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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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勇者の目覚め

【勇者の目覚め】


この世界は、一つの大きな丸い大陸である。


魔王が生まれ、勇者が退治し、世界管理者を唯一神とする教えが広まる。

勇者の血を引くものが、一つの国家が収め、広い大地を多くの領主に治めさせていた。


その大陸の中央に位置する場所に王都はあった。

現在は旧王都、もしくは自由都市と呼ばれている。




数年前、突如、魔女を名乗る者から侵略を受け、何の準備も出来ていない王国軍は、魔女率いる魔王軍に成す統べなく敗退。


そのとき殆どの王家の人間は死んでしまった。

ただ一人、第四王女だけが、大陸の東にあった離宮におり難を逃れる。


王国軍はそこを拠点、即ち新たな王都として立て直しを図ろうとしていた。




魔女は、王都に魔王を何体か残し、王都を去ってしまう。

自分の領土と言う意味か、取れるものなら取ってみろと言う自信の表れか。


そのまま魔女国の建国を宣言し、更に西の地方から、魔王を使って、町や村々を手中に収め、領土を広げていく。




王国が魔女に敗れた際、他の領主達は、幾つかの派閥に分裂してしまう。


忠実に王家に従う者、王家に従う必要なしと独立する者、魔女に組する者。

ただ魔女や魔王を恐れるあまり、王都へ向かい、王になろうとする者は皆無だった。




王国、魔女国、領主小国が乱立する世界へと姿を変えていていた。


旧王都には、確かに魔王は存在するが、人々は暮らせている。


魔女が守護する都市の一つ。

王国軍や他の領主が手を出せない上に、自治を人々に任せている都市・・、それが今の王都の姿だ。







旧王都は王城を守る城壁、貴族の住む地域を守る内壁と、市街地を守る外壁が存在した。


存在した、と言うのは、魔女によって破壊しつくされたからだ。

ついでに王城と貴族の住む地域を守る二つの堀は、壁の瓦礫で埋められてしまっている。


何故破壊したのか、その意図はまったく分からない。

ただ噂で、王も貴族も平民もないと言う意味ではないかと実しやかに囁かれている。




その王城は今、平民達にある使われ方をしていた。




二人の少女と、親子ほど歳の離れた男性が、瓦礫を乗り越え、静かに旧貴族街に入る。


三人は巡回する魔王を遠目に見ながらも、礼をして一言呟く。


「土地神様、どうか王城に立ち入る事をお許し下さい。今日の探索をお守り下さい」


そのまま周囲に注意を払い、旧貴族街の先にある王城へと入っていく。


幾つかの分かれ道を進み、とある地点で足を止める。


男性が地図を確認し、声を発する事なく、ハンドサインで、一人の少女に指示を与える。

少女は頷いて、静かに分かれ道の一つに向かう。


男性は、もう一人の少女に、もう一つの方へと向かうよう指示を与える。

少女も頷いて、もう一つの一方へ向かう。


男性はその地点で、周囲を警戒しながら、二人の少女を待つ。




二人の少女は、男性にとって妹夫婦の遺児だ。


妹の旦那は王都の兵士で、反乱者の討伐に軍を差し向ける際、魔王に勝てないと思った。

そこで自分に何かあった際のためにと、男性を王都に呼び寄せた。


その予感は的中し、軍は全滅し、直後に魔王軍が王都に攻め入ってきた。


男性が王都に着いた時には、既に全てが終わった後で、遅かったかと思いながらも、妹を探し、娘二人だけは何とか見つけ出せた。


しかし男やもめの冒険者風情が、年頃の少女を育てるなどかなり無理な話だった。

冒険者ギルドの受付嬢のなどの協力もあって、何とかやってこれた。


双子だったため、出会った当初は全く区別が付かず、ポニーテールと三つ網お下げにしてもらって、やっと違いが分かるようになった。


それが今尚続いているわけだが。


姉がポニーテールで、名はアンファ。少々活発が過ぎ、やや暴走する嫌いがある。

妹が三つ網お下げで、名はエンデ。大人し目だが、慎重で冒険者には必要な特質ではある。


最初にエンデが戻って来て、出来るだけ小さな声で報告する。


「師匠、すぐ先に一部屋あり。特段なし」


師匠と呼ばれた男性は、指で後ろを向くように指示をして、地図を確認する。


「(この部屋は・・、隠し金庫があるじゃないか。後でチェック方法を教えなくては)」


そう思った途端、反対側の通路から、ドンガラガッシャーンっと騒音が響く。


「あいつ・・」

「お姉ちゃん・・」


師匠と呼ばれた男は渋い顔で額を押さえ、妹のエンデは苦笑いで返す。




部屋中をひっくり返し、とは言っても、大分前に他の誰かにひっくり返されているので、逆に元に戻しているに近いかもしれない。


机やベッドをあっちこっちに、ぶっつけながなら探す。


「やっぱり何もないね! ん? あれ? 師匠! 師匠ー! うぼぉ!?」

「お前・・。探索は静かにやれって、あれほど言っておいただろうが!」


いきなり背後から、頭に拳骨を落とされ、アンファはあまりの痛みに蹲っている。


「調べつくされた王都とは言え、いや調べつくされているからこそ、盗賊や野獣の類が入り込み易くなるんだ・・って聞いているのか!?」


その問いに、蹲ったまま手を横に振って答える。

痛みで何も聞こえないという意味だろう。


「まったく・・、それで何かあったのか?」


これで何もなければ、仲間を危機に落とす行為をした以上、もう一発拳骨となる。


「あ、あれ」


更に殴られては叶わんと、両手で頭を庇って、足で壁を指し示す。


「うん? ・・これは!?」

「お姉ちゃん、凄い発見だよ!」


王族や貴族、迎賓の場所は大理石や、絵画で美しく飾り立てる。

下級の人々には石積みのままで、タペストリーや絨毯で保温をしたり、漆喰などで隙間を埋めたりする。


そんな石積みの壁に机が当たって、床に接する部分が一箇所ズレていた。


「ふむ。隠し金庫か・・。壁を押すと、連動してどこかが動く仕組みのようだな。しかし、今まで誰もこれを見つけられなかったのか?」


エンデが探索した部屋でもそうだが、王城の隠し部屋、隠し通路、隠し金庫などは探索済みである。

とは言え、ただ単に見つかってなかったと言う可能性もゼロではない。


「魔法使い達が、作ったものか? 動かし方に条件があるのか? 魔力・・だったら、机がぶつかっただけで仕掛けが動くのはおかしいし」


念のため、部屋の壁と言う壁を調べて回るが、特に何も発見できなかった。


三人は本題の、ズレた石を引き出してみる。

石の内側は四角く掘り込まれ、布切れがきっしりと詰まって、何かを保護していた。

布を取り除くと、中から黒い宝石のように透き通った丸っこい石が二つ収まっていた。


「師匠、この石なんでしょうね? 人工物のようですが?」

「お金になりそう? 師匠?」

「分からん。一旦ギルドに行って調べてもらうとしよう」

「「はい!」」



今日の王城探索は一旦打ち切り、戦利品をギルドに持ち込む事にする。






翌朝、三人揃って、土地神への祈りを捧げる。


「新しい一日に感謝します」

「今日一日をお守り下さい」

「日々の活力と食料と仕事を与えたまえ」


三人は、いや住人達が、いたるところで土地神としての魔王に祈りを捧げていた。




魔女は王都を攻めた際、王家や国の主要人物を処刑し、貴族や平民を追い出そうとした。


しかし平民の殆ど、特にスラム街、老人や病人、孤児・・、逃げ先のない人々は、その場に留まり死を覚悟したと言う。


それを知った魔女は、住民たちに告げた。


「魔王を何体か置いていくわ。土地神として崇めなさい。朝な夕なに祈り、日々の食事の感謝を捧げ、働く前後も、魔王を目にすれば感謝を捧げなさい。必要に応じて助けを求めなさい。そうするなら命を助けましょう」


その場にいた住人達は、即座に同意した。


「私がいなくなった後は、各ギルドで評議会でも立ち上げて、この国の法律に従って、この都市を管理しなさい。再び私が来る時、残っていた者は私の支配下に入れるわ」


そう言って、魔女は暗黒竜と共に消えてしまったという。




それから今の今まで、魔女がこの自由都市に現れた事はない。


それに気を良くした住人の一部が、土地神教なる宗教を立ち上げ、住民を虐げ始めた。

土地神をあがめろと言う、魔女の言葉を逆手に取った者たちだ。


ギルドの評議会も、これには対応に苦慮し、住民も黙って耐え、土地神に助けを求めた。


「何だ、お前ら? 土地神様に、ひいては魔女様に逆らうつもりか!?」


住民やギルドの評議会の面々を鞭打ち、唾を吐きかける。


彼らはひたすら耐え、土地神に助けを求めた。


突如、彼らの前に魔王の一体が現れる。


「くっくっくっ・・。ほらぁみろぉ? 俺様たちに逆らえば・・」



ぷちっ



土地神の手が、宗教者達をあっさり潰してしまう。


そのまま何もなかったかのように、土地神は行ってしまう。


住人達は自分達の祈りが聞き届けられたと感じ、また魔女は自分達を守護してくれているのではと思った。


その日より、偽宗教騒ぎはピタリとなくなる。

住民たちは前にも増して、より一層祈りを捧げるようになったという。




一通り祈りを終え、食事を済ませると、三人は今日の予定を話し合う。


「ねぇ、師匠。今日は王城に行くんでしょ?」

「あの地下室ですね、師匠」

「うむー、どうするかなぁ」


目をキラキラさせた二人の少女の言葉に、顎に手を当てて考える。


ギルドに持ち込んだ丸い石の正体が、人工生命体用のコアである事が分かった。


しかしそれだけでは何の役にも立たない。


どこかに居るかも知れない、人工生命体の研究者なら買ってくれるかもしれない。

ギルドとしては、そういった依頼があれば教えてくれるという。


それまでは、一銭にもならない。

では、如何するのか?


王城の地下室の一つには、大量の人工生命体が放置された部屋がある。


他にも人工生命体を研究していた部屋は合ったのだが、使えるものは既に回収済みとなっていたが、同じように売り手がなかなか見つからない。


戦争状態な上に、隔離された旧王都では物流が乏しいのだ。


使えない、売れない物をいつまでも抱えておくのは無駄である。

拾っては捨て、拾っては捨てを繰り返されて、大量の人工生命体置き場が生まれた。


二人は以前そこを探索した事を覚えていたのだ。

つまりこのコアで動く、人工生命体があるのではと、二人は思いついた訳だ。


確かにきちんと動く人工生命体であれば、かなりの金額を手に入れる事が出来るだろう。

そんな物は当の昔に持ち出されているので、その可能性はゼロだ。


しかしちゃんと動くモノが手に入るか程度であれば良い。

もし自分達に害意を持つモノが目覚める可能性、しかも自分達の手に負えない場合はどうなるか?


二人の少女を危険に巻き込んでしまう。

しかし少女達は言う、それを見込んでの冒険者ではないのかと。


こればかりは、どちらが正しいとか、間違っているではなく、それぞれの生き様である。


「ふむ。一応確認だけはしておくか・・」

「「やったぁ!」」


喜ぶ少女達を尻目に、その場で起動しなければ良いんだからと考える事にする。






既に探索済みの場所だからと言って、そこまでの道程はお散歩ではない。

何時ものように周囲に注意を払い、土地神を見れば祈りを捧げつつ、王城へと入る。


地下室には幾つかの役割が割り当てられており、牢屋もあれば、食料庫と思われる場所もあった。

そんな中の一つに、人工生命体や色々な実験の失敗作と思しき物達が、乱雑に投げ込まれた部屋がある。


一攫千金を狙って、人工生命体漁りが一時期横行したが、コアからも分かるように、動いてナンボの世界である。


拾ってくる、動かない、ポイしに戻る、を繰り返した結果が、この部屋の状況を悪くしていた。


「師匠ー。手足がないのは駄目?」

「今は候補から外せ」

「じゃあ、首だけ一杯あるんだけど、首のない奴とくっつかない? 手と足の所に首を付けたら駄目かなぁ?」

「・・諦めろ」


どうして姉のアンファは、そういうものに気を取られるのだろうか?

首が五個もある人工生命体を動かしたら、気持ち悪いとは思わないのだろうか?


「どうやってコアを入れるのかしら?」


反面、妹のエンデはちゃんと使えそうな、五体満足のを探し出している。

専門的な知識がないため、コアの装着方法が分からないようだ。


「やはり使えるものは殆ど残っていないな。まあそういう場所だし・・」

「師匠!」

「うん? どうした?」

「何々? エンデ」


そろそろ撤収をと思った矢先に、エンデがある人工生命体を指し示す。


「ホムンクルス型か? しかし頭以外ボロボロじゃないか。これが如何した?」


ホムンクルス型は、ゴーレム型、オートマトン型と違い、エネルギーの供給がないと、体の組織を維持できない。

今の今まで、原型が残っていただけでも凄いというべきだろう。


「胸のところ・・」

「これは・・」

「丸い窪み・・、コアが合いそうだね」


姉のアンファが指でサイズ感を測り、ぴったり填まりそうな事を確認する。


どのタイプとも違う人工生命体であるが、コアはこのタイプ用の感じではあるが・・


「しかし動いたとしても、この体じゃあ・・」

「どれどれ、ポチッとな」

「「あっ・・」」


アンファは、何の躊躇いもなくコアを取り付けてしまう。


「おま、おま、お前・・」

「おおおおお、お姉ちゃん!?」


流石に突拍子もなさ過ぎる行動に、二人の声が出て来ない。


「大丈夫大丈夫、すぐに外すって・・あれ? 外れない? 何で?」


余程ピッタリ填まったのか、コアの丸みのせいか、指では滑って上手く外せないようだ。


「どけ!」


何が起こるか分からない以上、ナイフを取り出し、切り出そうしたその瞬間・・



バチッ



「っ!?」

「「師匠!?」」


静電気のような放電があり、手が痺れ、ナイフを落としてしまう。


コアがまるで呼吸するかのように、ゆっくりと青く点滅する。

先ほどまで気づかなかった、コアから出ている全身を巡る細い線も呼応する。


ボロボロだった全身が、少しずつ再生し始める。


「「師匠」」

「静かに! ゆっくり離れる。部屋の出口へ」


人工生命体から片時も目を離さなず、退路を確保する。


やがて人工生命体が目を覚まし、周囲を見渡し始める。

そして自分たちを見つけると、再生したばかりの足で徐に立ち上がり、こちらに向かってくる。


「し、師匠、どうしよう・・」

「逃げる準備をしろ、殿をする」

「そ、そんな師匠を置いては・・」


三人の目の前に来ると、膝を付く。


「お初にお目にかかります、マスターズ」

「「「えっ!?」」」


人工生命体は、笑みを浮かべて、流暢に話しかけてきた。





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