教える人形
【教える人形】
プッペの時代に、冒険者ギルドで引っかかったトラップ依頼を、アンファとエンデにこなさせると、次からは薬草をと考える。が、しかし簡単に終わらせるつもりはない。
「ヘルト、次からの依頼は私達も一緒に考えてあげるわ」
「そうですね、依頼書の見方もきちんと教えていませんでした」
「分かりました」
「おいおい、随分と甘やかすじゃないか」
警戒する二人の少女を、にやにやと師匠は眺めている。
先の二つの依頼は、二人にとってかなり堪えたと見える。
師匠も止めない所を見ると、もう勘弁してやろうと言うつもりなのだろう。
「やはり先の依頼を受けたのは、何か問題があったのですか?」
二人の警戒する姿に、つい意地悪で聞いてみる。
「いや、問題はなかったよ・・」
「うん、本当に問題はなかったの・・」
何て言って説明しようかと言い淀む二人に、師匠が助け舟を出す。
「どの依頼も、困っている人、助けを求める人がいて、受ける依頼を選ぶべきじゃない。しかし時と場合によって、どの依頼を受けるか選ぶ必要があるんだ」
「どう言う事でしょうか?」
「依頼主の事を思いやる事は大切だが、自分達の生活もあると言う事だ」
「自分達の生活ですか?」
流石は師匠と呼ばれるだけの事はある。
駆け出し冒険者の壁と言われる、弱者の論法の対処方法を知っているようだ。
「自分達の今日の宿屋や食事すらままならないのに、時間の掛かる依頼は選ぶべきではないし、宿屋に泊まる身で、臭いの強い仕事を受けるべきではない」
「なる程」
「これから先も、依頼主の泣き落としが結構あるだろう。一つ一つ聞いていたら、自分達の首を絞めることになりかねない」
「例えば、どのような事がありますか?」
「そうだな・・」
二人の少女も興味津々なので、この手の話しはまだ聞いたことがないのだろう。
敢えて二人のために、事例を聞いてみる。
「例えば、家畜を襲う狼系のモンスターを調べてくれと言う依頼を受けたとする」
「はい」
「狼系と言うだけで、どの程度のランクか分からず、いざ依頼を受ければ、群れだったり、上位種だったりと、自分達の手に負えない事がある」
「そう言う事もあるのですね」
「相手もモンスターに詳しいわけじゃないからな」
当然だろう。だからこそ冒険者と言う職業が成り立つ。
「依頼の報告をすると、何故討伐してくれないのか?って泣きついてくるのさ」
「何故そのような事を?」
「はっきり言えば金だな。依頼料を少しでも安くと、調査だけの依頼にする。そして来た冒険者に討伐もさせてしまえば良いとな」
「酷いですね」
「もちろん依頼慣れをしていないから誤解をして、と言うこともありえるがな」
どちらにせよ、きちんと依頼は依頼と断らねば自分達の命が危うくなる。
「中堅どころの冒険者以上であれば特に問題はないが、冒険者に成り立てや、自分には力があると思い始めた頃が一番危ないんだ」
「なる程」
「今の例とは別にしても、今の自分達にはどの依頼が適しているのかを、十分に見定める能力と言うのは必須だな」
「分かりました」
知ってもらいたい二人の少女の方をチラリと見れば、真剣な表情で話を聞いていた。
依頼の裏話のレクチャーの後は、今日受ける依頼の確認をする。
常時依頼としてドブ掃除はある、三大ギルド依頼も張り出されている。
定番の薬草採取依頼や、薬作りの依頼、荷物運び、店番、子守など様々な依頼がある。
殆どどれもプッペの時にあったが、当然なかった常時依頼と言うのも存在する。
「これの瓦礫運びと言う依頼は?」
「うん? どうかした?」
「最近、やっと動き始めた仕事ですね」
「私が生まれた時代にはなかったのです」
「「へぇー」」
「そう言えばそうだな。城壁は魔女によって破壊されたんだから」
魔女は城壁を壊して、王都を去っていった。
城壁を壊せば、丸裸の町を守るために、土地神に祈るしかないと思わせるためか。
城壁がない町を、敢えて攻めさせて、侵略の糸口にするためか。
その他の噂もあるが、どれも真実味はあっても、魔女が戻らず、何も言ってこないので分からず仕舞いだと言う。
「破壊と言っても、まだまだ使える石材も多いし、外壁がないのは不安って言葉から、外城壁の少し外側に新たな城壁を築き始めているんだ」
「そうだったんですね」
「瓦礫運びの仕事って言うのは、使えそうな石材を外壁作りの所へ運ぶ事、使えない石材で堀を完全に埋める事の二つのパターンがある」
「なる程」
「それで、この依頼を受けるのか?」
「いいえ。そういうつもりではなく、純粋に知りたかっただけです」
「そうか」
眠っている時間が数年とは言え、確実に状況は変化している。
再びランクGやF向けの依頼が張り出されている場所へ戻る。
「(さて、彼女達はきちんと薬草採取を教えてくれるかな?)」
彼女達に学んでもらうべく、今日の依頼を選び出す。
「この依頼はどうでしょうか?」
「やっと薬草採取か」
「傷薬用だね。うん、これが良いと思うよ」
二人の少女は、やっと安心できる依頼に、太鼓判を押してくれる。
四人揃って、城壁や城門はまだまだ未完成だが、町の外へと出る。
ここで気を付けなければならない事がある。
新人と言うのは、率先して分からない事を聞くべきなのか?
新人なのだから、指導役がきちんと基本を教えるべきなのか?
環境や状況、職場によっても違うが、冒険者ギルドは本来自己責任が原則。
必要な情報や、身につけるべき技術は、自らによって手に入れなくてはならない。
新人なのに誰も教えてくれないは、通用しない世界である。
が、しかし僕に与えられた役割は、少女達に教えられる事である。
「じゃあ、ヘルト。ちゃっちゃと薬草集めて」
「分かりました」
「(・・ん? 何だ?)」
アンファの言葉に、師匠の方をちら見して、適当に草を毟っていく。
「なっ!? ぴぎゃ!?」
「ちょっと待って、ヘルト!? イタッ!?」
パンパンと、二人の頭を叩く、小気味良い音が響く。
「二人とも、ちゃんと教えてやれって言っただろう」
「ま、まさか雑草を毟るとは・・」
「ね、ねぇヘルト。薬草って分かる?」
「いいえ、分かりません」
残念ながら、本当に分からないのだ。
プッペは、全ての情報を記憶したようだが、僕にそんな記憶力はない。
分からないと正直に伝えるべきだっただろうが、それでは教えさせる事にならない。
「ヘルト、これよこれ。この葉っぱを集めて」
「分かりました」
「(また、こっちを見たな・・。まさか?)」
適当に毟った草の中に入っていた薬草を指し示す。
エンデの言葉を受けて、再び師匠の方をちら見して、適当に薬草を毟る。
「ちょ、ちょっと待って! ほぎゅ!?」
「そ、それはダメ! ヘルト・・ぷぎゃ!?」
少女達から、再び悲鳴が上がる。
「アンファ? エンデ? ちゃ・ん・と・教えてやれって言ったよな?」
「予想外・・」
「まさか薬草まで毟るとは・・」
「ヘルトが知っているかどうか確認したか? 分からない場合如何すべきか言ったか?」
「そ、それは・・」
「な、何にも・・」
仁王立ちの師匠の前に、二人はシュンとしていた。
駆け出しをここまで甘やか者はいないし、心も痛むが、人を教える事を学ぶには、こちらがあえて失敗してあげなくてはならない。
「これは俺も悪いんだが、二人を冒険者とする際に、一から十まで教えてしまった。疑問を感じる前に知識を与えてしまった」
妹夫婦の遺児を、しっかり育てようと言う思いが強かったのだろう。
「その結果、今の二人のように知っていて当たり前、と言う状況が生まれたと思う」
「「・・・」」
二人にも思い当たる節があるのだろう。
とは言え、年端も行かぬ子供達を抱えながらの冒険者家業と言うのは、並々ならぬ苦労もあったはずだ。
だから二人は何も返すべき言葉が浮かばない。
「人を教え導くと言うのは難しい。今の俺も痛感している所だしな。その点ヘルトは良い教材だ。二人とも沢山学べるはずだ」
「「はい!」」
すぐに二人は、ヘルトにどこからどの程度教えるべきか相談する。
「まず分からない事は確認するようにさせるべきだ。そして分からない事を漠然と質問させるのではなく、要点を絞るように説明させる」
「うーん、例えば?」
「今回の薬草採取の例を挙げるなら、どうしたら良いかと質問させるんじゃなくて、薬草の種類なのか、見分け方なのか、採取方法なのかなどポイントを絞って説明させる」
「なる程です」
確かにここを何とかしないと、一から十まで教える事になるだろう。
「先ずは今回の依頼を練習としてやってみろ」
「「はい!」」
アンファとエンデは、僕のほうに向き直ると、基本的なルールを教え始める。
「ヘルト。私達はあなたが何とどのくらい知っているか知らないの」
「だから、分からない事があったら質問して欲しい」
「分かりました」
「質問の方法は、ポイントを絞って、本当に必要な事だけを聞いて欲しい」
「ではアンファ様、エンデ様、薬草採取自体全く分からない場合、どう聞いたらよいのでしょうか?」
「「えっ!? し、師匠・・」」
僕の発した衝撃の一言に、思わず二人は師匠に縋ってしまう。
「・・なる程、当然そういう場合もあるよな」
やった事のない仕事であれば、一から十まで説明しなくてはならない事もある。
薬草採取の依頼そのものが、誰も知っているはずと言う前提の依頼と言うわけだ。
これには師匠も頬を掻きながら、困った表情を浮かべるしかなかった。
何にせよ薬草採取の基本を教えてもらう。
教えさせる・・ではない。本当に知らないから。
これがなければ、この先薬草採取が始まらないのだ。
「依頼を良く見る事。依頼によって必要な薬草が違うから」
「何故でしょうか?」
「薬草って言っても、千差万別で、効能も違えば、作る薬も違うからです」
「なる程」
「それで薬草によって、葉だったり、茎や根、花びらに種、それぞれ採取する箇所や、方法が違うから覚えて」
「分かりました。不明な点は、逐次確認します」
・・高度記憶領域の一部、制限を解除・・
・・情報のデータベース化実施・・過去の情報と統合・・
・・一部能力の制限を解除・・『鑑定』『探索』『探知』・・
・・エネルギー供給不足により、種類および範囲限定・・
「それから、ブチブチブチって毟っちゃったけど、あれはダメです」
「何故ですか?」
「指定された方法で丁寧に採取しないと、日持ちせず、効能が下がるのよ」
「なる程」
一度教わった事から、応用しないのはあまりにも馬鹿過ぎるので、同じような事を失敗するような真似はしない。
稼ぎでもありつつ、勉強でもあるので、依頼は薬草採取限定で、目を瞑って選ぶ。
当然前回と同じもあれば、全く新しい薬草採取の依頼も選ばれる。
同じ依頼であれば、質問はしないでドンドン採取するし、新しい薬草であれば、ポイントを絞って質問をしていく。
「じゃあ今日から薬草採取は、複数同時にやっていくわよ!」
「どう言う事でしょうか、アンファ様?」
「薬草依頼の殆どは、常時依頼といって、いつでもある依頼なのは覚えてる?」
「はい、エンデ様」
「常時依頼の特例みたいな物なんだけど、この依頼を受けますって、ギルドに言わなくても事後報告でオッケーなのよ」
「なる程」
「今までは、ギルドの基本を学んでもらうために、一々依頼を受領していましたが、今回から薬草採取に限り、色々目に付いた薬草を採取していきたいと思います」
「分かりました」
前の世界では、あまり記憶力は良い方ではなく、不安だったのだが、たった一度の説明で薬草の特徴について覚えられてた。
「(何故、こう簡単に覚えられるんだ?)」
すると頭に何やら思い浮かぶ。
「(そっか、状況に合わせて、補助機能が働いたのか)」
薬草採取の依頼をこなすため、更に外に出て驚く。
「じゃあ、ヘルト! 薬草採取を始めて!」
「沢山の種類を集めて下さい」
「分かりました」
その言葉をきっかけに、目の前が変化する。
「(な、何だ!?)」
目の前に、色々な文字やマークが現れる。
良く良く見ると、薬草の生えている場所を指し示しているようだ。
「(何でいきなりこんな表示が見えるようになったんだ!?)」
やはり頭の中に、補助機能から、今の自分が使える能力が解除された事が伝えられる。
「(なる程、そう言う事だったのか・・。突然、能力が解放されたりすると驚くなぁ。何か良い方法はないのかな?)」
補助機能は、僕が必要となるであろう能力を、必要に応じて解除なり解放してくれるみたいだが、出来れば事前に情報が欲しいし、こちらからもお願いしたい事もある。
しかもいつの間にか優秀な能力が使えるのに、眠らせておく事にもなりかねない。
・・補助機能とのコミュニケーションの要望を受諾・・
・・インターフェイスの構築開始・・成功。
「(うん? 補助機能に名前をつけろ? 何じゃこりゃ)」
補助機能との会話を求めていると思われ、どうやらコミュニケーションツールが作られたと言う。
「(補助機能だから、サポートさんでいいか)」
・・補助機能インターフェイス・・サポートさん・・登録・・完了
「(えっ!? 今、サポートさん、登録完了って・・)」
・・ある程度のやり取りが可能・・
「(何か片言ではあるけど、やり取りが出来るようになったのか)」
・・正確には・・内部の作業を・・公開する形・・と・・
「(なる程。今まで通り黙ってやるから、何をしているか、何をしたかを知らせると)」
・・その・・通り・・
まあ、これはこれでかなり改善されたと言うべきだろう。
「(じゃあ、サポートさん。これからよろしく)」
・・承諾・・
この身体が誕生した時から一緒の機能と言うか、三番目の隠れ人格と仲良くなり始めた。




