戦争の原因について
【戦争の原因について】
ただボーっと、神が戻ってくるのを待っていると、最初と同じように突然現れる。
「いやー、お待たせお待たせ! 申請に時間食っちゃってね。じゃあ、君にやってもらう事とやっちゃいけない事の説明しようか」
突然現れたと同じように、唐突に話し始める。
「ちょっと待てー!」
「うん? 何だい? 私の世界に行くのを止めるのかな? それならそれで・・」
「違う! 僕が行く世界の説明から始めろよ!」
「・・・何で?」
「人の記憶を消しておいて、その台詞かよ!」
「記憶・・? ・・ああっ! そう言えば、そうだったね」
ポンと手を打つ。
やっぱり僕が全てを知っているという前提で、話し始めたようだ。
ここまで言って、やっと合点がいくとは・・。
大丈夫かこの神は?と思ってしまう。
「じゃあ、最初っからか・・。結構時間掛かりそうだなぁ。再延長の申請が必要かなぁ・・、弱ったなぁ、困ったなぁ」
「記憶を消した分の責任は、ちゃんと取ってくれよ」
「分かったよ」
凄くめんどくさそうな表情を浮かべながら、自分の世界の事について話し始める。
「まず私達、神・・自分たちは世界管理者と呼んでいるけど、私達の唯一無二の存在理由は、私達を創られた方に従う事」
「ふーん」
「私達を創られた方は、私達に人間を創造し、平和で楽しく暮らす世界を創り、管理するようにお命じになった」
「それで世界管理者って言う訳か」
ここら辺はどうでも良い話なので、軽く聞き流す。
「私は自分の世界を創る際に、人々の祈りや、強い望みによって、神や精霊が生まれ、願いを叶える仕組み・・複合祈祷型事象干渉システムを取り入れた」
「あー、それが問題のシステムか。そもそもどんなシステムで、何故戦争の兵器として使われるようになったんだ?」
向こうの世界に行くにあたり、ここが肝心なポイントの一つだろう。
「話せば長くなるんだけど・・。祈りと言うのは、悪く言えば欲望でもある訳で、あれが欲しいこれが欲しい、国としては相手の領土が欲しい・・とね」
「つまり簡単に願いを、聞き届け過ぎたと言う事じゃないか」
人間の浴の深さを、甘く見すぎたと言う事である。
「簡単に説明したけど、そう簡単には神や精霊は生まれないんだよ?」
そう言うと、どこからともなくガラガラっと、何やら四角形の繋がった物体を広げる。
「ブロックパズルってしている?」
「ん? 知らないけど?」
「立方体が幾つかくっついて、直線、T字型、L字型、捩れ型となったパーツを組み合わせて、九×九の立方体を作るのが基本のお遊びだよ」
「ふーん」
神と一緒に、僕も広げられたパーツを手に取って弄繰り回す。
「じゃあ、試しに作ってみて」
「はぁ? 何でそんな事・・」
「まあ、いいからいいから」
「めんどくさいなぁ・・」
文句を言いながらも、仕方なく神の言う通りにパズルを組んでいく。
最初は戸惑ったが、コツが分かってくると、パパッと組み上がる。
「これで良いのか?」
「んんー、オッケーオッケー。それが複合祈祷型事象干渉システムだよ」
「・・・はぁ!? どう言う事だよ!」
思わず素っ頓狂な声をあげて、神に喰い付いてしまう。
「パーツの一つ一つが、人間だと思ってくれ」
「・・それで?」
色々なパーツを手に取ってみる。
「形の違いは、個性だったり、考え、目的、目標、環境、その他諸々が関係している」
「まあ言わんとしている事は分かる」
人と言うのは、同じ存在はあり得ないと言いたいのだろう。
「しかしその人間同士の組み合わせで、神や精霊が生まれたら簡単すぎだろう」
「九×九ぐらいだったらね。もっと大きかったら?」
「そっか・・、難易度は上がるよな」
「因みにパーツ自体は自ら動けない。誰かによって形作られる必要がある」
「・・・えっ!?」
あまりにも意外な言葉に驚く。
「今回は君と言う第三者の手によって組み合わされた。そしてより大きく作るには、時に形を多少変えなくちゃ合わない場合もある」
「それって・・どういう事だ?」
「幾つか例を挙げて、神や精霊が生まれるプロセスを説明してあげよう」
世界管理者の話は、神と精霊の誕生、そして兵器として生まれた背景へと移る。
「人間は、神によって創られたという情報が魂に刻み込まれている。そのため漠然とだが、祈る、頼るという行為を無意識で行う」
「ふむふむ」
「人々は誰彼に言われる事なく、朝な夕なに祈り、その日の幸いを願う。それが繰り返されると、偶然望みが叶う事もあり、そうなるとより強く感謝し、より祈るようになる」
「まあ、そうかもな」
困った時の神頼みと言う言葉もあるように、人は何かの機会に祈る事もあるだろう。
そのときに助けられたと感じれば感謝をして、祈り続けるかもしれない。
「その小さな祈りも、一日二日、十日、百日、千日、子々孫々と長い長い習慣となり、そういった人たちも少しずつ増えていく」
「そうなるかな・・」
「人が増えると共通の祈る対象、目に見えるモノに祈りが向きやすくなる。どうも人と言うのは、形あるものに祈り易いみたいでね」
「あぁー。僕の住んでた世界にも、偶像礼拝ってあったよ」
人が作った神の像に、人々は祈りを捧げる風習が、あちらこちらで見られた。
「誰かが村一番の大木を、ご神木として誰かが崇め始めると、村全体に広がり、村長が管理したり、神の声を聞く神官や巫女といった存在が誕生する」
「何かありそうな話だ」
「そこまで行けば、複合祈祷型事象干渉システムが発動し易くなる。つまり実際に祈りが形となって、神木という土地神が現れる」
「なる程ね、それが神や精霊の誕生か」
先ほどのブロックパズルではないが、誰かの切欠が、人々を一つの方向に導いている。
「他にも狩人と言うのは、狩りの巧みな動物、例えば狼を信仰の対象にする場合がある」
「へぇー」
「しかし狼は、人間の家畜や、人間そのものを襲う事もある」
「そりゃそうだ」
狼にとっては、人間も餌の一種と見えて当たり前だ。
「何故か狼は神ではなかったと言う考えが生まれず、自分達を襲うのは神を裏切った悪しき存在、自分達は神のために、悪しき存在を退治する。退治する事は許され、逆に喜ばれ感謝され、更に狩りは良くなると言う考えが育ってくる」
「ふむー、なる程」
「更に神たる狼は、普通の狼とは違った姿、人より遥かに大きく、金や銀色、翼があるのだと言い始めたりする」
「善と悪、神と魔の存在を分けるって事だな」
人間は弱いから、共通の味方や敵を作る事で一致団結する。
「そんな感じ。でも貧しい村にそんな像は造れないから、壁画や織物に描くようになり、それらを崇めるようになる」
「うーん、ありそう」
「でもあくまでも村の中だけの実りとか、限定された力の範囲だったんだよ」
そこまで楽しげに話していた世界管理者のトーンが少し下がる。
「でも神や精霊は、土地神だけじゃない」
「そりゃそうだろう」
「人の中には、思想統一された組織が存在する」
「思想・・統一? っ!? 軍隊か!」
世界管理者は、黙って頷く。
「軍隊が求める神と言えば?」
「・・戦神に軍神、闘神の類か」
「他にも宗教なんかも、思想統一の一つの手法でね」
「はぁー、宗教戦争によくある、神同士の戦いか・・」
「そっ。これらが神や精霊を兵器として使い始めた理由だね」
仕方ないよねっと言う感じで、肩をすくめ、お手上げのポーズをする。
「人間が愚かと言うのが決定したな。でも求めるものは何でも与えると言うシステムにも問題があったんじゃないのか?」
「そんなシステムは導入していないよ」
「えっ!? 今までの話じゃ・・」
祈れば何でも与えられると思っていたんだけど・・
「複合祈祷型事象干渉システムと言うのは、人間が主体となって生活する上での、補助的な手助けをするシステムなんだよ。君の言う通りなら金を求めれば金をくれる神が生まれちゃうじゃないか」
「じゃあ戦神は、何故生まれるんだ?」
今の話では、神に相手を倒してくれと祈っても、効果は得られないように思われる。
これなら戦争の道具になりようが無いはずだ。
「神様のような、敵を退ける力を、自分たちも得られるように助けを下さい、って感じで、自分たちのような兵士を助けてくれる神をイメージすると作り出せるのさ」
「直接的に求めるのではなく、間接的に求めるようにするのか」
「他にも雨が欲しいと言う祈りも、自分達の田畑を豊かにする努力をしたので助けて下さい、と言う祈りにすれば、手助けを求めているに変わる」
「良く気づいたなぁ・・」
「そういう風に、祈りの方法も漠然と伝わるようにしてあった」
「・・・」
今の一言で、世界管理者の自業自得な気がしないでもない。
「ここで更に問題が起きた」
「今のが、問題じゃないのか・・」
「村などの限定された土地神は、信仰する者が居なくなると徐々に消えたのに対して、戦神や宗教神は自分で考えて行動する、自我に目覚めてしまった」
複合祈祷型事象干渉システムは、必要とされなければ、休眠状態になり、やがて忘れ去られるはずだったらしい。
しかし軍神などは、力を示す事が存在意義であり、自我と言う形で現れてしまったと言う。
「予想外だったのか?」
「戦神や宗教神自体も、予定外だったけど、まさか人間の強い思いが、自我を与えるなんて思いもしなかった・・・」
「そんなものか・・」
世界管理者の考えでは、村々の助けてとしての神や精霊のつもりだったのだろう。
それが自我を持って、人間を襲い始めてしまった訳だ。
「自我を持った神や精霊は、生まれた目的に応じて行動し始めた。多くは自分以外の存在の殲滅や破壊かな。それは人々の恐怖の対象となり、一つの信仰として、魔王として生まれ変わり、更に強める結果となった」
「あーあ・・」
「ある国が、勇者の召喚を求めたので、私が承認して君を送り出した」
「それが初代勇者って訳か」
「そう、これが一連の流れだよ」
すこし・・、いや、かなり疲れた様子で溜息を吐く管理者。
「その後、勇者は魔王はもとより、神や精霊達も一旦滅ぼし、一つの国を興して、勇者の指導の下、私という唯一神の国教を作り出した」
「それで今のところは安定しているから、僕が不要と言ったんだな」
「その通り。で、最初に戻るけど、ここからが君の役割の説明になるんだよ」
ここまでが自分の消された記憶の部分だった訳だ。
「私の世界に君に行ってもらって、やってもらう事と、やっては困る事を話すね」
「ここからが本題、二代目勇者の役目か。それで何をすれば良いんだ?」
「さっきも言ったけど、割と平和で安定してはいるが、不穏な動きもある。それらの事前の準備が君と言う存在になる」
「不穏な動きって言うのは何だ?」
「長い平和で、国の中枢が腐り始めている事と、広い領土を分割して治めさせている領主の反乱かな」
「おいおい・・」
何故平和の世界で満足せず、わざわざ混乱を引き起こそうとするのか、理解に苦しむぞ。
「勇者は世界管理者である私を唯一神とした国教を起こしたけど、私自身は世界の住人を直接助ける事はできない」
「つまり実際に助けてくれる神を、求め始めたと言う事か?」
「遺跡や伝承と言う物までは消し去っていないからね。そういった情報から、過去に存在した神や精霊を探し出して、復活させようとしているのさ」
「過去に居たと言う事実は、容易に人々の思想を向けさせるな」
「そう、複合祈祷型事象干渉システムが発動するのに十分な条件なんだよ」
人のためのシステムを逆手に取られて兵器となってしまっては、世界管理者として目も当てられないのだろう。
「神や精霊が蘇ると言う情報が伝わると、戦神も蘇るのでは?となった訳で・・」
「そうやって戦争の準備を進めているのか」
「あくまでもそう言った動きがあるっていう話。だけど研究はどんどん進んで、漠然と実現しつつあるのが現状だね」
「何時戦争が始まってもおかしくないって訳か・・」
領主領主によって目的が違うので、すぐに戦争、と言う形には至っていないだけの危うい状況の可能性である。
「つまりこの状況で勇者の存在が、明るみに出るのは望ましくない」
「何でだ?」
「勿論勇者を手に入れた者が、次期国王になるからに決まっているじゃないか」
「納得・・」
神や精霊、あまつさえ魔王すら滅ぼす存在・・。喉から手が出るほど欲しい訳だ。
「まだ世界が平和な状況では、君の力は封じられ、一般人と変わらない」
「ふむふむ」
「君・・勇者の力が必要と判断に応じて、能力が覚醒したり、封じられたりする出来るようにする」
「へぇー、そんな事できるのか?」
「その辺は上手くやるよ」
ふと思いついた事を聞いてみる。
「能力が覚醒していると、神や精霊、魔王に勝てるのか?」
「勝てるよ、絶対に」
「自信満々だな。何故か聞いても良いか?」
「勇者に与えられる光魔法は、光速での移動や光による多種多様な攻撃なんだけど、本来の姿は強制事象干渉能力、最上位の事象干渉だよ」
「つまり補助的な役割の、複合祈祷型事象干渉システムと比べると?」
「比べるのもおこがましい。光魔法の前では全て無に帰すね」
勇者と敵対する事は、世界からの強制退場となると言う能力か、とんでもないな。
一通り説明が終わると、世界管理者の世界へと転生となる。
「くれぐれも目立ったり、暴走したりしないようにね」
「分かったよ」
「能力が覚醒してなければ、一般人と同じだからね」
「分かってるって」
何度も念押しされながら、暗黒の中へ意識が沈んでいく。