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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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魔王降臨

【魔王降臨】


プッペは三日間、命じられた通りに財布を捜していた。


依頼の目的でもあるだろう、王都の何処に何があるかなどは関係ない。

何度も何度も、示された場所を、何度も何度も、時間の許す限り探しまくっていた。


「(うむー。プッペに感情は無いのか?)」


人工生命体に感情は無いと言われているが、優れた人工生命体は、主人に意見をするし、反論するし、突っ込みをする事もある。

まあ、あくまで僕が居た世界のファンタジーの中での、情報ではあるが。


淡々と与えられた命令を、文句を言うでもなく、黙ってひたすらこなしている。

そして期日となった四日目の朝には、泥だらけのままギルドの建物の前で待機する。


しばらくすると、女魔導師のヘクセが現れ、開口一番「汚い」と言いやがった。


「そっか・・。稼動に関しては、コアから供給されるけど、汚れに関しては自分でどうにかするしかないわけよね。あっ、その命令も必要か・・」


創造物ではあるが、持ち主として、もう少しプッペに関心を寄せろよと思う。


「まあ良いわ。先ずギルドに報告をしましょう」

「いえす、ますたー」


そのままギルドに入り、受付嬢に依頼の報告をする。


プッペは三日間の自分の活動を報告し、残念ながら財布が見つからなかった事を伝える。


「・・三日三晩、不眠不休で財布を捜されたのですか?」

「何よ・・。何か文句でも?」

「いいえ」


ギルドの受付嬢も、人工生命体とは言え流石にそれはという目を向ける。


ヘクセ自身は、自分の創造物をどう扱おうか構わないだろうと言う目で返す。


「財布は見つかりませんでしたが、依頼達成といたします」

「はあー・・、これでランクFになるのね」

「なれませんよ?」

「・・えっ!? 何で、どういう事よ!?」


依頼をこなせばランクアップすると聞いていと、ヘクセは怒りを顕にする。


「一回の依頼で、ランクアップできるなら、世界中はランクSで一杯ですよ」

「ぐっ・・」


これは受付嬢の言い分が正しい。


たかだか財布探しでランクアップするはずが無い。

どんな仕事だって、何日もやり続けて、技術と信頼を高めて、偉くなっていくものだ。


「じゃ、じゃあ、如何したらランクアップできるのよ!?」

「ランクGからFにアップするには、その人が依頼をきちんとこなせるか、成功失敗に関わらず、ギルドに報告できるかと言うのが重要です」


明確な指針がある訳ではないらしいが、依頼を受けて最後までやり遂げる姿を、見せる必要があるのだろう。


「回数で言ったら、何回なの!」


あいまいな回答では納得できないヘクセが、食って掛かる。


「そうですね・・。五回から十回程度が目安でしょうか」

「分かったわ! プッペ、すぐに取り掛かるわよ!」

「いえす、ますたー」


ランクGの依頼が張り出されている衝立へと、ヘクセは肩をいからせて向かう。






自ら汚いといったプッペに、依頼達成を優先させるために何するでもなく、適当に取った依頼に書かれた場所に到着。


プッペは依頼主からの説明に時折頷きながら、熱心に話を聞いている。


「うをぉえぇぇぇー・・」


ヘクセはただ一人、吐きまくっていた。


「ねぇちゃんよぉ。これから掃除するからって、その辺にしてくれねぇかなぁ?」

「うるざい・・」


プッペに説明する傍ら、依頼主はヘクセに文句を言う。

いつもの事なのだろう、さして強い言い方ではなく、仕方ねぇなといった感じだ。


ヘクセが次に選んだ依頼が、どぶ掃除、正確には下水処理施設の掃除だった。


生活用水や排泄物の水は、悪臭の元になるだけではなく、色々な病気の元となるため、古くからこの手の施設の整備は進んでいる。


「(ヘクセの様子を見る限り、かなりの臭いみたいだなぁ)」


プッペと僕は、嗅覚に関して共有されていない事が分かった。

ヘクセには悪いが、この点に関しては、非常に感謝している。


「ぐっぞー。何でごんな依頼があるのよ・・」


前の世界では薬や機械で、こちらの世界では魔法が使われている。


どちらにせよ浄化しきれない物と言うのは存在し、どんどん貯まっていく。

好き好んでこの手の仕事をする者は少ないので、基本は犯罪者やスラム街の人間にやらせるのだが、掃除は日々必要なので、冒険者ギルドにも常時依頼としてある。


だがランクGの依頼が、こんな物ばかりではない。

逆にこの手の依頼は少ないぐらいだ。


王都は常に薬不足であり、薬草採取の依頼は尽きる事がない。

良く探さなくてもある依頼の中から、どぶ掃除を引き当てるのだから、財布探しと良い、ヘクセは運があるのか無いのか・・


「プッペ! どっどど終わらせで!」

「いえす、ますたー」


依頼を受ける前に、きちんと依頼の内容を確認すれば良いだけの話だ。

その後も、受付嬢から説明を受けた時点で、嫌ならば受けなければ良いのだ。


ぶっちゃけ人の話を聞かない人の末路である。




浄化施設は何層かに分かれており、一番汚いのは犯罪者などが担当、比較的綺麗な所は冒険者などで、今回はプッペが担当している。


「(うん? 何だ?)」


プッペと視界を共有しているので、彼が見ているものが、僕にも見える。


「(頻繁に、汚れの酷い層の方を見ているみたいだけど・・)」


主であるヘクセは、汚れと臭いから少しでも離れようと、依頼人である施設管理者と、犯罪者の監視役と一緒に、視線とは全くの反対側にいる。


この時プッペは、僕に見えない者を見て、僕に聞こえない声を聞いていた。


『おえー、汚ぇ・・。気持ちわりぃ・・』

『俺にこんな仕事させやがって! 捕まえた奴ら、絶対許さねぇ!』

『汚いし、臭い仕事はあいつらにお似合いだ』


怒り、憎しみ、蔑み、諦め、そう言った負の感情が渦巻いている。

一つの塊となって、最も汚れた浄化層の中へと沈み込んでいく。



・・カチッ



何処か遠くで、パズルのピースが全て組み合ったかのような音がする。


「ますたー!」

「・・えっ!?」


プッペの声に驚くヘクセの元に向かう。


ほぼ同時に、最も汚れの酷い浄化槽の水が盛り上がる。


「な、何!? あれは!?」


常に湧き上がるヘドロのような水に、目や口のようなものが現れ、更に周囲に小さな水の盛り上がりが生まれ、手のような形を作る。


「モ、モンスター!? でも、あんなモンスター見た事ないわよ!?」


呆然と見上げる犯罪者の一人が、ヘドロの手に捕まり、口のような部分に放り込まれる。


「あ、あいつ、人間を喰うの!?」

「う、うわぁー、に、逃げろ!」


それを皮切りに、犯罪者達が一斉に逃げ始める。


「お前達! 逃げるな! 罪を軽くして欲しければ戦え!」


犯罪者の監視役も、人間を喰うモンスターに、逃げずに素手で立ち向かえと無理な要求をする。


「ますたー、撤退ヲ!」


主人を庇うように立つプッペが、ヘクセに逃げるように促す。


「そうね、撤退・・、撤退? 逃げる?」


自らの言葉に、逃げようとする足が止まる。


「逃げる前に、出来る事があるじゃない。これはチャンスよ!」


そしてプッペを見る。


「プッペ。あなた勇者の記憶と能力を持っているのよね?」

「いえす、ますたー」

「あのモンスターを倒せる?」

「ゴ命令トアラバ」

「そう・・。プッペ、あのモンスターを倒しなさい。あらゆる力を使って!」

「いえす、ますたー」


プッペが、モンスターの方に振り返り、一歩前に進む。


「ライトメイル起動」

「なっ!? 魔法?」


ヘクセは、プッペが魔法をいきなり使ったことに驚く。

プッペは、魔法によって身体が金色の光で覆われ、更に一歩進む


「ライトブレード起動」


金色の光の帯が、左右のそれぞれの手首を一周し、そのまま螺旋状に肩に吹き抜ける。


「レーザービーム」


軽く握った左手を挙げ、人差し指と中指を伸ばし、親指をL字型に開く。


指先より光の線が矢のように放たれ、モンスターの体を容易に貫く。

同時に駆け出し、あらゆる方向から、レーザービームで打ち貫く。


しかし次々と湧き出すヘドロで、穴はすぐに埋まってしまう。


ヘドロのモンスターは、プッペを敵と認識したのか、手の一つがプッペを襲う。


「レーザーカッター」


手を振りぬく事で、光の線を縦ではなく、横にして打ち出す。


すっぱりとヘドロの手を切り落とし、そのままヘドロの体も切り裂く。

しかしすぐに再生してしまい、更には全ての手がプッペへと向かってくる。


「レーザーカッター」


両手を何度も振り抜き、全ての手を切り落とすが、やはり再生する。


プッペは移動速度を上げ、残像さえ残す速度でモンスターを翻弄し、次々と光の矢や刃を打ち込む。


「何よ、あの再生力は!? 待って・・。あのモンスターは浄化槽から沸きあがっているから、もしかして本体は・・下?」


プッペはひたすら、ダミーと思われる上側だけを攻撃している。


「何やっているのよ、プッペは!? 少し考えれば分かるでしょうに・・って、そうか知識はあっても、経験とマッチングが出来ていないのね!」


勇者の記憶と能力はあっても、経験がついてきていない。

記憶と能力を使いこなせず、未知の敵に、応用や変化できないという事だ。


「プッペ! 下よ! 浄化槽の水を全て吹き飛ばして、本体が無いか確認しなさい!」

「いえす、ますたー」


まるでその言葉を待っていたかのように、両掌の間に光の塊を作り出す。


「ライトバースト」


ヘクセが自分の背中に来るタイミングで、光の塊を浄化槽の中に放つ。

光の塊は徐々に大きくなりながら着水し、更に水の中へと入っていく。

底の方から、強力な光が放たれると同時に、貯水槽の水が全て吹き飛ばされる。


上空に打ち上げられた、黒い禍々しい塊を見つける。

すぐに汚水が集まる浄化槽に、逃げるかのように黒い塊が移動していく。


「あ、あれよ! あれを切りなさい!」

「いえす、ますたー」


両手をグッと握り込むと、肩まであった光の帯が、光の剣として現れる。


落ちてくるタイミングを見計らって、すれ違いざまに黒い玉に連撃を加える。


地面に着地し、再び攻撃をしようと振り返ると、黒い玉は煙のように広がり、やがて霧散する。


「終わった・・? 倒したの・・かしら?」


ヘクセもプッペも、そのまま状況を見守るが、浄化槽に水が貯まり始めても、ヘドロのモンスターが再び現れる事はなかった。






二人は大騒ぎの中、我関せずと冒険者ギルドへと報告に帰ってくる。


「プッペさん! ヘクセさん! 大丈夫でしたか!?」


ギルドでも浄化施設での、モンスター発生の一報は受けているようで、緊急依頼と呼ばれる、危険性が高く、即対応の求めらる案件に出される依頼の検討をしていた。


ましてやギルドの依頼で、ランクGの冒険者が向かった先でのモンスター発生である。

ギルドとしては、大慌ての状況だったらしい。


「大丈夫も何も、もー大変だったんだから」

「状況を詳しくお伺いしてもよろしいですか?」


ヘクセは、見たありのままを証言した。ただし最後の方は嘘をついて誤魔化す。


「そんなこんなでプッペの仕事っぷりを見ていたら、モンスターが、一番汚れた浄化槽に現れて、私達はそこから一番遠い、綺麗な方に居たから、すぐに逃げ出した訳よ」

「なる程・・」


自分達は、モンスターの討伐に関わっていない、モンスターを倒した者は知らないと。


「では、誰が倒したとか、どのように倒したとかは分からないという事ですね?」

「悪いけど、命あっての物種、見たことも聞いた事もないモンスター相手に、無謀に挑むつもりは無いから」

「賢明な判断だと思います」

「(何故、嘘をつく? いや、まだプッペを隠したかったのが理由か)」


自分達の手柄と言えば、すぐにランクアップした可能性が高い。


しかしプッペの能力、存在がすぐに知れ渡るリスクもある。

ヘクセの計画では、まだプッペを隠しておくべきと判断したと思われる。


「これは依頼の失敗になるのかしら?」

「いいえ。このようなイレギュラーを、ランクGの冒険者に対応するようには求められません。逃げたとは言え、達成したものと判断します」

「助かるわ。もうコリゴリよ、こんな依頼は・・」


受付嬢はどう取ったかわからないが、ヘクセはモンスター云々よりも、臭いや汚さを差しているのだろう。


「プッペ、今日の所は一旦戻り、トホター姫に報告します」

「いえす、ますたー」


流石にモンスターの一件は、見過ごす事はできない。

と思いきや、帰り際ヘクセはプッペに何気なく、独り言のように問う。


「その前にプッペ、あなた魔法が使えたのね? しかもしあの魔法は、この世界の魔法とは違うものよね?」


この世界には、風、火、水、土と言う四属性の魔法が存在する。

プッペが使った魔法は、そのどれとも合致するものではなかった。


「勇者ノ記憶ニアリマシタ。対魔王戦ノ能力デアルト」

「ふぅーん、なる程ねぇ」


ヘクセは、また一つプッペの能力が分かったとほくそ笑んでいる。


「戻ったらすぐに、お風呂に入りましょう。あと、服の臭いが取れると良いけど・・」


報告は報告だが、やはり身を清めたい女心と言うわけだ。


王城に着くと、門番に止められ、裏口から通るように言われる。


「まあ、この臭いじゃ仕方がないか・・」


諦めモードで、裏口へと回る。

しかし裏口でも、水浴びや着替えの準備万端揃うまで、入る事は許されなかった。


「何なのよ、もう!」


入ったは入ったでも、裏庭の隅で、ついたて一枚ですべて行われる事になった。





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