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人形勇者の憂鬱  作者: まる
8/27

魔王について

【魔王について】


ヘクセとプッペの二人が、何とか王城の中に入る事を許される。


「大変でしたね」

「はい、ここに来るまでかなりの時間を取られました・・」


着ていた服は、没収の上焼却処分。

ついたて一枚で、丸裸にされ水洗いされていた。


一応、乙女としてはかなり屈辱的な扱いであった。


その後も、部屋に戻って、ちゃんと風呂に入り直して、着替えてと、やっとの事でトホターの元に辿り着く事ができた。


「しかし王都でモンスターが現れるとは、前代未聞の事です」


勇者により、世界に平和がもたらされ、国が興り、王都が造られて、今の今ままでこのような出来事は無かったと言う。


「衛兵が侵入を見落とした・・のでしょうか?」


いくら平和ボケしたとは言え、それではあまりにも杜撰すぎる。


「流石にあの大きさのモンスターを見落とす事は無いと思われます。かなり小さなモンスターが、長い時間を掛けて成長した可能性はあります」

「なる程・・」


虫などの小さな生き物一匹一匹まで侵入を防ぐのは不可能だ。

それ所か、小鳥やネズミ程度だって難しいだろう。


「しかも新種のモンスターですか・・」

「新種と言うのには、少々語弊がありますが・・」


魔道師として学んだとは言え、既知の全てのモンスターを知り尽くしているわけではない。

しかしあれだけ危険度の高いモンスターを、噂でさえ聞いた事がないのは新種の可能性が高い。


「プッペはどう思いますか? 戦った者として」


既に新たな護衛として、知られ始めているので、今回は一緒に付いて来ていた。


プッペは主であるヘクセの方を見て、ヘクセが頷いて許可をする。


「もんすたーヲ定義ハ、魔素ニ影響ヲ受ケタ物デ、ヨロシイデショウカ?」

「ええ、それで良いわ」

「アレハ、もんすたーノ定義カラ外レタ存在デシタ」

「えっ!? どう言う事?」


モンスターではないと言う一言に驚いて、ヘクセが驚いて問い質す。


「マズ元トナル動植物ノ確認ガ出来マセンデシタ」

「確かに・・」

「ヘクセ、どう言う意味ですか?」


納得したヘクセに、今度はトホターが問い掛ける。


「大気には魔素と呼ばれるモノが存在します。人間だけではなく、他の動植物も吸収し、呼吸や食物から、体内へと蓄積されます」

「ええ、存じています」

「魔素は体内で、魔力に変換され、魔法として放出されます。放出する事ができない種は、魔素の影響を大きく受け、モンスター化すると言われています」

「魔法とモンスターの基礎学ですね」


ヘクセの説明に、トホターが頷く。


「しかしヘドロのモンスターの核と思われる部分を破壊した時、煙のように消えてしまったのです」

「核イコール動植物だったのでは?」

「流石に身体を構成する組織が煙のように消える説明がつきません」

「そうですね・・」


いくらモンスターを倒したとしても、煙のように消える事象は確認されていないと言う。


「それだけだったら、新種のモンスターでは?」

「モンスターの定義から外れたと言いがたいですね・・。プッペ、他に理由はあるの?」

「いえす。発生ノめかにずむガ違イマス」

「メカニズム?」 

「どう言う事でしょう?」


二人はプッペの言葉に、お互い首を傾げあっている。


「もんすたーハ、魔素ガ体内二蓄積シ、一種ノ暴走状態ト思ワレマス。シカシあれハ、意思・・負ノ感情ニヨッテ形作ラレテイマシタ」

「意思・・?」

「負の感情・・?」

「勇者ノ記憶ニヨレバ、意識ヤ感情ノ集合体ニヨッテ生ウマレタ存在ヲ、神ヤ精霊ト呼ンデイマシタ」

「「それって・・」」

「特ニ、負ノ感情ガ集合シ、人間ニ害をモタラス存在ヲ、魔王ト呼ンデイマシタ」

「「じゃあ・・、あれは魔王!?」」


二人が咄嗟に出た言葉に、お互い顔を見合わせる。


古の神や精霊を、復活させようとする兆しがあるのは知っていた。

そのために勇者を召喚しようとしたし、プッペが生まれた理由でもある。


「しかし王都に魔王だ何て・・」

「ある意味当然かもしれません」

「どうしてですか?」


詰めていた息を吐き出し、二人は言葉を紡ぎだす。


「確かに王都は、華やかで煌びやか、豊かに繁栄していますが、裏では身分差別やスラムなの貧困、犯罪件数などから考えるに、かなりの負の感情がたまる場所とも言えます」

「それは・・」


いくら国が定めた法があっても、どうしても掬いきれない弱者が出るものだ。

国庫の財源は無限に湧くわけではなく、どうしても助けられない弱者が出てしまう。

人が集まれば集まるほど、身分の差がついて回ってしまう。


勇者が眠る清浄なる王都が、穢れ易い場所の一つとは何と言う皮肉だろうか・・


「ならば何故この時期に、魔王が現れたのですか? もっと以前からも頻繁に発生してもおかしくないはずでは?」

「それは・・」


姫の言葉に、ヘクセは考え込む。


王都が築かれる際に、強力なモンスターを封印したと言う話しはない。

むしろ人々の平和の希望となるよう、そういった物から最も遠い場所と言っても過言ではない。


強力なモンスターから王都を守る結界は、長期間の維持が難しく最初から施されていない。

弱まったからモンスターが侵入したと言うのであれば、以前からそのような話しがあってもおかしくない。


「もしや・・、魔王を復活させようとしている一味が、準備を整えたと言う事ではありませんか!?」

「その可能性もありますが、あの場所には犯罪者のみで、儀式のような事を執り行うような者共は見受けられませんでした」

「そうですか・・」


ヘクセは、ふとした思い付きをプッペに尋ねる。


「プッペ。勇者の記憶の中に、あの魔王は居たかしら?」

「イイエ、存在シマセン」

「そうよね。知って倒した事があれば、あのような戦い方はしないものね」

「どう言う事でしょうヘクセ。勇者の居た時代にも存在しなかった魔王など・・」


このままでは何の進展も見られないと考えたのか、トホターにある願いをする。


「トホター様、お願いがあります」

「何かしらヘクセ?」

「王室が管理する書庫で、勇者が居た時代の資料を見る事は出来ませんか?」

「当時の勇者が知りえなかった情報の中に、何か埋もれていると言う事ですね」

「その通りです」

「役立たずの第四王女とは言え、そのくらいは許されるはず。やってみましょう」


二人はあまりに足りない情報を補うために、昔の資料をひっくり返すつもりのようだ。


「(あちゃー・・まずいな。世界管理者の唯一神教を打ち立てて、せっかく複合祈祷型事象干渉システムを隠してあるのに)」


初代勇者の時代、その方法がほぼ確立されていたから、戦争に神や精霊が使われ、暴走し魔王となってしまったのだ。


「(流石にどれだけ当時の資料が整備され、現存しているのかまでは分からんしな)」


今の所、唯一の救いはプッペが余計な事を言わない事、ヘクセが核心を尋ねるに至らない事だろう。


僕の危惧が現実の物とならないように祈りながら、動き出した二人の姿を見つめるしかなかった。






ヘクセとプッペは、そのまま休息を取り、翌日冒険者ギルドへ向かう。


「ランクGの依頼には、他にどんなのがあるのかしら?」


財布探し、ドブ掃除の依頼にコリゴリしたのだろう、ここに来てやっと依頼の内容をきちんと調べる事を始めたヘクセ。


「薬草採取、薬草採取、薬草、薬草・・薬草、あっドブ掃除、薬草、薬草・・、店番? 薬草、薬草・・荷物運搬に、廃棄家屋の解体? 薬草、薬草・・、財布探しがある、薬草、薬草・・、殆ど薬草採取しかないじゃない! この中で財布探しと、ドブ掃除を引いた私って一体・・」


ついたてに張り出された依頼の九割は薬草採取であった。


「薬草採取が何でこんなに?って思ったけど、なる程、薬は傷薬だけじゃない物ね」


冒険者に必須ゆえに、薬草と言えば傷薬と思いがちだが、王都や町の中に住む人たちが、傷薬を必要とする機会は稀だろう。


薬草依頼の内容には、何の薬に必要となる、どういった薬草とかと詳細に書かれている。


「良く見れば、採取量も報酬額も違うのね」


作らなければならない薬の量が多ければ、当然薬草の量も必要となる。

一個を作るのに、薬草の量が多い薬もあるだろう。

見つけにくい薬草なら、報酬の単価も上がって当然だ。


「うーん、依頼って一回につき一個しか受けられないのかしら?」


どうせなら、同時に出来る依頼を複数受けた方が、効率の良い場合がある。


「ねえねえ、依頼って一回に一つしか受けられないの?」


思いついた事を、受付の女性に聞いてみる。


「そんな事はありませんよ。特にランクGやEには、常時依頼と呼ばれる依頼が多く存在します」

「常時依頼?」

「呼んで字の如く、常に発生する依頼で、薬草採取や、害獣討伐、発生率や繁殖率の高いモンスターの討伐は、事後報告でも構いませんので、纏めて報告いただいても、別の達成とします」

「へぇー、それは助かるわ」

「通常依頼の場合は、依頼のブッキングを避けるために、必ず依頼の受領が必要です」

「分かったわ、ありがとう」


ヘクセは、ついたてに戻るとプッペに命じる。


「薬草採取の常時依頼を、覚えられるだけ覚えて頂戴」

「いえす、ますたー」

「当然、薬草の特徴も。分からなければ・・、そうね、受付嬢に確認して」

「いえす、ますたー」


普通の人間であれば、多少の例外を除けば、繰り返す事でしか覚えられない。

高性能な人工生命体であれば、そのような能力を持っているのだろう。


プッペはついたての端から端まで、一つ一つ見ていく。


「ますたー、全テ覚エマシタ」

「分かったわ、じゃあ行きましょう」

「(嘘ぉー!? 見ただけじゃん!)」


おいおい全部覚えたのか? プッペ凄えと思ってしまう。






二人は揃って、先ずは王都の周辺から探し始める。


「結構面倒な上に、大変なのね」


基本的な知識が無ければ、雑草と薬草を見分けられない。

薬草もただブチブチ千切れば良いと言う訳でもない。


ヘクセは今まで、薬草を使う側の人間であり、限られた予算ではあるが、必要なら買えば良い程度の認識しかなかった。


王都と呼ばれるに相応しい広さがあり、当然そこに住む人々という者がある。


その人々を賄うだけの食糧を生産できるだけの畑や酪農地、森などが、王と周辺にはきちんと整備されている。


プッペは、与えられた命令を淡々とこなしている。


薬草採取をしているのは、プッペとヘクセだけではない。


「何であんな小さな子供まで?」


お揃いの服を着た、八歳から十五歳ぐらいまでの子供達が、薬草を採取している。


「ねえねえ、あんた達、何処の子? 親御さんは?」


興味本位か、薬草採取に飽きたのか、年長の子供に話しかける。


「親は居ない。マザーやシスターが俺達の親代わりだ」

「マザー? シスター? 親代わり・・。そっか、孤児院の子供達ね。でも何で薬草採取をしているの?」

「何も知らないんだな、おばさんは」

「お、お、おば、おばさん!?」


子供からの衝撃の一言に、愕然とする。


「もちろん金にして、食料を買うのさ」

「シスターはあんた達を働かせているの!?」

「そんなことするわけ無いだろう! 俺達が勝手にやってるんだ・・」

「どう言う事よ?」


聞けば孤児院は、国や教会からの補助と人々からの寄付で成り立っているが、正直何も生み出さない孤児院の予算は、かなり少ないらしい。


そうなると、どうしても十分な食事とは行かなくなる。

改めて子供達を見れば、太った子供など皆無で、顔色さえ悪く見える。


「ふーん、そうなんだ」


多少は可哀想と思い、同情もするが、ヘクセにはその程度。

身銭を切って寄付をしようという考えには至らない。

所詮は縁もゆかりも無い、単なる赤の他人としか見ていない。


その時も、誰にも見えない、聞こえない思いが、プッペだけに見え、聞こえていた。


『お腹すいたよ・・』

『妹や弟を助けなくっちゃ!』

『院長先生や、シスターを少しでも楽に』

『年嵩のオレが頑張らないと!』


子供達の思いや感情が、大気に色濃く溶け込む。

今だけではない、過去から脈々と受け継がれた孤児たちの思い・・


自分の力を示す事は、必ずマスターのためになると信じて力を貸す。



・・カチッ



プッペが警告を発すると共に、駆け出し、ヘクセの前に立つ。


「ますたー!」

「えっ!?」


空の一点を見るプッペの視線の先を追えば、ナニかの形を作っていく。


「意識ノ集合体デス」

「なっ!? また魔王!?」


空気ゆえに透明なのだが、ナニかの存在・・巨大な赤子がはっきりと見える。


「プッペ! 魔王を引き付けて! その間に子供達を逃がすわ!」

「いえす、ますたー。ライトメイル起動、ライトブレード起動」


黄金の粒子が身体を覆い、光の帯が両手に絡みつく。


子供達とは反対側へと駆け出しながら攻撃する。


「レーザービーム」


二度三度の攻撃で、魔王はプッペを敵と認識したのか、体の向きを変える。


「早く! 今の内に!」


呆然とする子供達を叱咤し、王都へ戻るように促す。


城門の衛兵達も、何かの異変に気づいたのか、こちらへと向かってくる。

衛兵に、子供達の誘導を頼み、プッペの元へ急ぐ。


「プッペ、もう良いわ! 全力でやっちゃいなさい!」

「いえす、ますたー」


魔王を中心に円を描くように動き、全方位から攻撃を行う。


プッペを追う様にグルグル回っていたが、単調な動きを読んだ魔王は急に反転する。

正面に睨み合う形となったが、プッペはそれを待っていたかのように光の塊を持っている。


「ライトバースト」


カウンターに近い形で、魔王の本体に直撃し、半分近くを吹き飛ばす。

しかし相手は空気の塊、いくらは介してもすぐに修復してしまう。


「不味いわね・・。前回のような核らしきものがある場所は本体でしょうし・・」


前回のように、水のような源泉が空にある訳ではない。


「となると、一撃必滅しかない訳よね・・。プッペ! 周囲から切り離して倒しなさい!」

「いえす、ますたー」


プッペは動きを止め、胸の前で腕を交差する。


その隙を見逃す魔王ではなく、プッペに一撃を加えるが、それを堪える。

何度も攻撃してくるが、ひたすら力を蓄える事に専念し、耐え続ける。


「プッペ!」


ヘクセが叫ぶ。


プッペの姿が消え、魔王の攻撃が空振りをする。

魔王の身体に、一条の光の輪が現れ、どんどん光の輪が増え、光の玉となる。


「ライトプリズン」


魔王の少し上に現れたプッペが、一言発する。


一つの輪が縮まり、魔王の体を真っ二つにする。

しかしすぐに魔王の体が再生する。

徐々に縮む光の輪の数が増え、魔王の再生速度を上回る。


光の玉が、光の輪となり、光の輪すら消えると、魔王の姿形も消え失せていた。


プッペはヘクセの前に降り立つ。


「魔王は?」

「殲滅シマシタ」

「そう・・。あなたは大丈夫?」

「問題アリマセン」


魔王の攻撃を受けたはずなのに、見たところ革鎧にさえ傷が無い。


「プッペ。あの場に居たのは子供達だけよね?」

「イエス」

「孤児院に行ってみましょう」


子供達が魔王に関する何かを、知っているとは思えない。

とは言え、何かしらの切欠を得ようとしたかったのだろう。


「(孤児たちが魔王を? 何のメリットがあるんだ? ・・いや、無意識でか?)」


何らの理由で、複合祈祷型事象干渉システムの条件を満たした可能性がある。


「(それにしてもプッペは、無理をしてくれるよなぁ・・)」


今回の戦闘で、プッペは魔王の攻撃を無条件に受け止めた。

魔王との戦闘でダメージは負わなかったが、触覚や痛覚が共有されてたらと思うとぞっとする。




ヘクセは衛兵に説明しながら、子供達と一緒に孤児院へ向かっていく。





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