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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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人形の冒険

【人形の冒険】


二人の少女が、人工生命体を前に一生懸命説明している。


時折二人の視線が、ちょっと離れた女性たちをチラッチラッと向けられる。

しかし、女性たちは知らん顔を決め込むが、口元は震えている。


「以上で冒険者ギルドの説明は終わりよ・・だったよね?」

「うん。何か、ご質問は有りますか?」

「いいえ、特に有りません」

「「ふふぁぁあぁぁー・・、お、終わったぁー」」


その声に、二人の少女が、溜息をついて、テーブルに突っ伏してしまう。


「アンファちゃん、エンデちゃん。お疲れ様、ちゃんとできてたわよ」


少し離れていた女性、冒険者ギルドの受付嬢が、二人の下にやってきて労う。


「それにしては、ちょくちょく受付嬢のほうを確認するように見ていたよな」

「うっ!?」

「・・それは」


師匠のツッコミに、アンファとエンデ


他の女性陣も受付嬢の同僚で、可愛かったわよとクスクスと笑っている。






師匠が、僕の冒険者登録を渋り保留にした理由が二つあった。


「二人とも、ヘルトの冒険者登録を保留にするには、それなりの理由があるんだ」

「どんな理由よ、師匠」

「人工生命体を冒険者登録できるか、俺は知らないんだ」

「へっ!? そうなの?」


世界情勢が変わる前、ヘルトがプッペだった時代は、魔物も人工生命体も冒険者登録できたんだけど、制度が変わったんだろうか?


「確認してみないと分からんし、できると安受け合いして、がっかりさせるのも何だろう?」

「そうだね・・」


確約できないから、保留と言うことなのだろう。


「もう一つ。これはお前達の保護者として、安全性が十分に検証できていないと言う事だ」

「二つの魂って事ですか?」

「正確には、人工生命体を良く理解できていない。それもあって見つかった物は、分かる人間に売っぱらってしまうケースが多い」

「なる程です」


魔物使いのモンスターも、創造主に従う人工生命体も、基本トラブルがあれば、責任は持ち主が負う事になる。


討伐中に仲間に裏切られるほど、危険の大きい事はない。


自分達だけならまだしも、他のパーティと一緒に行動しているのであれば、全員を危険な状況に陥れて、最悪全滅もありえる。


これに関しては、今の自分が何を言っても、信頼を得る事は難しく、保留も仕方なし。




登録云々の前に、冒険者ギルドへ、人工生命体を発見した旨を報告がてら、相談しに来たのである。


「人工生命体だろうが、動物だろうが、モンスターであっても、冒険者登録は可能です。ただし害獣に関しては、町の人たちへの配慮もあり出来ません」


受付嬢の話では、この辺のルールの変更はないようだ。


「人工生命体の暴走に関しては、人工生命体そのものが非常に稀なため、事例として殆ど上がっていません。例外を上げれば切が有りませんよ?」


裏切り、弓矢の誤射、魔法の暴発、トラップの故意の発動・・

普通の人間にだってあり得る事は、人工生命体にだってあり得る。




アンファとエンデは、しきりに頷いて、師匠にお願いする。


「ヘルトを冒険者登録しようよ、いいでしょ、師匠!」

「登録しても良いですよね、師匠」

「分かった分かった。その前に・・」


師匠は受付嬢に、二人の少女の弟子として、ヘルトを教える役割を与えたいと説明する。


「ふむふむ、確かに人に教える事で、より知識や技術を高める事ができますね」

「うむ。気づかなかった事に気づけるようにもなるだろう」

「良い事尽くめですね」


身につけている知識や技術を、人に教えると言う事は、より深い理解が求められる。

正しい事を教えるために、自分の知識や技術の再確認をする事も必要だろう。


「こいつらでは出来ない、ギルドへの登録や、カードの発行、依頼の処理と言った事はお願いしたい」

「なる程なる程」

「依頼の内容の説明などは、こいつらにさせたいんだ」

「分かりました。ギルドとしては知っていると言う前提で、説明不要と言う認識でよろしいと言う事ですよね?」

「ああ、それで構わない」


その結果、最初のギルドについての説明のシーンに至る事になる。




冒険者ギルドの説明など、そうそう聞く機会などある訳でもなく、精々一度、初心者講習会に参加して、二度目が有るか無いかである。


後は未登録者に付き合って、一緒に聞く機会があるかどうか。


それを本家本元の受付嬢の前で、いきなり実演させられたのである。


二人は最初、大丈夫大丈夫とたかを括っていたのだが、いざ説明を開始すると、自分の記憶が非常にあいまいである事が分かる。


慣れた受付嬢でさえも、抜けがないようにマニュアルがあるのに、二人は記憶を頼りに、あっちに話しが飛び、こっちに話しが飛び、質問があれば脱線しを繰り返す。


どうしても助けを求める目が、受付嬢に向くのは仕方がないことだろう。






冒険者ギルドに関する説明が終わり、冒険者登録証が出来るまでの時間に質問する。


「マスターズ、少しお伺いしてもよろしいですか」

「なあに、ヘルト?」

「分からない事があった?」

「いいえ。マスターズのランクですが、師匠がランクD、アンファ様、エンデ様がランクEで、特にお二人はランクDを目指しています」

「そうね」


ランクと言う制度も変わっておらず、誰でもランクGから始まり、ランクAまでである。

それ以上のランクSや、更に上もあるが、これは勇者、英雄、名誉といった特別枠である。


「私のランクアップに付き合い、時間をロスするのではないでしょうか?」

「その件に関しては、何度も言うが、ここで二人の知識や技術の復習をする良い機会だと思っている」

「いやー、受付の仕事がこんなに大変とは思わなかったし」

「知ってるつもりだったんですが、いざ説明するとなると、頭がごちゃごちゃと言うか」

「そう言う訳で、多少時間がかかったとしても、こいつらのためになるんだ」

「分かりました。よろしくお願いします」

「うんうん、こちらこそよろしくね!」

「一緒に頑張りましょう、ヘルト」


師匠、アンファ、エンデの三人パーティに、僕が加わり、四人パーティとなった。




自分の冒険者登録証を受け取り、冒険者ギルドを出ると師匠が顎に手をやる。


「うーん、どうするかな?」

「何が? 師匠?」

「いや、ヘルトを如何するかなあと」

「如何する、とはどう言う事ですか?」

「いや、宿屋に泊まる事になるならと思ってな」

「そっか。どうしても一人分は掛かるね」

「多少の蓄えがあるとはいえ・・」


ここは人工生命体らしさでカバーするべきだろう。


「マスターズ、一つよろしいですか?」

「どうした、ヘルト?」

「私のような人工生命体は、エネルギー源の供給さえあれば、不眠不休での活動が可能です」

「ふむ・・、そうなのか」


休息を必要とする人間の変わりに、昼夜問わず警備や監視を担うのも、人工生命体の役目の一つである。


「私が、プッペが眠りに付き、ヘルトとして目覚めるまでの期間の情報を得られ、且つ二十四時間使えるは場所はありませんか?」

「そういった資料があるのは、評議会とか冒険者ギルドか。二十四時間ともなると、冒険者ギルドだな」

「では宿代が稼げるようになるまでは、そちらに行くのはどうでしょうか」

「ふむ・・」

「むぅー、ヘルト可愛そうだけど・・」

「お金は大事ですし、二十四時間休息不要と言うなら・・」


四人は冒険者ギルドにとって返し、資料室の使用の許可を取る。


もちろん宿代を浮かすとは言わずに、自分が活動を停止した間に変わった情勢を知りたいと伝えての事だが。






貴族や軍幹部との会議を終え、自分に割り当てられた部屋に戻ってくる。


ベッドの上に疲れ切った体を投げ出すと、目を閉じ会議を思い起こす。



「貴族や領主達が、勝手に独立を宣言したり、魔女国に組したりと、次々と離反しております!」

「一刻の猶予も有りません! 魔女討伐の激を!」


私が彼らに言う台詞は決まっている。


「・・勝てるのですか?」

「なんと弱気な!」

「増税に次ぐ増税、徴兵に次ぐ徴兵。それで勝てるのですか?」

「それでは魔女をつけ上がらせるだけですぞ!」

「答えになっていません。勝てるのですか?」

「それは・・・」


彼らは私を、第四王女として爪弾きにしてきた存在。


「私は魔王の危険を警告し、結果禁書に触れようとし、この離宮に軟禁された者です」

「・・・」

「私を納得させる根拠を示しなさい。それが嫌なら別の王を立てなさい」


自分の首に、自分の手刀を当てると、彼らは苦虫を噛んだような表情になる。



ベッドの上で閉じた目を開くと、ふと思いついた疑問を口にする。


「何故、魔女は私達に止めを刺しに来ないのでしょうか?」


魔女国が、今の王国軍を恐れる理由などないはずなのですから。






ホムンクルス、ゴーレム、オートマトンが並び、それぞれの部品が所狭しと置かれている。


部屋の中央には、魔法陣があり、フランケンシュタイン型の人工生命体が横たわる。

魔方陣の外側には、両手を突き出し、何やら詠唱をのようなものを唱える一人の女。


しばらくそのままの姿勢で待つが、何も起こらない事が分かると舌打ちする。


「ちっ!? また失敗か・・。何が悪いのかしら?」


魔方陣の中へ踏み入ると、つま先で人工生命体をツンツンと蹴る。


「はぁー。これなら、あの失敗作を持ってくるべきだったかしらねぇ?」


部屋の隅のほうに用意されたベッドに寝転び、目を瞑る。




暗黒竜を生み出して、王城から最初に向かった先が、土地神を滅ぼした村だった。


村人達は老若男女に関わりなく、子供に至るまで磔にされていた。


「胸糞悪いわねぇ・・。分かるわよ、見えるわ。あなた達の怒りと憎しみが・・」


土地神の破片と、村人達の遺志を使って、新たな魔王を産み落とす。


「さあ、行きましょう」


そのまま村を滅ぼした領主の元へ向かい、その間も魔王を増やしていく。


「良くもやってくれたわね?」

「な、何をだ!?」

「あの土地神様に見覚えない?」

「何ぃ・・。ま、まさか、あの村の・・」

「私の計画が丸つぶれじゃない」


領主軍を軽く捻り、領主を引きずり出すと、村を潰された私怨だと告げる。


領主を処刑すると、戦々恐々の町の人に告げる。


「簡単に言えば、領主が変わっただけ。気にせず何時も通りで良いわよ」


しばらくすると、当然の如く国王軍が討伐に来たので、軽ーく殲滅する。


ついでに王都へ行って、王家の人間の差し出しと、王都の明け渡しを命じる。


「第四王女様が、折角魔王の危険を説いていたのを聞かないから」


なんやかんや言い訳する王家の人間達を処刑する。


貴族達や金持ち達は我先に逃げ出したようだが、行き先のない者や、貧しい者、病の者達は死を覚悟していた。


またその人たちを守ろうとする人たちも居た。


「仕方ないわね・・。私は魔女ヘクセ! 本日この場を持って、わたしは新たな国を建てるわ」


突然の宣言と、三つあった城壁を破壊した事に、町の人たちは戸惑っているみたい。


「魔王を監視者として何体か置いていくわ。土地神として崇めなさい。朝な夕なに祈り、日々の食事の感謝を捧げ、働く前後も、魔王を目にすれば感謝を捧げなさい。必要に応じて助けを求めなさい。そうするなら命を助けましょう」


王都民は戸惑いながらも、命が助かるならと承諾した。


「私がいなくなった後は、各ギルドで評議会でも組んで、この国の法律に従って、この都市を管理しなさい。再び私が来る時、残っていた者は私の支配下に入れるわ」


王都民には気付かれないように溜息をついて、暗黒竜だけで領主の館へと帰った。


「きっと、これからもこんな事が続くのよねぇ・・」


そう思うと王都でやってきた事を町の人に話し、ここが魔女国の首都になる事を告げた。


この町を皮切りに、周囲の町や村々を訪れ、魔女国の建国を伝えると、それぞれの代表が、多分恐怖からだろう、傘下に入れて欲しいと頭を下げる。

仕方なく傘下に入った町や村には、監視と合わせ土地神を蘇らせた。


これは効果抜群で、遠くからも「是非とも傘下に」とやってくるようになり、魔女国は加速的に大きくなっていった。




目を開け、自嘲気味に笑みを浮かべる


「結局の所、土地神だろうが、魔王だろうが、使う人間次第って訳なのよね」


ノックの音が響く。


「入りなさい」

「失礼いたします」


自分と瓜二つの、胸元に虹色に輝くコアを飾った女性が現れる。


「何かしら?」

「新たな町の領主からの遣いが参りました」

「そう・・。何時も通りにね。魔王は足りているかしら?」

「はい、まだ充分に」

「そう、じゃあよろしく」

「畏まりました」


自分の影武者であるホムンクルスに命じると、再び目を閉じる。






冒険者ギルドにあった資料に一通り目を通した後、頭の中を整理するように天を仰ぐ。


「暗黒竜って事は、あの時に女魔導師ヘクセが作り出した奴だよな、きっと」


と言う事は、魔女国の魔女はヘクセと言うことになるだろう。


王都に突如現れた暗黒竜を危険視して、討伐軍を編成したのは良いが、あまりの強さに、逆に破れ、更には怒りを買って、王都を攻め落とされてしまった。


「いくら禁書扱いにして無知だからって、魔王が人間如きに勝てると思ったのかねぇ」


第四王女トホターに相談すれば、状況は変わったかもしれない。


「まあ攻め込まれたら終わりと思えば、悠長な事は言ってられないか」


東の地方にあるという離宮に居て、一人難を逃れたと言っているが、軟禁していたトホターを、自分達の旗印に祭り上げたのだろう。


「これが僕が眠っている間に起きた出来事か・・」


この上更に、自分の知らない所で事態は動いていて当然である。


「世界管理者はこの事態を予想していたのか」


自分がこの世界に来たのは、あくまでも、世界管理者の予防策であったはず。


「はてさて、どう動くべきなのか・・」


然したる力のない、今の自分で何が出来るのかと目を瞑る。





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