを叶えられると・・


「不味い・・な。とっても不味い・・が、ある意味望む結果とも言えるか・・」


勇者には知らされていない、神・・世界管理者同士の実験。

『勇者共有計画』における、異世界の輪廻転生における魂の劣化の調査。


「何よりも あの方 が望まれた事。我らはそれにただ従うのみ」


プッペが創造主に従うが如く、世界管理者である自分も あの方 に盲従するれば良い。






プッペとヘクセは、馬車に揺られながら、村の話しをする。


二人が使ったのは駅馬車と呼ばれる、主要な町と町を定期的に走る乗合馬車だ。

小さな村に行く定期便など無く、町で馬車をチャーターするしかない。


トホターは第四王女として馬車もあるが、あくまでも本人が公務として使用する場合にのみ使用されるので、プッペとヘクセは使用できない。


ちなみにトホターの馬車も、王家からの貸し出しであり、本人持ちではない。

彼女の地位が如実に現れていると言えるだろう。


「少数とは言え、領主の軍を追い返している。村人に負けたと言いたくなくて、モンスター・・、今回は魔王にやられたと言った可能性はあるわね」


領主からは何の報告も上がってはいない。

負けたなど口が裂けてもいえないだろう。

あくまでも自分達の所属する部隊からの、噂と言う形での情報である。


「プッペ。魔王の可能性はある?」

「実際ニ何カノ存在ガ確認デキナイト、判断デキマセン」

「居たと仮定して、よ」

「・・可能性ハ高イト思ワレマス」

「何故?」


ヘクセ自身で質問しておいてなんだが、まあ理由は聞いてみたいよな。


「村デもんすたーヲ飼ッテイタ場合、軍デ退治スル事ガ可能デス」


魔物使いと言う職があるように、モンスターの中には、小さい内から育てる事で、人間に忠実になる種がある。


育てて村を守る番犬の代わりにする場合もあれば、狩人の僕にする事もある。


「魔王は軍では倒せないと?」

「いえす、ますたー。通常ノ物理、魔法攻撃ハ通用シマセン」

「でも、貴方の魔法や攻撃は効いたわよね?」

「光魔法ハ、意識ノ集合体ヘ最大効果ヲモタラス能力デス」

「ふむ、なる程・・。それが勇者たる所以ね」


勇者の持つ光魔法の本当の姿は、強制事象干渉能力である。

そして神や精霊、魔王は、その最下位である複合祈祷型事象干渉システムの結果であり、上書きする事で、事象そのものを消してしまえるのだ。


やがて馬車は、問題の村の近くにある町に到着する。






拠点である宿屋を決めると、プッペに待機を命じる。


「良い? いきなり村に行っても良いんだけど、やはり報告だけではなく、周辺の村や町から直接情報を仕入れるべきなの」

「いえす。重要ト思ワレマス」

「(そりゃそうだ)」


紙の上だけでは分からない情報と言うのは、いくらでも隠れている。


「あちらこちらに探りを入れるから、あなたはこの部屋で待機」

「いえす、ますたー」


そう言うが早いか、ヘクセは町へと繰り出していく。


「(上手く情報が集まれば良いけどな・・)」


領主軍が負けたと言うような情報は、緘口令が引かれて当然だ。

その領主が魔王を手に入れたいと思っていれば、尚更、外には漏れないよう秘匿する。


「(・・何となくだけど、あっちもこっちも敵に回しそうな気配だ)」


近い将来だが僕のこの予想は、悪い方に当たってしまう。




戻ってきたヘクセは、疲れ切った足をプッペに投げ出し愚痴を言う。


「まったく情報がない・・。痛ぅー、そこそこ、きっくー」

「いえす、ますたー」


プッペがいくら主人に忠実な人工生命体とは言え、マッサージの能力があるとは思わなかった。


足の裏から、ふくらはぎを、丁寧に優しく、時にはギュ―ッとする事で、ヘクセが気持ち良いと言う悲鳴を上げるのを見る限り、上手いようだ。


「しかも隠していると言うような感じじゃなくて、町の人たちは本当に知らないみたいなのよね」

「(税の徴収は当然の事として、わざわざ町の人に告知しないか。軍の訓練と言えば、違和感無く兵を動かせるだろうし)」


魔王が襲ってきたと言うなら話しは別だが、考えてみれば当然の事だろう。


「衛兵の方にも探りを入れたけど、何の手がかりもなし!」

「(なっ!? この女、馬鹿なのか! そんな事したら・・)」


たぶん、いや間違いなく、こっちの目的を探るための監視が付けられている筈だ。

領主の力関係にも因るが、あっという間に身分がバレて、要らぬ噂を王家に流される恐れもある。


僕の心配を他所に、二人は翌日、目的の村へと出立してしまう。






問題の村では、町とは打って変わって、えらい歓迎ムードであった。


「ようこそ! 土地神様の守られる村へ!」

「是非、土地神様を見て行って下さい!」


村人達総出で、フルオープンにしていた。


「(そりゃそうだよな。ご利益があると分かっていれば、他の人々にも伝えたくなるし、それが更に祈りや信仰となって、土地神を強くする・・)」


正に複合祈祷型事象干渉システムを、地で行っている形だ。


「土地神? 魔王じゃなくて?」

「はぁ!? 何を言っているんですか、魔王って? わしらの村に実りを与え、われらを敵の手から守ってくださる、正に守護神ですよ!」

「敵って?」

「モンスターだったり、領主軍だったり」

「何で領主軍に逆らったのよ!」

「わしらの村は土地神様のお陰で、豊かな実りがあります。それに目を付けた領主様が、税を何倍にもした上に、土地神を寄こせと良いましてな・・」

「そう・・だったの」


前は税を納めるのもやっとの村だったらしいのだが、誰彼となく村人たちが、昔この土地にあった伝承に縋ったのが始まりらしい。


徐々に村の実りが良くなり、生活が少しずつ楽になったと言う。


「(複合祈祷型自称干渉システムの事は、まったく分かってないな。世界管理者が言っていた、伝承に人々の思いが重なって、土地神が蘇るという形で生まれたんだな)」

「教会の教えは?」

「こんな事は言いたくないのですが、こんな小さな村には神官様はいらっしゃいません」

「それでこの土地に居たまお・・、土地神伝説に縋ったと?」

「はい、その通りです」


ヘクセがまた魔王と言おうとした時、村人達の顔が再び険しくなる。


「(おいおい。少しは学習しろよ)」


それでも村人達は、土地神の像のところへ案内してくれる。


「これが土地神様です!」

「えっ!? これ?」

「そうですそうです!」


目の前には、聳え立つ大きな岩が鎮座ましましていた。


「(なる程。これが信仰の対象となったわけか)」


ヘクセは、もっと人型とか異形の分かり易い形を期待していたのだろう。


確かにその方が、神や精霊、魔王と言えるに違いない。

しかしただの岩から手が生え足が生え顔が生まれる、これこそ奇跡といえないだろうか。


「まあ良いわ。プッペ、やっちゃって」

「いえす、ますたー」

「(何!? ちょっと待て! 本気かこの女!?)」


プッペがヘクセの命令に従い、光を身体に纏い始める。


「な、何を!?」

「土地神? 何を言っているのですか? 領主軍にたてつくような存在は魔王です。私達が排除します」

「ちょっと待てよ! あんた! 土地神様! お逃げ下さい!」


村人達の声に反応したのか、単なる岩が動き始める。


村人達がどのような姿を思い描いたのかは分からないが、手足と頭が生え、岩の巨人が立ち上がる。


村人を守るのか、自分を守るのか分からないが、こちらに手を伸ばしてくる。

しかしプッペの光弾で打ち抜かれ、光剣で次々と切り裂かれる。


「ああ・・、土地神様・・」


元々は大岩が変化したモノ、再生力はそれ程無いようで、やがて砂と崩れていく。


領主軍の通常の物理攻撃や魔法攻撃には耐えても、光魔法には無力だったようだ。


「あんたぁ! よくも土地神様を!」


村人全員の、憎しみの篭った視線が二人を射抜く。


「貴方達は魔王という存在を知らな過ぎるのよ!」

「何を言うか! 我らにとっては土地神様だ!」


それぞれの手に石や棍棒、農作業具と言ったものを持ち、ジリジリと迫ってくる。


魔王退治と、罪もない村人を傷つける事は別問題だ。


いくら良かれと思ってやった事でも、罪人とされては割が合わない。

王家に弱みを握られる事にもなりかねず、ここは逃げの一手を選ぶ。


「ふん! いずれ私達に感謝するでしょう! 帰るわよ、プッペ!」

「いえす、ますたー」


村人達に捨て台詞をはいて、そのまま村を出て行く。





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