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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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勇者の冒険

【勇者の冒険】


女魔導師ヘクセは、次の場所へ向かう間、プッペに愚痴を零し続けた。


「プッペ。貴方も今のやり取りを見ていたでしょう?」

「いえす、ますたー」

「(まあね)」

「私やトホター様の置かれている立場って言うのを、如実に表しているわ」


姫・・確かに、王家に連なるものに対する態度ではない。


「トホター様は、第四王女だけど正室でも側室でもない、女好きの国王のお手付きになった侍女の娘。正室と側室には王子が居るけど、かなり疎まれていて、国王も、表どころか裏からだって会えないようにしているわ」

「(おいおい、そんな事道端で公言して大丈夫なのか?)」 


いくら小声とは言え、聞かれれば不敬罪か何かで処罰を受けそうな物言いである。


「(とは言え、トホター姫は国王の娘だったのか・・)」

「はんっ! 何がうちの部署には装備がないとか、兵士の方へ行けとかあり得ないわ! しかも下級兵士の革の鎧に、木の盾、青銅の剣って。仮にも姫の護衛用の装備よ? 近衛隊や親衛隊の装備とはいかないまでも、上官や指揮官クラスが支給されてもおかしくないはずよね!」

「(受付のおっさんも言ってただろう? トホター姫の許可を得ろって・・)」

「何が手順を踏めよ! 王子辺りが言えば、ホイホイって言われた装備を出すくせに!」

「(あー・・、そう言う事ね)」


手順とか規則とかは、あくまでも建前で、トホター姫の面々は、そう言われれば、何も言えなくなる位の立場と言う事が、城中に知れ渡っていると言う訳だ。


「(下手に勇者を召喚しましたって言えば、速攻で消されるんじゃねぇ?)」


ヘクセとトホターの考えと、僕が導き出した答えがはからずも一致してしまう。




その間、プッペと言えば、主の意見を「ハイ」と肯定して頷くだけだ。


勇者の記憶と能力を持つとは言え、人工生命体としては生まれたばかり。

まだ主人との関係性を、上手く作れていないから、肯定しか出来ないのかもしれない。


「(お前も頑張れよ)」


思わずプッペに、声援を送ってしまう。


だからこの時点では誰も気づかなかった。プッペが何をしてしまうのか・・






ヘクセはそのまま王城を出てしまう。

目的地は分かっているのか、躊躇う事なく進んでいく。


「(うん? 今度は何処へ行くつもりだ?)」


やがて一つの建物の前で立ち止まる。


「ここよ。ここであなたを冒険者登録するわ」

「いえす、ますたー」

「(冒険者登録? 冒険者って、ファンタジーで良く出てくる冒険者って事か?)」


各地から舞い込む仕事を、依頼として受け、時には命を賭して解決し、報酬を得る人々。

危険を冒す者・・、それが冒険者である。


ヘクセは、何故プッペをここに連れてきたのだろうか?


「貴方が言った勇者の記憶と能力を証明してもらうわ」

「ますたー。私ハ嘘ハ申シマセン」

「嘘とは思ってはいないわ。ただ貴方には実戦の経験が無い。そして私は勇者がどれ程の力か分からない。その二点を私に見せなさい」

「いえす、ますたー」

「(なる程ね。尤もだ)」


記憶と能力を持っている事と、使いこなせるという事は別物である。


自分の護衛の能力を把握しないで、傍においておく事も危険だろう。

いざと言う時に、知識だけひけらかして役に立たないでは、何の意味も無い。


「(あれ? ちょっとおかしくないか? 何で僕が記憶を思い出していないのに、プッペが記憶を引き出せるんだ?)」


僕の頭の中に、初代勇者の記録みたいな本があるのだろうか?


そんな僕にお構いなしで、話は進んでいく。


「兵士でも構わないんだけど、規則に縛られる事は多いし、能力がバレたら、すぐに潰されかねないわ。その点、冒険者は自由だし、よほどの事が無い限り、国でさえ手出しは出来ないのよ」

「(ふーん、良く考えているじゃないか)」


この世界でも、冒険者は一つの職業として確立され、大きな組織となっているのだろう。


先の二つの事を、誰彼に隠しながら行うには、最適の方法と思われる。


「冒険者には、お互いを助け合う組合、ギルドと言うものが存在するわ。ここで冒険者登録したり、依頼を受けたり、依頼の報告と報酬を受け取るのよ。じゃあ、中に入りましょうか」


建物に取り付けられたスイングドアを押し、中へと消え、プッペもその後に付き従う。




中は広々としており、部屋には衝立が幾つもあり、多分依頼なのだろう、壁だけではなく、その衝立にも、所狭しと張り出されている。


ギルドに入って、僕が最初に思った事がある。


「(あれ? 酔っ払いは? 新人に絡む役の人たちは?)」


この思いただ一つであった。

冒険者達がいない訳ではないが、ガラーンと静まり返っていた。




そんな僕の思いを他所に、二人は受付にいる女性の所へと向かう。


「この人工生命体プッペを、専属の護衛として、冒険者登録したいんだけど?」

「・・・出来ませんが?」

「えっ!? 何故? 人工生命体だから!?」


女魔導師のヘクセは、いきなり出鼻を挫かれ慌てている。


「違います。人工生命体であれ、狩人のペットであれ、冒険者登録は可能です」

「じゃあ、何で・・」

「冒険者ギルドにはランクがあり、誰もがGから始まり、Aへ、更にはその上のランクへと上がっていきます」

「知っているわよ」

「専属の冒険者となれるのは、ランクD、知り合いと言う条件でランクEが最低限の条件です」

「えっ!?」


冒険者の存在は有名なのだろうが、細やかな規則までは知らなかったのだろう。


「これはランクEになるためには、討伐など戦闘系の依頼をこなす必要があり、ランクEからは護衛と言う依頼を受ける事ができるからです」

「そ、それは・・」

「ギルドに例外はありません。例え有力貴族や、王であっても、必ずランクGから始めていただきます。例外を作れば、そこから色々な綻びが生まれます」

「そ、そうね」


ここで第四王女の威光を振りかざしても(通用するかどうかは分からないが)、解決しないと分かったのだろう。

秘密裏の行動なのだから、そんな事自体やるのは不味いだろうが。


「分かったわ。プッペの冒険者登録だけして頂戴」

「畏まりました」


やっとの事で、プッペの冒険者登録が始まる事になる。




僕は、ヘクセと受付嬢の話しを聞きながら、どうして酔っ払いや、絡む冒険者がいないのか、悶々と考えていた。


そもそも僕は誤解していたのだが、ギルドとは本来、同じ職業の助け合いの場であって、時には仕事を斡旋する場でもある。


いくら自由な冒険者と言えども、揉め事を起こせば出禁になるのは至極当然。


一応は仕事の場なので、酒類が置いてあるはずが無い。

酔っ払って入ってくれば、強制退場をさせられるのだ。


自由と無法地帯は別物であるし、先ほど受付嬢が言っていた、ランクと言うのが自己責任のガイドラインである。


ただしここは王都であり、お金を落としてくれる上流階級の依頼人たちも多い、という前提条件が付く。


地方に行けば行くほど、力こそ正義であり、自由を手に入れる唯一無二のものとなる。


依頼料を回収するために、宿屋と酒場を持つ冒険者ギルドも少なくない。

そこには定番の酔っ払いと、絡む冒険者が居る事になるはずだ。







そんな事を考えている僕に、お構いなしに二人は、早速依頼を探しに行く。

まあ存在自体知らない訳だから、構う構わないとは別の問題ではあるが・・


「プッペ、どんどん依頼を受けて、さっさとランクアップしましょう」

「いえす、ますたー」


受付嬢の説明でも会ったのだが、自分のランク以上の依頼を受ける事はできない。


これも王都と地方では、大きな隔たりがある。


王都では信頼を損なわないように、依頼の失敗を絶対にしない事が条件だからだ。

地方では自己責任という要素が強く、ランクより高い依頼を受けられる場合もある。


ヘクセは碌に内容も確認しないで、依頼を手に取ると受付へと向かう。


「この依頼をお願い」

「畏まりました。財布探しの依頼ですね?」

「・・財布探し?」


受付嬢に言われて、改めて依頼の内容を確認している。


「何でこんな依頼があるわけ?」

「そのような事を言われましても・・」


財布を落とした場合、普通なら衛兵に落し物が届いていないか確認するのだ。

よほど人の良い人に拾われない限り、ほぼ百%財布は戻ってこない。


王都とは言え、いや王都だからこそ、スリやスラムに住む人々の存在が多い。


「大体にして、財布なんか見つかるはずが無いでしょう!」

「ええ。ですから、この依頼には期限が付いており、見つかる見つからないに関わらず、依頼は全て達成となります」

「期限?」

「はい。三日間、王都中を探し回って下さい。それが達成条件となります」

「・・み、三日間? 王都中を?」


何でこんな依頼があるのか、何でこんな依頼を引いたのかと、ヘクセはガックリしている。


僕が思うに、前の世界のファンタジー小説にもあったサービス依頼であろう。


落とした財布は衛兵の所へ行くし、ほぼ見つからない。

余程の理由が無い限りは、冒険者ギルドに依頼などしない。


下手をすれば、財布の中身より、依頼料の方が高くつく場合もあるだろう。


これは初めて王都に来て、冒険者になった人が、王都はどのような場所で、何処に何があるかを知るための依頼なのだ。


王都の事を知った上で、更にお金まで貰える美味しい依頼と思ったのだ。




受領されていないのだから、嫌ならば取りやめれば良いのに、ヘクセはそのまま依頼を受け、プッペに命じる。


「プッペ。三日間、ここに書かれた特徴の財布を、ここに書かれた場所を中心に捜しなさい」

「いえす、ますたー」


やはりあり得無そうなデザインの財布と、王都の主要と思われるポイントが、落とした場所として書かれていた。


「四日後の朝、このギルドの建物の前で待つように」

「いえす、ますたー」


プッペはすぐに、財布の探索に取り掛かり、ヘクセは王城へと戻っていく。






マスターであるヘクセから漏れる言葉の端々から、いくつか分かった事がある。


まずプッペは人工生命体であり、動くためには魔力というものが必要である。

稼動や修復に必要なエネルギーは、大気の魔素という物質?を全身より吸収し、胸のコアに集め、動力源の魔力に変換して供給する。

そのため食事などは不要と言う事だった。


また休息は脳や内臓など、普通の生体を持つ種に必須である。


フランケンシュタインの素体として、一部ホムンクルスなどの生体を使用していた。

神の手によって作り変えられた後も、そのような要素は残っているらしいが、人工生命体は基本的には休息は必要としないらしい。


よってプッペは、与えられた三日間、昼夜問わず、指示された場所に割り当て、可能な限り探索に時間を掛けるよう行動する。






私ヘクセは王城に戻ると、トホターに今までの経緯を報告する。


「冒険者にはランクが存在するのですね。しかもヘクセの専属護衛となるにも、相応のランクが必要であると。自由な冒険者も色々とルールがあるのですね」

「それにつきましては、予想外でした」


王城を一歩外に出れば、そこには地域や環境ごとの規則が存在する事を知った。


「粗野で乱暴ものの集団と聞いていたのですが、どうでしたか?」

「あの場所の冒険者達からは、そのような感じは受けませんでしたね」


そんなに冒険者が居た訳ではないが、確かに噂とはかなり違っているように思えた。


「それから・・、プッペ一人に依頼をさせて大丈夫なのですか?」

「その点に関しましてはご安心下さい。この後、監視に戻ります」

「監視・・ですか?」

「はい。財布を探す場所は既に決まっており、そこに行けばプッペは必ず居るでしょう」

「その話しは聞いていますが、どう繋がるのですか?」


当初こんな依頼が何故あるのかと思っていたが、よくよく考えれば良い機会である。


「プッペがきちんと依頼をこなしているか、私の命令に従っているかを確認します」

「降霊した者が、私達を謀っていると言う件ですね?」

「はい。とは言え、どれだけ命令に忠実であっても、それは見せ掛けで、最後の最後で裏切る場合も十分考えられますが・・」

「それは世の常、世の習い・・。仕方の無い事でしょう」


第四王女の立場として、重々骨身に染みているのだろう。


「プッペのランクアップを図りながら、プッペの行動を調査します。そういう意味では冒険者は最適でした」

「なる程、時間は掛かりますが、やらざろう得ませんね」

「その通りです」


降霊した存在が、私達を謀っている可能性を、このように払拭していくしかない。

信頼し裏切られれば、私達が甘かったというだけの事だ。


「分かりました。引き続き検証をお願いします」

「畏まりました」


一礼をすると、先ずは一旦自室へと戻る。


「ここまでの記録を作成しつつ、時折監視しに行くとしましょう」


プッペの降霊から、今の今まで未整理だった情報の整理を始める。


そしてプッペに気づかれないように、遠距離や物陰から、監視を続けれる。

その姿は、命令通りに、財布探しの依頼をこなしているように見受けられた。


「まだまだ最初。じっくりと時間を掛けて調べなくては・・」


自分は正しく、勇者の魂の一部、記憶と能力を手に入れたのだ。

その研究の成果に、一片の失敗も無いと自負している。


しかし万が一がある。イレギュラーだってあり得る。

プッペが自分にとっての、最後の切り札となるかどうかを、自分の目で確かめねば。


最後に頼れるのは自分自身のみ、それに全て掛かっているのだから。





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