人形の目覚め
【人形の目覚め】
どこからともなく、機械的な、感情の篭らない音声が聞こえてくる。
・・エネルギーの供給を確認・・ユニットの取り付けを確認・・
タイプ・・高効率魔素吸収ユニット・・ユニットの固定を実施。
システムの凍結を解除・・人格の切り替え実施・・完了。
破損部分の再生を開始・・全エネルギーを再生へ・・
主人格・・仮名称、勇者の魂・・副人格・・なし。
主人格、勇者の魂でシステムの再起動実施・・起動確認。
眠りから覚めた時のように、最初に聞こえてきたのは人々の声・・
「「師匠」」
「静かに! ゆっくり離れる。部屋の出口へ」
静かに目を開ける。
「(そうか・・プッペの魂が壊されて・・、あれ? 今自分の意志で目を開けなかったか?)」
周囲を見渡してみると、自分の思い通りに体を動かせる。
「(どうやら、プッペの魂が壊されて、僕の魂が表在化したみたいだな)」
ふと視界の隅に、先ほどの会話の主を見つける。
「(この三人が僕に何かをして、目覚めさせてくれたんだな・・多分?)」
「し、師匠、どうしよう・・」
「逃げる準備をしろ、殿をする」
「そ、そんな師匠を置いては・・」
きちんと体が動く事を確認しながら立ち上がり、三人の前に立ち跪く。
「お初にお目にかかります、マスターズ」
自分なりに一番の笑顔を浮かべて挨拶をする。
「「「えっ!?」」」
突然、人間らしい挨拶に、三人は驚き戸惑っているようだ。
「マスターズ」
「マスターズ・・って何だ?」
男性が話しかけてくる。
「三人の内の一人、もしくは三人共か分かりませんが、自分を目覚めさせてくださった方と判断しました。創造主たち、故にマスターズとお呼びしました」
「なる程・・」
「もし他の名でお呼びした方が良ければ、お申し付け下さい。ただ・・」
「ただ・・、何だ?」
「このままお話を続けていても、安全な場所なのでしょうか?」
「ふむ・・」
周囲の状況がどのような状態なのか? この場でこのまま話して良いか分からない。
男性は二人の少女をちらりと見る。
「「えっ!?」」
「いや何、人工生命体であるこいつの方が、冒険者らしいなぁと思って」
「「ぶーぶーぶー」」
周囲の安全を確保するのは、冒険者としての第一歩だからな。
少女達は色々と質問したそうだったが、男性が一睨みして黙らせる。
王城を出て、三人の拠点に戻り、改めて話し合いの場が持たれる事になった。
「先ずは俺達の身の安全を確保するためにも、お前さんの事を知らなくちゃいけない」
「その通りだと思います」
「お前は何者だ?」
「第四王女トホター様の護衛、女魔導師ヘクセ様に創られたフランケンシュタイン型人工生命体です」
「なっ!? トホター様だと!」
男性が驚き、少女達が顔を見合わせている。
「何か問題でも?」
「トホター様が、第四王女時代って、王都侵攻のちょっと前でしょ?」
「フランケンシュタイン型って何でしょう?」
「落ち着け二人とも。うーん、どこから話すかなぁ。これは厄介だぞ」
少女達が勝手に話し始めるから、まとまりが全くと言って良いほどない。
話を最初に戻して、僕の身分証明を最優先にする事になる。
「お前さんが創られたのは、トホター様が第四王女時代と言う事で良いんだよな?」
「そうです」
「フランケンシュタイン型って言うのは何だ?」
「人工生命体には、ホムンクルス、ゴーレム、オートマトンなど色々なタイプがありますが、それらの部品を集めてく創ったものがフランケンシュタイン型となります」
「へぇー、そうなのか」
基本はホムンクルス型の手足を、ゴーレムやオートマトンの物に挿げ替えるパターンだと思うが、何にしろこの身体の機能が全くと言って良いほど分からない。
「(これ以上突っ込まれたらボロがでるな・・。何とか情報を得られないかなぁ?)」
どこからともなく、機械的な、感情の篭らない音声が、人形の内部で発せられる。
しかしその声は誰にも聞こえず、誰にも聞かれることはない。
・・身体機能の情報の要求を確認・・記憶領域への一部情報を転送・・
必要情報を随時公開・・不足情報は適宜更新・・
「じゃあ、それから・・」
「このコアは使えるの?」
師匠の言葉を遮って、少女の片方が聞いている。
「実際に付けて見ないと分かりませんが、使えると思います」
手に取って確認し、少女の手へと返す。
「今、あなたの胸に付いているのと同じ物かしら?」
もう一人の少女が聞いてくる。
「それも実際に付けて見ませんと・・」
「どう言う事だ?」
今度は男性が聞いてくる。
以前ヘクセがプッペに自慢げに語っていた、コアのタイプを思い出し話す。
「コアには、魔素吸収の青、魔力貯蔵の黄、魔力増幅の赤の三種類があります。一つの機能の物もあれば、全てを持っている物もあります」
「今は青く点滅してるから、魔素吸収だけのコアだね」
「それで実際付けて見れば、色で判断できるんだ」
「付け替え・・できるのか? 城では出来なかったが?」
危険を感じて、コアを外そうとした時の出来事を話してくれる。
不思議な事に知らない事が、自然と頭に浮かび、ペラペラと答えられる。
「人工生命体は、行動中にコアが外れないように常にロックを掛けています。主人の命令によってロックを外して、付け替えが来ます」
「ふむ。お前さんに命令せずに外そうとしたからか?」
「休眠状態から活動状態への、機能を立ち上げ途中だったため、命令を受け取れる状態でもなかったと思われます」
この点に関しても、自分の意識がなく不明なのだが、予想と言う形でしか答える。
「(な、何で知らない事分からない事が、勝手に頭に浮かんで答えられるんだ?)」
自分の体に起こっている、あまりにも不可解な事に驚いていると、頭に何か浮かんでくる。
「(補助機能? 魂と身体の橋渡しをする? ふむふむ・・)」
人格となる魂が能力を使いこなせるよう、身体側がサポートしてくれるらしい。
ゴーレムやオートマトンの魂というか機能が、そんな形で残ったのだろう。
「もし命令遂行する機能が上手く立ち上がらなかったら、暴走していた可能性は?」
折角の機能なので、有効的に利用させてもらい、答えていくとしよう。
「十分にあり得ます」
男性と三つ網お下げの少女が、ポニーテールの少女を責めるように見る。
居たたまれなくなった少女は、視線を逸らして口笛を吹く真似をしてごまかしている。
「もう一つ・・、お前は何故、俺達に忠実なんだ?」
「へっ!? どう言う事、師匠?」
「忠実であれば問題ないのでは?」
「コイツの創造者は、女魔導師ヘクセだ。そいつ以外を主人と呼ぶ必要がない」
「「あっ!?」」
創造主に絶対忠誠が人工生命体の本分である。
それ以外を、主と呼ぶ理由は何なのか、気になるのは当然だろう。
「私はフランケンシュタイン型の人工生命体です」
「ああ、覚えている」
「そのためなのか、理由は分かりませんが、初めて目覚めた時には、主人格と副人格の二つの魂が存在しました」
「ふむ・・、それで?」
補助機能の予想では、降霊術と人工生命体の起動式を同時に起動したので、二つの魂が出来たらしいが、ここは正直に分からないと言っておこう。
この場にいる全員が、人工生命体に詳しいわけじゃないし大丈夫だろう。
「主人格の方が、女魔導師ヘクセの怒りを買い、魂を破壊されました」
「怒りって・・何したのよ?」
「主にとって良かれと思ってした事が、余計なお世話だったようです」
「たったそれだけで? 酷い・・」
この部分は僕の記憶にも新しい。
とは言え、魔王を勝手に作りましたとは、二人の少女に告げられないので、命令違反と言う事で言葉を濁しておく。
「副人格に切り替わる直前で、エネルギーの供給が停止され、そのまま動作が出来なくなりました」
「多分・・、コアを外されたんだな」
「それでアンファお姉ちゃんがコアを入れて」
「はい。エネルギーの供給が開始され、副人格を主人格として目覚めました。この時点で主の設定はクリアされており、新たに三人が主として設定されました」
「そう言う事か・・」
今の説明で、どうやら納得はしてもらえそうだ。
「じゃあ、師匠・・」
「彼は、大丈夫ですか?」
「今の話を聞く限りはな。しばらくは様子見だが」
「「やったぁー!」」
「転売するならそれから・・」
「「絶対に売らないよ! きっと役に立つ!」」
話を聞けば、動く人工生命体で一攫千金を狙っていたらしい。
しかし短い時間とは言え、情が移り、売る事など考えもしないと言ってくれる。
「それじゃあ、後は・・」
「皆で自己紹介だね!」
「うん!」
男性が確認する事はと考えている間に、二人の少女が話しを勧めてしまう。
「私はアンファね、お姉ちゃんだ」
「妹のエンデです」
「オレは・・」
「師匠は師匠だよ」
「うん、師匠」
「・・師匠だそうだ」
アンファとエンデに押し切られるように、師匠となってしまった。
「私は、女魔導師ヘクセ・・最初の人格にはプッペと名付けられていました」
「プッペ・・ねぇ。どう思う?」
「新しい名前を付けても良いの?」
「どうなんだ?」
「問題ありません」
三人が聞いてくるので、別の名前を付けても良いことを伝える。
「じゃあヘルトにしよう!」
「良いね、お姉ちゃん!」
「おいおい、今更か?」
「初代勇者にして初代国王の名前ですね。私的には問題ありませんが、大丈夫ですか?」
「「それなら、大丈夫!」」
勇者にあやかって、一時期似たような名前が流行したので良いらしい。
「後は、これを試す?」
「そうだね」
エンデの手に握られたコアは、まだ機能の確認をしていない。
「コアの付け替えは命令で可能として、ヘルトは大丈夫なの?」
「はい。コアがなくても、最低限のエネルギーの吸収と供給は可能となっています。このように細い線に色が付いている限りは問題ありません」
「つまりエネルギーが全身に供給されていると言う事だね」
両手を差し出し、体中に張り巡らされた線の意味を教える。
「ただコア自体を交換した事が、今までありません」
「どういうことかな師匠?」
「今はない、元々有ったコアがかなり優秀だったんだろう。コアの交換の必要がなかった。だから捨てずに予備程度の考えで隠していた」
「そう言う事かぁ・・。じゃあ物は試しに、コアを交換して。ヘルト」
「はい」
はいとは返事をしたが、はたしてコアの交換が出来るのだろうか?
プッペの時にも、こんな経験はした事がない。
「コアの交換」
どうなるか分からないが、自分の身体、補助機能に、自分の望む事を伝える感じで呟く。
・・コアの交換命令を受諾・・コアの固定を解除・・
胸に埋もれるようなコアが、少し盛り上がるように姿を現す。
「(へぇー、こんな感じで交換できるんだ)」」
自分でやっておいてなんだが、そう思いながらも、手早くコアを付け替える。
・・ユニットの取り付けを確認・・
タイプ・・魔力貯蔵および増幅ユニット・・ユニットの固定を実施。
最初は、落ちそうなぐらいチョコンとくっ付いていたので手で押さえていると、すぐに体の中に取り込まれるように埋まっていく。
胸のコアの色は、黄色からオレンジ、そして赤。赤からオレンジ、黄色へと変わる。
「あっ!? 色が変わった」
「綺麗・・、こうなるんだね」
「これは黄色だから魔力貯蔵と、魔力増幅の赤。二種類と言う事か」
全身に張り巡らされた線も、徐々に青から、コアと同じ色に変わっていく。
「どういう使い分けができるんだ?」
師匠が二つの違いを確認してくる。
「最初の方は長時間稼動用と考えます。探索や監視、警戒などに適しています」
「ふむふむ」
アンファは、分かっているのか分からないが頷いている。
「今のコアは、短期高稼働用と思われます。主に戦闘用に適しています。コア単体で魔素の吸収ができませんので、一度空になると、私が持っていなければ空のままです」
「へぇー」
最初のコアは既に黒くなっている。
「あれ? 何でこっちのコアが黒くなっちゃったの?」
「コア単体では機能しません。この身体に取り付けられる事で機能します」
「じゃあ、どうやって魔力を貯蔵するの?」
魔素吸収タイプなら問題はないが、その機能のない貯蔵や増幅はどこから魔素や魔力を得るのかと言うのは、当然の疑問だろう。
「魔素は全身から吸収し、魔力に変換して全身に供給されます。それが魔素吸収コアの役割です」
「ふむふむ」
「魔力貯蔵コアを、身体のラインに触れさせる事、特に手の末端である掌に持たせる事で供給が可能です」
「へぇー、そんな事が出来るんだ! 凄い!」
エンデは、初めて目にする人工生命体の機能に感心している。
「場合によって使い分けできる訳か。ただ咄嗟にそんな時間や動作が出来るかどうか」
「師匠、それは追々やっていけば良いじゃん」
「ヘルトも冒険者登録したらどうですか?」
「そうだな・・」
師匠は少し考えて、答えを出す。
「でも冒険者登録は、保留だな」
「えっー、何で。師匠!?」
「ヘルトが可哀想です」
「その前にヘルト、お前さんに頼みたい事がある」
「何でしょうか?」
「アンファとエンデの弟子になってくれないか?」
「・・えっ!? 何それ!?」
「どういう事ですか、師匠?」
ニヤリと笑う師匠の提案に、二人の少女は驚きの声を上げる。




