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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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第二次魔王大戦と人形

【第二次魔王大戦と人形】


熱烈に自分の名を呼び、手にした武器を天高く突き上げる兵士達。


名前だけの、お飾り女王である私は、笑みを浮かべつつも冷めた目で彼らを見ます。


「女王陛下、これであなた様は、救世の王と成られますなぁ」


挙兵自体を散々渋ってきた自分への当て擦りなのか、軍幹部の言葉に棘を感じます。


視線や姿勢は兵士達に向け、笑顔も絶やさず返答します。


「何一つ私の言葉の通らない、あなたがたの用意する玉座が楽しみですわ」

「・・・」


同じように棘のある返事に、背後から無言の圧力を感じますが、気づかないフリをして言葉を続けましょう。


「私が第四王女だった時から、幾度となく警告を発してきました。しかし誰一人耳を傾けもせず、問うてもはぐらかすか、大丈夫の一点張り・・」

「全てはあなた様のためです」

「最後に一つだけ問いましょう・・。先の魔王大戦の原因はご存知?」

「・・勿論存じております。それが何か?」

「知っていれば構いませんよ」


そう言うと会話を打ち切り、誰を見るではなく、ただ遠くない未来を見る。






四人が出て行った扉が閉じられると、自分の影武者が問いかけてくる。


「よろしかったのですか、帰してしまって」

「構わないわ」


虹色に輝くコアを飾る、自分に瓜二つの人工生命体に、肩を竦めて答える。


既に主が切り替わっており、魔女として二人の少女に命じなくては手に入らない。


「三人はあなたの胸のコアに釘付けだったでしょう? 虹色のコアの価値を知っていて、出来る事なら手に入れたいと思っているはず」


魔女が手を差し出すと、意を汲んで影武者は胸のコアを外して、その手に恭しく乗せる。

このコアが特別性なのか、機能を失い黒くなる事なく、虹色の光沢を保ったままだ。


影武者はオートマトン型であり、コアは内蔵で別の物が組み入れられている。

虹色のコアは、あくまでも偽魔女を引き立てる道具として使っていたに過ぎない。


「彼らは私の呼びかけを無碍に出来ない。ヘルトを調べて代替品が出来れば良し、失敗が続くなら、その時手立てを考えるで遅くはないわ」

「差出がましい事を申しました」

「構わないわ。その前に・・」


魔女は席を立つと、影武者が先に行き、自室へ繋がる扉を開けてくれる。


「ヘクセを研究するために、ゴミ掃除をしなくちゃね」


自ら率先して、私の軍門に下った人々からの情報。

今は旧王国派と呼ばれる、トホターを旗印に掲げる一派の挙兵・・


「魔王できれいさっぱり片付けてから、ゆっくりとヘルトを調べるとしましょう」

「畏まりました」


後ろで静かに扉が閉まると、そのまま自室へと歩みを進める。




色々な物が雑多に置かれているように見えるが、自分なりに使い易い配置である。


イスに腰掛けると、目を瞑り、魔王と視界を同調させる。

魔王が見ているモノを、自分も見る事ができるのだが、時々、自分が今いる場所を見失う事がある。


「あれは痛かったぁ・・」


つい最近ではプッペ・・ヘルトを見つけた瞬間、咄嗟に手を伸ばして壁に激突。

その時の突き指の痛みを思い出して、涙目になり、思わず手を摩る。


「便利なんだけど、もう少し何とかしないと」


その他にも、ふとした拍子にたたらを踏んだり、身体をあちこちにぶつけるので、椅子に座るようにしているのだが、今のところ改善の目処は立っていない。


自分が生み出した魔王は、百対近くに及ぶ。

完全に一体一体を把握できている訳ではないので、パッパッパッと視界を変えていく。


「・・あれ? 旧王国派の軍隊は? 旧王都に向かっているはずよね? て言うか、旧王都にいる魔王の視野はどれよ? 私は今どこを見てる訳!?」


こんな感じなので、胸に突然の激痛と、口一杯に溢れる鉄さびの味に反応が遅れる。


「ゲフォッ・・。な、何・・」


そこでやっと自分の胸に、漆黒の剣の先端が生えている事を、吐血しながら認識する。


剣が体から引き抜かれると、椅子からズレ落ち、焼け付くような痛みが全身を襲う。


「あはっ・・そうきたか」


考えなくても当たり前・・、魔王の力が強大だからと、あまりの間抜けっぷりだ。

魔王が強いのであって、私自身は一介の女魔導師でしかない事を失念していた・・


背後にいる暗殺者に、狂気の笑みを浮かべ、全ての魔王に命じる。


「全てを・・破壊し、滅ぼ・・しなさ・・い」


自分の影武者が飛び込んでくるのを、視界の端に捉えて暗殺者に呟く。


「先に・・待って・・、皆を・・連れ・・て、いらっしゃ・・」


暗殺者に向けての言葉だったのだが、影武者は最後の命令として受け取る。

影武者は暗殺者を瞬殺すると、復讐のための殺戮マシーンと化す。






天啓、そう四人には話したのだが、それ以外の何物でもなかった。

残る人生と生命を、神はあの人形のコア作成に使えと命じられたのだ、神は。


「やれやれ。研究者としては、掌の上で転がされている事を認めたくないですじゃが」


日常生活の全てから、ありとあらゆるアイデアが湧き出てきた。


夢見や啓示と呼ばれる、寝ている間に神からの知識を授かるのは言うに及ばず、鍋の中の料理、並べた食器、洗物の山、雲の動き、水の流れ、舞う木の葉。

歳のせいで目が霞んで見えるものからでさえ、ヒントが得られたのだ。


「だからと言って、それが全て正解と言う訳ではないですがのぉ」


確かに色々なものから知恵は授けられたが、成功はしていない。

だからこそ、何度も何度も知識が授けられているのだ。


目の前には一抱え程の大きさの木の箱が置かれている。

中には入れ子の箱が四つ入っており、最後の箱は掌サイズだ。


蓋、底、側面の中と外に、ビッシリと幾何学模様や文字らしきモノが書かれている。


「さて、これが最後ですか・・」


つい先ほど完成した、何個目かのコアの原型である。

幾たびかの実験を経て出来上がった箱の中に入れ、五枚の蓋を閉じていく。


「後は、放って置くだけですじゃが・・」



ズズゥーンッ・・



腹の底へ響く重低音と、かなり激しい揺れが自宅を襲う。


「何ですじゃ・・今のは!?」


慌てて外へ飛び出してみると、村に置かれていた魔王が、交互に手を高く掲げ、掌に玉の様な物を作り出しては、地面に叩きつけていた。


重低音と、激しい揺れの原因は、正にこれのようだ。


「な、何がです・・!? 誰ぞ魔女の怒りでも買ったのですか!?」


魔女には国を治めると言う考えはなく、それぞれの町が旧王国の法律に従っての自治を認めていたはず。

現に魔王が攻撃をしている事を考えれば、魔王に敵対した者がいる以外に思いつかない。


人工生命体の研究もあり、村から少し離れていた事が幸いし、魔王の直接の攻撃には晒されていない。


「これはいかんです! 何時こちらを攻撃・・ぐおっ!?」


逃げようと思った瞬間、偶然か必然か、目の前に魔王の作り出した玉が着弾し、凄まじい衝撃と轟音、大量の土砂や木々が、家もろとも自分を呑み込んで行く。






大丈夫だと言う師匠の言葉でも、アンファとエンデの心は晴れなかったようだ。

さりとて、師匠としてもこれ以上の言葉を掛けようがない。


宿屋に戻るでもなく、ギルドに向かうでもなく、当てもなく町の中をフラフラとする四人。



ドゴォーン!



断続的に轟音と激震が四人を、いや周辺を、この町を襲う。


「うお!?」

「な、何!?」

「何です!?」


四人は立っている事ができず、地面に這い蹲りながら周囲を見回す。


「そ、そんな」

「な、何で」

「魔女め・・、何を考えているんだ」


町を守るはずの全ての魔王が、人々を襲い、町を破壊し始めた。


「「私達の・・せい?」」

「くっ・・」


流石にこのタイミングでは、疑いたくもなる。


「魔女に会いに行きます」


見せしめ的な攻撃を止めさせるには、魔女の元へ向かうしかない。


「「待って! 私達も!」」

「そうだな。今一番安全なのは魔女の館だろう。行くぞ!」


激しい揺れと、飛び交う瓦礫の中を、ひたすら駆け抜ける。




魔女の館に着くと、そこも大混乱に陥っていた。


使用人と思しき者を捕まえて、師匠は事情を聞きだす。


「一体何があった!」

「魔女様が・・、魔女様が・・」

「魔女がどうかしたのか!」

「こ、殺された・・」

「「「なっ!?」」」


この建物に働くものは皆、魔女と影武者の関係を知らされていた。


影武者が突如、鬼気迫る表情で建物を飛び出して行ったと言う。

今までこのような事はなく、主に確認しようとした所、既に事切れた魔女と、見知らぬ男の遺体があったと言う。


いまだ被害の及ばない魔女の館から、町の方を振り返って見る。


「魔女は暗殺された・・。多分、王国派の仕業だろうな」

「「そんな・・」」


王国派はもちろん、配下になる振りをしてタイミングを待っていた領主派もいる。

疑えば切りがないが、戦争の噂を思えば、一番怪しい。


魔王に軍事力で叶わないのであれば、暗殺も一つの手段であるが、今回は愚策だった。


「で、でも何で魔王が暴れているの?」

「そこまでは分からん・・」

「マスターズは、先の魔王大戦の原因をご存じないのですか?」

「原因ですか? そこまでは考えた事はないですけど?」


再発抑止のために隠蔽したか、長い年月で忘れ去られたか分からないが、伝わっていないようだ。


何故、魔王大戦が起きたのか、三人に簡潔に説明する。


「魔王を生み出した者達の突然の死・・」

「自由に、勝手に、己が行動を始めた魔王・・」

「今回と全く同じか・・」


正確には先の大戦では、土地神の類は、その場で動く事はなかった。


暴走したのは、俗に言う軍神や戦神である。

敵国より強くなる、敵国を倒す、と言う目的で、動き始めた結果だ。


魔女がそれを知っていたのであれば、自分の死に際しては、世界を道連れにとでも命じて有ったのかもしれない。


「マスターズ」

「何だ、ヘルト」

「別行動の許可をいただけませんか」

「「えっ!? 何で」」


二人の少女が驚きの声を上げる。


「二人も疑問に思っているが、何故別行動をするんだ?」

「ここは魔女の住まいし館で、今のところ安全であると思われます」

「そうだな、それで?」

「マスターズはここに居ていただき、私は先生の所へ行ってみます」

「先生・・? ああ、人工生命体の研究者か」


師匠は、先生と言う言葉を、記憶から探し出してくる。


「コア・・か」

「はい。もし今のよりも性能が高い物が完成していれば、パーティとしての戦力が上がり、生存率が上がります」

「なる程。しかし何の進捗もない可能性もあるぞ?」

「それでもです。最終的には魔女の影武者を追います」

「あのコアだな?」


謁見の席で、三人はあのコアが特別である事に気づいたはずだ。


「あの虹色のコアこそ、最初に自分に取り付けられていたものです」

「やはりそうだったのか」


師匠は何となく、そんな気がしたと言う。


「あのコアがあれば、自分に備えられた全ての機能を、十全に使いこなせます」

「それはそうだろう」

「非公式では有りますが、魔王を三体撃破しています」

「「「なっ!?」」」


三人に、その時の事を簡単に説明する。


「これは最優先に行うべきかもしれん。しかし・・」


僕一人で向かわせるべきかどうか迷っているようだ。


もし僕が最後の希望である場合、僕を失う訳にはいかない。

しかし今のコアでは、低ランクの戦闘力しかない。

コアの入れ替えをすれば、ランクC近くまでは上がるが、補助する存在が必須と言える。


では皆で危険な旅に出るのかと言われると、アンファとエンデが気にかかる。

それでは妹夫婦の遺児二人を残していくと言うのも、できない相談である。


「「師匠! 私達も付いて行きます」」


二人はお互いに頷くと、師匠にはっきりと思いを伝える。


「むぅ・・」


決断を迫られ、師匠は苦悶の表情を浮かべる。







第二次魔王対戦勃発・・、この知らせはすぐに全土に知れ渡る。


この一報を最初に聞いた時、思わず私は大笑いしてしまいました。

軍議の場に呼ばれると、侍女にお茶を用意させ大いに楽しみます。


「女王陛下・・、場を弁え下さい」

「場を弁えよ、とは?」

「ここは大切な軍議の場! お茶など浮ついた・・」

「玉座ならば、このような事はしませんよ?」

「ぐっ・・」

「あなたが・・、あなたがたが用意して下さると言っていた玉座は、何処に?」


集まった軍幹部の言葉に、私は言葉を被せます。


「私を散々馬鹿にし、貶め、話を聞かない、あなたがたが用意すと約束した玉座は何処にあるのですか?」

「そ、それは・・」

「今、そのような事を言っている時では有りません! 人類は未曾有の・・、陛下どちらへ・・?」


口篭る幹部を押しのけ、別の幹部が今の危機を訴えようとするので、軍議の場を立ち去る事にしました。


「私の言葉に答えてもらえないのであれば、私がいても意味がないでしょう?」

「陛下! いい加減に・・」

「ならば玉座は?」


冷め切った心から、氷の如き視線を一人ひとりに投げつけます。


「ですから今はそのような・・」


パシャッ!


手元にあったカップから、幹部にお茶を浴びせます。


「何故、私の問いに答えないのですか?」

「陛下・・、今は魔王が暴走・・」


パリーンッ


今度はカップを壁に投げつけます。


「私は散々警告しました! それを今、今、今と言って無視した結果がこれです! 違いますか? 違うと言うなら私の問いに答えなさい!」


今まで溜まりに溜まった怒りをぶつけると、全員が視線を外します。

その姿に思わず鼻で笑ってしまい、結局その場を立ち去ろうとしました。


「お、お待ち下さい、陛下・・」


今まで黙っていた幹部の一人が、意を決したかのように声を上げる。


「今は・・、大事な軍議の場です」

「玉座は?」

「申し訳有りません。ご用意できませんでした・・」


どうやら彼だけは、私の問いに答えてくれそうなので話の席に戻ります。


「何故?」

「魔女の暗殺は成功しました・・。その後、魔王が暴走し・・、現在その対応に追われております・・」

「先の魔王大戦の原因を知る者は、手を上げなさい」


私の言葉に、お互いが顔を見合わせながら、全ての軍幹部が手を上げる。


「全員がこの結果を分かっていたに、何を慌てているのですか?」

「「「・・えっ!?」」」


その場にいた全員が、驚きの声を上げる。


「何を今更驚いているのです? まさか原因を知らないとでも?」

「いいえ、暴走した魔王を勇者が・・」

「それは魔王対戦の歴史です。私が問うているのは原因で、そもそも魔王が暴走したのは何故か、と問うているのですよ?」

「「「それは・・」」」


再び誰もが顔を見合わせている。

当たり前でしょうね、知っていれば暗殺などしないでしょう。


「先の大戦の原因は、魔王には敵わないと、魔王を管理する者を殺したため、魔王自身が己が思うままに行動を始めたからです」

「「「なっ・・・」」」


明らかに全員が息を呑み、顔色が悪くなります。


「今回の魔王の暴走は、魔女の死が原因でしょう・・、先の大戦と同じ。つまりあなたがた自身の手で第二次魔王大戦の火蓋を切って落としたのです」」

「そ、それは・・その、結果であって・・」

「結果? 何度でも言いますが、第四王女時代から警告してきました。皆は私の言葉を軽んじてきました。あまつさえ勇者の研究では離宮へと幽閉しました」

「そうだ! 勇者、勇者を召喚すれば!」


人の、私の話を聞かない軍幹部がまた一人、声高らかに勇者召喚を訴え始めました。


頬を吊り上げ壮絶な笑みを浮かべると、彼らの言葉を肯定してあげましょう。


「そうですね、今となってはそれしか手がないでしょう。私の研究でも魔王を倒したと報告してありましたよね?」

「おお! それならば確実ですな。陛下の研究の成果をお見せ頂ければ!」

「研究を一任していたヘクセを呼び寄せて下さい。彼女が必要とするものは、私の権限で、全て用意するように」


私が発した名前に、その場の誰もが渋い顔をします。


それはそうでしょうね、私が聞かされた限りでは、捕らえられ秘密裏に処分されているのですから。

私もそうなると暗に脅したつもりでしょうが、かえって自分たちの首を絞める結果となった訳です。


「あなたがたが言い出した勇者召喚もも進めなさい。これに関しては、触れようとした私は幽閉されたのですから、全く知識は有りません。さあ、急いで!」


パンパンと手を叩いて、彼らを急き立てますが、誰一人動きません。


それはそうでしょう、暗殺と挙兵のためだけに全てを注いで来たのです。

今更、今から、勇者召喚の準備をして、間に合うとは到底思えません。


ちなみに勇者関連の書物は禁書であり、私如きがその存在に触れる事はできませんでした。

つまり何処にあるか知りませんが、王城の何処かなら手に入れる事すら難しいでしょう。


そして一番勇者に近かった、私のたった一人の従者もこの世にはいない・・


「何をボーっとしているのですか? 勇者召喚でも、ヘクセ探索でも好きな方を、両方でも構いません、すぐに取り掛かりなさい。もしかしてまだ軍議が残っていましたか?」


少々馬鹿にした物言いにも誰も動かず、誰も声を発しません。


「吉報を待っていますよ」


そう言ってその場を立ち去りますが、今度は誰も私を止めませんでした。


その後、軍議がどうなったかは知りません。

報告もありませんし、私としても報告を求めるつもりもありません。


もう全てが手遅れであり、私たちは死と滅びを受け入れるしかないのですから。





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