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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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謁見する人形

【謁見する人形】


人工生命体の研究をする先生からの、ダンジョン探索の依頼を終えた事を、冒険者ギルドへと報告に向かう。


「お帰りなさい、四人とも・・」

「ただいま・・?」

「だだいまです?」

「ん? 何だ?」


四人が建物に入った時、受付嬢たちの雰囲気が変わった。


「あなた達・・、何かやったの?」

「はぁ!? それってどう言う・・」

「ギルドマスターが、四人が来たら執務室に通せって・・」

「えっ!? な、何故ですか?」

「知らないわ。そう言われているだけ」


そう言って受付嬢の一人が、四人をギルドマスターの執務室に案内する。


「師匠、何だろう・・?」

「ギルドマスターに呼ばれる時って・・?」


アンファとエンデの表情は硬く、緊張しているのが傍目からも分かる。


先ずギルドマスターが、受付とか窓口に現れるような事自体ない。

低ランクの冒険者が、ギルドマスターから呼ばれることは、まず無いと言っても良い。

高ランクの冒険者と言えど、普通に依頼をこなしているだけなら、やはり会う事は少ない。


ではギルドマスターは普段何をしているのかと言えば、九割は裏方の仕事である。


例えば事務処理の決済、他のギルドとの打ち合わせ、権力者との折衝、軍との調整、違反者の処分、他の町の冒険者ギルドのマスターと話し合い・・と言った所か。


「一番多いのは違反者の処罰と、特別な依頼か」


忙しいギルドマスターが、冒険者達を呼び出す理由の殆どがどちらかであろう。


「私達、何も悪い事してないよね、ね?」

「多分大丈夫だとは思うが・・」


自分達だけが気がつかないで、何かルールに抵触することをした可能性は捨てきれない。


冒険者ギルドは、原則的には冒険者同士の揉め事には介入しない。


これは冒険者の自己責任と言う観点からではなく、報酬の分配や、パーティの方針といった、第三者的な立場が難しい事が多いからだ。


多少の殴り合いなら目を瞑るが、生活に支障が出るような怪我をさせれば黙っていない。

低ランカーへの煽りも、冒険者ギルドへの入るための通過儀式とされるが、過度脅迫や強請たかりは犯罪となる。


ギルドのルールは、国が定める法律を超える事はないのである。


「私達に何の違反もないとしたら、特別な依頼ですか?」

「うーむ、それも考えにくいんだが・・」


確かにアンファとエンデは、ここでランクDとなっている。

ちなみに僕は、師匠のお情けでランクEに上がった。


この町に拠点を移して、目立った活躍だってない。

そんな自分達に、ギルドマスターの目が留まるとは、到底考えられないのだ。


「ギルドマスターに会ってみるしかないな」


三人は覚悟、と言うのも変だが、決めて執務室に向かう。




案内された部屋に入ると、六十代ぐらいの男性が書類に目を通していた。


ギルドマスターの仕事は先程も言ったが裏方であり、大体は引退した冒険者、特に高ランカーのリーダー的存在がヘッドハンティングされるので、この位の年齢が多い。


「呼び出して悪かったな」

「いいえ」


書類を脇に寄せると、僕達に傍にあるソファに腰掛けるように言う。


「それで今回の呼び出しは、どのようなご用件でしょうか?」


リーダーとは言え、少女二人にはまだ荷が重いと考えたのか、師匠が話しを進める。


「はぁー、魔女様が四人とお会いしたいそうだ」


溜息を一つ吐くと、ギルドマスターは単刀直入に話を切り出す。


「「「・・はぁ!?」」」


その言葉に、三人は素っ頓狂な声を上げる。


ある意味、特別依頼ではあるだろうが、予想を遥かに超えてきた。

一介の冒険者達に、一国の王が会うということ自体殆どありえない事だからだ。


「オレも詳しい話しは聞かされていない。使者が来てセッティングをして欲しいと言われただけでな」

「そうですか・・」

「(十中八九、僕の存在が理由だろうな)」


頭を悩ましている四人に、心の中で詫びる。


何らかの方法で僕の存在を知って、興味を持ったのだろう。

一度自分の手で人格を破壊した人形が、再び動いているのだから当たり前か。


「ちなみに断る事は?」

「可能だと思うが・・」

「何か問題でも?」

「それはなんとも言えん」


魔女の政策は、基本我関せず。


その場、その環境に今まであった法律や仕来りをそのままに、第三者を選んで任せている。

逆に、このような干渉があった場合、かなり強引な手段に及ぶ可能性があるのだろう。


「(今の僕の状態で、何かされたとしても手も足も出ない。ましてや三人を守るどころか、逃がす事さえ出来ないだろうな)」


僕一人で片がつくことを祈るしか出来ない。


「行った方が良いな・・」

「すまんな」


魔女はほぼ全土を掌握しつつある。

たかが一つの町のギルドマスターが如何こうできる問題ではないのだが、師匠の決断に頭を下げている。




後は簡単に謁見までのスケジュールを話し合って、ギルドの建物を出る。


「どうしよう師匠・・」

「どうなっちゃうんでしょう・・」


流石に一国の主との謁見・・二人の緊張感が半端ない。


「ギルドマスターも何も知らないと言っていたし、あまりにも情報が足らな過ぎて判断のしようがない。会ってみるしかないな」


師匠の方は、肩を竦めて、半分諦めモードだ。

逃げるにしても、魔女の手の届かない領地まで、見つからずに行動はできないだろう。


しかも先ほどの話し合いで、ギルドマスターから万が一謁見できない事態にならないように、他の依頼を受けず宿屋で大人しくしているように念押しされている。


「でも依頼を受けるなって言ったって、ねぇ・・」

「一応、生活費はギルド持ってくれるそうですけど・・」

「二ヶ月か、三ヶ月・・、謁見までどれだけ待たされるか・・」


王ともなればかなり忙しい。

貴族でさえも中々会えないとなれば、平民の自分達はどれ程待たされるか。


怪我などで依頼を受けられない事はあるが、何もせずにボーっと三ヶ月では、身体が訛るどころか、おかしくなってしまいかねない。


会いたくない反面、何も出来ない事がもどかしい。




しかし三人の杞憂は、翌日来たギルドの職員と一緒に来た使者の一言で一変する。


「・・い、今から!?」

「な、何の準備も・・」

「それはそれは・・」


昨日の今日で謁見すると言われて、三人は驚きを隠せない。


「いつもの格好で構わないと仰せです」

「「いや、そのままで構わないと仰せられても・・」」


アンファとエンデが、師匠の方を見る。


「普段着で良いというんだ。大至急と言われてる以上、どうしようもあるまい」


使者はこのまま魔女の所に案内すると言うのだから、身支度をする余裕すらない。


「ささ皆様! お急ぎ下さい」


急かす使者に使者に、仕方なく僕達は着の身着のままで王城へと向かう。


「でも師匠、この町の近くに、そんな大きな建物あったっけ?」

「依頼で他の村々を回った際にも、城のような物はなかったと思います」

「そう言えばそうだな。まあ、使者殿に付いて行けば分かるだろう」


そう使者によって、遠距離を移動する手段が用意されていると思ったのだ。


しかし使者は四人の前を歩き、前のこの町の領主の館へと案内する。

全土を掌握しつつある王が住むには、かなり小さく防御面にも難のある屋敷だ。


「ま、まさか師匠・・」

「王様が住むような場所ではないと思いますが・・」

「本当に王位とやらに興味がないようだな」


僕たちは全く知らない事だが、この前の領主の館・・、すなわち魔女の逆鱗に触れて、最初に殺された人物の館だった。

自らが血で染めたとは言え、改装も立替もなくそのまま使おうと言う精神は恐ろしい。


使者が館の入り口で、侍女に代わり四人は食堂に案内される。


部屋には二十名は座れるような長いテーブルが置かれており、入ってきた扉の他に、台所や使用人が出入りするであろう扉が幾つもあった。


「どうぞお席でお待ち下さい」


そう言うと四人を残して出て行ってしまう。


「座って待てって言われても・・」

「むぅ、このまま待っていた方が良いのか・・」


座れと言われても、どこに座れば良いのかも分からず、入ってきた扉の前で固まっていると、他の扉から創造主であるヘクセが入ってくる。


「座って待っていてくれて、構わなかったのですが」


魔女を見た瞬間、三人の表情が強張る。

彼女の胸元に付けられている、虹色のコアに気付いたからだ。


「ふふふ。皆さんは、これが気になるようですね」


魔女は自分の胸元を指差す。


コアが魔素を吸収し、貯蔵と増幅していると言う事は、コアが機能している事を意味する。

つまり彼女がコアによって動かされており、人工生命体で、創造主の影武者と言う事になる。


「プッペ・・、いえ今はヘルトと言いましたか、何か聞きたい事がありますか? もし喋れるのであれば、発言を許可します」

「では失礼して」


一応三人に目配せをしてから、自分が思った事を切り出す。


「私達の創造主、ヘクセ様は何処に?」

「へぇー、随分と流暢に喋れるようになったのね」


僕の言葉遣いの指摘のすぐ後に、僕達が入ってきた扉が開き、目の前の人物と瓜二つの人物が入ってくる。


「まあ立ち話も何だから座って頂戴」


創造主ヘクセは、にこやかに笑みを浮かべて上座に座り、背後に影武者が立つ。

侍女達に促されて、三人は下座に座り、僕がその背後に立つ。


「あなた達を呼んだ理由はもう分かったでしょ? まあ一応言っておくけど、一言で言えばプッペ、今はヘルトだったっけ? の存在を知ったからよ」


やはり最初から僕が狙いだった訳だ。


三人は目配せをして、僕に「任せた」と言う視線を飛ばしてくる。

僕を呼んだのだから、僕が話しの相手をするのが最適と思ったのだろう。


「質問をよろしいでしょうか?」

「ん? 折角呼んだんだから、ドンドン喋って頂戴。他の三人も遠慮せずね」


僕だけではなく、他の三人にも発言の許可が出るが、とりあえずは僕からだろう。


「どうやって私達の・・、私の存在を知ったのですか?」

「うーんそうねぇー。一応軍事機密になるんだけど、本当に偶然なのよ」

「偶然・・ですか?」

「ええ、本当に。魔王の目と、私の目を同調させて、魔王が見た事を、私も見る事ができるの。そして偶然あなたを見つけた」

「「「なっ!?」」」


マスターズは驚くが、当たり前だろう。

魔王を配置するのは、信仰の対象でも有りながら、監視や警備の意味合いもある。


「(魔王の目と同調・・。プッペが与えた勇者の記憶には、ここまで含まれていたのか? もし自力で辿り着いたのであれば、敵ながら天晴れと言う所か)」


与えられた情報に甘んじる事なく、日々研究しているのかもしれない。


「では、私を呼んだ理由は?」

「うーん、分からない? あなたの秘密を探るために、今一度私の手元に取り戻すためよ」


その言葉に、アンファとエンデが息を飲む。


「「秘密ですか?」」

「あなたは何故動けるのかしら?」

「どう言う事ですか?」

「コアを入れたら、勝手に動いたのですが・・」


二人の少女はコアを見つけてから、僕が動き出すまでの経緯を話して聞かせる。


「そうだったのね、ありがとう二人とも。でもやはり不思議ね」

「「どうしてですか?」」

「私は一時の怒りに任せて、ヘルト・・プッペの人格を破壊したのよ。この状態ではコアを入れても動かないはずなの」


魔女が二人に、動かない理由を告げる。

この経緯は、僕からマスターズに話してあるので、二人は黙って聞いている。


「私はフランケンシュタイン型でした」

「そうよ、私がそう創ったんだから」

「どうやら使われた部品の中に、魂の欠片が残っていたようです。どうやら起動後には二つの魂の存在があったようです」


サポートさんの予想では、降霊術と人工生命体の起動式を同時に動かした事で、二つの目の魂が出来たらしいが、あくまでも予想でしかないので適当に答える。


多分一つ目は世界管理者に押し込まれた、副人格とされた僕(勇者)の魂だったはずだ。


「ふむ。あなたはホムンクルス、ゴーレム、オートマトンの部品を繋ぎ合わせた身体だったのに、術が終わった後、今の身体に変わっていたわ。バラバラの身体が一つとなるように、魂の欠片も一つに繋ぎあわされたと言う訳か、なる程なる程」


事象に、自分なりの推論を結び付けていく。


「そして三人にコアを入れられた事で、もう一つの人格が起動したのね」

「はい。再起動した際に、三人を新たなマスターと認識しました」

「そう言う事・・。これは無理矢理は難しそうね」


魔女は三人のマスターの方に向くと問いかける。


「あなたたちはヘルトを手放すつもりはあるかしら?」

「「ご命令ですか?」」

「いいえ。純粋にあなた達の気持ちを知りたいの」


師匠はアンファとエンデに視線で問いかけると、二人は唾を呑み込んではっきりと答える。


「「いいえ。手放すつもりは有りません。大切な仲間ですから」」

「・・そう」


魔女は目を閉じて、何やら考えている。


「ふぅーむ、うん! 無理なものは無理、今は諦めましょう」


諦めた割には悲壮感はなく、寧ろ嬉しそうに頷いている。


「その代わりと言っては何だけど、時々ヘルトを研究させて欲しいのよ。そうね、依頼と言う形をとっても良いわよ? 勿論傷つけるつもりも壊すつもりもないわ」


僕を強制的に取り上げられないと分かって、二人は安心する。


「「それであれば・・」」


人工生命体を研究している先生にも、同様のお願いをされているのだからと了承する。


「うんうん。こうやってお話ができただけでも良い時間だったわ。ありがとう」


そう言うと、僕たち四人を館の出口まで侍女に案内させる。






館を出て暫く歩くと、かなり緊張していたのだろう、アンファとエンデがブッファーと息を吐き出して、全身の力を抜く。


「師匠、大丈夫かなぁ」

「お姉ちゃん、大丈夫、って何が?」

「魔女様の・・要求を断っちゃって」

「それって、ヘルトを寄こせって言う事?」

「そうそう、それそれ・・」


心配で心配で気が重いのだろう、アンファが師匠に問いかける。


「別に断った訳ではないぞ? 言われた通りに、こちらの素直な気持ちを伝えたら、向こうが折れたんだ」

「そうだけど、本当は手放したいですって言うべきだったのかなぁって」

「良く聞く、王様の気持ちを汲んでとか言う話しよね、それ」

「平民に、そこまでの機微を求められてもなぁ・・」


あの時どう答えるのが正解だったかなど、三人には分からない。


二人はあの場所で、強制的に寄こせと言われたらどうしただろうと考え込んでいる。


「こちらも魔女の研究への協力を了承しているんだし、大丈夫だと言いたい所だ」

「「・・そうですね」」


百%向こうの要求を蹴っている訳ではないので、ひとまずは安心と思いたい。


しかし二人の少女は、拭えぬ不安からか魔女の館を振り返る。





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